※あらすじ
TYPE-MOONの大ヒットPCゲーム「Fate/stay night」をアニメ映画化し、原作ゲームでヒロインのひとりである間桐桜を通して「聖杯戦争」の真実に迫るシナリオルート「Heaven's Feel」を描く3部作の第3章。魔術師(マスター)と英霊(サーヴァント)が万能の願望機「聖杯」をめぐって繰り広げる「聖杯戦争」。間桐桜は自らが犯した罪とともに、闇に溺れてしまう。彼女を守ると誓った衛宮士郎は遠坂凛と共闘し、聖杯戦争を終わらせるべく過酷な戦いに身を投じる。一方、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは闘争の真実を知る者としてその運命と向き合い、間桐臓硯は桜を利用して自らの悲願をかなえようとする。アニメーション制作はufotable、数々のTYPE-MOON作品のアニメ化を手掛けてきた須藤友徳が前2作に引き続き監督を務める。(引用元:映画.com)
推しの本気に俺が泣いた
公開七週目突入で今更感ありますが、ようやく書きます。
今回はネタバレありで進めます。
自分自身の履修状況としては二年以上前に全年齢(PS Vita)版をプレイし、アニメはDEEN版とufotable版のUBWを観ました。つまり、PC版の原作はやっていません。
〇アバン
一章は過去、二章は夢、そして三章は現実からノンストップにスタート。間桐邸に辿り着いた士郎を待っていたのは残酷な結果。慎二の亡骸の目を臥せるのは友人として最後に出来ること。一方でその直後に対峙する臓硯は悲痛さと決意に満ちた目で睨みつける。覚悟はもう決まったと訴える表情がきつい。
舞台は変わって衛宮邸。マキリの杯に覚醒した桜は凛を圧倒。しつこいまでの攻撃意思はヒーローという言葉が表す程に重い感情を持っているからこそですね。だからこそ戻ってきた士郎が凛に駆け寄った時の表情変化には納得。ライダーさんが桜に語り掛けるも届かず、万事休すといったところでイリヤが桜に同行することで衛宮邸からは姿を消す。イリヤが煽るように言っていた「お兄ちゃん」という言葉が毒気のない優し気なものになっていたのがまた。
〇OP
教会の壁に映る影絵をバックに言峰のモノローグ。歪んだ聖杯戦争。臓硯から渡された台本で舞台に上がる桜。そして、客席からでは見えない結末を求めて、自ら舞台に上がる言峰。アバン含めて終局を彩るに相応しいは導入でした。
〇イリヤ救出
士郎と言峰の奇妙な共同戦線。桜とのパスで探知されるからと待機のライダーさんは一人、悔しさを肩に爪を食い込ませる。ライダーさん周り含めて細かい補完が多いのはありがたい。
アインツベルン城に辿り着いてからもノンストップ。イリヤがアンニュイな表情で見つめる窓を突き破ってダイナミックエントリーする士郎。かと思えば、イリヤとの主人公らしく兄()らしいやり取りはまた心に来ます。
城を抜けての脱出行。その後を追うのは真アサシンと黒化バーサーカー。
真アサシンを引き受け崩れた教会で対峙する言峰の脳裏に過る妻クラウディアの最期。クラウディアさん含めて言峰周りの補完もしっかりしています。抑えるべきところはちゃんと抑える監督須藤友徳。
宝具を不発させた隙に真アサシンを封じて、言峰は臓硯に洗礼詠唱を叩き込む。中田譲治氏の声と詠唱の相性は抜群ですね。
一方、イリヤの言葉を受けて黒化バーサーカーに挑む士郎。先の城のやり取り含めて士郎とイリヤが互いに救済し合うのが最高。
そして士郎はアーチャーの左腕を遂に解放する。力に擦りつぶされそうな意識の中で聞こえるアーチャーの声。
「――ついてこれるか」
「――ついてこれるか、じゃねえ。てめえの方こそ、ついてきやがれ!」
分かっていてもテンションぶち上がりますね。黒化バーサーカーを打倒するため、彼の経験をトレースするような絵がパノラマのように切り替わり、最後には子供の亡骸を抱える過ちの姿。それを読み込んだ上で斧剣を構えて振るう一瞬の九連撃――「是・射殺す百頭
〇御三家の過去
凛の切り札を作るために御三家(遠坂、マキリ、アインツベルン)の記憶に触れる士郎とイリヤ。ゾォルケンのユスティーツァに対する入れ込みをさりげなく演出していたからこそ、自らの身体を差し出して陣を作ったユスティーツァに対する動揺っぷりは仕方ない。
〇決戦――ライダー・士郎 VS セイバーオルタ
決戦の地は柳洞寺地下大空洞。凛は一足先に桜の元へ向かい、士郎とライダーはセイバーオルタと対峙。「桜を助けるために、お前は邪魔だ」と告げる士郎にセイバーオルタが口角を上げるのが、このルートにおけるセイバーの救いがもうこのベクトルしかないのだと示されているようでした。
そして始まるガチ作画のバケモノじみた戦闘。二章のバーサーカーVSセイバーオルタを見ている以上ハードルはかなり高いものになっていましたが、それにけして負けないアプローチと見せ方でした。いやまさか戦闘シーンで泣くことになるとは、推しの顔の良さを前面に出した想像以上の戦闘シーンは圧巻でした。これを見るために五年……自分より古参のライダーさんファンはそれ以上待っていたんやなって。
「士郎が気になりますか? 動きませんよ。私は、信頼されていますので。ああ、あなたは確か……」
この煽り台詞が何よりも最の高。
激闘の最高潮は宝具同士の決着。スピードと魔眼で二分は持たせられるライダーさんも真正面からでは突破不可能。だからこそ、我慢に我慢を重ねた士郎の熾天覆う七つの円環
瀕死のセイバーに止めを刺すべくアゾット剣を振りかぶる士郎に向けられるセイバーの声は夢から醒めたように穏やかで。それでも覚悟を決めた以上は止まることは許されず、振り下ろす。
「ありがとう―――お前に何度も助けられた」
ここまでの流れは本当に最高でした。
〇姉妹対決
先に向かった凛は桜と直接対決。冒頭で圧倒した無尽蔵の魔力を振りかざす桜に切り札の宝石剣ゼルレッチで無制限の魔力で対抗する凛。嫉妬の対象に自分の渾身を冷静に対応され、悲痛な過去を自ら晒しても届かない。何もかも圧倒されて打つ手のない桜に対して、凛は宝石剣を捨てて仕留めに掛かる。状況的に確実に殺せるこのタイミングで不意に入る回想がえげつないです。
ポーカーをする幼い姉妹。後がない桜はようやく揃った9のワンペア。満面の笑みで見せつけられる凛の手札には確実に勝てるフルハウス。……これ、この状態であなたなら出せますか? ってことですよね。これは「――あ、ダメだ」ってなりますよ。無自覚に桜だけでなくイリヤの心を救済する冬木の美人教師といい、矛盾螺旋オマージュだと後から分かった衛宮邸の鍵をキーアイテムに持っていくところといい、本当にこの作品はオリジナルシーンが良いんだなと改めて思います。演出的にも、商業的にも。
ようやく本当に向き合えた姉妹愛。それが後で士郎がいう通りの勝利の証でした。
〇桜だけの正義の味方、衛宮士郎
桜は正気に戻ったものの、聖杯の中身が産まれようとするのは収まらず。責任を取って自分ごと道連れにしようとする桜の元へ走る士郎。
危険な目に会おうとも言葉で拒絶されようとも止まらない。
桜が抱える罪も背負ってともに進もうとする、これと決めたら真っすぐなのが士郎の格好良さだと改めて認識しました。
そして、第一章でチラ見していた破戒すべき全ての符
解放された桜の大事なところを守る影の小人がマスコットみたいな動きしていたのもまたにくいところ。他のものより小さく個性が強かったこの子ですが、桜の一番幼い部分が反映されているとのこと。それを知るとなおさら愛らしい。
ようやく桜だけの正義の味方として彼女を助けることが出来た士郎。それでも聖杯の中身が止まらないを知った士郎はライダーさんに姉妹を託しますが、彼自身にも限界が来ていました。
〇外敵との戦いではなく、自身を賭ける戦いという事だ
この台詞は出ませんでした。体中が剣に置き換えられつつあり満身創痍の士郎の前に最後に立ちはだかるのは心臓代わりを潰され死にかけの言峰。人間同士の最後の戦いはラフ極まる肉弾戦。最後は漢と漢の意地の張り合い。だからこそ言峰は相応しいラスボスでした。
〇第三魔法
すべてを終わらせるべく最後の投影に挑む士郎。しかし、その心には最後の最後で迷いが出る。やれば確実に死ぬのが分かっていて躊躇ってしまうのは、人間らしく自分の命を惜しむようになったこのルートだからこそ。
悲痛に呻く彼の前に現れるのは天の衣を纏ったイリヤの「生きたい?」という問いに士郎は泣きながら「生きていたい!」と叫ぶのがその最たる姿。穏やかな笑みで弟を護るため身を捧げるイリヤ“お姉ちゃん”に士郎同様に声を上げたくなりました。
〇あいつのいない日常。そして、春はゆく
聖杯戦争終結後、次のシーンは第一章冒頭と同じ弓道場の夏空から。桜の季節がベストでしたが、現実の公開時期とリンクするところがあってよかったです。
原作と同じように凛のモノローグから始まるエピローグ。今までの時間を取り戻すような姉妹のやり取りを同じ構図で、背景と衣装を変えて見せる演出は時間経過を感じてわりと好きです。
自分の罪と向き合い生きていくようにした桜のモノローグでエピローグ後半。肩に影の小人を乗せているライダーさん可愛いですが、士郎の姿は見えない。……と思ったところで、傷んだ赤色さんチラ見せからの、彼女の作った人形に第三魔法で物質化した魂が入った士郎登場。ようやくこれで桜を見に行く約束を叶えられる訳です。
花見に向かう直前の凛の「桜、幸せ?」から桜の「はい」という回答の間と表情、演技がまた完璧でした。
そして、「春はゆく」が流れ、余韻に浸っているサビ前で二人揃って同じ方向へと同時に一歩踏み出す士郎と桜。その道行きがただ幸せなハッピーエンドではない、トゥルーエンドであることは視聴者の全員が感じることでしょう。
本当にまとまりのない感じですが、ここまでで感想とします。
須藤友徳監督はじめ製作にかかわった皆さま、素晴らしい作品をありがとうございました。
やっぱりライダーさんは最高だぜ!