党員を名乗るchocolateさんが日本共産党の党内民主主主義について他党より優れているようなことをコメントに書いているので、昨年の10月14日のブログにパトラとソクラが書いたことを再掲します。

 

なお、参議院選挙でどれくらいの票を取っているのかということや、党中央が提案した議案をぐるぐる党内で議論したということと、党内民主主義の制度でどうやって党首を選ぶかということとに相関関係はありません。

 

 

 

「日本共産党は、議会で社会主義を目指す政党としてどのような党首公選制を目指すべきか?」

というテーマのブログでは、日本の政党がどうやって党首を選んでいるのか、民主主義を重視する日本でどういう政党が国民に支持されるのかをまとめてみた。

そのなかで、民主主義を重視する日本で、社会主義を目指しているという日本共産党はどういう党内民主主義を、どんな形の党首選びをするべきなのかを考えた。
 

 

調べるなかで、政治家女子48党は、規約で「党首は大津綾香とし、臨時管理人は立花公美とする」となっていて、ビックリ仰天したわけだが、こんな党首の決め方でも日本では政党として認められている。

 

イギリス、フランス、ドイツの主要な政党も調べたが、だいたい党員が直接党首を選ぶ選挙を取り入れている。

党首を選べるという宣伝をして、党員やサポーターを増やしている「れいわ新選組」みたいな政党もある。党首選の何ヶ月か前に一定のお金を払って入党すれば、ヨーロッパでも党首を選ぶことができる政党もふつうにある。

 

一方、党首公選制を著書で提唱したら、その党員を除名処分してしまうのが日本共産党だ。

その除名された松竹伸幸氏の著書『シン・日本共産党宣言』では、日本共産党の党員は党費や機関紙代、選挙カンパなど政党のなかでは負担が多い。そういう政党が直接投票できないのは問題ではないかと書いていた。

 

そこで、今回は自由民主党、立憲民主党、日本維新の会と日本共産党の負担と党首選で投じる党員一票の意味について考えてみたい。

 

○4党の党首の選び方        

政党 自由民主党 立憲民主党 日本維新の会 日本共産党
党首の名称 総裁 代表 代表 日本共産党中央委員会幹部会委員長
現在の党首 岸田文雄 泉健太 馬場伸幸 志位和夫(当時)
必要な
推薦人数
と資格
20人
国会議員
党所属国会議員20人以上の推薦 30人
国会議員、地方議員、
首長などの特別党員
不明
 
選挙権と重みづけ 国会議員票」と「党員票」は同数で、国会議員1人1票の「国会議員票」を基準とし、全国の党員・党友による投票で配分が決まる「党員票」も同じ基準票を与え、合計表で争われる。 衆参両院の国会議員は1人2ポイント、国政選挙の公認候補予定者は、1人1ポイントの合わせた基準ポイントとなる。
全国の地方議員と党員・サポーターにも同じ基準ポイントが割り当てられ、得票数に応じて、ドント方式で候補者にポイントを配分する。
これらを合計したポイントのうち、過半数を獲得した候補者が、新しい代表に選出される。
一般党員(継続して年間党費を納入している)
特別党員(代表選挙が行われる臨時党大会の招集案内)
特別党員とは、国会議員、地方議員、首長ら臨時党大会に出席できる者。
2年または3年の間に1回開かれる党大会で、全国から選出された代議員による中央委員会を選出。
中央委員会で、幹部会委員、幹部会委員長、幹部会副委員長、書記局長を選出
 
選挙方法
(国会議員等)
「国会議員票」は通常、東京都内のホテルで投票が行われ、その場で開票される。 臨時党大会で即日開票される。 臨時党大会で一人一票で投票。 党大会で代議員が中央委員を選出(通常は代議員に国会議員が含まれている)
選挙方法
(党員)
党員投票は、規程では2年間、党費を納めた党員に選挙権が与えられることになっている、最近二回の総裁選挙では1年分の党費を納めた党員に投票権が与えられる。
各都道府県本部で投票し、各都道府県連が集計した得票数を党本部でまとめ、ドント方式で候補者に配分される。
地方議員とサポーターはインターネットと郵送で投票する。 一人につき一票。往復ハガキで投票。 党支部で一級上の党機関に関する代議員や役員を選挙する。
※「立候補」も認められているが、代議員や役員の候補は党機関執行部があらかじめリスト化し、選挙ではこのリストに◯付けする信任投票となっている。
 
決選投票または党首の選び方 1回目の投票で過半数に届かなかった場合、上位2人による決選投票が行わる。
決選投票は、国会議員票382票(2021年の場合)と、都道府県連に1票ずつ割り振られた47票の合わせて429票で争われる。
過半数のポイントを獲得する候補者がいなかった場合は、上位2人による決選投票が行われる。
決選投票は、国会議員が1人2ポイント、公認候補予定者が1人1ポイント、各都道府県連の代表者に1人1ポイントを割り当てた合計ポイントで争われる。
なし。

一般党員と特別党員が同じ一票を持ち、一回の投票で決まる。
幹部会で委員長が決められる
国会議員数 衆議院274人、参議院108人(2021年の場合) 衆議院96人、参議院44人(2021年の場合) 衆議院41人、参議院16人(2023年現在) 衆議院10人、参議院11人(2023年現在)
地方議員数 都道府県1246人、市町村1273人(2022年12月現在) 都道府県58人、市町村254人(2022年12月現在) 都道府県15人、市町村138人(2022年12月現在)) 都道府県115人、市町村2163人(2022年12月現在)
党員・サポーター等数 2021年の場合、党員は110万4336人 100,267人 (2021年11月16日現在) 40,800人 (2023年2月5日現在) 2023年9月、党員数が約28万人
投票する権利を得る方法 党費4000円(年額)を2年間納入した者 党員(年間4000円)、協力党員(年間2000円)を1年間支払う。 年会費2000円を2年以上支払った一般党員、特別党員。 一般党員には党首を直接選ぶ権利はない。

 

1.自由民主党

 

自民党で党首を選ぶには党員資格を得なければならない。

党員になるには4000円を支払って入党する。

2年間納入すれば、通常は党首選に投票できることになっている。

家族党員は年額2,000円、特別党員 年額20,000円以上となっている。

 

 

党員・党友による投票は、投票所での直接の投票や、はがきなどで行われる。

各都道府県連が集計した得票数を党本部でまとめ、382票がいわゆるドント方式で、候補者に配分される。
「国会議員票」と「党員票」をあわせた有効票の過半数を獲得した候補者が新総裁に選出される。
ただし、過半数の票を獲得する候補者がいなかった場合は、上位2人による決選投票になる。

ここでは党員の票は反映されない。

 

 

候補者による立会演説会を党本部で行うことになっている。

また、 2021年には青年局と女性局が主催する討論会がオンライン形式で実施された。

そして、全国各地での街頭演説会は、2020年の総裁選挙と同様に実施を見送る一方、新型コロナ対策や外交・安全保障、憲法改正などテーマ別に、候補者が国民から直接質問を受けて討論するオンライン形式の政策討論会を初めて開催することになった。

 

 

しかし、党員票を多く得た者がそのまま党首になるわけではない。

この選挙制度の問題を指摘する人もいる。

2021年の総裁選では、党員票では河野太郎氏が上回ったが、その価値は下げられた。

決選投票では議員票で上回る岸田氏が選出されることとなった。

 

 

 

選挙戦が始まる前には党員獲得のために、入党する意志がない者に投票用紙が送られていたりすることもある。

 

 

 

2.立憲民主党

 

2021年の代表選挙では、国会・地方議員だけでなく、年間2000〜4000円の党費を1年間払っている党員・協力党員の約10万人が投票する「フルスペック」で実施した。

 

 

地方議員と党員・協力党員は郵送かインターネットで投票、国会議員と公認予定者は3臨時党大会で投票し、即日開票された。

このとき、国会議員は1人2ポイント、公認予定者は1人1ポイントを持ち、計286ポイント。地方議員と党員らはそれぞれ143ポイントを持ち、得票数に応じてドント方式で比例配分した。

誰も過半数を取れなかった場合は、上位2人で決選投票を行う。

国会議員と公認予定者に加え、都道府県連の代表者が1人1ポイントを投票し、合計ポイントで争う。

立憲民主党も党員の票は圧縮されるという問題がある。

 

 

 

また、旧立憲民主党と旧国民民主党が合流した問題もあり、そのグループ間の激しい票読み合戦もある。

泉健太氏が勝利したのは、小沢一郎氏が檄を飛ばし、相手陣営を一夜で切り崩したとかいう報道もある。

 

 

 

2017年に枝野幸男前代表が立ち上げた立憲は、直後の衆院選で「草の根からの民主主義」を掲げた。翌年、年500円で党の政策づくりや選挙の手伝いに関わる「立憲パートナーズ」制度を導入し、立憲がめざす、庶民の声を聞く草の根の政治の象徴だった。パートナーズには代表選の投票権がないが、候補者と話す場として設けられた。

しかし、当初のボトムアップの勢いは今はもうないとか。

 

 

 

3.日本維新の会

 

日本維新の会の代表選が他党と違うのは、投票で「一般党員も、議員などの特別党員と同等の1票を持っている」という点だろう。

年会費2000円を2年以上支払った一般党員であれば、特別党員と同等の1票を投じることができるため、全国に2万人ほどいる一般党員の票は結果を大きく左右するといえる。

 

 

自民党と立憲民主党はともに党員票はドント式で配分し、一票は圧縮されている。

 

また、日本維新の会の代表選には、決選投票がない。

1回のみの投票で最多得票となった候補者が代表に選ばれることになっている。

 

党員の一票が代表選に影響を与える政党だといえるだろう。

 

 

一方で、橋下、松井という著名人が引っ張ってきた政党であり、人気のある吉村知事が立候補しなかった。

政策論争で分裂するのではないかという不安もあったらしい。

しかし、日本維新の会の試みは日本の民主主義制度の実験ともいえるだろう。

 

 
 
4.日本共産党
 
日本共産党の政党内での「民主的」という考え方は、他党と異なる。
 
 

わが党の指導部の選出は、党規約にもとづいて自主的・自律的に、かつ厳格に行われています。具体的には、2年または3年の間に1回開かれる党大会で、全国から選出された代議員による民主的選挙によって中央委員会を選出します。そのうえで中央委員会は、幹部会委員、幹部会委員長、幹部会副委員長、書記局長を、民主的選挙によって選出します。

 

 このように、党首――幹部会委員長だけでなく、集団的な指導部の体制を選出するところに最大の特徴があります。わが党にとって、この選出方法がもっとも民主的で合理的だと考えます。

 

 

 

立憲民主党の「ボトムアップ」が「民主的」とか、日本維新の会のように党員の一票が代表選の重みがあるのが「民主的」ということとは明らかに違う。

 

党建設委員会の山下芳生氏は以下の4点を「民主的で合理的」な根拠としている。

 

①個人の専断を排し、集団指導によって民主的に党を運営するうえで、いちばん合理的な選出方法

②派閥や分派をつくらず、国民に対して公党として統一的に責任をはたすうえで合理的な選出方法

③ポスト争いとは無縁な党。任務に照らしてベストと考えられる人事を、指導部が検討し提案する

④大会決議案を全党で討論し、議案に反映される民主的運営

 

こういうことを本気で力説するのが日本共産党なのである。

しかし、一方で中国の民主主義とは違うともいう。

 

最近の習近平氏の選ばれ方はこうだった。

 

中国共産党機関紙、人民日報(電子版)の報道によると、投票は①国家主席②国家中央軍事委員会主席③全人代常務委員会委員長、副委員長、秘書長④国家副主席に分けて行われ、出席者には投票用紙4枚が配られた。

 

投票用紙には候補者の名前が記され、反対または棄権の意思を示す場合にのみ、名前の脇の空欄を塗りつぶすマークシート方式が取られた。投票用紙は出席者が投票箱に入れた後、集計機とみられる「電子選挙システム」で集計された。

 

 

複数候補がいるわけではない。

しかし、まだ日本共産党よりましなのは、投票プロセスがオープンであることくらいだろう。

 

結果は、14人いる全人代常務委員会の副委員長選で李鴻忠氏に反対と棄権各1票が投じられた他は、全員が全て賛成票で当選した。

 

国営中央テレビの映像によると、習氏が当選した国家主席と国家中央軍事委員会主席の投票結果を聞く際には、出席者が起立して傾聴した。

副委員長選で李鴻忠氏に反対と棄権各1票が投じられたことがわかる。

 

 

5.党首の選び方の民主的な方法とは何か?

 

ラリー・ダイアモンド(Larry Diamond)のよく知られた定義によれば、「選挙民主主義 electoral democracy)」とは、「普通選挙権に基づき、定期的で競争的な、かつ複数政党による選挙を通じて、立法府と行政首長が選出される、文民による憲政のシステム」をいう。

 

 

中国ではそのような選挙民主主義は存在しない。

日本共産党の「民主的」という定義は中国共産党の定義に近いものなのだろう。

 

中国の選挙制度を研究した10年前の論文がある。

この論文によると、「2000年代に入って実施された計3回の県級以下の人代代表の直接選挙では、いずれも9割を超える投票率と得票率が実現され、共産党が「過程と結果をコントロールするという意味」において、人代代表の選挙は「完成度を高めている」」という。

末端で複数候補による競争選挙が行われたこともあるが、共産党は憲法違反であると禁止した。

しかし、共産党内の選挙では新しい動きもあったらしい。

 

党内選挙に関する最近の注目すべき展開として、第17期党中央政治局委員の選出プロセスにおいて、推薦投票(予備投票)が初めて実施されたことが挙げられる。2007年6月、前期の16期中央委員や同候補委員を含む約400人が、およそ200名の人物名が記載された候補者名簿の中から推薦票を投じ、この結果をふまえて新任の政治局人事が決められたという。得票結果と人事決定をめぐる具体的なやり取りは、依然として秘密のヴェールに包まれている。とはいえ、こうした動きは、「今日の中国政治が、中国共産党の最高指導者たちを選出するプロセスにおいてすら、利益の表出と利益の調整のメカニズムの導入を要求していることを示唆している」。

https://core.ac.uk/download/pdf/228936154.pdf

 

この論文は2010年代の村民委員会選挙など草の根レベルの選挙で、複数候補から選ぶ選挙などが実施されている現状を分析し、中国の草の根レベルの選挙ではそのようなニーズもあることを指摘している。しかし、権威主義体制の共産党が今後どのようにその動きに関わるかの不透明さにも触れている。

 

マルクス主義にとって、「選挙民主主義=普通選挙権に基づき、定期的で競争的な、かつ複数政党による選挙を通じて、立法府と行政首長が選出される、文民による憲政のシステム」というのは、レーニン的に言えば、やがて葬り去るブルジョア民主主義の制度でしかないのだろう。

 

ふつうの資本主義社会で、民主主義運営と思われている制度すら認められない政党は、議会で社会主義を実現することなど無理だと思うが、その辺りを日本共産党はどう考えているのだろうか。

 

なお、松竹伸幸氏が著書のなかで提唱しているのは、現行党規約のなかでの党首公選制であり、代議員が複数候補(松竹伸幸氏のような一般党員の候補者を含む)から選ぶ方法である。

本当に党員が一票を党首選に投じるためには、党規約の改正が必要になる。

だから、松竹氏が提唱している制度は、党規約違反ではないとも言っている。