明後日、以前このブログで紹介したシカゴの旧友に会いに行くことになっている。
彼は厳密に言うと同業者でもあるのだが、今は事情があって引退しているところ。
そもそもの出会いは約二十年前、シカゴであったアンティーク時計ショウでのことだったのだ。
初日、一通り買い付けを終えた私はアメリカ人ディーラーの1人と会場の外で時計談義していた。
そこへひょっこり現れたのが「Bob」だったのだ。
先のディーラーの説明によると、Bobはアメリカでも極めて少数になった時計ケースの修理職人だとのこと、祖父さんの代から続いた仕事だとのこと、どんなに壊れたケースも再生できる技術を持っているとのことらしい。
年の頃、おおよそ私より8つほど上で、まだ当時は三十台半ばだったかな。
「そういえば」、、たまたまその日買った腕時計の裏蓋がかなり凹んでいたのを思い出し、取り出して見せた。
すると、彼はニッコリと笑い、「明日持ってくるよ」とそのまま時計を持って帰ってしまったのだ。
翌日、同じような時間に会場にいると、なにやらニヤニヤしながらBobがやってきた。
「お前の時計だ」 そう言って返された時計を見ると、、。
信じられないことに、裏ブタの醜い凹みは完全に消え、新品のように輝いていた。
それからと言うもの私達は急速に親しくなり、仕事だけでなく「友人」として付き合うようになったのだ。
彼のうちに2週間も泊り込み、地下の作業場で「ケース修理」を教わった。
代々彼の家に伝わる貴重な技術だけでなく、今では入手の困難な道具や材料まで惜しげもなく譲ってくれたのは、奥さんのマーガレットさんとの間に「跡継ぎ」がいなかったこともあったのかもしれない、、。
「金には換えられない恩」に対するせめてものお礼として、夫妻を日本に招待したこともあった。
パスタイムに集まった常連の前でケース修理のデモンストレーションをしてもらった時には、皆その出来栄えに目を丸くしていたっけ。
わざわざ皆の前で大きなハンマーを振り上げ、「グシャ」っと懐中時計のケースを叩き潰しすと、「ワーッ!!」。
ところが見る見るうちに潰れたケースは元に戻ってゆく。
今、パスタイムで行っているケースの修理や製作の技術は、間違いなく彼から伝わったものだ。
そのBobに「癌が見つかった」、と知らせてきたのは奥さんのマーガレットさんだった。
去年の2月。 毎年恒例のフロリダの時計ショウで会ってから帰国してすぐだった。
大分悪いので食道の一部と胃の全部を摘出するらしい。
ショックだった、、。 私と歳もそれほど変わらないのに。
続く。