||| 青いカメラ小僧 |||
NYの街を
アップタウンからダウンタウンまで
自転車1台で駆け回り
街のリアルなファッション
パーティに集う 上流階級のセレブスタイル
そしてパリ、先端コレクションを追いかける
ニューヨークタイムズに
「ON THE STREET」と「EVENING HOUR」
二つのコラムを持つカメラマン ビル・カニンガム
『街へ出て 自分の目で決める
街が語りかけてくるのを待つんだ
近道などあるもんか』
彼が探しているのは 誰も見たことのない
彼のおメガネにかなう、とびきりのスタイル 抜群のファッション
だから。
だれかと同じスタイルだな スルー
これは前にも見たな スルー
この人の とびきりのセンスが感じられない スルー
お! 見たことのないエレガントな女性が!
これ!と思うスタイルを見つけたら
誰と話し込んでいようとも、飛んでいく。
望む被写体を見つけた時の あの素速さったら!
親しみを込めて言うけどw こんな身軽なじいちゃん、いるのか?
いるらしい。笑
VOUGE編集長 アナ・ウィンターが言う
『私たちは毎朝 彼のために着るのよ でもシビアで』
・・・何度も撮られ続けている有名人たちでも
時には容赦なく黙殺される
「タダで着飾った有名人」には興味なし。
彼に撮られることがニューヨーカーのステータスになるほど有名なのに
『写真家じゃない
名乗ったら詐欺だと言われるよ
ただ見たものを撮り 記録しているだけだ』
彼の言葉は 謙遜ですら、ない。
||| カメラ小僧が求めるもの |||
『すべて見なければレポートできない』と言い、彼がカメラを向けるのは
コレクション
街のリアルな自腹ファッション
そしてパーティー
いくら有名と言えど
誰でも 彼に撮られることを喜ぶ訳ではなくて
「勝手に撮るな(カメラ)ぶっ壊すぞ」なんて、怒鳴られることもしょっちゅう。
でも、やめない。
『重要なのは 感想じゃない
見たものを伝えることだ』
何しろ服にしか興味がない
だから有名人よりも服。モデルよりも服。大女優よりも服。
ランウェイでも 陣取るのは正面ではなく横
モデル以外の人が着られる服でなきゃ、カメラも向けない
食べる暇があったら撮りたい、そんな彼だから
求めてるものが全然違う。
ストイックだけどギスギスしてる訳じゃなく 大好きなものに真摯
だから 他のものはすべて最低限でよしとする
華やかな環境にいながら、彼の生活はいたって質素で
いつも同じ服 清掃夫が着る青い上っ張り
雨の日はその上に ワンコインで買える黒いポンチョ
すぐに破れるから新調もせず ガムテープで補強するだけ
カーネギーホールの上にあるスタジオハウスは
これまでに撮り溜めた ネガを納めたキャビネットで埋め尽くされ
他にはベッドだけ
自分用のキッチン、バス、トイレは人生から排除!
食には興味がなく 毎日の食事は安ければ安いほどいい
締め切りが過ぎれば 食べることなど忘れて当たり前
夜な夜なパーティに顔を出すが 食事は済ませて出かけ
水一杯口にせず 撮りたい服だけを撮る
撮りたい服だけ。
まるで、365日、寝食を忘れてるような人。
||| 見たものを伝える 彼の自由 |||
彼は仕事の全てを自分でコントロールし
他人まかせにしない
そう決めた、過去の出来事があった
彼自身は多くを語らないけれど
彼の写真が 誰かと誰かを比べ 優劣をつける結果になってしまった
それは 雑誌が求めたイン&アウト
だけど、彼にとってはすべてがイン
彼には耐えられなかった
そこから、今の彼のスタイルが始まった
彼にとっては、撮るか撮らないか
感じた興奮を伝えるか伝えないのか
それだけ。
『無給なんだから 好きにさせてもらうよ』
これは彼なりの 自由の定義
インタビューで、日曜日の教会通いを問われた時
沈黙の後に見せた顔は涙に濡れていた
きっと、カメラを手にできない日もあった筈で
映画の中では、カーネギーホールからの退去を求められている
代わりに提示されたのはセントラルパークを望む部屋
大抵の人間なら俄然、テンション上がる眺望なのに
下見に行った時の彼は苦笑い そして「いたたまれないな」とだけ
なんとも不安そうな その顔!
・・・結局、バスもトイレも景色も、彼には意味がなく。
『街へ出て写真が撮れればいい
こんなことに人生の邪魔はさせない』
50年以上のキャリアを認められ
パリで勲章をもらっても
スピーチは服のことだけ!
『私は働いていません、好きなことをするだけです
仕事ではないのです』
ニューヨークの街を彩る
リアルファッションを追いかける、彼自身が最高に格好良い。
カッコイイ、なんて言葉
軽すぎると思うくらいの 格好良さ。
ラスト ビルの呟きでフィルムは止まる
『黙れカニンガム さぼるんじゃない』
撮影はここまで、と。
『ファッションは鎧なんだ 日々を生き抜くための』
ファッションは 身体に装いを凝らす芸術
・・・彼の装いは
走り続けること
今日も
ビルは
彼だけの鎧
ー自由ーを纏い
カメラ片手に
通りで静かに待ち続けている
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