統合失調症と突然死
 
昨日の精神保健予防学会のランチョンセミナーにおいて、
弘前大学大学院医学研究科、神経精神医学講座、古郡規雄准教授は、
統合失調症患者さんの平均寿命が短いことを取り上げ、
その原因を探求していました(文献1)。
 
戦後、一般国民の平均寿命はどんどん延びているのにもかかわらず、
統合失調症の患者さんの平均寿命は、少し短くなっているのです。
 
アメリカの統計では、統合失調症の患者さんの平均寿命は、
一般人と比べて15年ほど短いとされています。
 
また、x軸に0才、1才から100才までの年齢として、
y軸に生存している人をプロットした生存曲線を表示していました。


講演で提示された生存曲線とは微妙に異なりますが概ね似ているので、
生存曲線として、ニフティにあるウェブサイトのリンクを張っておきます。

講演で提示された生存曲線では、 
0才では100であり、100才ではほとんど0になります。
 
生存曲線を見ると、50才のとき、
一般人は99%以上生きているのに対して、
統合失調症の患者さんは約3割も亡くなっているのです。
 
この数字は衝撃的ということもあり、
統合失調症の患者さんが、平均寿命が延びるという
医学の進歩などの恩恵にあずかれないのは、なぜかということについて、
統計データなどを使って説明していました。
 
まず、統合失調症の患者さんが、100人以上、
入院している精神病院では、
1年に1人ぐらい突然、死亡することがあります。
 
1年間に入院患者さんが突然、死亡する確率は0.3%から1%であり、
300人前後、入院している精神病院では1年に1回前後、
突然死があるということです。
 
突然死があっても、通常、遺体の病理解剖はされないので、
正確な死因は分からないのが実情です。
 
ところが、都立松沢病院は、
統合失調症の患者さんが突然死したときに病理解剖して、
死因を特定しています(文献2)。
 
この研究によると、突然死の最大の病因は、
肺動脈が詰まるという肺血栓塞栓症
(はいけっせんそくせんしょう)だそうです。
 
心臓がポンプとなって血液が全身を循環していますが、
心臓には二つの動脈が接続しています。
 
一方が大動脈であり、他方が肺動脈であり、
肺動脈は肺に血液を送り込んでいます。
 
肺血栓塞栓症は、肺動脈が血液の塊、
即ち、血栓により詰まるという病気です。
肺血栓塞栓症は、「エコノミークラス症候群」の一種であり、
飛行機のなかで長時間、動かないでいると、
脚の静脈内で血栓ができ、
この血栓が血流に乗って肺動脈で詰まるとされています。
 
また、病気や手術のため長い間寝たきりになっていると、
足の静脈内で血液の流れが悪くなり、
血栓をつくりやすいとされています。
 
肺血栓塞栓症の徴候として、
突然の胸痛、呼吸困難、呼吸回数の増加などがあげられます。
 
この講演の後半は、統合失調症の患者さんは
メタボリックシンドロームの割合が高いことを述べており、
肥満、糖尿病などのメタボリックシンドロームに
起因して早死にするのです。
 
実は向精神薬により肥満になり易さが異なり、
ある向精神薬は体重が増加しやすい一方、
別箇の向精神薬は体重が増加しても、その増加割合が小さいそうです。
 
メタボリックシンドロームは老化の症状でもあるのですが、
統合失調症の患者さんの老化が早いのは、
実は、第2世代向精神薬の副作用になります。
 
30代では統合失調症の患者さんの約半数が
メタボリックシンドロームになっています。
 
10代に統合失調症になる患者さんもいるでしょうし、
20代に統合失調症になる患者さんもいるでしょうし、
30代になって統合失調症になる患者さんもいるでしょう。
 
このようなことを考慮すると、
10代から毎日、向精神薬を服薬すると、
30代にメタボリックシンドロームになり、
50代に亡くなる人が発生するということなのでしょうね。
 
ところで、このランチョンセミナーは、
大日本住友製薬株式会社がスポンサーになっているのですが、
大日本住友製薬株式会社が販売している向精神薬は、
肥満になりやすいものではないようです。
 
しかしながら、別個の副作用はあるのでしょうね。
 
統合失調症の急性期に向精神薬を服用するのはやむを得ないのですが、
急性期は1年も2年も継続するものではありません。
 
1年、2年、5年、10年と向精神薬の服薬が長期になればなるほど、
副作用の弊害が懸念されます。
 
この観点では、「向精神薬長期的視点」というブログ記事があります。
 
関連ブログ記事
 
文献
1 統合失調症の身体合併症予防;
患者さんのいのちと健康を守る
古郡規
第19回 日本精神保健・予防学会学術集会 
プログラム・抄録集、39ページ
2015年12月12日~12月13日
仙台国際センター会議棟
 
今井淳司、須藤康彦、林直樹、岡崎祐士(2009)
精神医学 51 9, pp. 905-914
 
松永 力, 分島 徹, 岡崎 祐士,  (2011)
精神医学 534, 329-337