実話怪談 ~生成された霊~ | ちまたの都合

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ほんとのホントに
他愛のないヒトリゴトです。

 

これは先日、友人のAさんから聞いた話です。
彼の職場の同僚にBさんという男性がいるんですが、彼が以前、実際に体験したことだそうで……。

Bさんは新しいもの好きで、最近、話題の画面生成AIに夢中になっていたそうです。
文章で指示するだけで、本物と見紛うような画像をあっという間に作ってくれる、あれです。

ある日のこと、Bさんは悪戯心を起こしました。
「ものすごくリアルな心霊写真を作って、テレビの心霊番組にでも送ったら、専門家は騙されるんだろうか」と。
彼は早速、「日本の古い廃屋」「暗い窓際に立つ、黒髪の長い女」「ノイズの多い、古いフィルム写真風」といったキーワードを巧みに組み合わせ、一枚の画像を生成しました。

AIが吐き出した画像は、Bさんの想像以上の出来栄えでした。

窓の外の闇に溶け込むように、表情の読めない女が、じっとこちらを見つめている。誰が見ても「本物だ」と信じてしまいそうな、禍々しい雰囲気を放っていたそうです。
満足したBさんは、その画像をある心霊番組の投稿フォームに送ってみました。

それから数日後、番組のスタッフから連絡がありました。
しかし、その内容は意外なものでした。

 「お送りいただいた写真ですが、当番組の監修をされている霊能者の先生に見ていただいたところ、『これは遊び半分で扱ってはいけない。非常に危ない気配がする』とおっしゃっていまして…。申し訳ありませんが、今回は採用を見送らせていただきます」


Bさんはそれを聞いて、心の中で鼻で笑ったそうです。
「AIが作った写真にまんまと騙されてるよ」と。 
Bさんは「ゲームに勝った気分」って言うんでしょうか、満足感を覚え、もう不要になった例の写真を削除しようとしました。

ところが、です。 その画像ファイルを選択して削除しようとすると、「この操作を完了する権限がありません」というエラーメッセージが出る。
何度やっても、消せない。 
「なんだよ、バグか?」 
Bさんがそう思った瞬間、デスクトップの背景が、勝手にあの心霊写真に切り替わってしまったのです。
「!?」
慌てて元の壁紙に戻しても、数秒後にはまた、あの女の画像に戻ってしまう。

さすがにBさんは、得体の知れない恐怖に襲われました。 
「もういい、シャットダウンだ!」 
彼は電源ボタンを長押しして、パソコンを強制終了させました。
プツン、という音と共に画面の光が消え、真っ暗なディスプレイに変わります。 

そこには、安堵の表情を浮かべようとしている、Bさん自身の顔がぼんやりと映っていました。

そして、そのBさんの背後から……。

両腕をぐっと回し、彼の肩に自分の顎を乗せるようにして抱きかかえている、あの写真に写っていた黒髪の女の姿も、はっきりとそこに映り込んでいたのです。

「うわっ!!」

Bさんは悲鳴を上げて椅子から転げ落ちてしまいました。
床に尻もちをついたまま、恐怖で動けないでいるBさんの耳に、静まり返った部屋のなか、奇妙な音が響き始めました。

パソコンに繋がったマウスが、突然、
「カチッ、カチッ、カチッ カチ カチ カチ カチカチチカチカチカチカカチカチカチカチカチカチカチカチ」
と、まるで目に見えない何者かが、何かに怒り狂ったように、猛烈な速さでクリックを繰り返しているのです。

誰もいない部屋に響き渡る、その狂気じみた連続音。

Bさんは、まるで「ここだ、ここにいるぞ」と自分の存在を主張しているかのようなその音に耐えきれなくなり、部屋から転がり出るようにして逃げ出しました。その日は怖くて自室には戻れず、友人の家に泊めてもらったそうです。

後日、彼はお祓いをしてくれる神社をネットで探し、パソコンをお祓いしてもらいました。
その後は何もありませんでしたが、気味が悪い感覚は拭えず、結局そのパソコンは売ってしまったそうです。

Aさんからこの話を聞いて、私はぞっとしました。 

Bさんが作ったあの画像は、最初は確かに、ただのデータでしかなかった偽物だったのでしょう。 

しかし、あまりにも精巧に「それらしく」作られたがために、まるで本物の依り代のように、この世のどこかを彷徨っていた本物の霊を惹きつけ、呼び寄せてしまったのではないでしょうか。

デジタルだから、偽物だから安全だ、なんてことはない。

今は、そんなふうに考えています。