『旅の指さし会話帳④ 中国語(麻生清一郎著)』
「あとがきに代えて…」より転載 【その2】
中国は日本に大きな影響を与えてきた国である。
ぼくたちが共有する文化、習慣はあまりにも多いはずだ。
だが、友情のような何気ない事象の意外なギャップに
触れるたびに、日本が切り捨てた中国文化の例をかい
ま見た思いがしてくるのである。中国を知れば知るほど、
日本、ひいては自分について新たな発見をする機会も
増えるのではないかと思う。
中国人にも不届きな輩は多い。だから、誰とでも
親しくせよとは言わない。ただ、少々の金を泥棒された
ぐらいで「中国人は意地汚い」などと合点し、人づきあ
いを拒絶するなんてことにはなって欲しくない。不届き
な輩の数だけ信用の置ける人もいると思いたい。
実はぼくの中国との出会いは泥棒から始まった。
初めて中国を訪れたのは20歳の冬。ハルビンに行った。
着いたのは深夜で、零下28度と寒い。ともかく建物の中
に入ろうと、一軒の簡易宿舎の明かりを目ざした。
1泊100円。中国では当時、外国人用と指定された高級
ホテル以外は外国人を泊めてはいけなかった。だが、
その夜フロントにいた、まだあどけない顔立ちの出稼ぎ
従業員は、こうした規則を知らず、先客の行商人ふうの
男がいびきをかいていた二人部屋をぼくにあてがった。
翌朝起きてみると、ぼくの財布の中は空っぽだった。
同室の男はすでにおらず、どうも彼の仕業らしかった。
驚いた主人は早速警察に届けようとしたが、困ったのは
ぼくの処遇である。なにしろ、この宿舎は外国人を泊め
てはいけないのである。ぼくのベッドの前に、主人一家、
全従業員、それに顔見知りの客といった20人ほどの人た
ちが集まって、大声でなにやら熱い議論を始めた。何を
話していたのかはまるでわからなかったが、ともかく
ぼくの置かれた立場に同情して犯人に怒りを抱いていた
ことだけはわかった。
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