エピローグ | 秘蜜の置き場

秘蜜の置き場

ここは私が執筆したデジモンの二次創作小説置き場です。オリジナルデジモンなどオリジナル要素を多分に含みます。

 すぐ近くの改札に向かって、高校生が慌ただしく走って行く。あと二か月で自分も仲間入りすると言われても自覚が湧かない。そんな自分に苦笑しつつ、充は時計を確認する。時刻表から考えて、そろそろ目的の電車が来る頃だ。さっきの高校生もおそらくそれ目当てだろう。
「半年ぶりだねー」
 同伴している内の一人、葉月が呟くような言葉に内心驚く。
 半年。デジタルワールドから戻ってそれだけの時間が経っていたのだ。
 当麻怜士主導の元行われた親の工作により、自分達は不登校という名目を押し通していた。復学してからは学業の負担も一部を除いてあまり影響はなく、相応に中学生らしい生活をすることができた。惜しむらしくは、デジタルワールドに行っている間に開催された大会には参加できなくなったことくらいだろう。
「――おお、久しぶりやな」
 待ち人の声で意識が戻る。久しぶりに見る、かつての旅の仲間。大阪からはるばる来てくれた彼を迎えるために、葉月と後輩二人とともに最寄りの駅まで来たのだ。
「本当に久しぶりだな」
「……話は道中に」
 この世界で会うのはそれこそ十年ぶりだ。積もる話はあるが、三葉の言う通りそれは目的地に着く道中でいいだろう。




 話に熱中すれば、時間は自ずと過ぎるもの。久しぶりに話す真治は、半年前に別の世界で話していたときとまったく変わっていなかった。
 しかし、話している内容は新鮮そのもの。復学してから勉強で泣きそうになったこと。一方でほぼ幽霊部員化していなかったため、良くも悪くも部活関連ではあまり精神的ダメージは受けなかったこと。それとは別に友達に本気で心配されて、違う意味で精神的ダメージを受けたこと。
 いろいろなことを話してくれた。とても楽しく、嬉しかったが、その分最も彼と仲の良かった人間がここに居ないことを申し訳なく思った。
「ついたよー」 
 目的地に着くまでずっと話していた。それが苦にならないのが真治という人間の人柄なのだろう。
「へえ、ええとこやん」
 辿り着いたのは青い瓦の一軒家。普通の一軒家なのだが、真治の目には評価に値する要素があったのだろう。その要素は子供の頃から散々見慣れた他の面々にも思い当たらない。
「……そ、巧の家」
 ここは、今この場に居ない最後の仲間の家。だが、彼が居なくとも事情を知っている彼の親が居るだろう。今回の目的の準備を進めるのには支障はない。
 チャイムを鳴らして在宅を確認する。母親らしき返事が聞こえた後、妙に慌ただしい声が三十秒ほどドアから漏れてくる。様子が気になりドアノブに手を掛けようとするが、その直前に内側からドアが開けられる。
「――あ、なんだもう来たのか。お前ら」
 その奥には両手にお菓子とジュースを抱えながら、なんとか片手でドアノブを掴んでいる巧が居た。




 時は二か月前。充達が元の世界に帰って四か月後に戻る。
 肉体を失った巧とリオモンは、怜士とルーチェモンの会話のインファイトを傍目に見ながら、デジタルワールドに残った仲間の生活を覗いていた。
 元々根無し草のような立場だった。基本的に全員アンドロモンの元に転がり込み、彼らの研究に協力しながら、自立の準備を整えていた。
 ガルモンはナノモンの伝手を借りて、セントラルシティの警察機構に身を寄せようと考えているらしい。擬似デジモンとの戦いであまり成果を見せなかったことから、どんな相手が来ても対応できるように内部から変えていきたいと考えたようだ。
 ピクシモンはセントラルシティの芸能事務所のスカウトを受け、モデルとして活躍を期待されている。既に何度かストーカー被害に遭い、その度に誰かさん仕込みの策謀で相手にトラウマを植え付けているらしい。
 ガビモンはワイズモンのところに押しかけて、悪核絡みの調査を独自に行っている。その影響がゼロになったと断言できるまで、活動を続けるつもりだろう。
 テリアモンはシェイドタウンへと行く予定だ。そこでインプモンやファスコモンとともに、生き残ったデジモンを集めて町として立て直すらしい。
 ロップモンは三大天使として復帰すべく、セラフィモンやオファニモンとともに旅立つ準備を進めている。二人とはまだ現役の頃の関係性まで戻ってはいないが、そこは後で深めていけばいいだけ。
「あいつら、頑張ってるんだな」
 デジモン達もそれぞれの道を生きている。きっとそのパートナー達もそれぞれの人生に戻っているだろう。
 それを嬉しく思う反面、同じように人生を歩めない自分達をうらめしく思ってしまう。
 ルーチェモンを説得し、怜士と和解させる。その決断が間違っていないとは思わないし、実現したことに後悔はなく、むしろ胸を張りたい。それでも仲間と同じように歩むことを許されなくなったのはやはり哀しい。
 きっと怜士も最初はこんな気持ちを抱いたのだろう。舞台裏の傍観者というのもあまりに自由がなくてつまらない。
「ああああああ! くそ暇だあああああっ!」
「つまんねええええなああああ!」
 二人並んでありったけの気持ちを叫んでみる。というアクションをしてみる。その後にちらとルーチェモンの方を見るアクションをしてみる。……反応はない。
「構えよおおおお。触れろよおおおお」
「ファザコン野郎がよおおおお。恩知らずがよおおおお」
 我ながらひどいダダのこね方だ。後で仲間の姿と比較すると本当に死にたくなったほどだ。
「ああもううるさいな! 鬱陶しいよ君達。これでもあげるからいい加減出てってくれ!」
 やっと反応してくれたかと思ったら、ルーチェモンは妙なことを言っていた。「出てってくれ」と言われても行く場所がないのだが。そう言葉にしようとした直後、とある場所の情報が流れ込む。
 そこはワイズモンの私室。ワイズモンもガビモンも外出中のその部屋に、二つの身体があった。――巧とリオモンの身体があった。
「ルーチェモン、お前これ……」
「勘違いしないでくれ。君達に迷惑を掛けたから、せめてもの気持ちに新しい身体を用意したというとか、そういうことではないから」
「ああ。僕に無断で度々ワイズモンと連絡取っていたのは、このためだったのか」
「お父さんは黙ってて!」
 途中で怜士が茶々をいれたことで明白となったが、ルーチェモンはルーチェモンなりに責任の取り方を考えていたのだろう。
「ああ……そうか。――ありがとう」
「本当にありがとう」
「よしてくれ。僕はただ君達が近くでぎゃんぎゃん喚くのが我慢ならなかっただけだ」
 予想外の配慮に驚きはしたが、純粋に嬉しい。ルーチェモンがそれを実現してくれたことが嬉しかったのだ。
 斯くして、リオモンがデジモンとして、刃坊巧が人としてもう一度生きることを許された。




「今さらだけどよ。お前って、管理者としてこの世界の神になれるかもしれなかったんだよな」
 意識が白みつつある別れ際、不意にリオモンはそう言った。仕組まれたものとはいえ、その可能性も大いにあったのだ。そう言われたから、巧も思わずそんな未来を一瞬想像してしまった。だが、すぐにプフッと吹き出して、考えるのを止めた。
「なら、ならなくて正解だったな。――俺が管理者になんかなったら、この世界が破滅しちまうだろ」
「違いない」
 そうやって笑いあったのが、デジタルワールドの最後の思い出。最後に見られたのがパートナーデジモンの笑顔で本当によかった。




 巧は復学後苦労した一部の代表だ。元々学力はそこまで高くなかったため、直近の試験前一週間ほどは冗談ぬきで缶詰状態になっていた。それでもルーチェモンが与えてくれた命を、充や親達が守ってくれたポストで全うするために必死になって、なんとか他の学友と同じように進学できそうだった。
 さて、半年ぶりにデジタルワールドを旅した六人が集まったのは理由がある。それはワイズモンからとあるメールが来たから。その内容は「管理者とルーチェモンに許可を取り、パートナーデジモン達とのアポイントメントが取れたから、久しぶりに会わないか」というもの。条件として、巧達五人が招かれたゲートを使うことを指定されたため、巧の家に来たわけだ。
「みんなD-トリガーは持ったね」
 充の声に全員が頷く。半年前からなんとなく封印していたPCは正常に起動。ゲートに当たるアイコンをダブルクリックすると、少し意識が白む感覚に襲われる。
 三度開く異界へのゲート。その先で待つ相棒パートナーに何を話そうか。そうだ。彼らの記憶にない、今の話をしよう。
 過去の冒険は既に記憶メモリーに刻まれ、消えることなどないのだから。




 fin.





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 というわけでデジモンメモリーズ本編完結です。いやあお疲れ様でした。ここまで付き合ってくださりありがとうございます。
 いろいろと語りたいところですが、それは座談会にて。これも明日には投稿できると思います。まだ少しだけお付き合いください。