診察室のドアが控え目に鳴りました。そして笑顔がのぞきました。大きくて聡明な目が印象的な中国系米国人の女性の患者A様です。
A様は敬虔なチベット仏教徒で、同じく中国系米国人の夫と共に、南米で仏教的な信仰に基づく慈善活動を始めようとしていました。人が人生の喜びも悲しみも受け入れることができるようにと願う、夫婦の喜びのつまった大きなプロジェクトが発動しようとしていたのです。
A様はこれまで夫と南米に旅行することはあっても、２年に1回程度。それがこの数か月で、急に回数が増えました。自分たちが長年温めてきた思いが形になっていくことに嬉しさはあっても、全てが未知の領域に入っていくことに将来への不安がありました。
ご相談内容は、
「私は人の役に立ちたいと思っていますし、そのために助けの必要な人にサポートを提供するために行動してもいます。ですが、苦しんでいる相手の方の感情に入ると急に疲れてしまうことがあります。どうすればよいでしょうか。」
というものでした。
話をしながら、彼女は大きくため息をつき、天井を見上げてこう言いました。
「世の中には苦しんでいる人がたくさんいます。今の私には、どれほど人を助けても、十分に助けられていないように感じます。ですから、世の中の苦しみ(suffering) には終わりがないように感じられるのです。ブッダは大勢の人を助けてきました。ブッダのように多くの人を助けるなんて、とても私には無理です。もし私がブッダの立場だったら、疲れ果ててしまいます。ブッダは、類まれな知恵や才能があったからできたんです。」
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