いーちゃんの卒園式でのこと。
 
卒園生たちが自分たちの卒園ソングを歌っているとき、
歌いながら大粒の涙を流している女の子がいた。

自分がもう明日からは幼稚園に来ないこと、
先生やお友だちとお別れすることを自覚していて、
歌詞に自分の寂しさを重ねて感じることができるんだな。
その情緒の発達に、幼稚園での成長を重ねてしみじみ。
 
ふとその隣を見ると、女の子が泣いているのに気づき、
驚いてきれいな二度見をする男子が。
 
「え!?ないてる!?なんで!?」
 
という純粋な驚きの声が聞こえてきそうである。
そして、その涙の理由はきっと、
彼がどれだけ必死に考えてもわからない(そもそも考えることもない)のだろう。

男子たちは、うろ覚えの歌詞を間違えないように歌うので精いっぱいである。

 
卒園式が終わると、名残を惜しむように
自らお友だちや先生方と写真を撮る女子たち。
 
そんな情緒にあふれる彼女らを尻目に、
男子たちは園庭で走り回り、新しい遊具で遊ぶのに余念がない。

「あしたもこうやってあそぶよ、もちろん!」
と全員思っていそうな勢いで、
その姿が女子たちの記念撮影に写り込もうがお構いなし。
 
先生との記念写真も、親が無理やり連れてきてやっと撮れる。
そして撮ったらすぐに「もういい!?」とまた遊具へ戻っていく。

情緒も感慨もあったもんじゃない。

しかし、残念ながら確実に、今日と同じ明日は来ない。
君たちは今日で幼稚園を卒園し、
それぞれに別の小学校に入学するのだ。
 
少しは、その感慨を噛みしめてほしいものだという気持ちと、
寂しさになんか浸らずに、この瞬間の楽しさをめいっぱい享受する、
おバカな男子であってほしいという気持ちが、じんわりと混ざりあう父であった。
 
 
彼らはきっと十数年、いや数十年経っても、
目の前の女性の涙に、今日と同じ
「え!?泣いてる!?なんで!?」という反応をするに違いない。
その理由を少しは考えるくらいには成長するかもしれないが、
どれだけ必死に考えても、100点の答えは出せないのだ。
かつての、そして現在進行形のおバカな男子の一人である、私と同じように。