「ええと、、この辺のはずだけどな。」
4トントラックのレンタカーで私が乗り付けたのは、夢の島の倉庫街。
その中の一画に、Aさんの借りている家具の倉庫はあった。
「うわーっ、、結構いっぱいありますねー。」
予想外に、Aさんの倉庫内はまだアンティーク家具で一杯だった。
サイドボード、テーブル、椅子、その他、ドレッサーなど、、仕入れに相当なお金が掛かったのは間違いない。
「そうなんですよ。 ちょっと前にイギリスに買い付けに行ったばかりなのに、こんなことになっちゃって。 もうちょっと売れると思ったんだけどねー、。」
「それにしても、、これを今月中に全部明け渡すって、大変ですよね。」
「うん、ハッキリ言ってムリだよね。 どうしても残ったら、最後は業者に金を出して引き取ってもらわないと。 まったくバカな話しだけど。」
仕入れてきたばかりの商品を、お金を払って処分する。
確かにこんなにバカな話しはないが、、背に腹は代えられないということだろう。
私はこの時、置き場の必要な「家具」を商う難しさを、肌で感じた。
「そうそう、で、マサさんとこにいいって電話で言ってたのは、その奥のヤツなんだけど。」
Aさんの指さしたテーブルセットの奥の方にあるのは、ものすごく古そうな長細いショーケースだった。
カーブしたガラスが木枠にはまっていて、洒落た猫足のキャビネットの上に乗っている。
100年やそこらは経っていそうな貫禄だ。
「わー、いいなー。これ。」
「でしょ? ロンドンのジュエリー屋が使ってたみたいだけど、、コイツに時計とか入れたらバッチリでしょ。」
「うん」
私の頭の中にはすでに、、ガラクタだらけのジャンクヤードの真ん中に、このケースが鎮座している絵が浮かんでいた。
普通、5坪しかない小さな店に3メートル以上あるショーケースは大きすぎるけど、、幸い、うなぎの寝床のような形をしているジャンクヤードには、なんとか入る。
コイツが入ったら、、自分の店が、少しは立派になるような気がした。
でも、。
すっかりその気になった私にとって、残る心配はただ一つ。
「Aさん、これ欲しいけど、、オレに買えるかな?」
「いくらでもいいですよ。 マサさんがいいっていう値段で。 売れなきゃどうせ処分するんだから。」
「ホントに? オレ、これだけしかないけど、、これでもいい?」
Aさんに渡した全財産は、たったの20万円、。
失礼は承知の上。
でも、本当にそれが、私の「精一杯」だったのだ。
「マサさん、ホントすいません。 また余裕ができたら、お店に寄らせてもらいますよ。」
ショーケースの荷積みを手伝ってくれたAさんは、運転席に座った私に頭を下げ、見送ってくれた。
見た目はちょっとゴツイけど、心の優しい人なのだ。
横道に出てハンドルを切った私が振り返ると、まだ外に立っているAさんが、遠くに見えた。
でも残念なことに、、Aさんに会ったのは、それが最後だった。
(続く)