応接間前の廊下。
向こうから女性と、一歩下がってメイドの菜月(なつき)が歩いてくる。
「あなたはここに勤めて、もうすぐ一年なのね。 一年も勤めたら新人さん、って感じじゃないわね。」
柔らかく微笑みながら、女性は菜月に話しかける。
「いいえ、私はまだまだです。 もっと一人前の使用人になれるように頑張ります。」
「……ふふ、頑張ってね。」
女性の微笑みと励ましの言葉に、菜月の心は和らいだ。
「はい、ありがとうございます。」
そう答えた菜月にも、自然と笑みがこぼれる。
と、菜月の視線の先には、この屋敷の主人である元治(もとはる)の一人立ち尽くす姿があった。
「お待たせしてしまい申し訳ございません!」
元治の姿に気づいた女性は、そう言って小走りで彼に駆け寄った。
菜月は頭を下げ、元治に礼をする。
「いや、大丈夫ですよ。」
元治は優しい笑顔で、女性に言葉を返す。
「こちらのメイドさんに、お屋敷の案内をしてもらっていましたの。」
そう言って女性は、菜月の方を見て微笑んだ。
菜月はつられて微笑み、彼女に頭を下げる。
元治は一瞬、菜月の姿を見て驚きの表情を見せる。
どこか悲しそうな……。
菜月はその顔に、かすかな胸のざわめきを覚えた。
「そうか、では君はもう戻っていいよ。 さあ、花梨那(かりな)さん、行きましょうか。」
元治はそう言って、女性を応接間に招き入れた。
しかし次の瞬間。
閉まりゆくドアの隙間から、菜月は見てしまうのである。
応接間の中のソファーに座っている、この屋敷の御曹司である和雄(かずお)の姿を。
To be continued
ここまでお読みくださり、ありがとうございます
ついに新たな登場人物の、女性の名前が明かされました
次回もどうぞ、お楽しみに
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
さてはビール、いけるクチですね
滋賀のご当地グルメとビールってどんなものか気になります
是非ライブ楽しんできてください、当日はどうか晴れますように
rurika