最近、この類いのトピックは控えていたのですが、先日、テクノロジー犯罪に関する相談を受けたので、久しぶりにテクノロジー犯罪について取り上げます。
テクノロジー犯罪といっても、一般人にとっては意味が分からないでしょうが、テクノロジー犯罪とは、特定個人を狙って、電磁波・超音波等、目に見えない媒体を用いて身体・精神に影響を及ぼす行為と定義されており、この定義は、特定非営利活動法人テクノロジー犯罪被害ネットワークの定款3条に依拠します。
どうやら相談者が言外に伝えたい内容は、テクノロジー犯罪は犯罪なので、被害者は警察に被害相談をすべきであり、その後、警察がテクノロジー犯罪について捜査して、被疑者を摘発すべきというようなことのようである。
「テクノロジー犯罪」というときには、「犯罪」という用語が独り歩きしているというか、通常の意味、典型的な意味で「犯罪」という用語が用いられているというわけではない。
犯罪は刑罰が科されるべき行為と定義されることもあるが、刑法総則の教科書などには、構成要件に該当する違法有責な行為と定義されている。
刑法の基本原則は罪刑法定主義なので、犯罪に該当する行為は、制定法に明記されることが求められるのだが、典型的には、刑法という名称の法律、即ち、刑法典という狭義の刑法に犯罪と刑罰が規定されている。
刑法典以外の法律にも犯罪に関する規定は設けられている。例えば、著作権法には著作権侵害罪が規定されており、商標法には商標権侵害罪が規定されているが、著作権侵害罪、商標権侵害罪は犯罪である。
なお、小職の専門は知的財産法なので、知的財産法における犯罪を例示した。
それでは、テクノロジー犯罪は、刑法第何条に定める犯罪となるのだろうか。あるいは、どの法律のどの規定に該当する犯罪なのだろうか。
「テクノロジー犯罪」という用語の代わりに、「嫌がらせ犯罪」という用語を使う人もいる。
「嫌がらせ犯罪」という用語で、通常の嫌がらせというか、一般人が嫌がらせと理解できる行為でなく、摩訶不思議な嫌がらせについて言及したり、そもそも嫌がらせがあるか否かが良く分からないことを意味していることが多々ある。
また、刑法における犯罪は、行為であることが大前提である。刑法総則などの教科書には「行為論」という議論があり、行為とは何かという法律論が展開されている。
ところが、「テクノロジー犯罪」とか、「嫌がらせ犯罪」というようなときには、そもそも行為が特定されていない。
どのような行為か明確に特定されていないときには、刑法などの条文を適用する前提に欠けている。
被害者が犯罪と主張しているのですが、刑法などに規定する犯罪とあまりに乖離しているというのは、いかがなものでしょう。
世の中には、刑法などの法律を勉強したことがある人より、法律を勉強したことがない人が多いので、「テクノロジー犯罪」という用語を見聞きするだけで刑法に定める犯罪というか、通常の犯罪と誤解する人もいるのです。
また、自分は犯罪被害者と誤解して、警察に被害相談したところ、警察はなにか重大な犯罪を実行する危ない人かもしれない、と懸念して、パトロールを強化した結果、誰かが追跡する、監視するというような被害妄想、追跡妄想を悪化させる人もいるし、精神病院に強制入院することになる人もいるのです。
他人に誤解を与えるような言葉はどうでしょうね。