今リリスモン様の元を訪れている【光】側の客人達はクセが強い。
ケルビモンというビッグネームもそうだが、その部下だと思われる人間とそのパートナー達もなかなかだ。ショウ、ミサトという名前は聞いていないがケルビモンの部下の人間の活躍については幾らか俺の耳にも届いていた。
そして、滞在中にわかった事だが、ケルビモン側の人間に自ら出たリヴァイアモンが返り討ちにあったという。それがミサトの事らしい。
二人はどうやらアイやリュウタの知り合いであるらしく、特にリュウタとは旧知の仲らしい。が、パートナーの方とはリュウタは交流がなくアイのみが交流がある。不思議な関係性だ。
そしてこの客人達が来てから俺はアイに付くことが増えた。
大きな理由はメタルガルルモンが客人達の側に付くことが増えたため。アイは言わずもがなメタルガルルモンも無口だがこと戦闘にかけては実直でその能力も高く一目置かれている。【光】を嫌うものも少なくないここで摩擦を起こさない為の措置の一つらしい。
「ネオデビモン、ちょっと美郷呼んできてくれる?服を何枚か手土産に持たせるって話をリリスモン様がしてるから一回着せないとなの」
「一応言っおくが、小間使いじゃなく護衛だからな……」
「でも私の歩幅で行くと時間がかかるもの」
それとも小脇にちょこんと抱えていく?とアイが笑って言う。なるべく波風立てず、しかし時間も無駄にせずという考えで言ってたのがわかる。ただアイにもわかっていなかったことはあるようだ。
じゃあそうすると手の甲に乗る様に促すと予想外だという顔をしながらアイは手の甲に腰かけ、俺はそのまま持ち上げた。
アイはそれぐらいの手間なら俺が特に気にしないという事をわかっていない。持ち上げても軽いし、ロップモン達の様に動き回りもしない。手ぶらよりもよほど落ち着くぐらいだ。大体護衛でもあるんだから常に近くにいないと意味もない。下手に気を使われる方がよほど手間だ。
「まぁ、ネオデビモンがそう言うならいいんだけど。足腰が弱くなりすぎない程度にお願いするわ」
アイの言葉に俺は足を止める。
「……口に出てたか?全部?」
「藍はそのぐらいの手間なら、から下手に気を使われる方がよほど手間だってところまでね」
そうねぇといつもに比べて大分ゆっくりとした口調でそう言った。
「そうか、少しきつい言葉遣いで悪かった」
「いいわよ。人間の女の子の一定数は軽いと言われると喜ぶものなのよ、私も含めてね」
アイにそうかと返し、そこら辺にいたデビモンにミサトの場所について聞くことにする。
究極体のパートナーが二体、リヴァイアモンを倒したという話もあってミサトは特に注目されている。そのせいか見かけたという話はすぐに聞けた。
どうやら食堂でウェンディモン達と談笑しているらしい。ウェンディモンの胆力は凄い、悪いやつではないのだが悪意に鈍感というかなんというか、周りの警戒している雰囲気を全く感じていないのか。
まぁともかく、このままアイの時のようにうまく関係ができていくといいのだが、土台が違う事を思えば難しいだろう。
難しい顔でもしてしまっていたのか、アイに大丈夫よと声をかけられてしまう。
「内部に敵は、それはいない方がいいけど、外の敵を殺す為なら手を組めるぐらいならいいのよ。その点では心配はないでしょ?」
確かにそれもそうかもしれない。彼らはウォーグレイモンを傘下に収めている。【光】と敵対していた筈のデジモンでありカオスデュークモンの旧知でもある。
だから【光】相手の憎しみの対象にならないかといえばそうではないが、カオスデュークモンはリリスモン様の副官で、ケルビモンとリリスモン様が手を組んだ状況なども踏まえれば個人的な気持ちで背中から刺す事はしないかもしれない。したいと思っても、まだましだろう。
といっても確証はない。だからアイやメタルガルルモンが傍にいるようにしている。
「いつもの位置だと気づかなかったけどネオデビモンは結構ぶつぶつ口に出してるのね」
「……そんなに何でもかんでも口にしてるか?」
「そうね、実際何でもかんでも呟いてるのかはよくわからないけど、常に呟いている様な状態ね」
そんなにか。
「そんなにね。デビモンだった時はどうだったの?」
少し考えてみる。
独り言が多いなとは言われたことがあるが、そこまで四六時中というわけでもなく、特にしゃべっているつもりすらなかった。そうなると進化したことによる副作用的なものか顔に付いた仮面ももしかしたら何かしら影響しているのかもしれない。
「そうね、口から言葉を出してるのは間違いないでしょうし、仮面に何かあるのかもね。一応調べたいところだけど、それまではとりあえず隠したい時は顔から離すのが一番いいと思う」
今のアイの位置をちらりと確認する。
水平にした手の甲の高さは腹と胸の間ぐらい、ここまで持ち上げることはまずない。あるとすればロップモン達ぐらいか。
「まぁ、そうならいいと思うけど。どうする?私は降りた方がいい?」
「大丈夫だ、アイの事は信頼してる。それに多分大丈夫だと思うが、アイが向こうに手を差し伸べる事で何かやってくるやつがいないとも言えないし、今後はこっちから出向く時もあるんだろう?」
「付いてきてくれるの?リリスモン様もいるとは限らないわよ?」
「リリスモン様は長命だ。俺もそれなりだ、だからアイに付いていく」
「ありがとう、その時はよろしく」
アイがそう言って穏やかに微笑んだ。それは今まで見たことがなかった様な笑い方に思えて、胸に暖かい感じが産まれる。
そして丁度良い具合に食堂に辿り着く。中を見るとメタルガルルモンはいるもののおらず、聞くまでもなく察したのか厨房の方へと歩いていく。追って入るとミサトの横にはデビモンがいて何か料理を作っている様だった。
ふと、手の甲でアイが動いた様な気がしてアイの方を見ると、小さくまずいかもと呟いているのが聞こえた。
「剣持くんが言うには、美郷の料理はあまりに不味くて食べると体調崩すらしいの」
「人間ほど弱くはないだろうから体調崩しはしないと思うが……恐れられているのが和らぐか反感を買うか、どちらでもありそうだな……」
「人によっては気絶したりするらしいわ。それがその毒性ではなく味覚の混乱によるものなら……?」
「むしろ鋭敏な味覚を持ったデジモンの方がリスクは高いと……」
似た様な話は聞いた事はある。
例えば厨房のデジモン達はロップモン達の嗅覚が鋭敏だからと強い香辛料は保存には使うが調理前には洗い落としたり、強い匂いが残る様なら何かと和えたり煮込んだりと緩和する様にするとか。それはロップモン達には出さないとか。
近くにデビモンがいるわけで、それほど心配の必要がある様にも思えないが、物事は積み上げるより台無しにする方が容易い。
少なくとも台無しにすれば厨房のデビモン達の印象が悪くなる。
「あら、何してるの?」
アイが話しかけるとミサトの手が止まる。俺がそうっとアイを下ろすと、料理を作ってるの、と声をかけながらアイは素早くミサトの横に行った。
「翔が研究とかなんとかしてるデジモン達と何かしてるって聞いて、食べるもの何かもらえないかなと思ったら」
「せっかくだし作ってたらどうだって事になってな」
デビモンがミサトの言葉を引き継ぐ。
ミサトはアイに比べてかなり気安いのかもしれない。パートナー二体からのギャップだろうか、あんまり普通に気安い事でデビモンも毒気を抜かれたのかもしれない。
「……量は、一人分?」
アイが手元を覗き込んで言う。一人分なら被害にあってもショウだけだろうから大丈夫か。
「私の料理は慣れた人しか食べられないからね。不味すぎて」
自覚しているのに何故作るのか。
「それでウェンディモンに紹介してもらってデビモンに相談したらサンドイッチなら大丈夫じゃないかってね」
ミサトの横を見てみれば、デビモン名前にまな板や包丁があり、ミサトが動かしたとも思えない。燻製のハムを切ったり野菜を切ったりパンを切ったり、ソースはボールがミサトのすぐ近くにある。どうやら混ぜたのはミサトの様だが他のものを見て考えれば分量はデビモンが計り渡したのだろう。
普通に考えれば特に問題はないだろう。本人も下手なのは自覚している様で一人分以上を作る気はないように見える。それどころか自分の分すら作る気がないようで、少し不思議だ。自分でも食べなれていないのか自分では食べたくない不味さなのか。
ならば何故食べさせるのか。
「美郷は何で料理を作るの?まぁ勧められたからっていうのがあるにしても……不味いんでしょ?」
アイも気になってしまったらしく、言った後で誤魔化すように確かに日本では女性が家事をするべきみたいな風潮が今も根強いけれど云々と、俺にはよくわからないどうやらリアルワールドのものらしい事情を話す。
それを聞くとミサトは一度理由なんているだろうかという顔をした後で、んーと声を出しながら重ねたパンに包丁を入れる。
「強いて言うなら、不味くても私なら嬉しいからとか?そんな感じ……それに、体って食べたもので作られるわけだし」
後半は非常に小さく呟かれ、アイが聞き取れたかは微妙な感じではあったが不思議とそちらの方が主な目的に聞こえる。あまりに当たり前のことを言っているだけでその意味はよく分からないが。
それからミサトの作業を見ながら話を聞いているとどうやらショウがいる場所というのはピコデビモンの研究室で、ゴッドドラモンに着せるためのマントについての話をしているらしい。
アイも確かそれには一枚噛んでいる。確か一番最後に行ったのは二日前、その日にはあまりにも不便だという事で、何の意味も持たない図形をクロンデジゾイドの糸でシーツに塗っただけのマントを完成させていたが、今はその完成版をと考えているのだろうか。
「私も行こうかな、特に何か予定があるわけでもないしね」
今いるはずの人数はどれぐらいかと聞くとミサトが見た時は数体だったとか、食堂に立ち寄ってきたデジモン達がその扉に何体か入っていくのを見たとか話している内に何体いるのかわからなくなる。
それなら目で確かめればいいのではないかと言うと、アイは自分も差し入れをするつもりなのだという事を口にする。確かにそれだと往復は面倒だ。
適当にあたりをつけようかどうしようかと話しているとふとウェンディモンがいなくなり人数を数えて戻ってきた。
ほとんどが小柄なデジモンであったもののその数十七体。ミサトを除く数体のデビモンとアイ、手伝いたいロップモン達となかなかの大所帯でサンドイッチが作られる。結局ウェンディモンとロップモン達とはそこで別れたもののミサトとメタルガルルモンと共に行くことになった。
予定より長くなった藍とネオデビのイチャイチャ分でまさかの分割になりました。
この感じでネオデビモン視点のままこの日の翔と竜太を……というのが次回です。本来のあと半分です。
食べたものは体を作る→自分の手作りのもので翔の体を占めたい。と読み替えてもらえればいいと思います。
そういえば、あと十五話で二百話なので、atonementRPGの短編を書きます。
前にも考えていたんですが、果たしてRPGとはみたいな謎の袋小路に迷い込みまして、少なくとも主人公に当たるキャラだけでも何かしら役割を演じる立場にと設定を色々考え直しています。
今一番それっぽいかなと思ってるのは純玲がその世界に行って世界を救う為に異世界で頑張りつつ、取り返しがつかなくなるとクラヴィスエンジェモンによって決まった時に戻される話です。
無限コンティニューできる設定なので、ゲーム感もありつつ、現代人の純玲がその世界に合わせるので役割を演じる感もあるかなと……まぁ、試行錯誤しつつ200話までには必ず間に合わせます。間に合います。
……できてなかったら二百話を遅らせればいいだけですからね。
では。なるべく遅らせずに頑張ります。