BP-VE と フリーダムコンピュータ の組合せで不具合発生
●「BP-VE」と「フリーダムコンピュータ」。
この組み合わせの場合、確実にフリーダムコンピューターが誤動作を起こす。
・走行中に突然エンジン不調となり、激しくハンチングを起こす。
・アクセルを全開にしても、パワーが出ない。
・クラッチを切るとアイドリングできず、エンジン停止。
・エンジンを再始動すると、何事もなかったようにアイドリングする。
このような不具合現象が発生。
2015年5月の納車時から、この不具合現象の原因を突き止めるべく、日々戦ってきた。
9年経過した2024年5月、ようやく原因を突き止め、不具合現象から開放された。
不具合現象の、原因と対策をレポートする。
【不具合現象の原因】
●原因は、フリーダムコンピューターの「クランク信号とカム信号の取りこぼし」であった。
【クランク信号とカム信号の説明】
●クランク信号とカム信号の波形をオシロスコープで見ると、写真のようになっている。フリーダムコンピューターのコネクタ部分で観測。
●2つの信号の特徴
・クランク信号は、1回転で4発出てくる。
・カム信号は、クランク2回転で1パターン出てくる。
・1番気筒の上死点が推測可能なように、それぞれユニークな波形となっている。
フリーダムコンピューターは、この2つのデジタル信号から、1番気筒の上死点位置とエンジン回転数を推測し、燃料噴射時期と点火時期を決めている。
●2つのデジタル信号の電圧レベルは、オシロスコープによると以下の値。
・Hiの電圧レベルが、約5V。
・Loの電圧レベルが、約1V。
写真 クランク信号とカム信号
【不具合発生のメカニズム 1】
●フリーダムコンピューターは、クランク信号とカム信号を「NPN型のトランジスタ」で受信している。オシロスコープで観測したとおり、2つの信号のLoの電圧レベルが約1V。
つまり、トランジスタのVbe電圧が1Vと言うこと。NPN型のトランジスタは、Vbeが約0.6V以下でなければoffすることが出来ない。
「トランジスタがoff出来ない」ので、フリーダムコンピューターはLo信号を受け取ることが出来ない。結果、クランク信号とカム信号を、フリーダムコンピューターを取りこぼし、エンジン不調に陥る。
【不具合発生のメカニズム 2】
●NPN型トランジスタのVbeは約0.6V。Loの電圧レベルが1Vでは全くoffすることが出来ず、フリーダムコンピューターはクランク信号とカム信号を1発も受け取れず、そもそもエンジンはかからないはずである。しかし、エンジンは普通にかかる。
その理由を推測してみた。
●フリーダムコンピューターに、使用されているトランジスタを調べてみた。トランジスタ2個入りの5本足のチップトランジスタで、どうやら抵抗器内蔵型のトランジスタのようだ。
抵抗器は2種類。
・トランジスタのベースにシリアルに入る抵抗器R1
・トランジスタのベース・エミッタ間に入る抵抗器R2
仕様書によると、R1とR2ほぼ同じ値らしい。
トランジスタのベースに掛かる電圧Vbeは、ほぼR1とR2の抵抗値の比で決まる。Loの電圧レベルは約1V。R1とR2の抵抗比はほぼ1:1。結果、VbeはLoの電圧レベルの半分の約0.5Vとなる。
Vbe約0.5Vは、トランジスタの動作としては非常に不安定な領域。トランジスタがONするかもしれないし、OFFするかもしれない、とても微妙な領域。わずかでもベース電流が流れば、トランジスタはONしてしまうだろう。つまり、トランジスタがOFFできずに、フリーダムコンピューターは信号を取りこぼす機会があるだろう。
●冷間時よりも温間時の方が、不具合が発生しやすいように感じていた。フリーダムコンピューターも走行すれば、発熱してだんだん温度が上がってくる。半導体は、温度が1度上がると、-2mVの変化が起こる。つまり温度が上がると、トランジスタのVbeは下がり、トランジスタはよりOFFしにくくなり、結果としてフリーダムコンピューターは信号をより取りこぼしやすくなる。
走り始めは「今日は調子がいいなあ」なのだが、段々と機嫌が悪くなるのは体感済み。このことからも、かなりギリギリの線でフリーダムコンピューターが動いていることが分かる。
ROHM UMG5N データシートより
【対策】
●クランク信号とカム信号の受けを、NPN型トランジスタからPNP型トランジスタに変更する。
改修したのは、「FreedomCOMPUTER FC03b-CPU」基板。
・Q12がクランク信号、Q13がカム信号受けのトランジスタ。
・Q12とQ13を取り外し、代わりに手元にあったトランジスタで実験的に回路を組んだ。
・黄色い配線がクランク信号、青い配線がカム信号。赤と黒は5V電源。
・具体的な改修には、相応のハンダ付け技術が必要。基板上には細かな部品が多く、難易度は高め。
【対策の効果】
●効果は絶大。
全く不具合現象が出なくなった。論理的に不安定な状態を解消したのだから、当然の結果であり、不思議でもなんでもない。
【不具合発生時に何が起きていたのか】
●クランク信号1発分遅れたタイミングで、燃料噴射および点火が行われていた。クランク信号の間隔は約70度と約110度で、1発分ズレが差分の40度分となり、クランク軸が40度先行して回転。例えば点火時期がBTDC30度の設定なら、ATDC10度で点火される結果に。この点火時期では、不具合発生時にアクセル全開にしても、パワーが出なくて当たり前だ。
正常時のインジェクター1信号とクランク信号の関係
不具合発生時のインジェクター1信号とクランク信号の関係
【考察】
●VVT機能付きなので、カム信号の位置は常に変化する。
「クランク信号とカム信号の位置関係がある条件」の時にどちらかの信号が落ちると、「1番気筒上死点位置を読み誤る」のではないかと推測。
カムの最大進角は40度であり、クランク信号1発分ズレの40度と値が重なり、何らかの相関はありそうに思える。
●クランク信号とカム信号をNPNトランジスタで受けるのが、設計的に間違っているわけではない。あくまでもセンサーとの相性の問題。BP-VPのセンサーとフリーダムコンピューターの相性が悪かった、と言う話。
【最後に】
この不具合は、この組合せ「BP-VEとフリーダムコンピュータ」では、確実に発生するでしょう。同様の不具合で悩む方の参考になれば、と思います。
不具合解消に力を貸してくれた友人達に感謝します。ありがとうございました。