今朝目を覚まして窓の外を見ると、一面真っ白。
「!?、私の目どうしちゃったの?」
しばらくして「あ、霧が出てるんだ。」とようやく気付いた

駅に向かう道は、1m先も見えないぐらい濃い霧
に覆われていた。
学生時代は奈良に学校があったため、霧は日常茶飯事だった。
社会人になってからは、大阪市内で働いているので
霧に遭遇することはまずなかった。

「霧なんて、随分久しぶり。」
なんだかワクワクしながら道を歩いた。
霧の中では、普段の何でもない道がどこか
遠い国につながっているような不思議な感覚を覚えた。


5年前のイタリアのベネチアでの夜。
私と友達は旅行最後の日の夕食を終え、ホテルまでの
帰路を急ぎ足で歩いていた。
話がはずみ、真夜中近くだった為、あたりの人影はまばらだった。
いくつもの運河を渡り、サンマルコ広場近くにさしかかると
どこからともなく白い霧が周りを漂い始めた。
聞こえる音は、私達2人の回廊を急ぎ足で歩く足音だけ。
不意にピアノの音が聞こえた、それはまるで
蒼い深い海の中から聞こえてくるようだった。
運河の水が灯りに照らされ、青白く天井に映されていた。

初老の男の人がCAFEの前に置かれた一台の古いピアノの前に座っていた。
私達を見ても別段驚いた様子もなく、静かにピアノを弾きつづけていた。
時の流れが私達のいる空間だけ緩やかになっているような
それでいて何かふわふわするような一時だった。

翌朝同じ場所を通るとそこにはいつもの賑やかな光景
があり、昨夜私達が見たのは跡形もなく消え去っていた。
あれは一体何だったのか、ベネチアが異国の旅人に一瞬だけ見せた
街の素顔の1つだったのだろうか。


冬の日の日常に現れた突然の霧は,私を遠い思い出へと
不意に連れ戻してくれたみたいだ。
お昼には霧も晴れ、抜けるような青空が広がっていた。