第二話 | へりこにあんの駄文置き場★

へりこにあんの駄文置き場★

基本的に私のデジモンの二次を置いていきます。

原作キャラ無し、独自解釈独自設定多分に有りなので苦手な方は回れ右ですね。なんでも許せる方向け、なんて言葉が当てはまるのかななんて思います。なんでもは許せないよという方は回れ右してください。

「で、実際どうするの世莉。私はまぁ暇つぶしになる限りはあなたの意見に従うけど」
 
レディーデビモンがその尖った指で器用に世莉の顔を洗う。鏡を見たくないなら私がやるからやれという半ば脅迫だった。
 
「……とりあえず、何ができるかできそうか……ゲートってやつはそう簡単に開けるの?」
 
「無理ね、少なくとも私には無理」
 
目を瞑ったまま世莉がそう聞けば間を空けずにそう答えが返ってくる。
 
「実際大分希少な能力よ、多分。そうじゃなきゃ何人も何人もに寄生させないでしょ。亜里沙のいう事が本当ならだけど」
 
「となると、できるのってそういうのが出ない様にとかより、そういうのが出たとしても開けない様にって広めるとか?」
 
「……まぁそうなるわね。でもそうなるととりあえずの障害はアレね。委員長。私が見る限り学校で一番強いのはあのスーパーヒーロータイムよ」
 
その言葉に世莉は思わず顔を歪める。ああいった感じの人間と接触するのはクラス内の立ち位置的にあまり好ましくなかった。女子がみんなドロドロしてるというのは流石に誤解だが、一定数はいるし、人気が高い人に関わればそれだけそうしたものに当たりやすい、委員長の周囲は地雷原の様なものに世莉には感じられた。
 
風呂から上がって宿題をやって、他三人と少し携帯でやり取りして、ふと世莉はある事を聞いてみようと思った。
 
「そういえば、私の脳に寄生してるって言ったけど私の視力とか嗅覚とか聴覚とかの過敏なのは……」
 
「そのせいって事は大いにあり得るんじゃない?私の成長段階も関係してそうなのは今朝方からデジモンが見えるようになった事から言えそうだし」
 
じゃあ究極体になったら透視ぐらいできるのかもねなんて言いながら両手を投げ出した時、世莉はもう一つ気づいた。
 
「じゃあ亜里沙さん達も何かしらあるって事?」
 
「それは正直分からないわ。あったとしてもわかりやすいところかも分からないし、成長段階関係してる様だから、最初が弱くて気づきにくければ本人すら気づいてない様なこともあるかも」
 
世莉はとりあえずと一番聞きやすい亜里沙へと個別のメッセージを送った。期間は自分がそういう感覚を持ってると自覚した前後、高校一年生の夏前後。
 
返ってきた返事に世莉は呻いた。
 
『ほぼ毎日世莉さんの夢を見る様にはなったかな?ほんの少しの居眠りでも、毎日夜寝る時も、ほぼ例外なく』
 
脳に影響がある、とすれば何かしらの能力が開花したりするものと世莉は解釈していたのだが、それはとても何かしらの能力ではなく。しかし、脳への影響として考えるとありそうな事だった。
 
「……えーと、どう思う?」
 
「そうね……世莉のそれだってもう人の域を超えてるから、下手すると予知夢とか?千里眼とか?そういうものである可能性はあるわね……まぁ、関係ない可能性もあるけど」
 
私のプライバシーはどこに行ったのかと世莉が呟けば、頭の中に私がいる時点でなかったのよとレディーデビモンに言われて世莉は諦めた。
 
「まぁ、亜里沙さんならそのどっちでも大丈夫だと思うけど……なんで私?」
 
「世莉だってオンオフとかできない訳だから対象が変更できない欠陥なのか、対象が変更できるけどやり方がわからないのか……」
 
けれどもあまり深入りしすぎると自分の感覚の話もする必要が出てくる。そうなれば世莉は亜里沙の目が見えている事も言わなければならないかもしれない。目が揺れるそれを世莉は気にしてなどいないが、それは世莉の話だ。
 
昼間に亜里沙が嬉しそうに話したそれの、きっかけは揺れる目。それは標的にする為に便利な理由だった。
 
まぁいいや、視覚の事は言わず聴覚の話だけにしておこうと世莉は思い、眠りに就いた。
 
翌朝になり、学校に行くと世莉とレディーデビモンは朝から煩いものを見た。
 
普段なら誰もいない時間帯、彼らもそう思ったのだろう。委員長さえいなければという事だ。
 
昨日も見た光景がまたも廊下で。男子が四人、三人は立っていて一人はうずくまっている。
 
「昨日はお前のせいで委員長に邪魔されたじゃねーかよ!早く金出せって!いつもいつも少しだけ抵抗すんのはなんなんだよ!」
 
当然仲良くおしゃべりしてるわけではない。これを亜里沙さんが一人で登校して来た時に見たらどうするだろう。震えながらも止めようとするに違いない。世莉は即座に結論付ける。
 
レディーデビモンもまぁそうなるかと実体は持たずに世莉の携帯から出てくる。
 
「あの……」
 
ちょいちょいと熊のデジモンが重なって見える男子の裾を引く。
 
「あ?なん……だよ」
 
レディーデビモンがちょっと来いと手招きする、世莉はあえて何も言わない。
 
その男子は乱暴に世莉の肩を掴んで教室の中に引き入れた。残りのいじめてた生徒二人は、いじめられている生徒にお前のせいで可哀想になぁとかその男子に声をかけた。
 
「……私、朝の静かな学校が好きなの。やめてくれる?動画も撮ったし、住所も電話番号も探るの簡単なのはわかってるでしょ?人として社会的に死ぬよりも本当に死ぬ方がいいっていうならそっちでもいいけど……とにかく私の通り道とか汚したりうるさくしないで」
 
その男子はハイ、と小さく返事をした。
 
「なんか適当に収めて終わらせて。今後しないなら今日のこの事は忘れておいてあげる」
 
「えっと、じゃああの、すみません……五千円分千円札とかありますか、この五千円とちょっと、替えてもらって……」
 
世莉がしぶしぶ少し汚い五千円札と千円札五枚を替える、お札を渡す時は手が触れない様端を持った。
 
その男子はその五千円を持って廊下に出て、代わりに払ってくれたから今日は許してやるよと言って引き上げさせた。
 
一応穏便に終わったといえば終わった訳だが、世莉がいじめられていた男子をちらっと見ると、申し訳なさそうな、絶望したような、そんなぐしゃぐしゃの顔をして、小さく一言呟いた。
 
「……てやる」
 
世莉にすらほとんど聞こえないぐらいに小さな声、それが聞こえたその時一瞬その姿を包み込むようにノイズが走った様に見えた。
 
あれ、ともう一度見てもノイズは見えず、気のせいかと世莉は普段のルーティーンに戻った。
 
そうして時間は過ぎて行き、委員長に話しかけようにも周囲に人が絶えないので話しかけられず、これはもう古典的に靴箱に手紙でも入れておくしかないかと世莉が考え始め、昼休みになる。
 
すると逆に委員長の側から世莉のクラスにやってきた。
 
「黒木さんにちょっと話があって……」
 
世莉が声をかけられたことに少し不安そうな三人に大丈夫大丈夫と言って委員長について行く。興味本位からか委員長への好意からかさらに後ろを一定の距離をとってついていく生徒もちらほらと。
 
委員長はそれを確認して、校舎裏に出るとそこで一緒にいるデジモンと体を重ね、今度は完全にそのデジモンの姿になって世莉を抱え一つ上の階の窓まで飛び上がって壁の凹凸に指をかけ、張り付く様にして窓から中に世莉を入れた。
 
「いきなりごめん。でも他の人に聞かれずに話したいことがあって……」
 
少しはにかんだ笑顔を見せる委員長に世莉はなんかこれドラマで見るような展開だと一瞬思ったが、いや、特に好かれる事もしてないだろうと自分で自分にツッコミを入れる。
 
「……何ですか?」
 
少し呆気に取られもしたが、デジモンを隠すつもりがない行動は世莉を警戒させるには十分。
 
むしろ、世莉にとって人の姿になって警戒を解こうとする行動は警戒を強める意味になっていた。さっきも一瞬で姿を変えて抱えて飛び上がったのだから、人の姿である事は安心できる理由にはならない。そう考えた事で自然に警戒するより強い警戒を抱いていた。
 
「そう、警戒される様な話じゃなくて……その、僕がいない時にやろうとしてたのを止めてくれたって聞いて……」
 
止めた、と知っているという事は直接話を聞いたという事。世莉は少しの居心地の悪さにマスクを弄った。
 
「……いや、それも言いたかったんだけど、本当に言いたいのはそこじゃなくて……」
 
そこじゃなくてなんなんだ。やっぱりデジモンのことだろうか。少しもじもじとしているその姿に、それも不思議だなと思ったじゃあ何と聞く訳にも行かなかった。加えて世莉はじゃあ何と聞いても急かすだけでしかないと知ってる。
 
レディーデビモンがすぐ後ろに引っ張っていける様に世莉に後ろから抱きつく。その姿は委員長自体には見えてないらしく反応はない。
 
「……覚えてないかもしれないんだけど、小学校の六年生の頃、水かけられた僕にハンカチを差し出してくれたの覚えてないかな?」
 
世莉は記憶を漁ってみるが、どれだ?としかならない。亜里沙がいずれ何かしてしまうから、亜里沙がいじめの対象になったら困るしと、小学生の頃は肉体的にも男女差はあまりない。そこそこそうした事もしていた。
 
絆創膏はもちろん消毒液も持ち歩き、ハンカチも渡せる様余分に持ち歩き、掃除もできるよう雑巾も持ち歩いていた。
 
いじめられて濡れてたらしい事もあれば、普通に遊んでる内にという事もある。雨に濡れてという事だってある訳で、濡れている誰かにハンカチを半ば無理やり渡すのは小学生の世莉には日常だった。常に後ろには亜里沙がいたのだからまぁそうなるのも当然だったなと世莉は思う。
 
「ごめん覚えてない」
 
しかしこれは悪い流れではなさそうだ。
 
「いや、いいんだ。黒木さんいつも誰か助けてたし。ただ、誰も助けてくれないんだと思ってた僕にとってはそれが支えになって……中学校で私立行くまで耐え切ることができたから、お礼が言いたくて……前から黒木さんがそうかなと思っても確信がなくて、でも今回のでやっぱり黒木さんだったんだと確信したんだ」
 
「でも解決もしてないんだし……そもそも人違いの可能性は……」
 
委員長から感じる圧が強く、世莉は一歩後退した。
 
「確かに、そうかもしれない。だけどそれで僕は孤独じゃなくなった。私立の中学に行くまでだから期限があると知ってた事もあるけど、学校には僕を見捨てる人といじめる人しかいないって、そう思わないでいられたから僕は中学校にも通えた。そうなりたいって思って体を鍛えても来れた。だから、本当にありがとう」
 
やはり圧が強い。そして重い。世莉が後ずさって作ったスペースはもう埋められていて、興奮したのか手を取りさえされている。いくら普通の人から見たら顔が良かろうが所詮人の肌で、世莉にとって気分が良いものではない。ただでさえ鮮明に見えてしまうのに近づかれていればもうそれは鳥肌ものだ。特に今みたいな乾燥する季節は見栄えが悪い。
 
「えっと……私はあくまで亜里沙さんがやりそうな事を先にやったり一緒にやったりしてただけだし、重い」
 
「そうそう、気安く手を触るのもだめに決まってるでしょ」
 
レディーデビモンが姿を現して委員長の胸を軽く押す。
 
そこで初めて気づいたように委員長はその手を離して少し離れた。
 
「いや、ごめん。困らせるつもりは全然なかったんだけど、えっと、連絡先交換してもらってもいいかな?またそういうのは見かけたら教えて欲しいし」
 
正直少し嫌だったが、もしゲートが云々とか見つけたら手を打ちたいしと世莉は連絡先を交換する。
 
その場で話すとまたなんだか困った事になりそうだから話をそこで切って世莉は三人の元に急いだ。その前にトイレで手もしっかり洗った。
ゲートの話は後で文面でやりとりしよう。とても顔を合わせてはやり難い。
 
三人に素直にあった事を話すと、三人はすでにゲートの話や学校にもいるだろう他のデジモンについての話をしていたらしく、委員長が強いなら頼もしいけれども世莉に対しての行動は少し困るねという反応を示した。
 
放課後、世莉は一階にある図書室にいた。冬場はあまりに寒い外に向けてアクリルかガラスの壁がある図書室だが、校舎から出て校門へ向かう生徒がよく見える。あらかじめ強そうなデジモンといる人間を見ておくには都合が良かった。
 
今日の図書委員の担当は亜里沙さんで、一人だけ一緒にいるデジモンが実体になれないのはほんの少しだけ不安でもあったから、帰りを一緒にできるメリットもある。
 
三年生にはいなくて、一年生はいても成熟期ばかりだななんて思いながら窓の外を眺めていると、例の三人がまた例の男子を連れて校舎裏へと行くのが見えた。
 
また亜里沙が目撃する様な事になったら、そう考えて世莉も校舎裏へと向かう。冬だし、寒いし、トイレに立つことぐらいは何もおかしい事じゃない。
 
校舎裏へと向かう途中、世莉の耳は呻き声の様な音を捉える。世莉でなければ普通は聞き取れてないだろうという声。
 
委員長にもメールをしつつ校舎裏に向かうと、予想してたのとはまた違う光景が広がっていた。
 
いじめられてた側だった男子の頭から現れ出ている巨体の悪魔。金の仮面に六つの目、赤い一対の翼に異様に長く異様な形の爪を持つこれまた異様に長く禍々しい腕。
 
地面にはその爪で抉った跡だろう足がはまりそうな深さの溝が大きく描かれていた。
 
三人は既に立っていなくて、爪を立てられた様な致命的な傷こそ見られないが何回か殴られたのだろう事は容易にわかる。
 
「……誰?」
 
長い髪の奥から男子生徒の目が世莉達に向けられる。
 
「……これはまた派手にやったわね」
 
世莉がそう呟くと、その男子生徒はついさっきまで泣いていたような顔でぎこちない笑みを浮かべた。
 
「あ、今朝の……大丈夫だよ、ちゃんと、君が盗られたお金も返してもらうから……」
 
仮面の悪魔が拳を握る、その拳をレディーデビモンが諌める様に抑えた。
 
「私はお金取られてないから大丈夫。さっきのはフリ。それに、殺すのは流石にやりたくないでしょ」
 
世莉の言葉に仮面の悪魔は動きを止め、長髪の男子の方を見る。
 
「……でも、こいつらはもっと苦しまなきゃいけない、そうして報いを受けなきゃいけない」
 
殴られた側は殴った側より引きずり溜め込む。一度に解放されたそれは仮に同じ量でも一度に与えられたらそれは肉体の受け切れる許容量を超える。
 
少なく見て、今はともかくこのまま放置してたら骨の数本は折るだろうし、その大きな手でどれだけ精密に動けるかもわからないのだから、下手をすれば殺す気はなくても殺しかねなかった。
 
それを自業自得と言い切るのは容易く、実際ある意味ではその通りである。連鎖が起きるぞ復讐をやめろというのは簡単だが、それは被害者側に対して残酷な対応と言わざるを得ない。殴った側も痛いというのは簡単だが殴られた側がより痛いのは自明なのだから。
 
仮面の悪魔はレディーデビモンを避けて殴ろうと拳を動かすが、チョロチョロと拳について回るその姿にもう一度長髪の男子の方を見る。
 
「……報いを受けさせるっていうけど、やってる……名前は?」
 
「……柊 葵」
 
「葵くん、葵くんは目には目を歯には歯をって聞いたことある?私も受け売りだけど……同じことやられたら同じだけの罰を与えられるべきって話」
 
こくりと葵は頷く。
 
「まぁ報復はしていいと思うんだけど、これ多分同じじゃないよね」
 
世莉の言葉に葵は少しだけ目を伏せる。君も敵なんだろうというような、反発する気持ちが態度から見えた。
 
「全部同じにするのは難しいから……同じぐらい痛めつけてやろうと思って……」
 
「あぁ、それはいいの。それはいいんだけど。それだと損しない?だって向こうは面白おかしく葵くんを傷つけたけど、葵くんはそれ楽しそうじゃないよね」
 
「……うん、気分が悪い。彼を通じて僕に伝わってくるんだ、殴った感触も、小さな呻き声も、足を引きずりながら逃げようと這う音も、見ていて辛いよ……何が楽しいのかわからない、ただただ気分が悪くて、悲しい……」
 
葵の顔はぐしゃぐしゃに歪む。すでに泣いていた事は間違いなく、自分が殴られているかのように辛そうに世莉には見えた。
 
だけど、と葵は一呼吸おく。それに合わせて仮面の悪魔は完全に葵の頭から抜け出てその巨体を露わにする。もし直立すれば校舎より高いのではないかと思われるような巨体。レディーデビモンも人と比べればだいぶ大きいが、その悪魔と比べてしまえば人形のようなものだった。
 
「……だからこそ、こんなことを笑ってできるやつはできないようになるまで痛めつけないといけない……やられないとわからない」
 
レディーデビモンが体格差に思わず苦笑する。強さなんて何もわからない世莉でもこのサイズ差はおそらく覆し難いのだとわかる。
 
話を聞いてもらえるのか?聞いてもらえなかったらどうしよう?そんな事が頭に浮かんだが、それを吹き飛ばすように風を切って二体の悪魔の間に一つの影が割って入った。
 
「黒木さん、大丈夫!?」
 
赤いマフラーを風になびかせ現れた委員長はまずそう言った。すでにその姿はデジモンになっている。
 
遠くから見て文字通りに飛んできたのかもしれないと世莉は思った。
 
「とりあえず状況はわからないけど、駅の方でも姿が見えてたから一旦姿を消して場所を変えよう!こっちの三人は僕が運ぶ、体育館裏に移動して、そこから裏門を通って、学校を出ないと見つかるかもしれない」
 
委員長の強さは仮面の悪魔にも敵わないものであるらしく、葵の動揺をよそにその実体を消した。
 
世莉以外にはもはやその姿が見えなくなると、レディーデビモンが世莉と葵を、委員長が宣言通り三人を巨大な右腕に二人左腕で一人持ち上げて移動する。
 
「……そういや呼んでたっけ委員長。普通のいじめだと思ったから呼んだけど……余計に面倒にもなりそう……」
 
世莉がそう頭を掻くと、レディーデビモンもそうねと頷いた。
 
状況としては改善した。確かに改善した。少なくとも委員長という抑止力がいる為仮面の悪魔も暴れられない、暴れられないが、世莉が考えていた方向にとっては委員長は障害かもしれなかった。
 
とりあえず、亜里沙にメールを打って鞄を回収してもらう事にした。
 
学校近くのファミレスのドリンクバーでココアを入れると世莉は葵の隣の自分の席に戻った。場所を変え、ざっくりと説明し、話し合おうとなった時に適当な場所がそのファミレスだった。
 
三人組が座り、角に委員長を押し込み、世莉は葵と委員長の間に割って入った。
 
竜美さんか蘭さんにいて欲しい男女比の心許なさ、しかしレディーデビモンが首に抱きついてきた事で一人じゃない事を思い出す。
 
「さてと、とりあえず話し合うとして……初っ端から言わせてもらうと。お金で解決するのが一番だと思うの、示談って形で」
 
示談、言葉はなんとなくふわっとするが、そこのパワーバランスが均等で無ければほぼカツアゲになる。
 
「葵くんが今日殴った分もあるけど、日常的に殴られてカツアゲされてた事考えると差し引きして葵くんが一方的にもらう形でいいと思うのよ。盗られた分にプラスして殴られた分の慰謝料。相場とか知らないからなんとも言えないけど……幾らなら用意できそうなの?」
 
「ちょっと待ってよ黒木さん。用意できる分全部持っていくような事をしたらカツアゲと変わらない。殴ったし殴られたんだから、盗られた分を返してお終いでいいんじゃないかな……?」
 
委員長のそれはきっと正しいのだろう。少なくとも人として正しい行動を取らせる事になる。盗ったものをそっくりそのまま返させる。一見すればプラマイゼロ。殴ってるし殴られている。金の収支もプラマイゼロ。
 
「……でもそいつらは、またやるかもしれない……」
 
葵が強くズボンを掴む。その手は震えている。
 
「その通りよ葵くん。それだと葵くんは損して終わるしね。殴る事とか楽しんでたそっちと、私もカツアゲ被害に遭ったと思って辛いのに立ち向かった葵くんとでは大きな差がある。すぐに助けが間に入ったそいつらと、また明日殴られるかもしれないと怯えて過ごした葵くんとの間にも差がある。もちろん殴った数もそう。マイナスの分はより大きくとプラスの分はより少ない、どちらも合わせないでどうしていいと思うの?」
 
極端なことを言えば、いじめとそれに対する報復を終わらせようとしたらそれは損せず終わるわけがない。どちらが悪いは先に手を出した方にまず非があろうが、常に殴る側より殴られる側の方が強く残るのだから、表面上はプラマイゼロでどちらも少しの不満を飲み込むのが本来絶対的に正しい終わらせ方だ。そうしないと終わらない。
 
だから、世莉は正しくない。
 
委員長の思っていた世莉とその姿にはギャップがあった。
 
委員長はあくまで中立を心がけていて、世莉は明らかに葵よりで、そして、委員長と世莉に対して三人は面と向かって言葉を言えない。
残酷にも三人は弱いからだ。
 
三人が弱い葵を暴力でもって抵抗させなかったの様に、仮面の悪魔のパンチを止められるレディーデビモンの存在と、そのレディーデビモンも仮面の悪魔の間に入って止められる委員長に棲みつくデジモンとが、三人にとっては恐怖で、自分達がそうだった様に逆らったらどうなるかわからない存在に感じていた。
 
世莉はあくまで葵より、委員長は中立。葵は報いを受けさせたいという意志だけは主張していて、三人は喋れない。示談金としてカツアゲした分に加えてほぼ言い値で飲まされるのは当然だった。
 
「じゃあ、葵くん行こうか」
 
二人分のドリンクバーの分のお金を置いて世莉は葵を連れてファミレスから出て行く。
 
残された委員長は、それを見送って追いかけようとも思ったが、三人に釘を刺しておくのが先だなとそこに留まった。
 
駅まで着き、世莉がその出口近くのバス停へ向かおうとすると、葵はあの、子供がするみたいに世莉の袖を掴んだ。
 
「あの、ありがとう……」
 
良かったらとさっきとりあえずと三人から受け取ったお金を取り出そうとする葵の手を世莉は抑える。
 
「それは葵くんのお金だし、私は葵くんがダメだからって次の標的とか選んでいかれたら困るから叩きのめしたかっただけだから。甘いものでも食べたら?もしくは昨日踏まれて壊れたストラップ買い替えたりとか……」
 
「あ、うん、でもあれ、来場者特典……」
 
そう答えてすぐ、口答えしようとしたんじゃなくてと、だけどこれは何々のアニメ映画の来場者特典で、公開はもう終わっててと話す葵の姿は世莉には見慣れた雰囲気だった。
 
そしてふと、アニメのタイトルに引っかかりを覚えて、もしかしたらと蘭に連絡を取ると、一日に三回見に行ったから布教用が一つ余ってるよという連絡と、布教用といったのに相応しく、そのアニメ映画についての長文も一緒に送られてきていた。
 
とりあえず長文は後で読むにしてもと、世莉が送られてきたキーホルダーの写真を葵に見せると、初めて自然な笑顔を見せた。
 
「あ、これ……」
 
「ちょっと壊された人がいて良かったら幾らかで譲ってもらえないかって、聞いてみようか?」
 
葵が長髪が乱れるぐらいに激しく頷く。
 
その後すぐ我に返ってでもそんなことしてもらうのはと言ったが、世莉は構わず蘭に伝えた。世莉には葵の後ろで仮面の悪魔が葵がいかに肌身離さず持ち歩いていたか、ということを話しながら土下座しているのが見えていたし聞こえていたから、レディーデビモン共々遠慮する姿をむしろ微笑ましく見ていた。
 
蘭から快諾を得て、紹介してとすら言われ、世莉がそれを伝えると葵は喜び、仮面の悪魔も角と頭が埋まりそうな程になっていた。
じゃあまた明日と別れを告げると葵はありがとうありがとうと繰り返しながら駅に向かい、世莉はよしよしと頷いてありがとうと蘭に返信をした。
 
「これで蘭に押し付けられるわね」
 
「変に懐かれても困るしね」
 
「委員長にどう思われたかは不安要素だけど……」
 
「ゲートに関しては委員長だって快諾するでしょう。疑うのは良くないというかもしれないけど、手口が明らかに裏口からなのは認めざるを得ないでしょうし」
 
亜里沙からメールが来て鞄を学校に置いてある事に気付いて世莉は慌てて引き返す。
 
その姿を電車の窓からじーっと見ている女子が一人いたのに二人は気づいていなかった。当然、その後ろに仮面の女性に見える天使のデジモンがいることも。
 
 
 
 
 
 
 
という感じの第二話でした。正直どうしたら正しいのかはわかりませんが、その場で納めるという意味ならばやはり痛み分けにしないとどうしようもないんじゃないかなと。少なくとも委員長はそういう考えです。
 
最初の方はタレーランの言葉の感じに合わせて勝手にイメージしてて、最初二話は悪魔の様に黒くで世莉さん、次の一話が地獄のように熱くで、まぁ一応竜美さんメインの話です。でも熱いのは竜美さんではない。その次が天使のように純粋で、最後が恋のように甘い。の五話目までで幾らか動きも見せつつ世界観とその人となりが見えたらなと。
 
ではまた次回よろしくお願いします。