風邪が治らないひらまりです。名作おくりびーとに続けるのか。バトンタッチに失敗して
「あ、バトン落としちゃった!」「馬鹿はやく拾え!」(他チームの走者に蹴飛ばされる)「あーっ!」「てめー妨害だ!」・・・的に無残な展開が予想できますね。
李徴の自嘲癖が移ったかしら。
お題は冷蔵庫。 構想5分。都市伝説を自分なりに膨らませたので、完全創作ではありません。ゴメンナサイ(ネタ知ってる人いるかな?)
(完全創作はテスト終わってもうちょっと時間ができたら・・・。。。)
いわゆる怪談ものですのでご注意。そんなに怖くはないはず。でも読書会のあの映画の影響は多分にありです。
では、これより。
「峠を越すは午前25時」
鬱蒼と茂った国有林。急な峠。季節は、夏。
真夜中、暗闇と熱っぽい湿気は一種の質量まで有して、たった一台走るトラックにべったりこびりついていた。
「・・・くそあちー」
まだ若い、トラックドライバーの彼は、眠気と蒸し暑さに眉をゆがめながら、つぶやいた。
昼間であればこの峠もひどく渋滞し、時間がかかる。だから彼の勤める運搬会社は、交通量の激減する真夜中に荷物を集配所へ運ぶよう指示しているのだ。しかも折からの不況で、経費を削減。車のクーラーの設定温度は29度以上に制限され、違反すればドライバーは罰金という不条理なもの。
「荷物はクール、俺はスチームサウナかよ・・・ふざけんな」
彼はいまいましそうに、ちらっと後ろを見やって舌打ちした。
中元の荷物。よく冷やされた果物、生菓子など。冷蔵庫の廃熱は彼の冷静さをうばってゆく。
ちょっと余所見をしていても、車はそのトラックだけ。まっすぐな登り道は8合目を越えた。
麓まで降りれば休憩できる。彼はそう自分を励まし、ふたたび、目線を前に戻した。
そのとき。
ど ん っ
「わああぁあぁっっ!!」
突然、道横から真っ黒い何かがフロントライトのスポットに飛び込んできた。間に合わなかった。
鈍い衝撃でトラックが揺れ、それから遅すぎた急ブレーキによる停車。
彼は震えながら、バックミラーで、跳ね飛ばした「それ」を見た。
「や・・・やべぇ」
撥ねてしまったのは、子猫だった。アスファルトの上、テールライトの赤と黄色の光に毒々しく染まって臥している。
ぴくりとも動かない。けれど液体が溢れるように地面に広がっていく。
「や、やべぇ死んじまった、やっちまったどうしようどうしよう殺しちまったどうしようどうしよう」
蒸し暑さと、ラジオ電波も届かない真夜中の峠と、罪悪感と、背後のつめたい冷蔵庫が、彼の背中に汗をだらだら伝わせる。
「どうしようどうしようどうしようって関係ないだろ猫じゃねぇかただの猫だそうだ人間じゃないなんの罪にもならない早く逃げようそうだ逃げよう死んでるんだから逃げなきゃそうだそうだ逃げろ」
彼は、ぐいっとアクセルを踏んだ。たったいまのショックで目を見開いたまま、狂気的な表情で。
トラックはあっというまに9合目を過ぎた。
ただ一心不乱に、真っ暗闇とフロントライトの照らす丸い円を凝視してトラックを走らせる彼。
ふと、正気に戻ったように、がっくりと肩を落としてつぶやいた。
「・・・。 怖かった」
なんだろう。
あの気味の悪さ。
真夜中に猫を轢き殺してしまうなんて、いいことが起きそうもない。
とんだ目にあったな、彼はそう思って深呼吸しながら、バックミラーを見た。
彼の呼吸が、一瞬、 とぎれた。
あの猫が追ってくる。
まだ大分遠い、だがはっきりわかる。あの猫だ。轢き殺した子猫だ。
しかも、少し、地面から浮き上がっている。
人間の幽霊と同じように、だらりと立って(浮かんで)、手を前に突き出して、迫ってくる。
「うわああああぁぁぁっっ!!」
彼は叫んで、再びのショックに目を見開いて、スピードを上げた。
時速80キロ。90キロ。100キロを越して警報装置がカンカンと音を上げる。
かまうものか。120キロ。130キロ。限界だ。
「うそだうそだ殺したはずだ死んじまったんじゃねぇかよなんでなんで嘘だ嘘だなんで」
彼はわめきながらバックミラーを見た。こんなにスピードを上げたのに、子猫との距離は、広がらない。
いや、むしろ、近づいてくる。 ああ、ほら、また、一歩前へ、来た。
あと100メートル。90。80。50メートルを切った。くっきりと見える。
死んでいるのに、こちらをじぃっと見つめて、負ってくる、子猫。
「いやだぁあああああああああぁああああっ!!」
彼は絶叫した。ぼきりとアクセルが折れそうなくらい、踏みつける。トラックは10合目を越えた。
坂が下りに入ったことで、車は加速した。140キロ。150キロ。
それなのに、猫は、迫ってくる。
20メートル。15メートル。猫の目がテールライトを反射して毒々しく黄色く光る。
「やめろやめろ来るなこっちに来るな来ないでくれ頼む来ないでくれ」
彼は狂乱状態になって、もうバックミラーから目を離せなかった。
どんどん近づいてくる子猫。
追いかけてくる子猫。
自分が殺した、子猫。
あと10メートル。 もうすぐそこだ。 ああ、追いつかれる。また一歩前へ迫ってきた。
「ごめんなさいごめんなさい許してくれ俺が悪かった許してくれごめんなさい許してください許してください」
彼の必死の謝罪は、死んだ子猫には届かない。一気に、1メートルを切った。
50センチ。 30、20、10センチ。
9,8,7,6,5,4,3,2
ああ、また、一歩前へ、猫が。
あと、1センチ。 彼は恐怖のあまり、目を閉じた。
がんっ
衝撃。空中への浮遊。突然ひらいたエアバックに圧迫され窒息しながら、彼は呆然と目を開けた。
ハンドル操作をしていなかったトラックは、ガードレールを突き破り、高い高い崖へ、飛び込んでいた。
「 っ・・・!」
叫び声さえ奪われた彼は、落下しながら、バックミラーを見た。
ああ、あの猫が、ぴったりと、トラックに張り付いている。子猫を殺した報いだったのか。
トラックは放物線を描いて落下し、衝撃で大破し、中の荷物も彼も冷蔵庫も、粉々に、壊れた。
あの子猫は確かに死んでいた。トラックを追うはずがなかった。
しかも浮かび上がって、両腕を前へ突き出して・・・そんな馬鹿なことがあるはずはない。
では、何故?
ほんとうにトラックを追いかけていたのは、親猫だった。
轢き殺された我が子の恨みを晴らさんと、哀れな死体をくわえ、
復讐の呪いに、猛スピードで、追って来たのだった。
翌朝明るくなってからトラックが発見された。
ブレーキの痕が見られないことから、深夜運転による居眠りが原因の死亡事故とされ、処理された。
不思議なことがあった。
あの、最後の最期で追いつき、トラックを道連れに落下した黒猫。
ぴったりと車体の冷蔵庫に張り付いて、翌朝には、ロゴマークのように平面化していた。
黄色く不気味に光る瞳。
両腕を前に突き出した子猫を、くわえて走る、黒猫のマークに。
そしてそのマークは、縁あってとある宅配便会社のマークに採用され、
いまも、日本中のトラックが、
可哀想な子猫を轢き殺さないよう、ぴったりと張り付いて、見張っているのだとか。
ああ、ほら、また、『一歩前へ』。