特許法の保護対象は発明であり、遺伝子組み換えをした植物は、特許法の保護対象となる。

 

一方、種苗法の保護対象は植物の品種である。遺伝子組み換えをして新規な品種を創作したときには、種苗法の保護対象として、品種登録が容認される。

 

このような場合、特許法にも種苗法にも調整規定が設けられておらず、条文の規定上は、同一の創作について、特許法で特許を取得し、種苗法で品種登録をすることが可能である。

 

ただし、育成者権の効力は、特許権との関係で制限されている。

 

種苗法21条は、育成者権の効力の制限について規定するが、同条2号、3号は下記の通りである。

 

二 登録品種(登録品種と特性により明確に区別されない品種を含む。以下この項において同じ。)の育成をする方法についての特許権を有する者又はその特許につき専用実施権若しくは通常実施権を有する者が当該特許に係る方法により登録品種の種苗を生産し、又は当該種苗を調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、輸入し、若しくはこれらの行為をする目的をもって保管する行為

 

 前号の特許権の消滅後において、同号の特許に係る方法により登録品種の種苗を生産し、又は当該種苗を調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、輸入し、若しくはこれらの行為をする目的をもって保管する行為
 
ここで、登録品種の育成をする方法と規定されているが、その意義はどういうことなのだろう。
 
特許法では、発明は物の発明と方法の発明に大別されるが、方法の発明に関する特許権に限定されるのだろうか。
 
育成者権の効力に対応して、登録品種の育成をする方法と規定されているだけであり、物の発明に関する特許であっても、種苗法の育成者権に対抗することができるのだろうか。
 
このあたりは詳細に検討していないので、問題点を指摘するのに留める。
 
いずれにしても上記は日本法の場合である。

 

世界各国で法律は異なるのだが、ヨーロッパ特許法では、特許法と種苗法を調整する規定が設けられており、原則として、植物の新品種は特許を受けることができない(53条(b))。ただし、遺伝子組み換えについては例外がある。

 

53(b) plant or animal varieties or essentially biological processes for the production of plants or animals; this provision shall not apply to microbiological processes or the products thereof; 

 

ところで、ヨーロッパ法から日本法に戻るが、遺伝子組み換えがされた新品種について、種苗法の品種登録と特許法の特許の双方がされた実例はあるのだろうか。

 

サントリーグループは、白いカーネーションに、ペチュニアから抽出した青色遺伝子を導入して、青いカーネーションという新たな品種を創作した。この品種については、「ヴィオII」という名称で登録番号8184として2000年6月27日に登録されている。

 

サントリーグループは青いカーネーションについて別途、特許も取得している。

 

ちなみに、現在の種苗法では、存続期間は品種登録日から25年または30年であるが(19条2項)、当時の種苗法では、存続期間は品種登録日から20年であるので、2020年6月27日に存続期間が満了し、育成者権は消滅した。すなわち、2020年6月28日から「ヴィオII」という品種のカーネーション、青いカーネーションは誰でも自由に育成することができる。

 

ところで、小職は種苗法、育成者権などの知的財産は専門である。

 

しかし、青いカーネーションを見て、「ヴィオII」か否かという質問がされたときには、良くわからないという回答になりそうである。そもそも、カーネーションが目の前にあるとき、綺麗な花ということはわかっても、カーネーションか否かは良くわからない。花屋さんの店頭には、カーネーションという文字が書いてあるので、カーネーションというのが分かる。