皆様、新春のお慶びを申し上げます。
本年も、何卒よろしくお願いいたします。
2022年、1月7日。
マサズパスタイムは、ちょっと遅めの仕事始めを迎えた。
まあ正月など明けてしまえばあっけないもので、ほとんどの者はすでに昨年の続きの作業に入っているし、私も店にいただいた年賀状のお返事等が終わったら、普段と変わらないペースに戻る。
大きな会社のような挨拶回りや新年会なんかが無いうちの場合、例年、仕事始めはこんな感じであっけない。
でも今回、私には休み中にちょっとした宿題があった。
年末に虎太郎の作ったテンプのブランクを自宅で完成させ、年明けにドイツのヒゲゼンマイメーカーに送りつける約束になっていたのだ。
前に書いた通り、昨年、関税の支払いの件でちょっとした行き違いがあってから、先方からは返信が途絶えていた。
最後に私が送ったお見舞いメール(現地のコロナ感染の悪化に対する)から、一週間、二週間、、更に待っても返信はなく、年末に突入。
これは、、もう来ないな。
そう思って、別のメーカーからサンプルを取り寄せたりし始めていたある日、、「中島さん、これドイツのメーカーからですかね?」
「あっ、ホントだ。 今頃返事がきたか!」
寺田が指差すメールを開けると 「親切なお見舞いのメールをありがとうございました。 あいにく、こちらのコロナの状況はまだまだです。
でも一方で、あなたの送ったヒゲゼンマイは、ようやく税関から出てきて、今日受け取りました。」
「おっ! 届いたか。」
文面は、更に続いていた。
「上司に見せたところ、あなたの送ったヒゲゼンマイは、過去に弊社が製造したものでした。 ただ、」
「ん? ただなんだ?!」
こっちも必死だ。
「ただ、あまりに昔のものなので、すでにストックはありません。 同じものをもう一度製造するとなると、新たに材料を取り寄せて、新規に作ることになります。 」
なるほど。
うちの引き出しの中にあったヒゲゼンマイのストックが、今問い合わせているメーカーが作っていたものとは、、なんという偶然だろう。
「つきましては、ヒゲゼンマイだけではなくて、やはりテンプも送ってもらえないでしょうか? 慣性が厳密に一致したヒゲゼンマイの製造にあたっては、テンプが手元にあるのが一番確実なもので。」
言っていることは良くわかった。
私が送った古いヒゲゼンマイを元に同じようなものを作っても、本当に厳密な意味で私のテンプに合うかどうかは保証できない。
ヒゲゼンマイを新たに作るとなると相当な費用が掛かるのに、、そこまでして 「合いませんでした」 では困るだろうというわけだ。
確かに。
耐磁性を持ち、錆びにくく、温度変化による弾性変化が極めて少ないヒゲゼンマイの材料は、特殊な合金だ。
以前国内のメーカーに問い合わせた時には、新規の材料の発注が 「トン単位」 になると言われたこともあったし、、実際、私の必要としている 「ヒゲゼンマイ200個分」 の材料だけ発注するなんてわけにはいかないだろう。
その場合、不必要になった残りの材料は私が買い取る形になるかもしれないが、、、それが何十万円なのか何百万円なのか、それともそれ以上なのか?
考えてみれば、先方も私も、今までお金の話は一切してなかった、、。
懐具合に不安は覚えながら、、一方で、なんとなく信用ができる相手のようにも思えた。
先方としては 「指定されたヒゲゼンマイはできましたから、お金を払って下さい。 それがあなたの時計に合うか合わないかは、こちらの問題ではありません」 と言えなくない状況。
それでもテンプまで送れと言うということは、、つまり、なんとかしてうちの時計に合うものを作ろうという気があるということではないか。
よし。
貯金をとりくずしてでも、金は都合しよう。
自転車操業は、神様が私に与えた運命なのだ。
「分かりました。 私が作った試作品のテンプは手元に置いておきたいので、マシンメイドした最終形のテンプを送るようにします。 年明けになりますけど、それでもいいですか?」
メールを打つと、今度はすぐに返事がきた。
「そうしていただけると、たいへん助かります。」
ちょっとした行き違いで一度は決裂しかけた話が、再び進みだした。
虎太郎がフライス加工した3つのテンプを持ち帰った私は、、三が日が明けると、冬休みの宿題に取り掛かったのだった。
(続く)