脳型コンピューター、実用化に道 米IBMがチップ開発
嘉幡久敬2014年8月8日07時50分
人間の脳のように同時並行的に情報を処理するコンピューターチップを米IBMが開発した。実用化すれば、大量の画像や音声から特定の顔や声を識別したり、ビッグデータから目的の情報を精度良く見つけたりする機能を、家電や自動車、ロボットなどに組み込めるようになる。8日付の米科学誌サイエンスに発表する。
開発したチップは、脳の神経細胞が外部の刺激で変化してネットワークを形成して情報を処理するように、入力に応じてデータの流れ方が変わり、電子部品である素子がネットワークを構成してデータを処理する。
従来の「ノイマン型」コンピューターがプログラムを読み込んで決められた手順で一つずつデータを処理するのに対して、プログラムが不要で多くの素子が分散して同時にデータを処理できる。データを与えるほど、学習して認識機能が向上する。人間のような思考や創造はできないが、脳のような画像や音声の識別を、大規模なコンピューターを使わずにできる。
IBMは素子は開発していたが、大量の素子を一つのチップに詰め込む技術が課題だった。今回、素子の配列を工夫して配線を大幅に簡略化。韓国サムスン電子の最先端の製造技術を活用し、神経細胞100万個分に相当する素子を2センチ角のチップにした。人間の大脳は100億個の神経細胞があり、計算上、このチップを1万個つなげると大脳の規模に達する。
チップの開発は米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のプロジェクトとして2008年に始まり、計画には100億円が投じられた。今後はチップをロボットに組み込み、ネコのレベルの情報処理能力を実現するのが目標という。米国は無人兵器の本格導入に向けて、攻撃対象を精度良く認識する技術開発を進めている。
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〈河野崇・東京大准教授(神経模倣マイクロシステム)の話〉 神経細胞の働きをまねた素子を、人間の大脳のように大規模なネットワークに組み上げる技術の基盤を作った。実用化に向けた大きな一歩だ。小型化が可能で消費電力も極めて少なく、現在の製造工程を活用できるのも魅力だ。(嘉幡久敬)
一辺が2cmのチップなので、
隙間を無視した単純計算では、
一片が2メートルとなる正方形の面積に、
1万個のチップを収容することができます。
メイン・フレームのサイズに、
人間の脳が再現できるのでしょう。