へりこにあんの駄文置き場★

へりこにあんの駄文置き場★

基本的に私のデジモンの二次を置いていきます。

原作キャラ無し、独自解釈独自設定多分に有りなので苦手な方は回れ右ですね。なんでも許せる方向け、なんて言葉が当てはまるのかななんて思います。なんでもは許せないよという方は回れ右してください。

【迸れ色欲(エロス)】



 エロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

 エロスには政治がわからぬ。エロスは、色欲の大魔王である。堕天し、羊(隠語)と遊んで暮して来た。

 けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 今日未明エロスは火と死が隣人の火山地帯を出発し、野を越え山越え、世界の境界を隔てた此のディオン市にやって来た。エロスには父も、母も無い。女房と夫のようなものは沢山要るが、まぁ置いておいて、十六の、内気な妹と二人暮しだ。

 この妹は、村の或る律気な一牧人(広義)を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近なのである。

 エロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

 先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

 エロスには(ちょっとした身内の)竹馬の友があった。ウルカヌスである。

 今は此のディオンの市で、石工をしている。

 その(身内の)友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。

 久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 歩いているうちにエロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。

 もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜になったというの市全体が、やけに寂しい。色欲(エロ)センサーが全く働かないのだ。

 のんきなエロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜になると皆が歌をうたって(隠語)、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。

 若い衆は、首を振って答えなかったので、喋らせようと襲ったら何も言えなくなってしまった。

 しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。

 メロスは両手で老爺のからだをゆすぶるぞとおどしながら質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「王様は、民を殺します」

「なぜ殺すのだ。」

「王に劣情を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」

「たくさんの民を殺したのか。」

「はい、はじめは王様の愛人レートーさまをそれから、王様の愛人セメレー、カリストー、ラミアモン、アイギーナ、イーオー様……セメレー様などは自身のひ孫に当たるというのに……」

「愛人以外はいないのか?」

「もちろんおります。王の浮気を手助けしたエーコーや浮気相手との子を育てた者など、皆王様から手を出したことがきっかけで皇后様に殺されました。

「おどろいた。王は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。故に、皇后様は民を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、夫を誘惑してるのでなければと人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」

 聞いて、エロスは激怒した。

「呆れた王だ。生かして置けぬ。」

 エロスは、単純な女であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。

 たちまち彼女は、巡邏の警吏に囲まれ、なんか激しく求められているみたいでいいなと思ったエロスは楽しみ過ぎて捕縛された。それもちょっといい気がしたので大人しく拘束されたままでいた。

 調べられて、エロスの懐中を調べようとした警吏が勝手に誘惑されて狂ったので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王と皇后の前に引き出された。

「わしの夫に何をするつもりであったか。言え!」

 皇后ユノモンは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。その時の王の顔は蒼白で、眉間みけんの皺しわは、刻み込まれたように深かった。

 そして、流石に魔王には手を出してなかった筈だけど、この前酒飲み過ぎた時とかまさかなどと呟いていた。

「市を暴君の手から救うのだ」

 とエロスは悪びれずに答えた。

「おまえがか?」

皇后は、憫笑した。

「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ」

「言うな!」

とメロスは、いきり立って反駁した。

「他者の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。皇后は、民の忠誠をさえ疑って居られる」

 色欲に溺れる時は皆幸せに溺れるべきなのだ。その瞬間はあなただけなどというリップサービスも信じなければならない。

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。他者の心は、あてにならない。デジモンは、もともと私慾のかたまりさ。みんな夫を狙っておる。信じては、ならぬ。」

 皇后は落着いて呟き、ほっと溜息をついて、ちらりと隣の王を見た。

「わしだって、平和を望んでいるのだが」

「なんの為の平和だ」

 こんどはエロスが嘲笑した。

「罪の無い者を殺して、何が平和だ」

「だまれ、下賤の者」

皇后は、さっと顔を挙げて報いた。

「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、目の前の者の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔はりつけになってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ」

「ああ、皇后は悧巧だ。自惚うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」

 と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます」

「ばかな」

 と皇后は低く笑った。

「とんでもない嘘うそを言うわ。逃がした小鳥が帰って来るというのか」

「そうです。帰って来るのです」

 エロスは必死で言い張った。

「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にウルカヌスという石工がいます。私の(あまり仲良いわけでもない身内の)無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの(ベルゼブモンの)友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」

 それを聞いて皇后は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言う。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男(自分の息子だが仲も悪い)を、三日目に殺してやるのも気味がいい。

 デジモンは、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。隣の夫にお前の浮気がひどいせいだぞとうんと見せつけてやろう。

「願いを、聞いた。仮にもわしは結婚の守護神。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ」

「なに、何をおっしゃる」

「はは。命が大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ」

 エロスは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

 (ベルゼブモンの)竹馬の友、ウルカヌスは、深夜、王城に召された。

 王ユピテルモンと皇后ユノモンの面前で、友達の友達ぐらいの二人は二年ぶりで相逢うた。エロスは、(ベルゼブモンの)友に一切の事情を語った。ウルカヌスは(両親の痴態に巻き込んだ負い目から)無言で首肯いた。そして、エロスは嫌がるウルカヌスをひしと抱きしめた。

 友と友の間は、それでよかった。

 ウルカヌスは、縄打たれた。エロスは、すぐに出発した。

 初夏、満天の星である。

 エロスはその夜、一睡もせず世界の境界とかも急ぎに急いで渡って、火山地帯へ到着したのは、翌あくる日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。

 エロスの十六の妹も、きょうは姉の代りに羊群(隠語)の番をしていた。よろめいて歩いて来る姉の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく姉に質問を浴びせた。

「劣情より体を優先してって何度も言ったよね」「また消滅寸前が一番気持ちいいんじゃないかとか言って試したの」「今度は何体襲って出禁になったの?もう私、買い物に行ける市が思いあたらないわ」

「なんでも無い。出禁にもなってない」

エロスは無理に笑おうと努めた。

「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう」

 妹は頬をあからめた。

「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、周りのデジモン達に知らせて来い。結婚式は、あすだと」

 エロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ、灰かぶりの城へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

 眼が覚めたのは夜だった。エロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。

 婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ、と答えた。

 メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。婿の牧人(ロイヤルナイツ)、クレニアムモンも頑強であった。

「そもそも私はサンドリモンと結婚するつもりはなく、迷惑行為をやめさせる為に倒そうと……」

「妹の初めて(の敗戦)を散らそうと言うのに責任を取るつもりがないと?」

「……それに関しては、まぁ、承諾している。秩序(こちら)のルールを押し付けようというのだからら、幸せにする覚悟はある。が、アンヴァルモンとの連携訓練もまだ十全ではなく……」

 なかなか承諾してくれない。

 夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。

 結婚式は、真昼に行われた。

 新郎新婦の初撃が神々への宣誓と共にぶつかり合うと、空が割れ、かと思ったらその隙間に黒雲が吸い寄せられて空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。

 祝宴に列席させられていたデジモンたちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、城の大広間の中で、究極体同士のぶつかり合いで生じるエネルギーでむんむん蒸し暑いのも怺こらえ、陽気に歌をうたい、手を拍った。そうしないと新婦の姉が何をし出すかわからないからである。

 エロスも、満面に喜色を湛たたえ、しばらくは、皇后とのあの約束をさえ忘れていた。

 祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にする余裕がなくなった。衝撃の余波から身を守るのに柱に身体を縛り付ける者もいた。

 エロスは、一生このままここにいたい、と思った。

 この佳いデジモンたちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。あと少し色っぽい響きだなとも思った。

 エロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。

 あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。

 その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。

 エロスほどの女にも、やはり未練の情というものは在る。

 今宵呆然、歓喜に酔っているか、顎にもらったダメージに昏倒しているのかわからない花嫁に近寄り、

「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの姉の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの姉は、たぶん偉い女なのだから、おまえもその誇りを持っていろ」

 花嫁は、夢見心地で首肯うなずいた。

 エロスは、それから花婿の肩をたたいて、

「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊(隠語)だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、エロスの弟になったことを誇ってくれ」

 花婿は揉み手して、てれていた。と、エロスは捉えた。

 エロスは笑ってデジモンたちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。

 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。

 エロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。

 きょうは是非とも、あの皇后に、デジモンの信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。

 エロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、エロスは、ぶるんと両胸を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

 私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。

 身代りの友を救う為に走るのだ。

 王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。

 走らなければならぬ。

 そうして、私は殺される。

 若い時から名誉を守れ。

 さらば、ふるさと。

 若いエロスは、つらかった。

 幾度か、立ちどまりそうになった。

 えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。

 村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、世界を隔てる壁も越える、隣村に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

 エロスは額ひたいの汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。

 私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。

 そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気のんきさを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧わいた災難、エロスの足は、はたと、とまった。

 見よ、前方の川を。きのう妹夫婦の起こした豪雨は多分遠すぎるので無関係だが、何故か山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵こっぱみじんに橋桁はしげたを跳ね飛ばしていた。

 彼女は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚さらわれて影なく、渡守りの姿も見えない。

 流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。

 エロスは川岸にうずくまり、泣きに泣きながら手を挙げて哀願した。

「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの(わりとどうでも)佳い友達が、私のために死ぬのです」

 濁流は、エロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。

 浪は浪を呑み、捲き、煽あおり立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。

 今はエロスも覚悟した。どれだけ汚れそうで嫌だろうが泳ぎ切るより他に無い。

 ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。ざんぶと流れに飛び込もうとして、エロスはなんとなく走っていただけで自分に羽があることを思い出した。

 百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪の一切合切を相手にすることなく、対岸の樹木の麓に着地する事が出来たのである。

 ありがたい。エロスは一つぐっと背伸びして、すぐにまた先きを急いだ。

 一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。羽のおかげでぜいぜい荒い呼吸をする事もなく峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊(聖騎士(オメガモン族※ロイヤルナイツではない野良))が躍り出た。

「待て」

「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」

「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け」

「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ」

「その、いのちが欲しいのだ」

「さては、皇后の命令で、ここで私を待ち伏せしていた……はないか。十二神に七大魔王がやられるとそれを口実にダークエリアから出てきて好き放題してしまう、とかそういうのだな!」

 山賊たち(聖騎士たち(オメガモン、オメガモンズワルト、オメガモンalter-S、オメガモンマーシフルモードなど))は、ものも言わず一斉に剣を振り挙げた。エロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かのオメガモンマーシフルモードに襲いかかり、その右腕の剣を肩から奪い取って、

「気の毒だが正義のためだ!」

 と猛然一撃、たちまち、三人の両腕を肘から切り落とし、残る者のひるむ隙すきに、さっさと走って峠を下った。

 一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈めまいを感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。

 天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。

 ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊(聖騎士(オメガモン族※ロイヤルナイツではない))を三人もガラクタに変え、韋駄天、ここまで突破して来たエロスよ。

 真の勇者、エロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。(身内の)愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。

 おまえは、稀代の不信の人間、まさしく皇后の思う壺つぼだぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎なえて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。マグロはよくないぞと思ってみてもやはり変わらぬ。

 路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。

 もう、どうでもいい、というかそもそもウルカヌスって私にとってはわりとどうでもいいよなという、勇者に不似合いな不貞腐ふてくされた根性が、心の隅に巣喰った。

 私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神(※オリンポス十二神族ではない)も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。

 動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸を截たち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。

 愛(エロス)と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。

 けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。

 私は、よくよく不幸な女だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。だったらさっきの聖騎士一人ぐらい襲っとけばよかったな。

 ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。ウルカヌスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた(これが初めての約束だった気もするが)。私も君を、欺かなかった(機会もなかったので)。

 私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。

 いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、ウルカヌス。よくも私を信じてくれた。

 それを思えば、たまらない。ワンチャンあった気もする。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。

 ウルカヌス、私は走ったのだ。

 君を欺くつもりは、みじんも無かった。

 信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。

 濁流を突破した。

 山賊(聖騎士(オメガモン族※ロイヤルナイツではない))の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。

 私だから、出来たのだよ。

 ああ、この上、私に望み給うな。

 放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。

 皇后は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。

 私は皇后の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は皇后の言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。皇后は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。

 そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。ウルカヌスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。同じひとりよがりなら蔑まれて生きる方がなんか興奮する。

 村には私の家が在る。羊(隠語)も居る。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。

 正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。

 ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。

――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

 ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。

 よろよろ起き上って、見ると、ベルゼブモンが水筒からこんこんと何か小さくささやきながら水を器に注いでいるのである。その器に吸い込まれるようにエロスは身をかがめた。器を奪うようにして水を一くち飲んだ。

 ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。

「勝手にウルカヌスモンを人質にしてんじゃねぇよ!」

 歩ける。行こう。肉体の疲労回復と共に、わずかながら希望が生まれた。

「聞いてんのか! お前、最初から飛べるのに飛ばないし、そんな裾だるだるの服で走ったり、ふざけてんのか!」

 義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。

「もしもーし、耳遠くなったか?」

 斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。

 日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。

「おい、ベヒーモスに乗るな」

私は、信じられている。

「やめろ、腰掴むな」

私の命なぞは、問題ではない。

「……おい、本当に自分で行かないのかよ、ここまで来て?」

死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。

「……くそ、ウルカヌスモンの為だからな!」

いまはただその一事だ。走れ! ベヒーモス。

 私は信頼されている。私は信頼されている。

 先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。

 五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。エロス、おまえの恥ではない。

 やはり、おまえは真の勇者だ。再び立ってベヒーモスで走れるようになったではないか。

 ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。

 待ってくれ、私は生まれた時から色欲に正直な女であった。正直な女のままにして死なせて下さい。

 路行く人を押しのけ、跳はねとばし、ベヒーモスは黒い風のように走った。

 野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴のデジモンたちを仰天させ、犬(聖騎士)を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

 一団の旅デジモンとさっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」

 ああ、その男、その男のためにベヒーモスは、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げ、ベヒーモス。おくれてはならぬ。

 愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。エロスは(興奮して服を脱ぎ出したので)いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。

 見える。はるか向うに小さく、ディオンの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

「ああ、エロス様。」

 うめくような声が、風と共に聞えた。

「誰だ。」

 エロスはベルゼブモンも脱がそうとしながら尋ねた。

「フィロストラトスでございます。貴方のお友達ウルカヌスモン様の弟子でございます。」

 その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。

「俺の友達な!?」

「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」

「いや、まだ陽は沈まぬ。」

「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

「いや、まだ陽は沈まぬ。」

エロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。ベヒーモスが走るより他は無い。

「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、エロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました」

「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス」

「一人で気持ちよくなってなんなんだこいつ」

「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい」

「こいつも俺のことずっと無視だし」

 言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、ベヒーモスは走った。エロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。

「マジで何考えてんだこいつ」

 ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられてベヒーモスは走った。

 陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、ベヒーモスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。

「待て。その人を殺してはならぬ。エロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た」

 と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、普段出してない大声は出るはずもなく、群衆は、ひとりとして彼女の到着に気がつかない。

 すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたウルカヌスは、徐々に釣り上げられてゆく。

エロスはそれを目撃して最後の勇、群衆を掻きわけ、掻きわけ、

 轟音がなった。ベルゼブモンの愛銃が親を救わんと空に向けて吼えたのだ。

「こいつだ、刑吏! 殺されるのは、このイカれ女だ。エロスだ。彼を人質にしたクソ女は、ここにいる!」

 と、ベルゼブモンは叫びエロスの角を持って引きずりながら、ついに磔台に昇り、友がはりつけられた磔台に文字通り齧りついて、噛み砕いた。

 群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。ウルカヌスの縄は、ほどかれたのである。

「ウルカヌスモン」

 ベルゼブモンは言った。

「俺を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。俺は、途中で一度、悪い夢を見た。放っといても行きそうだしいいかと帰ろうとした。お前がもし俺を殴ってくれなかったら、俺はお前と抱擁する資格もねぇ。殴れ」

 ウルカヌスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くベルゼブモンの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑ほほえみ、

「ベルゼブモン、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと疑った。エロスはそもそも信じてなかったが、駆けつけてくれないのではと疑った。私を殴ってくれなければ、私は抱擁できない」

 ベルゼブモンは腕に唸うなりをつけてウルカヌスモンの頬を殴った。

「ありがとう、友よ」

 二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

 群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。皇后ユノモンは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがてユピテルモンの腕を捻りながら静かにどこにいればいいんだろうという顔をして突っ立っていたエロスに近づき、顔をあからめて、こう言った。

「エロスの望みは叶った。お前たちは、わしの心に勝ったのだ。魔王においてさえ、信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。そもそも夫に言い寄られて断れる力があるデジモンなんてほぼいないのだから、悪いのは言いよる夫の方だったのだ」

 どっと群衆の間に、歓声が起った。

「万歳、皇后様万歳」

 ひとりの成長期が、緋のマントをエロスに捧げた。エロスは、まごついた。ベルゼブモンは気をきかせて教えてやった。

「色欲の魔王が真っ裸はただの兵器だからな? 早くそのマントを着ろ」

 勇者は、ひどく赤面した。

(デジタルワールドイリアスの古伝説と詩から。)





後書


青空文庫の走れメロスの原文をコピペしてから改変する形で書いた恥知らずな作品となります。


以上です。