第十一話「読心術VS疫病神」③ | 秘蜜の置き場

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ここは私が執筆したデジモンの二次創作小説置き場です。オリジナルデジモンなどオリジナル要素を多分に含みます。

 乱れ飛ぶ大小様々な弾丸を、八つの巨大な首が巧みに払いのける。その合間を縫って、弾丸とは別に八つの首に迫るのは唯一近接戦に特化したトゥルイエモン。
「……技能弾、グラップレオモン」
 ダンッと地面を一蹴り。背中にパートナーの弾丸を受けつつ、宙返りしながら一つの首に一気に接近する。
「高速タービン蹴り」
 足の回転と垂直に回転しながら思い切り叩き込む。感触はあった。テクスチャが崩れ、ワイヤーフレームが砕けたのも確認した。
 だが、何か違和感があった。
「…………ぐふっ!」
 それを言葉にする前に、彼の体は弾きとばされていた。なんとか確認した結果、それが粉微塵に消滅したはずのあの首によるものだと分かった。どうやら根元から再生していたようだ。
「残念だったな。儂の八つの首のうち、本物はひとつだけ。残りはすべて再生可能なダミーなのだよ」
 嘲笑うような声は八つの首――うち七つはダミーか――を持つ此度の敵、オロチモンから。自分の特性に気づけず、無残に反撃されたトゥルイエモンが滑稽だと言わんばかりに。……どうでもいいが酔いはもう醒めているようだ。
「――知ってたよ」
 それを否定するのは、草原を渡る風のように爽やかな声。振り向いた先で黒髪の少年――金城充がこちらを小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。
「君らの情報はだいたいD-トリガーから確認済み。当然ダミーが七つあることもね。――僕らは元から、頭が一つと再生能力のある腕が七つあるつもりで戦っていたからね」
「なに……?」
 そもそも認識から違っていた。それに気づいていなかったのはオロチモンの方だった。
「カラテンモンからD-トリガーのことを聞いているかと思ったけど、君自身がそうでないと証言してくれた。僕らもわざわざばらす必要はないから言わなかっただけ」
 それは七つの首がダミーだと言ったとき。さらに言えば、尻尾の斬撃を「アメノムラクモ」と言ったときだ。
「さらに言うと、本物の頭が黒い頭だってことも分かってる。D-トリガーの情報からだけど、まあ尻尾の色から考えたらおおかた予想はつくよ」
「……っ!」
 そこまでばれてしまえばダミーも糞もない。充の言うとおり、頭が一つと再生能力のある腕が七つあるのと同じことになってしまう。
「ま、こっちにはさっき君が馬鹿にしたトゥルイエモンに、対多人数戦用の接近技があるから関係ないんだけど」
「ふふっ、言ってくれますね。変なプレッシャーがかかりますよ」
「……チィ」
 ただの成熟期かと舐めていたのが甘かった。先ほどの蹴りのように、彼らには他のデジモンの技が使える手段がある。その中に彼の言う「対多人数戦用の接近技」というものがあるのだろう。
「ならば、させねばよいだけ!」
 接近される前に「アメノムラクモ」で迎え撃てば問題ない。尻尾を前方に構え、その先端を刃に変える。距離に入った瞬間切り刻んでやろうとばかりに。
 そこに一也のD-トリガーの照準が定められているとも知らずに。
「強化弾、ブルーメラモン――アイスファントム」
 オロチモンがその違和感に気づいたときにはもう遅かった。
「……アッヅウウ!!」
 突如尻尾を襲ったのは、高熱の鉄板に押しつけられたような高温地獄。一体どんな熱攻撃を浴びせられたのか、とその尻尾を見て、彼は困惑した。
「凍っている……だと!?」
 そう、その尻尾は地面とともに分厚い氷に包まれていたのだ。感じたのは対称的な高温だったというのに。
「知ってるか。ひどい凍傷を起こすと、逆に大火傷したように錯覚すんだって」
 つまりそういうこと。勝手に錯覚していただけの話だったのだ。
「さて、『アメノムラクモ』も使えない、ときた。……どうする?」
 充の笑みがさらに小馬鹿にしたようなものになる。格上であるオロチモンを試すかのように。
 だが、すべての技が使えなくなったわけではない。
「馬鹿め。まだ、儂にはこれがあるわ!」
 体を軽く揺すり、胃の中にあるものを喉元へと引き上げる。ざるだと自負しているので、酔いは醒めてもその効果は十分期待できる。
「酒ブレス」
 吐き出すは高濃度のアルコールの霧。この中に突っ込めばよほど耐性がない限り、酩酊してまともに動けなくなる。「対多人数戦用の接近技」とやらも使えはしない。
「やっぱり、そう来るよね。……じゃあ、行ってもいいよ」
「了解です」
 だが、トゥルイエモンはこのタイミングで飛びだす。アルコールに呑まれるのが目に見えているのに、だ。
「リガルモン、いくよ」
「すんごく存在忘れられてた気がする……」
 リガルモンは柄にもなくとぼとぼと歩き、充のとなりに立つ。パートナーの出番に反比例するかのように出番がないとは珍しいこともあるものだ。
「技能弾、ガオガモン」
「スパイラルブロー」
 リガルモンの口から放たれる風は、こちらに迫るアルコールの霧をほどよい感じで押し返し、オロチモンの方に滞留させる。成熟期の技にしたのは、アルコールの霧がこの一帯から吹き飛んでしまわないようにするためだ。
「準備完了。あとは手はず通りに」
「……了解」
 次にD-トリガーを構えるのは三葉。その照準は、霧から一、二メートルほどの距離にいるトゥルイエモン。
「技能弾、フレイドラモン」
 彼女の弾丸を受け、トゥルイエモンの拳が炎を纏う。それを確認すると、彼は急停止しバックステップ。
「へ……ま、まさか!?」
 オロチモンが彼らの企みに気づいたがもう遅い。殴るような動作でその炎をアルコールの霧に投げ込む。
「ナックルファイア」
「やめ――」
 それ以上言う前に、炎がアルコールに引火し、その体を業火で包み込む。これが狙いだった。アルコールの霧を吐かせ、それに炎を引火させることが。
「言っておくと『対多人数戦用の接近技』はもとから使う気はなかったよ。……対多人数戦用なのに、一人の敵相手に使ったらおかしいでしょ」
 わざわざ自分の手の内を明かすということは、それだけ何か裏がある。多少はそういう風に勘ぐるべきだったのだ。それを言われるがままに誘導された結果がオロチモンだ。
「クソッ……認めん、認めんぞ」
 それでも立ち上がるのは完全体としてのプライドか。ダミーの頭すべてを消されたとしても、このままコケにされてはたまらない。爆発で尻尾は氷から解放された。根気はいるがまだ技は使える。
「くたばれっ! アメノムラ――」
「「させない」」
 そのとき目前に現れたのは上下に並んだ二つの影。上方は件の武闘家デジモン――トゥルイエモン、下方は彼とよく似た容姿のデジモン――ガルゴモン。爆煙に紛れて潜り込んでいたのだ。
「「ナックルサンドウィッチ」」
「ガグハッ……」
 頭と顎に同時に浴びる強烈な衝撃に、オロチモンの意識は一瞬で消し飛んだ。
「終わりだよ。――浄化弾」
 意識のないその巨体に、充は浄化の力を込めた弾丸を撃ち込む。その力により悪霧は光とともに舞い上がり、そして静かに消滅した。
「…………なあ」
「なんや?」
「俺らほんまに出番なかったな」
「せやな」
 そんな真治とゲータモンの言葉は誰にも届きはしなかった。

 

 

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奇跡的なまでの短期での更新!! ……このペースでできればいいんですけどねぇ