ネオテニー | 夜に啼く鶯

夜に啼く鶯

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特に許可を求めることもなく、男は膣の中に精を放出した。壁の薄いホテルだった。隣の部屋の諍いが聞こえた。

女はprotectしていないが膣内の精液については、何も言わなかった。女は腰を浮かせ、引き抜いた枕に頭を乗せた。

「今日ね、進路のことで娘と喧嘩みたいなことになったの」膣から流れ出た肛門を掠める精液をそのままに女は言う。シーツに垂れた精漿が滲み、染みを広げていく。

「大道芸人みたいなことやってる私がさ、夢を語る若者に“平均賃金”なんて言ったのよ」

男は女の瞳を覗き、頬に手を当てる。聞いているよ、と伝えたいのかもしれない。

「なんだかんだ言い争った挙句ね、こんな何もない街なんて出ていく、そう言われたの」

「私もね、生まれ育った場所だけどさ、特に思い入れなんてない、そう思ってたの。でもそう言われてなんだかすごくショックだったの。腹が立ったの」

「何も言い返せなかった」

薄く涙を浮かべる女の頭をそっと抱き寄せる。

「寿司が食べたいな」男が言う。

「お金出すね」

女は笑う。

 

女の行きつけだというカウンター席だけの小さな寿司屋は、二人の他に客はいなかった。

出された熱すぎる茶の入った湯飲みを指さし、「お茶からして違うんだから」そう言って大将を見る女の目が潤む。

「難しい話じゃなくてさ」柳刃を布巾で拭い、大将が言う。「常識を疑えって話でね」

「おばあちゃんの知恵が科学的にも正しくて、職人の常識が何の意味もなかった、なんて話はいくらでもある訳」

「例えばマグロ」

椹のネタ箱から大将が全きマグロの赤身の柵を取り出す。

「筋を断ち切れって、ま、言うじゃない。筋は噛み切れない、口に残る、ってさ」

柵に走る筋に垂直に刃をぴたり当て、大将が言う。

「それ、疑ってみようよ」

刹那刃を外し、大将は柵の向きをくるりと変える。

「添う!」

半身に構えた大将は筋に添い、淀みなく柳刃を引く。躊躇はない。

「試してみて」

頬を微かに紅潮させた大将が憂いを帯びた青磁の小皿に赤身を乗せ、男に差し出す。

男は小皿の赤身を指で摘み、ひょい、と口に入れる。

雄たちの抜き身のやりとりを前に大量の粘液を分泌した女は下着を盛大に濡らし、便所に駆け込む。

 

男は店を出て、歩き出す。見上げた空に星はない。

男はどこに向かっている訳でもない。男が望んだ場所は、随分昔に失われていた。