通路のカメラに死角はない。だから私はただ走るしかない。流石はローヤルベース、伊達や酔狂で作られた要塞ではないという事だろう。この類は私が誤魔化す事も出来ないから罠があっても発動させない事が難しい。
今回はアポカリモンがそれなりに力を入れて準備していたのだろう事も間違いない。
なんせ、敵の中には理性ある個体がおそらく存在している。だから道から外れた私達にあれが差し向けられた。敵側の指揮官に心当たりはないが、アポカリモン自身か、その思想に賛同したデジモンか、後者だとしてもケルビモン達に知られない様そう数はいないはずだという事を考えればこの作戦の重要さがわかる。
他の場所がどうなっているかはわからないが、アイを殺す気なのは間違いない。
そして、殺せなければまた姿を隠すのだろう。今度はそれこそ寿命で死ぬまで待つはずだ。
時間がない。逃さない様にしなければならない。
レイヴモンに切り裂かれてすでに半分もなかった扉が穴だらけになって吹き飛んだ。最早原型のないそれを踏みながらそれが入ってくる。
両腕も銃、背中にも銃、膝にも肩にも頭にも背中にも、尾の様に振っているのも銃で背中にも銃を背負ってる。大小様々な銃で作られたデジモンという感じのデジモン。
薬莢の匂いがして、銃口からは煙がたなびいている。
来るのがわかっていたから飛んで避けたものの、その威力に背筋がひやっとする。それに、その先にいるレイヴモンがどうかも少し不安だ。当たっている気はしないが。
そのデジモンの顔がこっちを向き、銃が火を噴く。
天井を蹴って床に向けて跳ぶ。止まったら撃たれるというのがすぐにわかる。一つ一つの銃口の連射は遅いものの、数があって隙にならない。小さい銃口から撃たれたものも掠っただけで鎧が軽く凹む威力だ。
『距離を詰めるぞ』
『おぉッ!』
特に大きいのは背中と両腕、腹や胸にはない。近づけば近づくほど使える銃は少なくなるはずだ。
腹に拳を突き入れる。しかし、重い。体格自体はそう変わらないのにも関わらず揺らがない。さらにもう一撃、もう一撃、アグニモンと一緒に連続で拳を膝を入れているのにも関わらず、大きく動かない。全く動かないわけじゃないが足りてない。
「ブラフマシル!」
掛け声を上げて心を一つにして今できる最大火力を込め爆発させる。
しかし、腹の装甲は歪みこそしたもののそれ以上がない。全身の装甲には継ぎ目こそあれど中の見える場所もない。つまり、俺の攻撃じゃ威力不足ということだ。
『リュウタッ!』
『あ』
銃身で横に殴られる。
撃たれないからって油断しすぎていた。くそっと悪態をつきながら起き上がると肩の銃がこっちを向いているのが見えた。それを避けるとすぐに距離が詰められ、足がぶつけられる。
それは蹴りというには不恰好でほとんど体当たりの様なものなのだが、その体の重さと速さが異様な威力を生み出す。
足の爪を地面に突き立てることで半身が揺らぐもなんとかその場に留まる事に成功する。離れたらどうなるかは目に見えている。
このデジモンは意識や何かがなかったとしても純粋に俺達より格が上なんだろう。基礎の能力の差がある。だからこそ勝たなきゃいけない、勝てなくちゃいけない。
足を引き、右の腕で突きを打とうとするような動作を始める。一瞬それを受け流そうかと思いかけたが体制を低くして下から肘で持ち上げる。射線に入れば撃たれる、普通の格闘戦とは違う。
自分に向いてくる砲を弾くことを意識する。攻撃を受けないように、離されないように、考えながら動くさっき見せてもらったお手本を思い出しながら動く。
踏み込まれたら引いて、引いたら踏み込む。
腕が向けられたらリボルバーの下部から叩く様にする。関節がそういう方向に動くようにできているし。
膝を向けられたら押し込むように足を蹴る。そうすると膝が下を向く。
肩のが来たらしゃがむ。
顔を向けられたらさらに接近する。
大技を撃つ余裕はほとんどない。レイヴモンの域には達してないのがわかる。
だけど負担も減った。
銃を無駄撃ちさせるとその時に相手の動きが少し止まるのを見る余裕ができた、その隙に膝でも腕でも炎でも少しだけ歪ませられた場所を集中的に攻撃する。
どれだけそうして戦ってきたか、目に見えて歪みが大きくなる。もう少し、そう思った瞬間体が後ろに跳ね飛ばされた。
目の前のデジモンが踏み込んだ。それは見えた、だから後ろに下がった。それ以上に向こうの勢いが強すぎた。
何が起こったのか、体を起こして見ればその背中から煙が幾つか立ち昇っている。
撃った反動で自分の体を一歩前に動かした。理解するのはそう難しくなく、単純で、致命的だった。
距離ができた。ガコガコと音がして銃口がこちらを向く。
そして轟音と共に視界が高速で掻き混ぜられた。ピンボールみたいに跳ねながら通路を幾つか突き破り、空に体が投げ出される。
すでに要塞の下にリリスモンはいなかった。城もなく、レイヴモンによって多少ずらされたのか、城の横を飛んでいた。
落ちる体をなんとか立て直そうと翼を振るおうとして、もうないことに気づいた。
咄嗟に体を丸めて翼で覆って、尻尾も前に出して、そうやってなんとか死なずに済んだものの、腕も脚も動かず翼は散って、尻尾も穴だらけで今にも千切れそうになってしまっている。
地面に体が叩きつけられる。
死んではいないが体は動かない。動かそうとするだけで激痛が走る。
要塞から追い打ちでも来るかと思ったが、要塞は徐々に傾きながら移動して堕ちていき、その中からあのデジモンが出てくる事もないようで、追ってくる事なんて当然なかった。
そして地面が揺れ、振動が体中の傷を開かせる。
「ぐっ、ぁあ……」
そんな風に俺のかもアグニモンのかもわからない呻き声が零れ出る。自分の意思で抑えられない痛み。
そうして痛みにのけぞればさらに傷口が開き、視界が揺れる。この進化を解けば傷口は塞がるか?いや、もしかしたらそのためのデータも足りないかもしれない、そんなアグニモンの考えが浮かぶ。
そうして痛みに苦しみながら一分、二分動けずにいるとレイヴモンがやってきた。
「あぁ、これはなかなかひどい感じになってますね。少々あれの相手は荷が重かったですかねすみません」
ここにこいつがいるってことはあれは倒したって事なのかと、そう聞きたいけど息を吸うだけで辛い。
「ちなみにあれは倒せてません。というか私にはすみませんが無理です。あれと相性が悪すぎるんですよ、すみませんが」
レイヴモンはあれは電撃も効かなければ剣戟も効かないし、爪も通らない、自分が非力なせいでと自嘲気味に言う。
そして、ふと雰囲気が変わる。
「……進化、というのは本来適者生存によって起こるものです。デジモン以外は、しかし、デジモンにもそれは通ずるところがある。例えば何かを倒さなければ生きられない状況ならば倒す様に無理やりその世代で適応する。そうですね、過程と結果が逆という方がいいでしょう。適者生存の結果として世代を経る毎に変わるのが通常の進化、生存する為に適応するのがデジモンの進化。どちらも変わらないのは適応してなかったものや適応できなかったものは死ぬという事」
すみませんが、あなた達は適応の仕方を間違った。
そう続ける。
「私は捌き方を見せました。そこそこ非力なもので速さを奪われれば私にはあれしかないですからね、あれしか伝えて活かせる私の能力がありませんでした。攻撃は刀の強度と爪の強度、後はちょっとした電撃に依存、重さがないから速さで切るものの、刀で切れない素材はどれだけ速かろうが切れません。私の攻撃能力はあなた達にすら劣る……あれ相手では弾切れまで逃げ切れても殺せない。そんな尖り過ぎた進化をしてます。私を参考にできるところはすみませんがほとんどない」
そう言いながらすっとしゃがむ。
「あなた達の最大の不幸はスピリットに縛られたことです。あなた達はアイやメタルガルルモンにはなれない、スピリットをねじ伏せて純粋な力のみを利用する才能も能力も努力も環境も足りなかった。だからアルダモンになる。それは決して弱くはない、炎のスピリットに対してより高い適性を持っていたならばもっと強くなれたかもしれない。でもあなた達はスピリットを扱えこそするものの高い適性があるわけではない、だから縛られる。常の出力は低く、一時的に、それこそ究極体に至れたかもしれない高い出力を出してもただ火力が増すだけ。まぁその一番の責任は……そこの蝙蝠のせいでしょうが」
ふっと、レイヴモンが消えたような気がして、一瞬後にはピコデビモンをわしづかみにしてまた視界の中に戻ってきた。
「肉体がスピリットに依存しているためにスピリットから逃げられない環境にいる。加えてそれを無理やり覆す才能と努力に裏打ちされた能力がない。もし肉体があれば、私の様に特化させ尖らせることで貫けたかもしれないのに」
だから大体こいつのせいですとピコデビモンの頬にとがった爪を突きつける。
「……それなら、いい方法がありますよ」
ピコデビモンがにやりと笑う。
「私は過去にアイから無理やりデータを引き出し、パイプをつなげて自身を究極体に進化させたこともあります。ただ、リュウタにはそれほどのポテンシャルもなくアグニモンは肉体もないのでうまくいきません……しかし、足りないポテンシャルは別のところからリュウタにデータを送り込むことで解消できる、肉体がないのもそれこそ多量のデータが用意できれば今から新たに作ることができる。そしてデータの増幅にはベルゼブモン様の作った紋章を使えばいい」
「リュウタに送り込むデータの元は?」
「いるでしょう。城の中に非戦闘員が何十何百と、献血みたいなもんですよ」
後はリュウタがちゃんと紋章を増幅できるか否かによります。と楽しそうな声がする。
「もちろん、今でなくてもいい。回復してからでもいいでしょう、準備の時間もいりますしね。見るに、よほど手ひどくやられたのでしょう?まぁ放っておいてもアイとメタルガルルモンや、カオスデュークモン、リリスモン様もいるわけですし?あなた方が頑張る必要はないでしょうねぇ……むしろこれだけ頑張っただけでも十分でしょう」
そのピコデビモンの言葉をレイヴモンは一切止めない。そしてその上でピコデビモンは今やることだってできるのだと言ってくる。笑顔で。
俺からかアグニモンからかはわからない。わからないけど手が伸びた。痛みはあるし、できるかも俺達次第で、確実でもない、むしろ回復してからの方が確実だろうと思う。だけどそうじゃないと心からの叫びがあふれ出てくる。
俺は何の為にあの時美郷に会いに行かなかった。わかんないけど、何なのか知んないけど、俺は今ここで退いてしまいたくない。
「頼む」
掠れた声でそう言うと、ぶふっと口から血を吐いた。
「わかりました、じゃあ五分待って下さい。いずれあなたは力がみなぎってくるのを感じるでしょう」
すでに必要なものはスピリットに組み込んでありますからとそう口にしたピコデビモンを連れてレイヴモンはその場を去って行った。
次回、第百七十九話
蝙蝠「やっぱりリュウタの強化比率じゃ無理でした」
藍「世話焼けすぎでしょ剣持君。どうする?足りない分データ注ぐ?」
黒狼「……世話する 意味ある?戦況的に……」
リリスモン「というかそのシステム私の許可取ってなくない?一回反逆しかけた自分の立場わかってるの?」
竜太「……進化出来ねぇ」
アグニモン「……我の体は……」
スピリットが弱いわけじゃなくて適性が足りないというあたりが非常に竜太ですし、やっぱり竜太です。
デジメンタルから力を奪う藍とはレベルが違います……
ちなみに美郷は最大出力は一応藍より高いけどという感じ。常の出力が高いし調整もきくし自分の意志である程度高められてかなり高い出力も出せるのが藍。翔は常に藍と同程度の高い水準だけど不安定すぎて、竜太はそもそも出力が低い、最大値も低い。
ちなみに陸は爆発すると一気に上限が解放されて常にそれよりほんの少し下のレベルを出せる化け物です。
ではまた次回