先日、「生物に及ぼすマイクロ波照射の影響」というタイトルの日本語文献を紹介いたしましたが、この文献はマイクロ波聴覚効果について言及していました。

 

しかしながら、あまりにも専門的に記載されているので、一読しただけでは、マイクロ波聴覚効果に関する記載と気が付きません。

 

以下、前述の文献(用紙上部の表示で593ページ、用紙下部の表示で13ページ;右欄)からマイクロ波聴覚効果に関する部分を抜粋いたします。

 

Frey氏(31)はねこの頭部にUHF(1.2~1.525GHz)を照射して脳幹部の誘発電位を記録した。これはピーク電力密度が60mW/cm2,幅10μsのパルス変調したもので,くり返し周波数12ppsおよび130ppsで4回のパルス照射に対し,その後の30msについて誘発電位の加算を行なった結果である。反応のしきい値は平均電力で約30μW/cm2であった。

 

「Frey氏(31)はねこの頭部にUHF(1.2~1.525GHz)を照射して脳幹部の誘発電位を記録した」という文章について初めから順番に解説いたします。

 

「Frey氏(31)」とあるのは、31番目の文献であり、その著者はFreyということを意味いたします。31番目の文献を参照すると、下記の文献であることが分かります。

 

Allan Frey, Brain stem evoked responses associated with low-intensity pulsed UHF energy,

J. Appl. Physiol. Vol. 23, no. 6, 984-988(1967)

 

この英語文献のタイトルを和訳すると、「パルス化された低強度UHFエネルギーに関連する脳幹誘発応答」となり、1967年に応用生理学ジャーナルJournal of Applied Physiologyという生理学の専門雑誌に掲載されています。

 

次に「UHF」とは、ultrahigh frequencyの略語であり、周波数が300メガヘルツから3000メガヘルツの電波を意味します。ここで、1000メガヘルツは1ギガヘルツと同一であり、3000メガヘルツは3ギガヘルツと同一です。

 

UHFの具体例としては、テレビ放送、携帯電話(700メガヘルツ帯、800メガヘルツ帯、1.5ギガヘルツ帯、1.8ギガヘルツ帯など)、電子レンジ(2.45ギガヘルツ)に使われている電波になります。

 

ところで、マイクロ波という用語については複数の定義がありますが、いずれの定義であっても、UHFはマイクロ波の典型例になります。

 

UHFといっても、この文献では周波数が1.2ギガヘルツから1.525ヘルツのマイクロ波が実験に使われています。

 

その後、文献には、「脳幹部の誘発電位」と記載されていますが、これは脳幹誘発応答又は脳幹誘発電位のことであり、聴覚の検査方法になります。

 

要するに、聴覚の神経伝導路の検査方法に、聴性脳幹反応auditory brainstem response ABR、聴覚脳幹誘発電位brainstem auditory evoked potential, BAEPがあり、ここで、聴性脳幹反応も聴覚脳幹誘発電位も同じ検査方法のことを別個の専門用語で表現しています。

 

聴性脳幹反応では、音で聴覚を刺激しつつ、脳幹の反応というか応答を計測するのですが、具体的には脳幹に発生する電位を計測します。電位を強調するときには、聴覚脳幹誘発電位という用語が使われます。

 

ところで、脳幹は脳の一部になりますが、脳は、大脳、小脳、間脳及び脳幹の4つに大別されます。脳幹は脳のどこにあるのかというと、脳と脊髄とを接続する位置にあります。

 

脳幹には視床へ上行する感覚神経路が存在するのですが、聴覚伝導路も脳幹にあります。聴覚伝導路には、解剖学の専門用語を使うと、蝸牛神経核とか、上オリーブ核などがありますが、蝸牛神経核も上オリーブ核も脳幹にあります。

 

通常、空気を伝わる音を人間に聞かせて、聴覚脳幹誘発応答という計測をします。

 

これに対して、アラン・フレイは人間でなくネコに対して、聴覚脳幹誘発応答という計測をしました。

 

また、通常、空気を伝わる音を聞かせるのですが、アラン・フレイは、空気を伝わる音でなく、パルス波形のマイクロ波をネコの頭部に照射しています。具体的には、パルス幅が10マイクロ秒であり、周波数が1.2ギガヘルツから1.525ヘルツのマイクロ波をネコ頭部に照射しています。

 

この文献は1967年に発表されているのですが、その当時、パルス波形のマイクロ波がなぜ聞こえるのかは分かっていませんでした。ところが、フレイは、聴神経を経由して音が聞こえているのではないのかという仮説を立て、この仮説を実験で実証したのです。

 

即ち、パルス波形のマイクロ波をネコ頭部に照射すると、脳幹誘発応答が計測されたので、聴覚伝導路、即ち、聴覚に関する神経系に電気信号が流れているということを実験で確認したのです。

 

次に、「くり返し周波数12ppsおよび130ppsで4回のパルス照射」という部分を説明いたします。

 

ここで、ppsとは、pulse per secondの略語になります。12ppsとは、1秒に12回、パルスを照射したということになります。1秒に何回、パルスが繰り返されたかということは、別の表現を使えば、パルス繰り返し周波数になります。12ppsとは、パルス繰り返し周波数が12ヘルツということを意味します。

 

12ppsは1秒に12回、パルスを照射するという条件になりますから、この条件で4回、パルスを照射しています。4/12=0.333 ですから、0.333秒で4回、パルスを照射しています。