「マサズ劇場」 その36 郵便事情 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

 

「まだかな。 遅いなー。 寺田くん、ドイツに送ったヒゲゼンマイ、まだ着いてないかなー?」
 

「えーっと、、、追跡情報見ると、、もう2週間も前にフランクフルトに着いてるんですけど、そこからは何も変わってないですね。。」
 

「なんなんだろーな、一体。 日本じゃ考えらんないけどな。。」

 

開発中のオリジナルムーブメントのヒゲゼンマイは、耐磁性のある合金のものを考えている。

以前も触れた(と思う)通り、まずは店にあったヒゲゼンマイのストックの中から私の作ったテンプに合うものみつけ、同じものを供給してくれるメーカーを探したが、全然ダメだった。
 

何万、何十万個という発注ロットなら、おそらく相手にしてくれるところもあるし、反対に、数個でいいというのなら、古いストックを自力で集める手もあるだろうが、、うちのように、その中間的な個数を求めている場合は、難しいのだ。

 

既存の出来合いムーブメントを購入し、それに手を加えて 「オリジナル」 にする手法なら、こんな苦労はない。
 

この場合、既存のヒゲゼンマイに合わせてテンプを作ればいいし、場合によってはルビーや歯車、アンクルなんかも流用することが可能だから、ハードルは大きく下がる。
 

実際、多くの独立時計師の時計はそうやって作られているのだが、少なくとも、うちの1号機は独自のものでいきたい。
 

とかなんとか言っているから何年も掛かって出来上がらず、苦労も絶えないのだが、、。

 

でも、かなりの時間を掛けて国内外のメーカーを片っ端からあたった結果、相談に乗ってくれるところが一社、ドイツにあった。
 

先方の女性担当者とメールで 「テンプの図面がどうだ」 とか 「係数がどうだ」 とかいうやりとりをしたのち、最終的に 「ヒゲゼンマイの現物を送ってくれ」 ということになり、貴重な在庫のうち3つをEMSで送ったのだが、一月経っても届いたという知らせが来なくて、、冒頭のやり取りになった訳だ。

 

 

 

「まったくなー」 ブツブツ言いながら、私は先方にメールした。

 

「こんにちは。 送ったヒゲゼンマイはまだ届いてないですよね。 こっちでトラッキングしたところ、2週間前にはフランクフルトの税関に入ってるみたいなんですけど、何か通知はないですか?」

 

翌日、返事はきた。

 

「そうなんです。 私も随分遅いなと思ってたところで。 ちょっとこっちから問い合わせてみます。」

 

 

「 ドイツの郵便事情が最悪だっていうのはフランクフルトの義妹から聞いてたけど、、、通知もせずに、2週間も税関に置いときっ放しなんて、聞いたことないよなー。 これじゃ、こっちから言わないでいたら、ずっとそのままってことか。」

 

パソコンの前でボヤく私に、「意外ですね。 なんか、ドイツってなんでもキチキチっとしてるようなイメージありますけど、。」 と寺田。

 

「いや、結構テキトーらしいよ。 何度も聞いてる。 しかし、あのヒゲゼンマイ、無くされたら困るんだけどなー。」

 

 

翌週、ちょっと意外なメールが来た。

 

「税関に問い合わせた結果、やっと事情がわかりました。 荷物が税関から出せないのは、貴方が関税を払わなかったからだそうです。 なんとかできないか、今、同僚が掛け合ってくれていますが。」

 

ちょっとイラっとしている感じの文面。

 

 

えっ、と思った。

 

関税の税率は国によって違うし、品物の分類によって、もっというと担当する税関員の判断によっても変わる。

 

つまり、郵便局から荷物を発送する段階では、課税されるのかされないのか、されるとして、いくらになるのかなんて分かりようがない。

 

今まで数限りなく海外に荷物を発送してきたが、発送時に関税を払わなかったから税関から品物が出せないと言われたは初めてだった。

 

もっともドイツに限って言うと、発送されてきた荷物を受け取ったことはあったかわりに、こっちから発送した記憶はなかったが、、。

 

 

いずれにせよ、先方に迷惑をかけてはいけないと思い、早々に返事を打った。

 

「そうなんですか。 余計な手間をかけて、大変申し訳ない。 関税は私が責任もって支払うので、一旦、そちらで建て替えておいていただけませんか?」

 

 

関税と言っても、送ったヒゲゼンマイ3個の価格は¥15,000。

 

それに送り状には、「これはサンプルであって商品価値はなく、後で発送国に返送される物品です」 としてあるから、、そもそも関税は掛からないのが普通なのだが、、。

 

 

しかし、週明けにチェックしたパソコンの画面には、、信じ難いメールが返信されて来ていたのだ。

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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