2017年5月22日に機械振興会館で開催された電子情報通信学会宇宙航行エレクトロニクス研究会で「サイレントレーダー」という演題が発表され、これに伴って、「サイレントレーダー」というタイトルの下記文献が公表されています。
 
これに対して、ハンドルネームbemsj氏が管理人となっているウェブサイト『マイクロ波可聴効果を利用して会話の音声を送信することは可能か?』において、この講演及び文献が批判されています。
 
このウェブサイトから一部を引用いたします。
 
引用開始
 
昨今の技術で、身の回りにある携帯電話の無線伝送は、スペクトラム拡散方式を利用している。
 
もし、スペクトラム拡散方式の電波が検出できないとなれば、携帯電話の端末はどうやって電波を受信するのであろうか????
 
携帯電話の端末で通話できることは、電波を受信していることになる。
 
電波を受信できるということは、電波の測定を行えば、測定ができるということである。
 
引用終了
 
第1 電波、信号、ノイズ
 
直接拡散スペクトル拡散では、電波が検出できるか否かが問題なのでなく、信号が検出できるか否かが問題になります。
 
スペクトルアナライザーなどを使えばノイズレベルの電波は検出できるのですが、直接拡散スペクトル拡散では、拡散符号が分からない限り、ノイズに隠れている信号は検出できません。
 
スペクトルアナライザーでノイズを検出したとき、電波の測定ができたと表現するのが適切なのでしょうかね。
 
ちなみに、携帯電話では、特定のM系列が拡散符号になっているので、ノイズに隠れている信号が検出できます。M系列の説明は省略。
 
第2 直接拡散スペクトル拡散
 
どうもbemsj氏は、直接拡散スペクトル拡散のことがよく分かっていないようです。ウィキペディアから直接拡散スペクトル拡散について引用する程度の知識では足りないのです。
 
というのは、bemsj氏は、ノイズに埋もれている信号は受信できるわけがない、という大変、素朴な信念を抱いているようであり、直接拡散スペクトル拡散において、受信機が信号を受信するしくみをキチンと理解していないようです。
 
直接拡散スペクトル拡散の基盤となる物理法則は、電波の時間領域において、電波がパルス波形のとき、パルス幅が短くなればなるほど、電波の周波数領域において、周波数スペクトルがどんどん広がるというものです。
 
例えば、時間領域において、パルス幅が10マイクロ秒のときと、パルス幅が10ナノ秒(パルス幅が1000分の1になる)のときを比較した場合、周波数領域において、パルス幅10ナノ秒に対応する周波数スペクトルは、パルス幅10マイクロ秒に対応する周波数スペクトルより1000倍、広くなるとともに、パルス幅10ナノ秒に対応する周波数スペクトルの最大振幅はパルス幅10マイクロ秒に対応する周波数スペクトルの最大振幅より1000倍、小さくなります。
 
簡単にいうと、周波数領域において、横方向(x軸方向、単位は周波数)に1000倍、広がり、縦方向(y軸方向、振幅)は1000倍、圧縮されるということになります。
 
パルス幅が10ナノ秒のように短くなった場合、周波数領域において、周波数スペクトルの振幅がノイズの振幅より小さくなり、周波数スペクトルで特定されるべき信号がノイズに隠れるということです。
 
さて、直接拡散スペクトル拡散では、どのようにしてノイズに隠れている信号を検出するのでしょうかね。
 
携帯電話のスペクトル拡散、通称、CDMAであっても、同一の周波数が500台とか1000台の携帯電話で共有されており、それでも混信を起こすことなく受信しています。
 
例えば、500台の携帯電話が同じ周波数を使っているとき、特定の一台が電波を受信するときに、残りの499台に対応する電波はノイズになります。
 
携帯電話が計測する電波の振幅は、500台に対応しており、大雑把に見積もって500単位であり、そのなかから1単位の信号を検出するのです。
 
ここで、直接拡散スペクトル拡散で目的とする信号を検出する原理を詳細に解説すると、長くなりすぎるので、省略します。
 
第3 受信機と頭部の差異
 
マイクロ波聴覚効果を応用したマイクロ波通信が直接拡散スペクトル拡散されているとき、受信機(電子機器)が音声信号を復調する方式と、頭部が音声信号を復調する方式は全く異なります。受信機(電子機器)が音声信号を復調する方式は拡散符号で逆拡散するのに対して、頭部が音声信号を復調する方式はマイクロ波聴覚効果であり、拡散符号による逆拡散は不要になります。
 
受信機(電子機器)が音声信号を復調する方式と、頭部が音声信号を復調する方式は全く異なるのですが、bemsj氏はこの二つの復調方式が同一と誤解しているのです。
 
マイクロ波聴覚効果で拡散符号が不要な理由とか逆拡散が不要な理由を解説すると長くなりすぎるので省略。
 
いずれにしろ、デマを流す人はいくらでもいるし、難しい内容が分からない人はいくらでもいます。
 
通信技術について何も分からない人がネットを通じてデマを流布するのは大変、迷惑です。
 
文献
1 小池誠、サイレントレーダー、電子情報通信学会技術報告, vol. 117,no.43, SANE2017-2, pp. 7-12, 20175
 
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