精神保健指定医の資格を取得するためには…

 

精神保健指定医の資格は国家資格です。

医師免許も国家資格ですが、医師5年以上の経験、うち精神科医療の経験が3年以上があり、3日間の講習会に参加すると、申請の資格を得ます。

その上で、症例レポートを5本書いて提出します。

レポートに合格すると、口頭試問があります。

口頭試問に合格すれば、晴れて精神保健指定医の資格が得られます。

*上記は2023年12月現在。

 

2019年6月以前は口頭試問がありませんでした。しかし、症例の使い回しなどによる指定医資格の不正取得事件があったため、同年7月以降の申請については口頭試問が導入されました。

ただし、経験すべき分野と症例数が6分野8症例から5分野5症例に緩みました。

 

3日間の講習会は、受講料が45,000円でした。東京で行われました。今は、この講習会を受ければ3年間有効とされており、受講後3年以内に申請(レポート提出)すれば受け付けられます。一応、申請受け付けの締め切りは年2回で、6月と12月です。

申請のための申請料などはかかりません。

 

ありがたいことに、講習会の受講料と受講に伴う交通費や宿泊費は、勤務先の病院が出張扱いで出してくれました。

 

  レポート症例について

 

5つの症例について書きます。私は、アルツハイマー型認知症、アルコール依存症、統合失調症、双極性障害、知的障害について書きました。疾病分類 ICD-10 の F0、F1、F2、F3 から各1症例、F4~F9の中から1症例です。 

 

他の科の専門医などのレポートとの非常に大きな違いは、精神保健および精神障碍者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に則ってやってますよという、法律を遵守する記述が大事になります。

書き方のパターンはあります。なので、過去の症例を参照したり、指定医の資格をお持ちの先輩などから添削してもらいながら、レポートを完成させていきます。その、書き方のパターンというのは、空手で言えば試合じゃなくて型なんです。型どおりに当てはめていくやり方がいいのです。

 

このため、実は非常に大切なことですが、症例選びが明暗を大きく分けます。やたらとイベントが多い症例を選んでしまうと、それらの個々のイベントについていちいち言及しなくてはならず、雑多になって字数が増えます(レポートに字数制限はあります)。例えば、隔離もあり、身体拘束もあり、電話制限や面会制限もあり、緊急措置→措置→医保→任意など、いろんな出来事がテンコ盛りの症例だと字数制限に収まりませんし、内容がかなり薄くなってしまいます。入院中に転倒し、骨折したから総合病院整形外科に転院したというような症例は、選ぶだけ野暮です。

シンプルで波乱の少ない、書きやすい症例を選ぶことが重要になってきます。

症例選びで合否の8割が決まると言っても過言ではありません。

 

指定医が診察し、任意入院以外の入院形態で入院した患者さんについて書いていくわけですが、例えば、入院診察の場面では、「指定医は〇〇の状態であることから〇〇と診断し、入院による治療の必要性を認めたが、それを患者にていねいに説明しても〇〇のため理解できず、『〇〇』と述べるだけで入院の同意が得られなかった。このため、妻を同意者として、同日〇時〇分、法に基づき医療保護入院とした。病院管理者は同月△日に最寄りの保健所を通じて入院届けを〇〇県知事に届け出た」等々。

他の科のレポートでは、こんなこと書かないですよね。

〇年〇月〇日、〇時〇分、…。

出来事の日時などがレポートの表紙にまとめてあるものと本文中のものとで食い違いがあると、それだけでも簡単に落ちると言われています。食い違いが1ヶ所ぐらいなら、指摘されて、訂正が認められることもあるように聞いたことがありますが、真偽の程は判りません。しかし、いくつもの箇所で食い違いなど間違いがあると、本当に簡単に落ちるらしい。

法律を遵守する立場だからでしょうかね。

 

疾患に対する医学的な知識や考察、解釈など必要と言えば必要ですが、まあ最小限で十分しょうね。字数の関係で細々と書いていられません。

だから、シンプルな症例を選ぶべきなのです。

 

 

  レポート提出(申請)

 

締め切りは年2回ですが、2022年の2回目の締め切りが12月27日でした。その前日の26日に、県庁の担当部署にレポートを直接持ち込みました。もちろん、事前に電話してアポイントを取っておいてから訪ねました。

担当者から聞いた話では、締切日には申請者4人のアポがあったそうです。よって、締切日にアポなしでフラッと訪ねると、担当者と1対1でチェックしてもらうつもりなら、とんでもなく待たされることになります。

郵送で提出される方もいますが、直接持ち込みの方が安心できます。

持ち込みで提出する場合、事前のアポ取りは必須です。

 

レポート合格率は、だいたい75%ぐらいのようです。

後述しますが、レポートの合格通知は、翌2023年8月でした。

 

 

  症例選びと自分が勤務する病院選び

 

上述のとおり、内容的にはシンプルな症例を選ぶことがカギになります。シンプルな症例は書きやすく、突っ込まれどころが少なくなるからです。

 

ところで、2人以上の申請者が同じ患者さんを使ったとしても、その患者さんが2回以上入退院をしていて、各々違う回の入院を症例として使う場合は可とされていますが、同じ患者さんの同じ回の入院症例を、複数の申請者が使うことは当然ながらNG行為です。

つまり、そうなると、患者数が少ない場合、他の医師たちと症例の取り合いになってしまいます。

 

某大学の精神科医局に入局して、大学病院で医師3年目と4年目を専攻医として過ごした友人が言っていましたが、大学病院は症例が少なく(大学病院であっても精神科病床は非常に少ないのです)、かつ専攻医が多く、症例の取り合いになってしまうため、医師5年目からの市中病院に出てからが症例集めの勝負だと言うのです。

大学病院って、いろんな面で強そうに思うでしょう。そこの自治体ではトップの病院ですし。

しかし、実際には精神科病床は少なく、レポートになりそうな適当な症例は少なく、運良くあれば非常に貴重になるのです。それでいて、専攻医はそこそこの人数いますから、症例の取り合いになってしまう。

 

逆に、小さい精神科病院の場合、症例に偏りがあって、例えば認知症ならいくらでも症例があるのに、依存症の症例が全然ないとか、そういった困ることになるかもしれません。

 

これも重要なことですが、症例は自分が常勤で勤務している(勤務していた)病院の症例に限ることになっています。適当な症例がなければ他院にバイトに出て、そこの症例を使えば良いというわけにはいきません。ご注意を。

ちなみに、常勤とは、週4日以上(32時間以上)勤務しているということ。

 

まあ、申請の7年以内の症例なら使えますから、適当な症例が手っ取り早く見つからない場合、転勤先の病院での症例も含めてボチボチ集めるしかありません。しかし、あっちこっちの複数の病院に転勤して、あっちこっちで症例を集めるとなると、いちいちめんどくさいですね。症例だけではなく、指導医の証明や署名なども必要ですから、複数の病院で得た症例を使おうとする場合、ハッキリ言ってめんどくさい。

その、めんどくさいことをやっている方々も多いのが現実なのかな。

私は医局人事に無縁なこともあり、1ヶ所の病院で5つすべての症例を集めることができました。

 

あと、やや細かい話なのですが、不適切症例の例を挙げます。

入院日も退院日も自分が主治医として担当していた症例であれば、医療保護入院などの入院期間は問いません。私が書いたアルコール症例なんか、アルコール性せん妄で医療保護入院となったものの、せん妄が消失したら速やかに医療保護入院を退院し、任意入院に切り替えた症例でして、医療保護の入院期間はわずか2週間でした。

 

ところが、入院日か退院日か、いずれかが自分が主治医ではなかった場合(すなわち主治医としてその日のカルテに自分の記載がない場合)、医療保護入院などの期間が3ヶ月以上でないと、レポート症例として使えないことになっております。例えば、入院日から自分が主治医として担当したが、退院日まで自分が担当を続けることができなかったとします(例えば、医局人事等による転勤で患者の担当を外れた場合)。この場合は、医療保護入院や措置入院の期間が3ヶ月以上あれば症例として使えますが、3ヶ月未満だとボツ症例になってしまうのです。

同様に、ある日の午後11時50分とかに当直医が医療保護入院や措置入院などをさせた症例なんかは、翌朝から自分が主治医になったとしても、入院日から担当したことになりません。2日目から担当したことになります。だから、その後3ヶ月以上入院を継続してくれないと、症例として使えないのです。しかし、急性期病棟の患者さんはだいたい3ヶ月以内に退院しますよね。そうすると、症例に使えない…。

ある日の午前0時10分入院なら、初日から主治医ということでOKというわけ。


入院日と退院日の両方とも自分が診ていたなら、入院期間は問われず無条件でOK。しかし、いずれか一方でも欠けていたら、レポート症例として使うなら3ヶ月以上の入院期間を要するということ。

微妙なところですが、症例選びにはそんなトリッキーなところもあるのです。

こういった細かい条件を満たしていない症例は、不適切症例になってしまうのです。

 

先に述べた講習会では、どんな症例なら適切で、どんな症例なら不適切になるのか、解説をしてくれますから、しっかり聞いておくことが大切です。

 

こんなことからも、まとめると、患者数が多い大きな精神科病院で、バラエティーに富んだ症例がある病院が有利なことは明らかです。ここで、大きな精神科病院≠大学病院精神科です。大学病院精神科は、使える症例が意外と少ないのです。

さらに、転勤がないことも症例選びの点ではやや有利に働きます。転勤がないって、要するに、医局に入ってないということですよね。

 

実は、私は医局には所属しておりませんし、所属したこともありません。今の専門医制度の精神科専門医は、最初から取るつもりはありませんから(専門医を取ろうとする場合は、複数の病院を経験しなければならないことになっています)。

今の病院には、いわゆる一本釣りで採用していただきました。指定医資格は取りたいと思っていましたが、当初はその病院が指定医が取りやすい病院なのかどうなのかとか、そういった観点ではまったく考えたこともありませんでした。しかし、入職した病院で結果的に正解でした。

もちろん、医局に入っていることで指定医が取れないというのではありません。しかし、それでいろいろ足かせになって取りにくい可能性もあり得ます。

 

症例集めがしやすい病院と難航する病院があること、すなわち、指定医が取りやすい病院と取るのに難航する病院があるのです。また、転勤が多いと、そのタイミングによってはせっかくの症例がボツになりかねない。

これ、かなり重要です。どんな精神科病院に就職するかで明暗が分かれることにもなりかねません。

指定医資格は、どこの精神科病院でも普通に取れると思ったら大間違いです。まあ、厳密にはどこの病院でも単一の症例は得られるでしょうから、それらを5つ寄せ集めれば申請はできますが、めんどくさいですよね。1つの病院で完結できるなら、その方が遥かに楽です。

以上、症例レポートについて書きました。口頭試問など、続きは次に書きます。

 

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