長沢樹さんの『消失グラデーション』。
登場人物の人間関係や心理面の描写が多く、
青春小説にミステリ要素を取り入れたという印象。
小難しい話も出てこず、スラスラとページをめくれる読みやすさが魅力だと思います。
休日の昼、お茶とおやつを用意してのんびり読むのが良さそうです。
事件の核心に迫る為に被害者の心理面を追い、
そこから次々と派生していく新事実や新視点が
作中のトリックと密接に絡み合っています。
論理展開で魅せる〝本格〟的な要素も加わり、
バラエティー豊かな作品になっています。
ネタバレ感想
昨年、読了後最もガッカリした作品です。
構成自体は面白いです。
ライトな雰囲気は維持しつつ、局面ではしっかりした論理でステップを踏むというメリハリのある展開はいいと思います。
カッターを起点にした消失の解明も綺麗です。
しかし…
《叙述トリック》が全てを台無しにしている
というのが私の感想です。
まず、アンフェア。
椎名康と樋口真由の性別における叙述トリックは本編前、登場人物紹介から始まっています。
ここで康を〝男子バスケ部のマネージャー〟と書くべき。
さらに名前。
康は男性、真由は女性を連想させます。
確かに康という女性、真由という男性は存在するでしょうし、創作物の人名なので現実における認識は関係ないかもしれません。
叙述トリックを用いないのならば。
更に、作中ではこの二人の名前にはふり仮名が一切つきません。多くの登場人物もそうであるので、一見問題ないように見えますが、例外があるのはどうでしょう。
美耶や野間口秋といった、充分読める名前にふり仮名をつけ、読み方次第では重要な情報になる主人公格の二人にそれが無いのはいかがなものか。
それならば一切排除すべきかと。
作中ではコウ、マユと呼ばれるシーンはあるものの、果たしてそれが本来の読み方であるのかはわからないわけです。
そして最終盤には真由の読みがマユではないことが明かされます。
それならば最初から二人に中性的な名前を付けるべきです。
これは読者の先入観を利用しているのではなくトリックを守るための小細工でしょう。
最大の欠陥が叙述トリックの意味です。
果たしてこの二人の性別が明かされたところで作品にどのような影響があったのか。
無いです。
美耶を除く作中の登場人物全てが二人の性別を正確に把握しており、それが本文で明かされたところで作中世界では何も変わりません。
ミステリのエレメントとしての機能を一切持たず、完全に読者を騙すためのモノであり、浅いと感じずにはいられません。
作品世界における情報を〝隠す〟モノのではなく、作品の外にいる読者を〝騙す〟モノとして叙述トリックが扱われている作品は例外なく面白くありません。
タネ明かしをした途端に、これでもかと二人のそれぞれの本当の性別を、イタズラを成功させた子供がはしゃぐようにアピールし出すのも印象が悪いです。
本編前から始まっていて、性別がカギとなる叙述トリックを扱った作品の感想を以前に書いているのですが、レベルが違います。
〝血まみれで、とても動ける状態ではなかった〟網川が自力で学校から出たり、
《犯行方法》というつまらない方向にミステリ成分を割いたりと、残念に思う部分はあれど、
叙述トリックさえなければいい作品です。
長沢さんの〝樋口真由シリーズ〟や『武蔵野アンダーワールド・セブン』も読みましたが、いずれも変わったことをしようとして裏目に出ている印象です。
ライト寄りに所謂〝王道〟の作品を書く方が向いてそうです。
『上石神井さよならレボリューション』は面白かったです。
