昔ながらの入り組んだ迷路のような商店街。かつて大概の物は揃うけれど本当に欲しいものは見つからなくて、もはや大概の店はシャッターを下ろしている商店の希薄な商店街。
そんなかつての商店街の一角に美味い焼き魚を出す定食屋がある。
入口の扉の脇には黒板が立てかけてあって「本日の定食」と大書された下にその日どのような魚がどのように焼かれるかが書かれる。
鯵や秋刀魚、太刀魚のような定番の魚の時もあればコノシロやコバンザメといったあまり馴染みのない魚の名前が書かれていることもある。
一口に焼き魚と言っても魚によって塩焼きや干物の時もあれば素焼きにたっぷり薬味を乗せて醤油やタレをかけたり、味噌や幽庵地に漬け込んだりと飽きさせないし、どれも美味しい。
ご飯と具沢山の味噌汁が小振りの丼に盛られ、添え物でなくたっぷりとした量の日替わりのサラダと一品料理が付いてくる。店内は清潔に磨き上げられ煙の処理も完璧だから臭いが服につくことを気にすることもなく、トイレも剥きたてのゆでたまごのように曇り一つない。自意識の発露としての音楽も流れていないし醜悪なTVも置いていない。
昼時は年齢も性別も偏ることなく様々な客で満席になる。
これだけ美味い焼き魚を出すのに煮付けやフライや刺身の類は一切ない。
この店の向かいに前世屋がある。前世を見たり占ったりするわけではなく、店は前世を売り、客は前世を買っていくのだ。