土曜日のことだった。
天王寺で塩焼きされた半身の鯖をつつきながら、清水寺が昨日からライトアップされて夜間拝観が始まったと告げた。
ホッケの開きをつつきながら、ヒロコさんが「行ってみようか」と笑った。麦のとろろご飯をかっこみながら僕は頷いた。
JRは京都駅までで920円を要する。地下鉄と阪急を乗り継げば700円に満たない上、四条河原町迄連れていってくれる。四条から五条大橋を渡り清水まで歩けばいい運動になる。
二人地下鉄の改札をくぐった。
阪急特急に並んで座る。傍らの女性の香水が臭う。匂うのではなく。修験者が清めに使う「塗香(ずこう)」の香りだ。この女性、よほど清めないといけないのか、まとい過ぎて臭ってしまう。二人座りの前の席に座っているのに軽い頭痛を覚えた。彼女が烏丸で降り、河原町までの一駅だけ、僕らは安堵した。
四条河原町の交差点は、狭い歩道に人が溢れ、通り抜けるのが難しい。そのまま人の流れに乗り、交差点を東にわたり南下するが、今度はバス停の人だかりを縫うことになった。ヒロコさんは、このとき嫌な予感がしたそうだ。
清水への登り口、東山通りの交差点に着くと、またもや人でごった返していた。京都は古からの町並に無理矢理車を走らせるので、歩道が狭い。母校の南、御所を取り巻く歩道ですら、自転車一台すれ違うのがやっとという有様である。清水の入り口というより東山通り、つまり東大路はそれよりもさらに狭い。清水への参道にいたっては、車道はバスが行き違えるが、その歩道は半間もない。そこを夕暮れ前、帰るものと行くものが行き交わねばならず、歩道の縁石を平均台よろしく歩む人が多数いる。そのすぐ側、二十センチほど横を観光バスがのろのろと走る。バス特有の排気ガスの臭いにまたも頭痛を覚えた。
参道を避けて、脇道を進んだ。ちょうど5時半、門前に着いた。
見れば、入り口付近から参道に向けて、夜間参観の順番を待つ行列が伸びている。仕方なく、参道を最後尾を探して下る。参道は、通常参観を終えて下る人。夜間参観に四列で並ぶ人、その間を団体客が進み、その混雑は午前八時の御堂筋線、難波駅プラットフォームに匹敵する。所々牛歩で進む。
結局、参道入り口付近に最後尾があった。
怒声をマイクで響かせている警備員あたりのようだ。何のことはない。脇道で登り参道で降りた。鼻白み、疲労し、そのまま帰ることにした。
東山通りの交差点、今度はバス停に向かわず、駅に向かえとマイクで指示している。臨時バスを含めて満車だそうである。
僕らは、京阪四条駅を目指して渋滞の東山通りの狭い歩道を北上した。途中で八坂通りを西に取り、建仁寺を右に巻き込むように大和大路を北上。ここも狭い道路に車がひしめいている。排気ガスの中、ようやく、四条通りに出た。そのまま京阪四条駅に向かい、淀屋橋行き特急電車に乗った。
特急電車では、途中で運良く座れた。ポメラを取り出しこの記事を書き出すと、どこかの駅で傍らに東南アジアの男性が座った。またも臭う。よもやの香水だった。この男性も嗅覚がどうにかなってしまったのではないかと思うほどであった。
香水、排気ガス、香水と、道中ずっと臭いに悩まされた京都往復であった。目的を遂げることもできなかった。
臭いを祓うには匂いだと話し、大学時代から通い続けるミナミにある老舗のお好み焼屋さんに入った。やがて、ヒロコさんが刷毛でソースをお好み焼の上に丸く伸ばすと、端から鉄板にこぼれたソースが音を立てて焦げる。やっと、香ばしい匂いに出会った。
値段は、もちろん、清水の舞台から飛び降りる必要のない、庶民に味方する金額である。
天王寺で塩焼きされた半身の鯖をつつきながら、清水寺が昨日からライトアップされて夜間拝観が始まったと告げた。
ホッケの開きをつつきながら、ヒロコさんが「行ってみようか」と笑った。麦のとろろご飯をかっこみながら僕は頷いた。
JRは京都駅までで920円を要する。地下鉄と阪急を乗り継げば700円に満たない上、四条河原町迄連れていってくれる。四条から五条大橋を渡り清水まで歩けばいい運動になる。
二人地下鉄の改札をくぐった。
阪急特急に並んで座る。傍らの女性の香水が臭う。匂うのではなく。修験者が清めに使う「塗香(ずこう)」の香りだ。この女性、よほど清めないといけないのか、まとい過ぎて臭ってしまう。二人座りの前の席に座っているのに軽い頭痛を覚えた。彼女が烏丸で降り、河原町までの一駅だけ、僕らは安堵した。
四条河原町の交差点は、狭い歩道に人が溢れ、通り抜けるのが難しい。そのまま人の流れに乗り、交差点を東にわたり南下するが、今度はバス停の人だかりを縫うことになった。ヒロコさんは、このとき嫌な予感がしたそうだ。
清水への登り口、東山通りの交差点に着くと、またもや人でごった返していた。京都は古からの町並に無理矢理車を走らせるので、歩道が狭い。母校の南、御所を取り巻く歩道ですら、自転車一台すれ違うのがやっとという有様である。清水の入り口というより東山通り、つまり東大路はそれよりもさらに狭い。清水への参道にいたっては、車道はバスが行き違えるが、その歩道は半間もない。そこを夕暮れ前、帰るものと行くものが行き交わねばならず、歩道の縁石を平均台よろしく歩む人が多数いる。そのすぐ側、二十センチほど横を観光バスがのろのろと走る。バス特有の排気ガスの臭いにまたも頭痛を覚えた。
参道を避けて、脇道を進んだ。ちょうど5時半、門前に着いた。
見れば、入り口付近から参道に向けて、夜間参観の順番を待つ行列が伸びている。仕方なく、参道を最後尾を探して下る。参道は、通常参観を終えて下る人。夜間参観に四列で並ぶ人、その間を団体客が進み、その混雑は午前八時の御堂筋線、難波駅プラットフォームに匹敵する。所々牛歩で進む。
結局、参道入り口付近に最後尾があった。
怒声をマイクで響かせている警備員あたりのようだ。何のことはない。脇道で登り参道で降りた。鼻白み、疲労し、そのまま帰ることにした。
東山通りの交差点、今度はバス停に向かわず、駅に向かえとマイクで指示している。臨時バスを含めて満車だそうである。
僕らは、京阪四条駅を目指して渋滞の東山通りの狭い歩道を北上した。途中で八坂通りを西に取り、建仁寺を右に巻き込むように大和大路を北上。ここも狭い道路に車がひしめいている。排気ガスの中、ようやく、四条通りに出た。そのまま京阪四条駅に向かい、淀屋橋行き特急電車に乗った。
特急電車では、途中で運良く座れた。ポメラを取り出しこの記事を書き出すと、どこかの駅で傍らに東南アジアの男性が座った。またも臭う。よもやの香水だった。この男性も嗅覚がどうにかなってしまったのではないかと思うほどであった。
香水、排気ガス、香水と、道中ずっと臭いに悩まされた京都往復であった。目的を遂げることもできなかった。
臭いを祓うには匂いだと話し、大学時代から通い続けるミナミにある老舗のお好み焼屋さんに入った。やがて、ヒロコさんが刷毛でソースをお好み焼の上に丸く伸ばすと、端から鉄板にこぼれたソースが音を立てて焦げる。やっと、香ばしい匂いに出会った。
値段は、もちろん、清水の舞台から飛び降りる必要のない、庶民に味方する金額である。