読みました。
随分と挑発的なタイトル。
オバタリアン教師でありながら男児の母でもある私。
オバタリアンって何歳からなんですかね。
本文中でどんな攻撃を食らうのかと戦々恐々としていました。
が、誰も傷つけない内容で読後感が爽やか。
優しく癒し溢れるものでした。
良い意味でタイトル詐欺。
ざっと思い付いた感想は次の通りです。
○「オバタリアン教師」の解説が秀逸
○教師としてよりも、親として考えさせられる
○心理学的観点を盛り込んだ愛の溢れるまとめ
以下、細かく書いていきます。
○「オバタリアン教師」の解説が秀逸
本文中では「オバタリアン教師」と「やんちゃ坊主」の対立構造が繰り返し出てきます。
定義はこんな感じ。
オバタリアン教師
・中年女性教師。
・グレーな手段で恐怖政治を行う。(ヒステリックな叱責、人格否定、見せしめ、決めつけなど。グレーと言っても限りなくブラックに近いグレー。)
・ブラックな手段(体罰など)は取らない。
・職員室内では、周囲の教師から煙たがられている。(仕事をしない、時代遅れの価値観などから)
やんちゃ坊主
・ガキ大将系男子。
・落ち着きがない。
・トラブルメーカー。
・ある意味、クラスで目立つ存在。
オバタリアン教師の手法は、
①やんちゃ坊主をヒステリック公開処刑
②他の子は怖がって逆らわなくなる
③やんちゃ坊主本人は自己肯定感が下がり、魂が抜かれたようになる
④一見、大人しくて落ち着いたクラスが完成
というものだそう。
ここで、
「オバタリアン教師は悪い奴だ!」
「オバタリアン教師にはこうやって毅然と対処しましょう!」
という風になるのかと思いきや、予想を裏切られました。
なんとオバタリアン教師になってしまった背景の考察が始まります。
しかも、あとがき含めず全233ページのうち113ページまでをオバタリアン教師考察に使用。
その考察が本当に秀逸で…
・働きながら子育てをする大変さ
・仕事に穴を開けることの申し訳なさ
・同期に置いていかれる悔しさ
・スキルアップを諦めざるを得ない虚しさ
・上層部(教育委員会)は男社会にも関わらず、現場(学校)は女社会であることの苦しみ
・保護者からの厳しい風当たり(特に女性は女性に厳しい)
などなど、読んでてマジで共感しかなかったです。
あとは、オバタリアン教師に限らず教師全体の社畜っぷりの紹介もありました。
・残業時間(と残業代のないシステム)
・校務分掌一覧(仕事内容まで詳細に)
・組織運営上、謎に増やされる書類仕事
・世論上、謎に増やされる教育内容
・成績処理
・大量退職による大量採用、新人教育
・精神疾患による休職者数
などなどが、表・グラフを駆使して分かりやすく載っています。
こんなん感涙しながらの拍手です。
○教師としてよりも、親として考えさせられる
「男子」という生き物についての解説も興味深かったです。
(「男子だからこう」「女子だからこう」ではなく、あくまで傾向の話だと前置きした上での内容でした。)
例えば、
①男子はケンカっ早い件
P120より引用
"このことは心理学的な調査からも明らかになっています。心理学者のジャネット・レヴァーは、(中略)男の子は女の子の約20倍ケンカをすることがわかったのです。"
"そしてさらに驚くことには、ケンカをした男の子たちはたいがい、ケンカをする前よりも、さらに仲良しになっていたというのです。"
"逆に女の子の場合は、めったにケンカをしないかわりに、一度ケンカをすると悪い感情が長く続くことが多いことに、レヴァーは気付きました。"
②男子は女子がいない方が伸びる件
P148より引用
"アメリカで興味深い調査が行われました。共学クラスでは軽度発達障害と思われていた男子児童たちが、男女別学クラスの中では成績優秀者になることができたというのです。"
"特に男子クラスで生活指導の問題が減った。女子がいなくなったことで、男子クラスの教師が男子のエネルギーや振る舞いに対して寛大でいられるようになったからではないか"
③10〜11歳(小5)くらいには落ち着く件
P121より引用
"「やんちゃな男の子も、小学5年生くらいになると急に落ち着くもの。むしろやんちゃだった子のほうが、思春期以降好青年になっていく」とは多くの教師が口にする言葉です。"
P122より引用
"心理学においては古くから11歳前後で子どもの認知が変化することが知られていました。最近は脳科学の発達によって、やはり10歳前後で子どもの脳の使い方が大人の脳の使い方に変化するというようなことが指摘されています。"
教師としてというより、母親としては頭の痛い内容ですね。
・自己肯定感を損なわせない
・社会性のトレーニング(ケンカや無茶な挑戦)を多めに見る
ことが大事らしく…
ちーん。
あとは、
・保育士はほぼ女性
・小学校教師は過半数が女性
・育児は未だ母親が担っていることが多い
・故に男子のロールモデルが不在だし、男子の心理をわかってくれる人も不在
・暴力が悪とされている中、教室という集団では社会性を駆使する女子が圧倒的有利である
などは新たな発見がありましたし、「男子」という生き物の切なさみたいなものを感じました。
○心理学的観点を盛り込んだ愛の溢れるまとめ
オバタリアン教師に対する対策は、
・優しく共感的な姿勢で意見を伝える。
・オバタリアン教師の逃げや嘘も多少見逃す。
・懲らしめることを目的にしない。
・学級運営の方針が変われば良しとする。
・それでも変わらなければ、定期的に授業を見に行ったり、保護者同士で交代制で授業を見張る。
と言った、保護者側にとってはちょっと納得のいかないものかもしれません。
特に、他の保護者を巻き込んで交代で授業を見張るのは、かなり負担なのでは…。
ただ、
・相手にもそうなった背景がある。
・アダルトチルドレン、インナーチャイルドなどの話を盛り込み、「オバタリアン教師」「モンスターペアレント」「やんちゃ坊主」みんなに共感を示して終わる。
・社会への投げかけ、気遣いや思いやりの提示。
などには共感しました、
「確かに、個人を責めても変わらないよなぁ」
と感じたのも事実。
総括して、
・私的にはかなり満足。
・この強烈タイトルに惹かれて読んだ層には物足りないかも。
・「クソ教師を懲らしめたい」という人はイライラするかも。
・いわゆる「ダンスィ」のトリセツ的な、新たな発見があった。
・自分の息子にも、これから出会う男子児童生徒にも優しくなれる。
という感じでした。