ドレンチェリーを残さないで第三十六話 | へりこにあんの駄文置き場★

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基本的に私のデジモンの二次を置いていきます。

原作キャラ無し、独自解釈独自設定多分に有りなので苦手な方は回れ右ですね。なんでも許せる方向け、なんて言葉が当てはまるのかななんて思います。なんでもは許せないよという方は回れ右してください。

獣の頭部を模した腕がブレスドに向け振り下ろされる。反射的に公竜はハイキックをぶつけた。

力が一瞬拮抗し、辛うじて公竜が惜し勝つ。

「確かに、本物には遠く及ばない。及ばないけど……」

天青がそう呟いて膝をつく。

『ブレスド 強制変身解除』『冷却開始』

ベルトから音声が鳴り、公竜の姿が人のそれへと戻っていく。

「えぇ、本物ほどじゃなくともあなた方を相手取るには十分です」

そう言って秦野が右腕を天に掲げる。

「……まだ、未来と話し合えてない」

「家族仲がよろしい様で何より。喪主も妹さんが務めてくれそうですね」

秦野の右腕についた獣の頭部が開き、エネルギーが貯められていく。

「……蘭さんも戦っている。小林さんを死なせるわけにはいかない」

それを見て、天青はエンジェウーモンの白いメモリを手に秦野へ向けて走り出した。

マスティモンでゲートを開けば、理論上はどんな攻撃も防ぐことができる。秦野は冷静にゲートに引き込まれない様に足に力を込めるだけ込めて構え続ける。

マスティモンの能力で開くゲートは、織田のブリッツグレイモンでも腕一本で済んだ。オメガモンならばなおさら、ゲートを開いていられる時間もそう長くはない筈、力尽きるまでただ砲を撃ち続ければいい。

不意に、天青は白いメモリを空に向けてほうり投げた。

その思いがけない行動に、秦野は思わず空に投げられたメモリを目で追い判断を数秒遅らせた。

「プワゾン」

左手を砲の中に、もう片方の手を竜の頭がついた秦野の左腕に。

天青の両腕を引き裂きながら移動したエネルギーは、秦野の左腕の中に送り込まれて爆発する。

「ぐおぉあああッ!?」

爆発の衝撃に天青は力なく吹き飛ばされ、ごろごろとコンクリートの上を転がり、公竜の胸に飛び込む様な形になった。

「なんて無茶を……」

天青の両腕から胸元までを一直線に火傷の跡が走り、最初に砲に突き刺した左腕は裂けて骨まで見えていた。

「……外傷は、治せるから」

人の腕からデジモンの腕へ、そしてまた人の腕へ、再構成する事で天青の両腕の傷は確かに塞がったが、人の腕のままその上に走るノイズが、それがいかに無茶であるかを表していた。

「それより、私のポケットを……それを、タイマーのスロットに……どんな効果になるかまでは検証できてないらしいけど……」

そう口にして、カクンと天青の頭が垂れた。

公竜が天青のズボンのポケットに手を入れると、

「これは……」

掴んだのは一枚の銀色に縁取られた赤紫色のクリアパーツのついたコイン。

どことなく蝙蝠のような仮面のような意匠がされたそれを手にすると、公竜は全てを理解した。

「……片腕を奪って別の手段に賭けようというところ恐縮なのですが」

竜の頭から先がなくなっていた秦野の左腕が一瞬、先ほどの黒騎士のものに戻って直り、即座に再度オメガモンの竜の腕へと変わる。

「……そんなこともできるのか」

「メモリを使い続けた年季の違いです。再生した分疲れはしますが、それで一人と交換なら悪くありません」

「……もう少し力を貸してくれブレスド。変身ッ!」

『ミミックモン』

姿が通常のブレスドに変わった後、公竜はザミエールモンメモリのタイマーの裏を開けてコインを挿入した。

『ザミエールモン』

『ヴァンデモンX』

そこに現れたのは、一見してただ先ほどのブレスドが上着を羽織っただけのような姿だった。

『稼働限界状態での起動を確認』『emergency』『ブレスドの損傷を度外視』『変身維持限界まで三分』

「三分ですか、いっそおしゃべりでもして過ごしますか?」

秦野はそう言いながら右腕の砲を構えた。

「断る。国見さんを三分も地面に寝かせておくわけにはいかない」

そう口にして、ブレスドは緑色の流星に変わる。

例えどんなデジモンのメモリであろうと、中身が人間である限り思考と反射の速度には限界がある。

故に、反射で思考した以上の動きを実現する美園夏音のスカルバルキモンメモリは格闘において絶対的に有利を誇り、ザミエールモンメモリはその限界を越えた速度故に防御と反撃を許さない。

ただそれは、ザミエールモンメモリ自体はもっと細かい動きが可能でも、公竜は先に決めた動きでしか動けないということ。そして、秦野はそれを読むから防御が間に合う。

加えて、オメガモンになってからはさらにもう一つ、オメガインフォースという数秒先までの未来視があった。

これとあらゆるものを分解する斬撃オールデリートの組み合わせは、当たらないし当たれば死ぬという理不尽を相手に押し付ける。

公竜が消える瞬間に秦野が読んだのは、オメガモンの細い腰に向けたフックをフェイントにした左側頭部へのフック。

これに秦野は刃を合わせる。拳が切れてしまうが故に秦野もダメージを受けるだろうが、メモリとシステムが違うブレスドに再生はない。残り三分をさらに削りに行く。

しかし、直後の秦野の腰に公竜の拳が突き刺さる。

一瞬秦野の思考が止まる。未来を見て受けに行った剣が外れるなんてありえない。

手をつくような格好になりながら秦野はオメガインフォースを発動させる。

背後に現れた公竜が迎撃の為に秦野が振るった左腕を掴んで捻り、投げて地面に叩きつけられる未来。

その未来を見て、秦野は理解できずに固まった。

ザミエールモンメモリ使用時の公竜は、単純な反射で対応できない速さだから強い。しかし、それ故にカウンターには反撃できないし、敵の防御を見てから軌道を逸らすこともできない。

つまり、カウンターの攻撃をさらにカウンターで掴んで投げられるわけがないのだ。

「僕は周りに恵まれた」

公竜はそう呟いて固まっている秦野を背後から蹴り上げる。

未来視への干渉と仮定して、と秦野は上空から右腕の砲を倒れている天青に向ける。

公竜ならば天青を見捨てる事はない、しかし攻撃をやめもしない。正面から跳躍して腕を掴みにくる。

あえて未来視を使わず、掴まれる瞬間剣を振るう準備だけを整える。

そして公竜は正面から来て、砲に向けて腕を伸ばし、振り下ろし始めた剣は確かにそれを捉える軌道を描く。

その瞬間、公竜は手を引き、空中で不自然に体を捻ると空振りさせた左腕に指をかけ、地面に向けて投げつけた。

「……なるほど」

ゆらりと秦野が立ち上がる。ダメージは大きい、ピンポイントの防御やカウンターを全て外したのが効きすぎている。

そして、そこに至って秦野はオメガインフォースで見た未来を避けられた理由を知った。

服が本体のデジモン、ヴァンデモンX。その影響で今のブレスドは考えている。防御やカウンターを狙っているとスーツを動かして攻撃地点や攻撃方法をずらす。

公竜の出す手を秦野が経験で読めば、ヴァンデモンXメモリがずらす。ずらした未来をオメガインフォースは移し、それを見て秦野が対応すれば、ヴァンデモンXメモリは元のままずらさない。

刹那の読み合いの中で絶対的な後出しを可能にする能力。

「早々に終わらさせてもらう」

『ヴァンデモンX』『ブラッディドレイン』

公竜の拳の周囲をマントの飾りで付いていた光るピンクの爪が回り出す。

でも、わかっていればできることもある。

また公竜が光の軌跡を残して消える。それに合わせて、秦野はマントに包まるような体勢を取った。

ヴァンデモンXメモリも視覚で判断しているならば、未来を読んだ上でその動作の変更が間に合わないギリギリまでカウンターの手を見せなければいい。

ヴァンデモンXメモリの行動選択はあくまで公竜の行動に依存する。大幅な行動の変容はできないか、できても相応の時間を要する。

大技の待機状態が続くのは負担だ。見えないカウンターに対応させることで時間稼ぎ、あわよくば無理な体勢で大技をすかすことができる。

秦野はそう判断し、さらにオメガインフォースを使い続ける。未来と現在を同時に認識するには極限の集中を要するが、これによって未来が変わった端から対応していく。

ブレスドの活動限界が残り三分、三分ずっと完全なパフォーマンスを保てる筈がない。

だからこそ、公竜は優勢にも関わらず、秦野にまだ余裕があるのに大技を切らなければいけない。

必殺技が決まれば公竜の勝ち。耐えれば活動限界で秦野の勝ち。お互いにそれがわかっている。

秦野は自身の顔面に公竜の拳が突き刺さる未来を見て、対応を決める。

しゃがんで避ければ? 変下がった頭に膝が飛んでくる。では、ピンポイントで顔を撃ってのカウンター、これは一度バックステップで立て直し。

刹那の間に複数の未来を見て、最適を選び続ける。

ギリギリまで引きつけてマントの陰からの砲撃、公竜の身体はバックステップで一歩下がる。そして、即座に足払いに移行したのを秦野は背後に下がりながら砲撃をして迎撃。

それに対して公竜は着弾までの間に足払いの勢いを利用して踊る様に側面に回って、もうマントで隠されていない腹部への拳。

それを秦野は力も入れずに顔へ剣を振るう。公竜自身の速度で充分それは命に至る為、殴る筈だった腕の外側で剣の腹を叩いて逸らし、逆の拳を秦野の胸へと打ち込む。

打ち込まれた勢いのままに秦野は飛ばされながら、雑な砲撃を地面に向けて砂埃を立たせて公竜の視界を封じる。

しのげる。情報を処理しきれず脳が悲鳴を上げているのを感じながら、秦野は心中でほくそ笑んだ。

ある意味では、本庄と戦う予行演習として良かったかもしれない。速度と攻撃に特化した今のブレスドの攻めは秦野の知る本庄の能力を超えている。これをしのげれば本庄の攻めはしのげる。守りはオールデリートで突き崩せる。

戦いの次元にいる限り、未来視と防御できない攻撃を持つオメガモンは最強。吸血鬼王以外は勝てる戦いになる。

『エンジェウーモン』

不意に背後でメモリの音がして、秦野は思わず視線を向けた。未来視にマスティモンの産み出すゲートの脅威は映らなかった。

しかし、今はその未来視をただ信じられなかった。穴がある、自分が補完しなければいけない。補完さえすればオメガモンの能力で敗北はあり得ない。

その意識が秦野にミスを犯させた。

天青は遠くで地に伏しながら笑っており、その手の中にメモリがあった。つまり、ただボタンを押しただけ。

秦野が立ち上がるまでや、体勢を直すのに精一杯な中で、公竜はメモリを拾い天青の手元に戻し、これを狙っていた。

公竜は天青を信じた。必ず気絶したままでいる様な人ではないと。そして、天青が目を覚ましたから公竜はメモリのボタンを押した。

秦野の予測に余裕がないのも、勝てると確信した時に隙があるのも、その為に公竜は自然な程度に捌ききられる速度に抑えた。

「同じ手をッ」

慌てて振り返った秦野が見たのは、迫り来る公竜。オメガインフォースはもう手遅れであることを主人に見せた。

拳が胸を陥没させ、回転するピンクの爪も刺さりえぐる。

空高く公竜が拳を振り上げると共に秦野の身体も空高く舞い上がり、上空で爆発して壊れたメモリと共に落下した。

人間の姿で倒れ伏した秦野を見下ろして、公竜はふぅと息を吐く。

それと共に、ブレスドのベルトに取り付けられたタイマーにヒビが一つ入った。

「……斎藤博士に謝らないといけないな」

秦野から排出された銀と金の壊れたデジメモリを公竜は念入りに踏み潰す。

「私も絶対怒られるので、フォローお願いします」

おぼつかない足取りで天青のそばまで公竜は歩いて行くと、ふと立ち止まった。

タイマーが砕け散り、ブレスドの変身も解除される。その瞬間、周囲に肉が焼ける様な臭いが広がった。

「……小林さん?」

「冷却されてないブレスドに、ザミエールモンメモリにさらにメモリを加えたせい……でしょうね」

全身に火傷を負いながら、公竜は壊れたタイマーから転がり出たヴァンデモンXのメモリを拾うと、ブレスドのベルトと一緒に胸に抱えてそのまま膝をついた。

「でも、まだ未来が……」

その公竜の目に、闇を切り裂き空へ昇る光が見えた。ふと気づくと公竜は微笑んでいた。

「……少しだけ、休ませてください」

そう言って公竜は目を閉じた。

「……一回、猗鈴さんを経由して博士に連絡してもらおうかな」

怒られるの嫌だしと呟いて、猗鈴の番号を打ち込むと、天青もまた視界が安定しなくなっていくのがわかった。

寝るべきじゃないとわかっていたが、今怒られないならいいかとそのまま天青は目を閉じた。




あとがき

いぇーい、デジモンリアライズ六周年おめでとうございます。