化学反応が触媒で進行することは多々あり、新たな触媒を発見したときには、新たなタイプの化学反応が可能となる。

 

従来、触媒、特に不斉合成に用いられる触媒は2種類しかなかった。有機金属化合物と、酵素である。

 

ここで、不斉とは鏡像関係を意味しており、典型的には炭素を中心とする鏡像関係である。不斉とか鏡像というのは、右手と左手の関係といってもよい。

 

不斉合成の例示としては、炭素ー炭素二重結合を水素化するときに、不斉触媒を使用することが挙げられる。この不斉触媒として、通常は有機金属化合物が用いられる。

 

名古屋大学の野依良治先生はノーベル化学賞を受賞しているが、不斉触媒を使った不斉合成がご専門であった。

 

化学の世界で不斉合成は、巨大な研究テーマとなっており、永年に渡って多数の化学者が研究している。

 

一方、酵素による不斉合成というと、生体内で起きている化学反応である。動物でも植物でも微生物でも、体内では酵素による不斉合成が進行している。

 

酵素は多数のアミノ酸がペプチド結合したタンパク質であり、典型的には、100以上のアミノ酸とか、300以上のアミノ酸がペプチド結合している。

 

それでは、酵素のうち触媒活性を示す部分は、どれだけだろうと考えた化学者がいた。即ち、一つの酵素に、100とか300のアミノ酸残基が含まれていても、そのうちの一部は酵素の骨格を形成する部分であり、格別に酵素活性を示さないことがある。やはり、酵素活性を示す部分、活性中心が重要である。

 

ところで、アルドール反応は、有機化学で基本的かつ一般的な化学反応であり、不斉合成に用いることもできるのだが、不斉アルドール反応の触媒としては、酵素全体は必須でなく、プロリンというアミノ酸のみであっても触媒として作用することが発見された。

 

この発見者は、マックス・プランク研究所のベンジャミン・リストであり、2021年度ノーベル化学賞を受賞した。

 

ちなみに、生物が用いるアミノ酸は原則として20種類であるが、そのうちの一つに、プロリンというアミノ酸がある。

 

プロリンのような触媒は、有機触媒organic catalystと命名されているが、この命名者は、ディビッド・マクミランである。マクミランは有機触媒の研究者であり、2021年度ノーベル化学賞を受賞した。

 

アルドール反応は、有機化学の教科書に登場する基本的な化学反応であるが、有機化学の教科書を書き換えることが所望される。