ロック/アーカード


 遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、ロックこと岡島緑郎は隠れていた建物から
飛び出した。銃声が続く場所まで大体数十M、商店街の通り一つ向こうって所か。

(レヴィかロベルタ……いや、違うな)

 途切れ途切れに聞こえる銃声(恐らく大口径)からは彼女達のような苛烈な攻撃性は感じない。
銃の扱いと殺人に慣れた者が逃げる相手を狙って一方的に弄んでいる。余裕のある銃撃間隔から
そんな状況が推測できた。銃を持つ快楽殺人者に良くある傾向だ。少し前まで一流上場企業の
サラリーマンだったロックだが、悲しい事に銃撃戦には慣れてしまった。

(どうする。ここは逃げるか?)

 彼に支給された物の中には武器のなりそうな物は入っていなかった。説明書を読んでも
『これは使い道があるのか?』と思えるような道具ばかりだったのだ。どうせ銃が入っていても
人に向けて撃てるかどうかは分からないし、銃撃戦が出来るとも思えない。考えるまでもなく
逃げた方が良い。そうだ逃げよう。人には向き不向きがある。元々自分にはドンパチには向いて
いないのだ。そうロックは銃撃と反対方向へ踵を返す。その時、銃声が止んだ。

(静かになった。逃げ切ったのか? それとも……)

 最期の銃声は焦りのない一発だけ、逃げる者を追うような感じではなかった。殺したのか。
ここで自分はウダウダやって見殺しにしたのか。ロックの額に汗が滲んだ。あの時、少女が
殺された。その友人と思わしき少年は果敢にも向かっていった。なのに大人の自分は逃げたのか。
弱いから、向いていないから、隠れて、逃げて、怯えて……。嫌な事から目を背けて保身の為に
頭を下げ続ける大人に戻りたくなくて、海賊(運び屋)になったんじゃないのか。
 ロックはもう一度踵を返した。銃声がしていた方向へだ。


(名簿には80人の名前があった。半数がレヴィ達みたいにイカれたモンスターなら遅かれ早かれ
ブラッドパーティーだ。さっそうとヒーローが現れて事件を解決してくれるとは期待できない。
ここで逃げたって同じ、いやむしろ相手の存在を確認してる今の方がマシだ)

 さっきの銃撃戦も殺される前に降参したのかもしれない。弾切れかもしれない。もし死んで
いても相手や武器を確認するだけでも価値がある。直接戦闘担当がレヴィなら情報と交渉担当は
ロックだ。裏方には裏方の立ち回りがある。ロックは自分に言い聞かせた。

(一応、最悪の事態に備えておくか。無理矢理でも使えそうなのは……)

 情報は伝えなければ何の意味もない。ロックは直ぐ近くのうどん屋に入ると、レジを漁って
現金を手に入れた。格好悪いが逃亡資金の為に日本円を用意しなければならなかったのだ。


 銃声が鳴り止んで10分程。ロックは現場まで十m程の路地に潜んで様子を伺っていた。
ズタボロで真っ赤なコートの大男が片手に巨大な銃を持ち、もう片方の手で何かを掴んでいる。
近く奇妙な杖と支給品のデイパックが2つ、多分大男と襲われていた者のだ。

(なんなんだよあれは?!)

 ロックは込み上げる嘔吐感を必死で押さえた。それが人間おそらく子供で、それを大男が
『捕食』していると言う事が信じられなかった。まさか本当にイカれたモンスターだとは。

「トリスタン───ハルゲニア?」

 突然大男、アーカードが声を上げた。咄嗟に口を押さえて息を殺したロックの背中に滝の様な
汗が流れたが、どうやら独り言らしかった。アーカードは明後日の方向を向いて続けている。
ロックはホッと胸を撫で下ろした。見つかれば自分も八つ裂きにされて食われてしまうだろう。
それは恐怖と共に激しい怒り、そして僅かな安心を与えた。もしもこの大男を殺めても良心の
呵責はゼロだろうと。


「それにしても……ちゃぁんと理解してるじゃないかギガゾンビ」

 アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。そこに首輪は無い。まだ切断された
時の傷は完全に直っておらず、肉は剥き出しのままで生々しい。良く見ればズタズタのコートの
下にかなり酷い出血の跡があるが、大男はダメージを感じていないかのように平然としている。

「そう、吸血鬼を殺すのには昔から心の臓腑に杭を打ち込むと相場が決まっている」

(ゾンビの次は吸血鬼だって? 冗談じゃないぞ。夢か? ハリウッドの三流ホラー映画か?
それとも糞ったれな現実か? )

 銃を使う吸血鬼なんて聞いた事も無いが『狂人以上のモンスター』である事は間違いない。
首輪をしていない者がいる事、人外のモンスターがいる事、その武器、犠牲者が出た事。
それだけ分かればロックには十分だった。どちらかといえばそれ以上踏み込めなかったのだ。
犠牲者の子供にはすまないと思ったが、この場で戦いを挑む程の無謀さをロックは持ち合わせて
いない。出来れば相手の向かう方向を確認してから逃げよう、そうロックが考えた時だった。

「なあ、そう思わないか? ヒューマン!」

 突然アーカードが振り返った。ギラリとした眼が路地から伺っていたロックの眼を捉えた。
次の瞬間、ロックは脱兎の如く逃げ出した。

 BANG!!

 一瞬前まで頭があった所を銃弾が通過する。


(見つかってた! 笑い話にもなんないぞコレ。どうする? 本当にアレでイケるのか?)

「どうした? ヒューマン、先程の子供の方がよっぽど勇敢に挑んできたぞ!!」

 全力で走るロックとほぼ変わらない速度で悠々とアーカードが追いかける。ロックは直ぐ先に
ある建物へと転がる様に逃げ込んでいった。そこは先程侵入したうどん屋だった。

「逃げるしか出来ないのか? ヒューマン、殺すにも値せぬ狗以下か?」 

 縄暖簾を潜って店内に入ったアーカードが見たものは、即席のバリケードだった。店内の半分
程の所に座敷用の折畳み四脚テーブルを何台も縦て銃撃戦用の壁を作り上げてある。入口の中に
卵が幾つも転がって潰れているのは、足元を滑らすのトラップのつもりだろうか?

(下準備して誘い込んだのか? ならばあのヒューマンには『戦う意思がある』ということだ)

 アーカードの口元が緩んだ。ただの逃げ回る狗ではなかった事が嬉しいらしい。

 BANG!!

 バリケードの一角へ銃弾を叩き込む。数枚のテーブルを貫通して風穴を作ったが。最後まで
貫通しているかどうかは分からない。直ぐ近くに隠れている、そんな気配はしたが出てこない。

 BANG!!

「どうした? ヒューマン、お祈りの時間を稼ぐ為に、わざわざ準備をしたのか?」
「ヒューマン、ヒューマンと馬鹿の一つ覚えみたいに喧しいんだよドラキュラ野郎!」


 BANG!!

「ドラキュラだと?」
「吸血鬼の名前は昔からドラキュラって決まってんだ! それとも男だけどカーミラか?!
気に入らなけりゃヴラド・ツェペシュとかクリストファー・リーとでも呼んでやろうか?」

 BANG!!

「下衆な名で呼ぶな。ヒューマン、我が名はアーカード……?!」
(言った!!)

 ダギュンッ!!

「なに?!」

 銃声に反応するよりも早く、突然アーカードはバランスを崩してその場に引っ繰り返った。
何かに躓いたとかではなく、見えない手に引っ繰り返えされたかのようだ。

「じゃあなアーカード! 生きてたらお日様の下で会おうや!」

 ロックの怒鳴り声と共にバリケードの向こうから口の空いたうどん粉の袋が投げ込まれた。
濛々と立ち込めるうどん粉で視界が遮られたアーカードを尻目に、ロックは窓を破って店外へと
逃走していった。


「つまらん真似をする。この期に及んで逃げるか、ヒューマン!」

 ロックを追おうとして立ち上がった瞬間、

 ダギュンッ!!

 またもやアーカードはその場で頭から引っ繰り返った。あれはヒューマンの攻撃ではなかった
のか? 銃声がする方を確認するとうどん粉の舞う中、黒い卵がこちらを見ていた。良く良く
見れば卵はハンプティ・ダンプティのように黒い帽子に背広、それにサングラスにネクタイまで
付け、その腕には銃のようなものが握られていた。この卵がアーカードを転ばせたのだ。
10円で名前を言われたターゲット3回を転ばせる道具『転ばし屋』だ。

「ふざけた玩具が、良い気になるな!」

 アーカードは黒い卵『転ばし屋』に向かってジャッカルの引き金を引いた。

************

 ドンッ!!!

「あーあ、撃ちやがったな。あのくらいで死んでくれれば良いんだけど。吸血鬼の心臓に杭を
刺すなんて出来るのはバラライカさんくらいだよ」

 うどん屋で粉塵爆発が起った事を悟ったロックは、素早く元の歩道に戻ると落ちている荷物を
かき集めた。『使い道のないような道具』でも『使い方によっては意外に使える』という事を
今学んだばかりだ。ついでに子供の遺体(の一部)に合掌するとスタコラと西へと向かった。
死んだかどうか分からないがアーカードが本物の吸血鬼なら河を越える事は出来ないはずだから


【F-3/商店街/1日目/黎明】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に重度の裂傷と火傷(自然治癒可能だが、直ぐには動けない)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾19)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、しばらく自然治癒を待つ
2、殺し合いに乗る
[備考]
1、タバサとの戦闘に加えうどん屋の爆発など、かなり派手な戦闘音が響きました。
周囲八マスに居る人間に聞こえる可能性があります。
2、『転ばし屋』はあと一回転ばす為に、倒れたアーカードが立ち上がるのを待っています。


【F-3/道路上/1日目/黎明】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)
どんな病気にも効く薬@ドラえもん
現金数千円
[思考・状況]
1、とりあえず西の橋を越える
2、レヴィとの合流
[備考]
1、支給品は一つのデイパックへまとめてあります。
2、『ころばし屋@どらえもん』はアーカードのそばに放置されています。

バトー/朝比奈みくる



「馬鹿馬鹿しいぜ」
エリアを東西に結ぶ線路、その高架下で一人の男が毒づいていた。

一体ドコのどいつだ、こんな馬鹿げた疑似体験をオレにかましているのは。
いきなり始まったかと思えば、ヘンテコな面を被った男が"殺し合いをしてもらう――願いを
叶える"だと、悪趣味な上に陳腐だ。
今日び、ガキのする仮想ゲームだってもっと趣向を凝らしているもんだぜ。

一体、ドコの誰が?いつ?どうやって?何が目的でこんなことをしている。
仮にも9課に所属するオレに仕掛けて来たってことは、政治テロかそれとも今までに
捕まえた犯罪者の復讐か……
どっちにしろ腑に落ちねぇ……、操るなら操ればいい。殺すなら殺せばいい。
こんな疑似体験をかます必要はない。何故、こんなゲームをオレにさせる?その目的は?
今、オレがすでに操られているとして、ここで人を殺せば現実でも殺している――としても、
まだオレには自由裁量がある。
……何が目的だ。何が。このサバイバルゲームに何の意味がある?

…………
………………
……………………
埒が明かねぇぜ。こんな状態じゃ答えは出ねぇ。最悪、オレがただ夢を見ているだけと
いうこともありえるしな。

コレが現実か仮想かはたまた夢――これも仮想だが――かは置いといて、このゲームに
どう対処するか考えるか……

まずは、この首輪だ。
爆薬が仕掛けられていると言われ、実際にそれは目の前で証明された。
……確かに爆薬はこの中にある。起爆装置も確認できたが防壁が厚くて手が出ねぇ。
首輪の内周に回路が走っていて――これが切れると起爆する……か。
ノイズを発しているところから、おそらく受信だけでなく発信装置も内臓されているな。
あの仮面の男がこちらの居場所を確認するためか。これを辿れりゃいいんだが、道具が
ないし――そもそも、衛星を経由されてちゃそこでお手上げだ。

首輪は一先ず諦めるとして、次は少佐か……
あの少佐が本物という可能性はこれが疑似体験なら低い。偽者だったとして、作られた
データなら判別がつく可能性もあるが、オレ自信の脳内から投影されていたんじゃ
判別不可だ。逆に本物だったとしても――判別不可じゃねえかっ!

次はここがどこか?GPSが利けばすぐにわかるが生憎作動しない。
となれば記憶と知識が頼りだが、少なくともオレの記憶にある場所じゃない。
かといって地図を見ても、現代――少なくとも日本の中にある地形でもない。
だとすればやはりここは仮想の世界なのか、それともわざわざこのために用意したのか……

仮想か現実か、いい加減堂々巡りだぜ。

「あー、クソッ!」
こういうのはオレの好きなシチュエーションじゃねぇ。
もっとわかりやすくて大暴れできるような――そうだ。支給品とやらを確認するか。
武器が入っていると言ってたな。

「……カラシニコフ~?」
デイバックから出てきたのは旧世紀及び今世紀初頭の大戦争辺りまで活躍していた
AK-47だ。これで戦えってのか?うーむ……だが、構えて照準してみると以外と悪くない。
他には……水、食料、ライト、コンパス、地図、筆記用具、時計……それと、
……お菓子に……煙草か。菓子はともかく煙草は見たこともない銘柄だな。
引っくり返すと裏に紙が張ってある、なになに――”毒入り注意”――なるほどね、これも武器か。
まさか菓子箱の方にも仕掛けがあるんじゃねぇだろうな。開けると爆発するとか。
…………考えてみるとこの六角形の緑の箱はなにやら怪しい。

箱に手を当てる……振動はしていない。熱も感じないぜ。
次に箱を傾けてみる……別段固まりのようなものは入っていない。
顔を近づけ匂いを嗅ぐ……薬品や火薬の匂いはしない。
丁寧に封を切る、そしてゆっくり蓋を開くと…………ほら、普通のお菓子だ。

「くそっ!」
何をやっているんだオレは……自分自身の馬鹿馬鹿しさに疲れるぜ。

AKを肩に下げ、市街地を目指して高架の下を歩く。
別に山中でのサバイバルは苦手ではないが、ジメジメした地面で寝続けるというのも
気が滅入るし、この場合じっとしているより動いた方が手っ取り早い。

全エリアの合計面積が16000㎡で参加者が80人、一人頭の面積が……
「そろそろ誰かを見つけられてもいいんだが……」
あまり意味のない計算をしながら、ひとりごち歩く。そもそも均等に……

ドオンと轟音が鳴り響く。山の方を見上げてみればまだふもとの辺り、ここからでもそう遠くない
位置で火柱が上がっているのが見える。
対物ライフル?いやRPGか?というかそんなモノが他の参加者には支給されているのか。
つくづく自分は貧乏くじを引く方だと痛感する。

さて、どうするか?少なくとも撃った人間がいるのが予想されるが、どこから撃たれたかは
見ていなかった。着弾地点まで出て行ってオレも撃たれましたじゃ、間抜けがすぎる。
とりあえず、コンクリートの柱に身体を寄せAKを構えて様子を窺う。

今の一撃で終わったのか次のアクションはない。自分はまだ見つかってないようだが、
長距離砲を前に相手を確認せずに動きたくはないしな。しばらくここで……ん?

「ひぃ~~ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
高い女の声が山の方から近づいてくる。狙われていた人間か?

「あひっ!ぅひぃ~ぃぃぃぃいいいいぃ~~っ」
…………おかしい。声の大きさからすればもう姿が見えても――光学迷彩か!?
腰の高さまである草を掻き分け悲鳴を上げる女(?)がこっちに向かってくる。
「止まれっ!」
見えない女の正面に飛び出し銃口を向けて威嚇する。
「ひゃんっ!」
草が途切れた所で小さな悲鳴が聞こえ、ドタッという音とともに砂煙があがった。
半球の何かが転がってきて、女の姿が見えるようになった。

地面にうつ伏せになりぅぅ…とか弱い声を出すメイド姿の女の子――朝比奈みくるであった。

いきなり出てきたかと思えばメイド……メイドねぇ。
「おい、大丈夫か?」
地面に伏してか細い声を上げるメイドに声をかけてみる。
「……ひぃっ!殺さないでくださ~い」
両手を頭の上にあげて振るえはじめた。特に武器は持っていないようだし害はないようだが。
「殺さない。立ち上がって名前を言え」
メイドはおずおずと顔を上げ、オレの顔を見ると泣きそうな顔をしてからゆっくりと立ち上がった。
「……朝比奈みくると言いますぅ。みくるちゃんとお呼びくださぁい」
名簿にあった名だな。こいつもこのゲームのプレイヤーなのか、あるいは……
見た目は背の低く、童顔で愛らしい顔、その割りに女らしい身体、メイド服……
「お前、ロボットか?」
メイド服の少女は質問に目を丸くする。
「へ?違います。私はれっきとした人間です」
「サイボーグでもない?仮想のキャラクターでも?」
「違います~人間です」
てっきり愛玩用のアンドロイドかと思ったが”天然”らしい。まぁそれはいい。
「さっきの爆発は?何があった?」
質問を聞いた途端急にあたふたとする。
「そ、それが急に爆発してっ!、女の人がこっちを狙っていてっ、怖くてっ……」
「逃げてきたのか?」
「ひぃぃぃぃぃ~~~~っ!」
頭を抱えて闇雲に逃げ出そうとする少女の腕を取って柱の影に入る。
「落ち着けっ!相手の顔は見たのか?」
「ふぇっ…、お、女の人でした。鬼みたいな人がすぐそばにいて……」
「すぐそばに……?」
どうやら砲を撃ったのは素人らしい。この場合誤射ということもありえる。
とりあえず、追ってはこないだろうし、ここに直接撃ちこまれる心配もなさそうだ。
「落ち着け、もう危険はない。落ち着いて事情を話してくれ」
「はぁ、じ、事情ですか?」
「ああ、君が何者で、何でここにいるか、だ」
「わかりました。秘密なんですけど緊急事態だから話します」
「ああ、頼む」

「わたしは”未来人”です」

「…………………………」
なんだか馬鹿らしくなってきたぞ。

「未来人…?」
「はい!わたしは未来から来ました」
「……………………」
「し、信じてもらえないかもですけどっ、わたしは本当に未来からやってきたんです!」
「……………………」
「あぁ、うぅ……本当ですよぉ……」
「未来から”来た”と言ったな?じゃあ、君が来たという”今”は何時で何処だ?」
「…2003年の日本ですけどぉ」
「2003年!?第4次世界大戦の最中じゃないか」
「第4次世界大戦っ!?そ、そんなのその時間平面上じゃ起きていません!」
「だとしたら、君が未来人というのは嘘か?」
「嘘じゃありません~っ」
「だったらどう解釈する?」
「そ、それは~……、あなたが並行世界の住人だったり……」
「……………………」
「あ、あの~……」

「真面目にするのが馬鹿らしくなってきた……」

「そ、そんな!わたしは嘘をついてません~」
メイド服の少女が涙目で詰め寄ってくる。
「そうじゃない。そういう意味でいったんじゃない……」
「……?」
「オレはコレが全部疑似体験ではないかと疑っている。その場合、君はキャラクターで
君自身は自分の中の矛盾に気づかない」
少女はオレの言葉に怯えながらも気丈に反論してくる。
「そ、それだと、私から見たらあなたの方が疑わ……しい、かもです」
「オレには確固たるこのゲームが始まる前の記憶がある。オレは現実の人間だ」
そのはずだったが、予想外の反論がきた。
「そ、そんなのわかりっこありません。さっきあなたが言ったじゃないですか。
作られたキャラクターは自身を疑わないって。だ、だから、あなたの記憶だって
予め与えられた偽物かも……知れない、です」
そうだ、確かにそれは否定できない。
「少佐も似たようなこと言ってったけな……」
「少佐…?」
「草薙素子。名簿はまだ見ていないか?オレがバトーで、素子、トグサ、タチコマが
オレの同僚だ」
「バトーさん。変わった名前…あっ、ゴメンなさい」
「君の方は知り合いはいないのか?」
「え、あっ、います。涼宮さんとキョンくんと長門さんと、鶴屋さんと…朝倉さん」
「けっこういるんだな。で、彼女達も君のように未来人だったりするのか?」
「………………」
「どうした?言えないのか?」
彼女は可愛らしい手を顎に当てて難しい顔をしている。
「……えーと、難しいというか、私が言っていいのか……」
「みんな普通の人間じゃない?」
「えっ…、いやキョンくんと鶴屋さんは普通の人間です…あっ」
「つまり、他はそうでないと」
「うぅ……、いじわるですね」
頬膨らませ赤くする様も可愛らしい、庇護欲をそそるタイプだ。
これが愛玩用ロボットなら人気商品だろう。

「どうかしましたか?」
顔をかしげてこちらを覗きこんでくる。
「いや、これからどうしたもんかと思ってね」

結局は真面目にこのサバイバルゲームに取り組むことにした。
かわいらしいメイド少女曰く、
「私たちが仮想や作られた存在である可能性はありますが、もしそうでなかった時
なにも努力せずに失敗しちゃったら後悔すると思います」
……だそうだ。一理ある。
もしこれが仮想訓練だとしたら、メイド少女に諭されているオレを見てイシカワあたりは
腹を抱えて笑っているかもしれんが、もうかまうもんか。
あのギガゾンビとかいうわけのわからんヤツを倒して、ここを出る。それだけだ。


「で、君の……」
「みくるちゃんとお呼び下さい」
「みくる……の荷物はどうした?途中で落としたか?」
オレの言葉を聞いて、ハッとした顔をする。今さら気づいたようだ。
「ど、どうしよぅ~、大事なものなのに……」
落ちているわけでもないのにそこいらをキョロキョロ見渡す。
「これは君の支給品か?」
先ほど、足元に転がってきた半球の何かを彼女の前に出してみた。
「あ!そうです。拾っておいてくれたんですか。ありがとうございます」
「で、それはなんだ?役に立つのか」
「えっとですね~…、これはこうすると~……」
彼女が半球の何かを頭の上――あれは帽子だったらしい――に被せると……
「姿が消えるんですよ!」
……さっきの光学迷彩はこれの効果か。だが、被っただけで全身をカバーするとは
ずいぶんオーバーテクノロジーだ。熱反応も動体反応も消失している。
「……えと、消えて…ますよね?じゃないと私恥ずかしいんですけどぉ」
「あ、いや消えている。オレからすると多少不自然なブランクがあるんで、完全では……
なんだ、見えてきたぞ。切れたのか?」
「あ、そういえば説明書にじっと見られると、見えちゃうって書いてました」
「つまり、光学迷彩ではなく心理迷彩ということか。なるほど」
「よくわかりませんが~……」
「君の世界のものじゃない?」
「絶対とは言えませんけど、私は見たことありません。でも……」
「でも、なんだ?心当たりがあるのか?」
「もしかしたら、あの青い…たぬき?さんが知っているかも知れません」

青いたぬき……ギガゾンビに殺された少女の近くにいた置物みたいなヤツのことか。
「どうして、そう思う?」
「あの最初の時、青いタヌキさんと仮面の人が言い争っていて知り合いのようでした。
で、その中でタイムパトロールとか時空なんとかって言ってて、多分青いタヌキさんも
仮面の人も未来……私から見ても未来の人達なんだと思います。だとしたら……」
「すべてに合点がいく」
「…はい。それでこの道具も仮面の人が用意したものですから」
「…………………………」
「ど、どうしたんですか?何かおかしいですか」
「いや、意外と頭がいいんだなと思ってな」
「い、意外は失礼ですよぅ!」

疲労した彼女の疲れが取れるまで、そして爆発を起こした女が次のアクションを
起こさないかじっくりと見切った上で出発することにした。

「さてと、じゃあ動くとするか」
AKとデイバッグを肩に掛けなおし、西――市街地の方を見やる。
彼女――みくるには石ころ帽子を被りっぱなしにするよう言ってある。
狙撃された場合、オレなら対処はできるが彼女にはそれは無理だからだ。
彼女のデイバッグは諦めた。森の中で音を立てずに探し物をするのは難しし、
聞いた限りではそれほど重要なものを持っていなかったからだ。
「ホテルに向かうんですよね?」
姿の見えない彼女が聞いてくる。
「ああ、このまま線路沿いに市街地へ入り、物資を補給しながらホテルに向かう」
「ホテルをお家……基地にするんですか?」
「いや、ホテルに行くのはあそこが一番高い場所だからだ」
「………………?」
姿は見えないがきょとんとしたという沈黙だな。
「屋上に上って周りを監視する。あそこらへんは人も集まりやすいだろうからな」
「それで、みんなを探すわけですね。青いタヌキさんも」
「そういうことだ。そのためにも途中で望遠鏡を見つける必要がある」
「わかりました。私もお手伝いします」

「じゃあ、進むぞ。敵を確認したからには慎重に進む。あんたもさっき殺されかかった
ってことを忘れるな」
「はっ、はい」
「その帽子の効果で離れた所からは気付かれないだろうから、オレの後をゆっくり
歩いてくればいい」
「はい」

バトーとみくる――傍目にはバトーだけのように見えるが――の2人は高架にそって
西へと移動を始めた。

 【E-7/高架下/1日目-黎明】

 【バトー】
 [状態]:健康
 [装備]:AK-47(30/30) カラシニコフ
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
 [思考]:市街地で望遠鏡またはそれに類するものを入手する。
      ホテルの屋上に向かう。
      9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。


 【朝比奈みくる】
 [状態]:健康/メイド服を着ている
 [装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
 [道具]:なし
 [思考]:バトーと同行する。
      SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。 
      青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。

 ※みくるの落としたデイバッグはD-7の南部に落ちています。

     デイバッグ/支給品一式/庭師の如雨露
     エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、
     揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)

フェイト・T・ハラオウン/カルラ


 走る。
 暗い闇夜の中、バリアジャケット……
デバイスを介して生み出す防護服を纏い、フェイトは走る。
まるで悪夢を忘れ、記憶から逃げようとするかのように。
手にはS2U。ミッドチルダ式のデバイスだ、彼女が扱うことに支障は無い。
頭にあるのは先ほど見た最悪のイメージ。散乱する血。死体。殺人と言う禁忌。

――人を殺した親友

 それは彼女を混乱させるに十分すぎるものだ。
フェイトは数々の戦場に身を置いた身だが、死体は一回も見たことが無い。
殺人もしていない。なぜか?デバイスに存在する、非殺傷設定のためだ。
簡単に殺さずに済ませてしまう技術は戦いから殺しという現実を遠ざける。
圧倒的な魔法の実力と多くの戦闘経験を持つフェイト。
しかし、彼女は見慣れていない。死体を。
失ったものはたくさんある、傷付けられたこともたくさんある。
だが、あれほど無残な死に様はまだ一度も見ていない。
目の前で消えていった母親だって、死体を見たわけではない。
そういう点では、彼女はただの女の子と変わりなかった。
死と言う現実を理解していないのだから。
ゆえに混乱し、ただ走る。
その心は、恐怖と言う名の暗闇に囚われ始めて。

――夜の闇は、それを増長させる。

 何も見えない。聞こえるのは音だけ。だから、頼りになるのは耳。
 轟音。前方、左手から。フェイトはそちらを向いた。
まだかなり距離がある。だが、しっかりと見えていた。
木が倒れる。燃え上がる。何かが、爆発したのだ。
……爆発。心当たりなら、ある。

「ディバインバスター……」

 怯えたような声でフェイトは呟いた。
追いついたんだ、自分は。なのはに。そして、この周辺には自分しかいない。

――私ね、騒がしいのは嫌いなの。
――だから、あんまりフェイトちゃんがうるさくするなら…

     コ ロ シ チ ャ ウ ヨ ?

 今まで聞いた中でも最悪な言葉が頭をよぎる。
今のは多分、なのはからの警告。なのははレイジングハートも持ってたんだ。
……そう、フェイトは思った。
混乱している彼女が、石ころ帽子を被ったみくるに気付くはずもなかった。
心と視界を闇に覆われ、射手にも気付かなかった。
そもそもディバインバスターは物を燃やさないという、
根本的なことさえ気付かなかった。

「とめ、なきゃ……」


 炎の中でS2Uを構える。その膝は明らかに震えていた。
なのはは生半可な実力ではない。
直に(しかも拘束されて)最強魔法・スターライトブレイカーを受けたフェイトは身を以ってそれを知っている。
そして、スターライトブレイカーが非殺傷設定でないなら……人を殺すことなんて簡単だ。
こうしている瞬間にも、なのはとレイジングハートはカウントを開始しているかもしれない。
カートリッジを使わなければ10秒。使えばもっと早い。
それで、スターライトブレイカーは発射され。

――死ぬ。死ぬんだ。シグナムみたいに。

 震えた足で、フェイトはなのはを探して炎の周辺を走り回る。
いや……もはや探し回るという表現は適切ではない。
なのはの照準から外れるために、逃げ回っているようだった。
いくら気丈に振舞っていても、どれほど大人びていても。
確かに「死」に関して彼女は9歳の女の子だった。

……怖い。
……こわい、こわい。
……もういやだ、帰りたい。
……くらいよ。どこから狙ってるの?
……勝てるの?なのはに勝てるの?殺さずに?
……誰でもいいよ、助けてよ、たすけてたすけてたすけて、たすけて!

――ガサリ

「!? フ、フォトンランサー!」

 葉が擦れる音。闇夜で相手は見えない。
なのはが相手だったら……隙を与えちゃ駄目だ。
ディバインバスターでも受けきれない。
スターライトブレイカーなんて受けたら死ぬ。
その前に先制攻撃するしかない。
フェイトは半狂乱で、フォトンランサーを……金色の光弾を放ち。

――後悔した。

 そこにいたのは、なのはではなかった。
人間とは違う容姿をした女性……人間形態のアルフを思い起こさせる姿。
ヒョウを基にした使い魔だろうか?
彼女に怪我は無い。怪我は無いが。その目にあるのは。

「……驚きましたわ」
「あ……その……」

 明らかな、敵意。

 弁解をする暇も無い。それに、声も出ない。

当たってはいない。照準が甘かったこともあり相手は見事に避けていた。
だが、攻撃したのは事実。そして、相手に分かったのはそれだけ。
それ以外の事情は分かりようが無い。
相手は明らかに身長と大きさが釣り合っていない、巨大な得物を構える。

フェイトを、殺すために。

 フェイトの足が、勝手に後ずさる。怯えた子供のように。
だが嘱託魔導師として戦い続けた経験は、
知らず知らずのうちにフェイトにS2Uを構え直させていた。

「邪魔をするなら……手加減、しませんわ」
「!」

【D-7 森林・1日目 黎明】
【フェイト・T・ハラウオン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:恐慌状態
[装備]:S2U+バリアジャケット@魔法少女リリカルなのは(他のランダムアイテムに関しては後続の書き手さんに一任します)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1: 応戦……?
      2:なのはの殺戮を止める

【カルラ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)(棍棒としてしか使う気はない)
[道具]:支給品一式 、ランダムアイテム残数不明(カルラが扱える武具はありません)
[思考・状況] 1.応戦
      2.ハクオロと合流。他の仲間とも合流したい。
      3.邪魔する人間には容赦しない。