このブログでは、パルス波形のマイクロ波が
人間の聴覚を刺激する現象について、繰り返し記載されています[1~7]。
 
簡単に言うと、マイクロ波パルスは音として聞こえるということです。
 
パルス波形のマイクロ波は、日常生活に使われる電波でなく、
軍事レーダーに使われています。


イメージ 1

 
そこで、今回はパルス波形のマイクロ波が使われている
軍事レーダーを紹介します。
 
米国防総省、米軍は日本より情報公開が進んでおり、
現在でも配備されているレーダーの仕様が明らかにされています。
 
PAVE PAWS
 
米国及びカナダには、弾道ミサイル早期警戒システム
(Ballistic Missile Early Warning System)として、
PAVE PAWSというレーダーが1978年に設置されています。
 
下記の写真に外観を示します。




高さ32メートルの建物の内部に格納されています。

PAVE PAWSが設置されている場所は、
5つある円の中心になります。

この円のなかに、弾道ミサイルが侵入すると、
NORADが警戒するということです。



 

例えば、マサチューセッツ州ボストン郊外にあるケープ・コッド米国空軍基地(CapeCod Air Force Station)は、1980年4月4日から運用しています。
 
カリフォルニア州メアリーズビルにあるビール米国空軍基地(Beale AirForce Base)でもPAVE PAWSは運営しています。


これら5か所にあるPAVE PAWSは、米国空軍宇宙コマンド
(Air Force Space Command)が管轄しています。

個々のレーダーのレンジは5556キロ(3000海里)になります。

要するに、5500キロ、離れた位置にミサイルや飛行機が飛翔していても、
探知できるということです。

ボストン郊外のケープコッドから約5500キロの距離に、
カリフォルニア州ビール空軍基地、及び、
グリーンランド、サール(Thule)米国空軍基地があります。

PAVE PAWSを中心として240度の円弧範囲の空域を警戒しています。

3面あるうち、2面が電波を照射して、電波を受信しているのです。

地球は丸いので、5500キロも離れると、
水平線の向こうの空域まで監視することになります。

水平線に月が現われたので、
レーダーで月を検出したという笑い話もあります。
 
レーダーハンドブック第2版は、第5章で、
PAVE PAWSに使われている送信機の詳細について記載しています。



 
PAVE PAWSは、420~450メガヘルツの周波数のマイクロ波を
使っています。


パルス幅は、0.25~16マイクロ秒になります。
 
パルスの立ち上がりがシャープな場合、
マイクロ波は音として聞こえますね。


下記の図で、立ち上がり時間が短いということです。



 
PAVE PAWSの各面は、1792個のモジュールで構成されています。

個々のモジュールが、マイクロ波を発射したり、
ターゲットで反射した反射波を受信します。 
 
個々のモジュールは110ワットの電力を消費します。

1つの面にある1792個のモジュールを動作させると、最大で
200キロワット、20万ワットの電力を消費します。

通常、パルスを発射するタイミングが、
全てのモジュールで同一ということはないので、
20万ワットにならないかもしれません。

32個のモジュールがサブアレイという単位になっており、
通常、サブアレイを単位として、マイクロ波を制御しています。

空域を警戒するエリア(レーダーの専門用語では、volume)とか、
追跡するターゲットは、個々のサブアレイで制御できるのです。


敵国のミサイルを警戒する軍人が、レーダーの詳細について、
ペラペラと話すわけがないですよね。

マイクロ波パルスが聞こえることは、なかなか漏洩しないのです。


マイクロ波が聞こえる生理機構
 
マイクロ波パルスが頭部に照射されると、
頭部を媒質とする音響波に変換されます[4,5]。

特に、細胞中に含まれている水分が媒質となります。
 
次に、この音響波が内耳の蝸牛に伝搬します[4,5]。
 
内耳の蝸牛が、通常の音と同様に、振動を電気信号に変換するのです[6]。

ちなみに、通常の音は、空気を媒質とする音響波です。


文献

1 Frey, A. H.,
Auditory response to pulsedradiofrequency energy 
to human auditory system
Journal of Applied Physiology 1962、17(4)689~692ページ


2 Elder, J.A. and Chou, C.K., 
Auditory response to pulsed radiofrequency energy 
Bioelectromagnetics, 2003、24: S162S173.


3 Chung-Kwang Chou, Arthur W. Guy, RobertGalambos, 
"Auditory perception of radio-frequency electromagneticfields" 
Journal of Acoustic Society of America 1982, 71(6), June,1321-1334


4 Kenneth R. Foster, Edward D. Finch 
“Microwave Hearing:Evidence for Thermoacoustic Auditory Stimulation 
by Pulsed Microwave” 
Science 19 July, 1974, Vol. 185, No. 4147, pp. 256-258.


5 Olsen, Richard G.; Lin, J.C., 
"Microwave-Induced Pressure Waves in Mammalian Brains," 
IEEETransactions on Biomedical Engineering, 
vol.BME-30, no.5, pp.289294, May 1983


6 Chou C, Galambos R, Guy AW, Lovely RH. 
“Cochlear microphonics generated by microwave pulses”  
The Journal of Microwave Power, 1975,Vol.10(4) , 361-367.


7 Eugene M. Taylor, Bonnie T. Ashleman 
Analysis of Central Nervous Involvement in the Microwave Auditory Effect
1974, Brain Research, Vol. 74, pp.201-208.