【注意】
この記事を参考にした点火時期変更等により発生したあらゆる損害に対して一切の責任を負いません。
実施する場合は、全て自己責任で実施してください。
【概略】
●エンジンの出力特性を左右するパラメータの一つに、点火時期がある。
フリーダムコンピューターでは、点火時期を自由に設定できるようになっている。
点火時期は、回転数によって変える必要がある。
各回転数における点火時期を、どのような値に設定すれば良いのか、考察してみた。
●最適な点火時期の決定方法は様々な手法があるようだが、基本的には「ケース・バイ・ケース」となり、結論を導くのは簡単ではない。
点火時期を詰める手法は
・ノックセンサーを用いてノックを検出
・耳を澄まして、ノック音を聞く
などがある。
しかし、いずれも素人には非常にハードルが高い。
そこで、論理的手法で点火時期を考察・算出してみることにした。
●具体的には、次のデータを元に、点火時期を考察・算出して行くこととした。
・BP-VE型エンジン用の点火マップはネットに多く散見、参考データ数種類が容易に入手可能。
・S20型エンジンのレーシングマニュアルによると、「6,000回転時にBTDC 37度を狙え」とある。らしい。
【検討手法】
一般的に点火時期は「BTDC 角度」で表示される。ところが、これが私には非常に分かりにくい。
点火時期が「電子制御」となる以前の「機械式制御」環境からくる慣習から、現在でもこのような「角度表示」が一般的になっているものと推測。
私でも理解出来るように、点火時期を「BTDC角度」から「BTDC時間」に変換することにした。
「角度 => 時間」に変換した表がこちら。
・縦軸が回転数[rpm]、横軸がBTDC角度[° ]。
・各セル内の値は、BTDC時間[ms](ミリ秒)。
拡大図
【前提】
燃焼室内で、混合気に点火してから燃焼が終了するまでには、ある程度の時間が必要。
・一般的には、ガソリンエンジンのMBT(Maximum Brake Torque)は、ATDC(上死点後) 10~20度の範囲にあることが多いとされている。
・点火時期をBTDC(上死点前)にする目的は、MBTとなるATDC(上死点後) 10~20度の範囲で最大圧力となるようにすること。
【検討結果】
作成した「角度 => 時間」変換表を使って、角度から時間を求めた。
●ネット上に散見するBP-VE型エンジンの全開高負荷時の点火時期
・回転数によらず、おおよそ「BTDC 0.8ms」にセットされていた。
・高回転寄りではマージンを取っているのか、7,500回転では「BTDC 0.5ms」程度まで遅角。
●S20型エンジンの全開高負荷時の点火時期は「6000回転時にBTDC37度を狙え」
・変換表から、「6000回転時にBTDC37度」は、「BTDC 1.028ms」であった。
【推論】
●かなり乱暴な推論だが、
・最適な点火時期は、回転数に関わらず「BTDC 0.8ms」から「BTDC 1ms」の間にあるだろう
と推測した。
●BTDC「角度」は回転数に比例して変化するが、BTDC「時間」に直すと実は一定と推測。
事例
2000回転のときのBTDC 12度は、BTDC 1msと同意。
4000回転のときのBTDC 24度は、BTDC 1msと同意。
回転数が2倍になった時にクランク角度は2倍に進角していますが、時間はどちらも1msと同じ時間。
「進角」と言う言葉は事実ではあるが、その目的は回転数に関わらず点火時期を一定に保つこと。
参考文献
https://www.autospeed.com/cms/a_109132/article.html@populararticle
http://www.leftlanebrain.com/car-engine-thermodynamics-4-combustion/
ざっくり燃焼時間
・全開高負荷時は2ms前後。
・軽負荷時は数十msになることも。
らしい。
●『回転数に関わらずBTDC「時間」は一定』が本当であれば、点火時期の設定は「ある程度までは机上計算で可能」と言える。
【検証】
推論を検証してみた。
ノーマルのBP-VEエンジンを、フリーダムコンピューターで制御。
全開高負荷時の空燃比は、12.5から13.0の間に設定した。
●全開高負荷時(吸気圧700, 750, 800mmHg)の点火マップを、次の表のように「BTDC 0.9ms」狙いで書き換えてみた。
7,500回転以上はノーマルカムではあまり意味がないと考え、進角を止めた。
拡大図
●試走結果
点火時期変更前とドライブフィールを比較すると、トップエンドの7,500回転まで、怖いくらいに一気に加速するようになった。
変更前の設定がヌルかったようで、劇的な改善を感じた。
「点火時期でこんなにフィールが変わるんだ!!」とビックリした。すぐに慣れてしまうのだが。。。
●変更前の点火時期設定(工場出荷設定)
・4,500回転までは、おおよそ「BTDC 0.8ms」となる角度に設定
・4,500回転から上は「BTDC 0.7ms」から「BTDC 0.5ms」となる角度に設定
特に4,500回転以上の領域はかなりヌルい設定だったようで、MBTを大きく外してトルクが頭打ちしていたようだ。
実際に195/50R15のタイヤで、2速でのドリフトの定常円を実施すると、ピークトルクと思われる4,500回転以上には回らなかった。
【安全マージンの確認】
実際の燃焼時間=点火時期「BTDC 0.9ms」+MBT「ATDC 10~20度」
であろうと推測。
「ATDC 10~20度」を読み出せる表を作成。
0.1ms、0.2ms、0.3ms、0.4ms、0.5msの値を取るセルを、それぞれ色分け。
拡大図
●実際の燃焼時間の試算
ここでは「燃焼時間」を、次のように定義する。
・「点火」から「シリンダー内が最大圧力となった瞬間」までの時間を、燃焼時間と定義する。
S20型エンジンで試算してみる
・点火時期は「6000回転時にBTDC37度」で「BTDC 1.028ms」
・燃焼完了が最大MBTとなるATDC 10~20度の範囲を狙っているはず。表から6000回転時のATDC 10~20度は、0.3msから0.55ms。
以上から、実際の燃焼時間は
・最小=BTDC 1.028ms+ATDC 0.3ms=1.328ms
から
・最大=BTDC 1.028ms+ATDC 0.55ms=1.578ms
の範囲にあると推測できる。
上記参考文献の「2ms前後」とも、おおよそ合致した数値。
高回転になればなるほどクランクは高速で回るので、燃焼時間が一定だと仮定すると、高回転時の最大圧力となるATDC角度はより大きくなる方向となり、安全マージンを稼ぐ方向にシフトしていく。マージンと引き換えに、トルクは落ちていく方向ではある。
【その他】
・実際の検証作業は、わずかずつ進角させて様子を見ながら実施。安全第一。
・S20の時代の進角は、遠心ガバナーによりある回転数以上で進角が始まりBTDC 37度固定になるはず。
切り替わりが4,000回転だとすると、表からBTDC 1.542msとかなりの進角。
6,000回転時には、BTDC 1ms。
ピークパワーの7,000回転では、同様に表からBTDC 0.881msと少々ヌルい。
今どきのコンピューターなら、マージンを持ったまま、より適正値に各回転数の点火時期を設定することが出来る。
・大幅に進角させてから3,000kmほど走行。今のところノントラブル。
【参考】
「BTDC 1ms」をプロットした表
拡大図
7,000回転以上は、3度足した角度が1ms。
500回転上がるごとに3度足せば、1msの角度が算出できる。