ある患者Aさん、約20年前に当院通院していました。その後、事情により、X病院、Y病院へ転院し、数年前にまた当院に戻ってきました。

20年前の当院は紙カルテの時代で、電子カルテ内に当時の処方薬剤と採血データなどはありましたが、医師記載の診察記事はほぼ残っていませんでした。

 

その後のX病院ではうつ病の診断、前医のY病院からは紹介状があり、統合失調症の診断でした。

こんな場合、明らかにおかしな処方以外は、しばらく前医を踏襲して様子を診ることにしています。

 

毎月の診察で、幻覚妄想はなく、了解不能な言動もなく、考えも比較的まとまっていましたが、抑うつ気分や意欲低下、感情鈍麻など、統合失調症の陰性症状と捉えても矛盾しないし、うつ病で出現する症状は複数ありました。

 

そして、1年が経過したある日、家族が「統合失調症ではないような気がするんです」と述べました。私はびっくりして、そう思う理由を問うと、「幻聴があったのは1回だけで、それっきりでしたし…」という話。

しつこい不眠もあったことから、この機会に任意入院を勧めて、入院していただきました。

 

そして、なんと20年前に当院で実施した心理検査の回答用紙が心理室内に残っていることが判りました。WAIS-R、バウムテスト、ロールシャッハなど。

結果、あまり統合失調症っぽくなく、軽い知的障害があることが判りましたが、家族はそんな説明を受けた記憶もないとのこと。

当時の担当医は説明しなかったのでしょうか?

 

詳細は端折りますが、これまでの病歴を改めて丁寧に遡り、統合失調症は否定的となりました。私の解釈ですが、ストレスから不適応を起こし、抑うつ気分や意欲低下などが遷延して閉じ籠り、そして、一度だけ幻聴様の声?が聞こえたのだろう…と。

今回の入院中に薬剤調整し、前医処方の約3分の2を入れ替えました。

 

前医の診断を誤診とまで断罪しません。この業界には「後医は名医」という言葉があります。後になればなるほど情報が集まり、正確な診断を下しやすくなるからです。

これをお読みの方々で、診断名が変わることに不信感など抱かれることがあれば大変申し訳なく思いますが、縦断的に診ないと判らないことも多く、簡単に診断が付かないことも多いです。

しかしながら、Aさんの場合、ここに辿り着くまでに、あまりにも長く時間がかかってしまいました。

 

(約970字)