大祓いを終えて、帰路に着いた。
鳥居前の路面電車の時刻表を見ると、電車到着までニ十分ある。ニ十分歩いて追いつかれそうになったところの駅で電車に乗れば散歩を兼ねられる。
くどいが「街はジム」である。カッターシャツを背中のバッグに詰め込んで、Tシャツ一枚で足早に歩き始めた。

次の駅を過ぎ、もう一駅先を目指す僕の足は、ここで突然止まった。かわいらしい店を発見。通り過ぎて振り返り、写真を撮って、迷った。お昼はヒロコさんがおにぎりを一つ握ってくれたので、既にそれを食べていた。
「街はジムなんだ。先を目指せ。ニ十分のタイムトライアルなんだろ」
心のまじめしんは右肩を叩いた。


「でも、この店、絶対美味しいに決まってるぞ」
「近づいてよく見てみろ。あのかわいらしいディスプレイ。だから店員は、きっと、お前のタイプだ。はにかんだ笑顔が可愛い、大きめのコックスーツ姿のお嬢さんだよ。間違いないって」
心のいつもしんが左肩を叩いた。

写真を撮り、ふらふらと歩み寄ると、赤い窓ががらりと開いた。
「いらっしゃいませ。何になさいます?」
手が見えた。
「コック服だ。見てみろ。な、当たったろ」
僕は正面に立った。目の前には、たぶん僕よりも四、五歳年上の妙齢のマダムがにこやかにほほ笑んでいる。店の奥では、若い数名のお嬢さんが楽しそうに生地をこねていた。


気を取り直し、少し歩いて時計を見れば、そろそろ電車が追いついてきそうな時間である。歩いていない時間も含めてニ十分は経過している。ふと見れば次の駅のホームがそこにあった。近い。ホーム、正しくはプラットフォームである。傘がはみ出ていようが、すぐ両脇を車が通ろうが、プラットフォームである。

プラットフォーム(平均台ではない)に立ち、パンを取り出し写真を撮った。めんたいこバケット120円とハムマヨ90円である。
路面電車が来るまでに頬張った。そんじょ其処らの若いもんには出せない、経験と勘がなせるいい塩梅のパンであった。
街はジムだが、街は誘惑でもある。熟女には、とりわけ気を付けなければならないことを、僕は知った。