人間の頭部にマイクロ波ビームをパルス波形で照射したときには、頭部組織に含有する水が熱膨張して、頭部組織を媒質とする熱弾性波が発生します。この現象はマイクロ波聴覚効果と命名されています。

 

同様に人間の頭部に赤外線ビームをパルス波形で照射したときには、頭部組織に含有する水が熱膨張して、頭部組織を媒質とする熱弾性波が発生します。この現象は光音響効果と命名されています。

マイクロ波聴覚効果も光音響効果も熱弾性波が発生するという点で共通し、更に、熱弾性波が骨伝導により聞こえるという点も共通します。

マイクロ波聴覚効果と光音響効果は専門用語は異なりますが、物理現象としてはほぼ同じになります。マイクロ波聴覚効果はほとんど知られていないのに対して、光音響効果はレーザー研究者を中心として知られています。

赤外線ビームを頭部に照射するといっても、典型的には、赤外線レーザーを使うことになるのですが、レーザービームが一定の領域に集中するエネルギーが大きいことから、頭部組織には超音波、即ち、周波数2万ヘルツを超える音響波が発生することが多々あります。

 

興味深いことに、空気伝導では超音波は聞こえないのに対して、骨伝導では超音波は聞こえます(文献1,2)。一説によると、耳小骨は超音波領域の音響インピーダンスが大きいので、耳小骨が超音波を大幅に減衰することになり、聞こえなくなります。空気伝導では耳小骨を経由するのに対して、骨伝導では耳小骨を経由しないので、骨伝導では超音波は聞こえるのです。

 

文献

1 藤岡 祥子、降旗 建治、柳沢 武三郎、骨導超音波に関する聴覚特性、電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 98(247), 9-16, 1998-08-27

2 降旗 建治 , 藤岡 祥子 , 柳沢 武三郎、骨伝導による超音波の聞こえに関する考察、電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 99(259), 15-22, 1999-08-26