入院中の患者さんで、誤嚥性肺炎になる方、多いです。

 

喉の構造は図のようになっています。

中咽頭部から下咽頭部にかけてと喉頭部は、食べ物の通り道と空気の通り道の云わば交差点です。

空気は気管を通り、食べ物は食道へ向かう。健常者であれば、これを間違えることなく無意識のうちに交通整理ができているわけです。これは、考えてみれば凄いことです。

これが上手くいかず、食べ物などの異物が気管の方へ入ってしまうのが誤嚥です。

 

誤嚥した時に、ゴホンゴホンと咳き込んでムセがみられることがあります。ムセは、食べ物などが間違って気管の方へ入って行こうとする時に、空気を勢いよく吐き出して、異物を追い出そうとする反応です。異物を気管の方へ侵入させないようにするための防御機構です。

 

ところが、ムセがない誤嚥もあって、不顕性誤嚥と呼ばれるものがあります。不顕性誤嚥ではムセが生じないため、本人も周囲の人も誤嚥に気付きません。

要するに、ムセがある方が、まだマシなんですね。

 

誤嚥するものは、食べ物や飲み物ばかりではありません。唾液も誤嚥します。

唾液にはたくさんの細菌が含まれるため、これが肺へ侵入すれば肺炎になってしまいます。

中には「ムセが起きてないのに何故誤嚥性肺炎になるの?」と思っておられるご家族もおられるようです。しかし、ムセがなくても実際には誤嚥を起こしていて、知らず知らずのうちに唾液が肺へ入っているケースもあるわけです。

だから、口から食事を摂らない胃瘻造設した人でも、唾液の誤嚥は起こり得ます。

 

結局、喉の筋肉や反射などの機能低下が、誤嚥を起こす身体側の原因です。

私はご家族には、不顕性誤嚥も含めて、「喉の筋力や反射などの機能が低下するのは一種の老化で、足腰が衰えるのと同じことです」と説明します。「足腰が…」と例えると、理解していただきやすいようです。

精神科病棟でも、誤嚥性肺炎は多いですが、完全には防ぎきれません。

 

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