フランスへ行くと決めたはいいけれど、何から手を付ければいいのか? まず、離婚のケリをつけなくちゃ。 男というものは、いざとなると未練たらしくネチネチとしてくる生き物らしい。 女は違う。 一晩泣き明かすと、明け方には闇が薄れるように、自分の心が見えてくる。 別居してからの一人暮らしは、なんといっても家事が楽だ。 相手が徐々に発酵して納豆化してる間に、私の脳内ではどんどん製氷作業が続けられていた。 そのせいか損得勘定も芽生えて、結構長期戦だった。 だいたい相手に女でも居なければ、離婚は金にはならないもんだ。 それでも、調停まで持ち込んで、ン十万円取れた。 どっちみち、彼の親が払うんだろうけど・・・・。 それよりも、私が心に誓った復讐は後悔させる事だった。 彼は、学生が彼女に別れを告げるように、自分の妻と別れちゃおうかな?っと思ったらしい。 彼が離婚を口にするまで、何の話し合いも無かった。 夫婦ゲンカもほとんど無かった。 私にとっては突然の闇討ちだった。 話を切り出すまで、全ては夜、会社から母親に電話をかけて相談されていた。 要するに彼には早すぎた結婚だったのだろう。 そして私は本当に至らない嫁だったらしい。 彼の言い分を聞いていると、姑と話しているようだった。 調停が進むにつれ、母親以外の人間とも話し合うようになった彼は、離婚を考え直し始めていた。 私は、最後まで決して相手を罵らなかった。 姑の悪口も、のどもとで抑え、一言も漏らさなかった。(ポケットの中で手は強硬なグー。) 調停などで、顔を合わせる時は、きれいに見せる最大限の努力をした。 思えば、修羅場の無いサラサラした離婚だった。 その後、復縁を迫られた時もキレなかった。 勝った。 満足だった。 「私、もし再婚できたら、相手を幸せにする様、精一杯努力するから、あなたも早く幸せになってね。」と言って電話を切った。 ハハハ、ざまぁみろ! 一生不幸になれ! 私は相当、根に持つ根性曲がりだ。 でも、別れた相手に幸せなって欲しいとか言う女はなんかウソっぽい。 偽善だ。 いつまでも、思い出の中で若いままきれいに飾られていたい、私は。 もう手の届かない存在となって後悔させたい。 その為に、彼に恋愛面では、不運であって欲しい。 次の相手は私より格が下が望ましい(私より下がいればの話だが・・・・とフォローを入れねば、書いててあまりにも自分の本心が醜いものだと気が付いた。) 仕事面でも、成功して欲しく無い。 ふった、ふられたは関係なく、私と別れたが為に今はパッとしない男になって欲しい。 いやな女、私って。 こういう幼稚な思考は、高校生の時から変わらず、成長の跡が見られない。 つまり、別れて正解だったと常に安心していたく、それでいて、そんな思い上がりが人にバレていないか、常に不安だ。
どうにか、離婚はクリアしたが、仕事が以外と簡単には辞められなかった。 題名が思い出せないが、北野武監督の映画の中で、耳の不自由な若者がサーフィンをするというのがあった。 主人公はゴミ収集の仕事をしているがサーフィンに夢中になり、ある日仕事をサボっちゃうのだ。 そうすると、今まで一緒に組んでいた親ほども年の離れた先輩が、わざわざ海岸まで探しに来る。 ゴツンとげんこつを貰って、そのまんま無理やり仕事へ引っ張っていかれ、夕方には先輩に取り入ってもらって上司に頭を下げる。 なんという親心だろう。 こういうのに私は弱い。 うるうる来る。 私の職場にも、こういう親心を持った先輩が何人かいた。 社長には離婚の際にも、娘のように心配していただいた。 しかも私はフランス行きを誰にも話してなかったのだ。 年から考えて、無謀な計画だったし、余計な心配もさせたくなかった。 本当に親心から、引き止めていただき、辞表を出してから辞めるまでになんと1年半もかかっていた。 その頃はもうバブルが弾けたあとだったというのに。 不思議だが、バイトしても就職しても、私は必ずこういう職場に恵まれる。 温厚で、素直そうに見えるので、年よりに可愛がってもらっていた。 そして、お世話になっておきながら、ことごとく辞めてきた。 恩知らずな話だ。 そのバチが当たってか、後にフランスでは仕事でとんでもないしっぺ返しを食らう事になる。
さて、フランス。 もう来週にでも発つかのように、心はすでにパリだが、大事な事を忘れていた。 私はフランス語が全く喋れないのだ・・・・。