オレンジの時間
――会いたかった人――
まえがき
会いたかった人がいる。
会ったことはない。話したこともない。それなのに、若い頃のその人に、どうしても会ってみたかった。
時代の少し先を、風のように軽やかに歩いていた人。背伸びをして近づいても、きっと笑って、軽くあしらわれてしまっただろう。
それでも、一度でいいから、その人の前に立ってみたかった。
この物語は、そんな思いから生まれました。
きっかけは、いつかあの日に想いを書き留めた言葉です。
桜を見たくて歩いた青山墓地。探し当てた墓前で、私は何も言えませんでした。会いたかったことも、ありがとうという気持ちも、胸の中にはあるのに、言葉はひとつも出てこない。
そのときの記憶と、子供の頃に見た気がするオレンジ色のスポーツカー。そして、若い頃の母は、いったいどんな女性だったのだろうという思い。
それらが重なって、ひとつの物語になりました。
もしも、会えなかった人に会える夜があったなら。
もしも、まだ自分が生まれていなかった頃の母に出会えたなら。
その時間は、人生を変えるほど特別なものになるのでしょうか。それとも、何も変えずに帰ってくることこそが、大切なのでしょうか。
これは、時間を越えるSFであり、ひとりの人間が、会いたかった人に会いに行く物語です。
不思議な出来事は起こります。でも、きっと最後に残るのは、ひどく個人的で、ささやかな気持ちなのだと思います。
会いたかった人。
その言葉を胸に、どうぞ最後までお付き合いください。
一 青山墓地
その春、ぼくは五十八になっていた。
桜を見るつもりで家を出たはずだった。気がつくと、青山霊園の外周を、地図も見ずに歩いていた。
花見の人波は大通りに溜まっていて、一本奥の道に入ると急に音が減る。ブルーシートの青と屋台の油の匂いが遠ざかり、かわりに、苔むした石と湿った土、散りはじめた花の甘い匂いが鼻に来た。
探している人がいた。
会ったことはない。ぼくより二十六も年上で、母と同じくらいの齢で、とうに亡くなっている。それでも、その人のことを考えると、胸の中ではいつも、二十代の横顔のまま、煙草の煙の向こうで笑っているのだった。
クリスチャンの共同墓地は、思っていたより質素だった。同じかたちの低い墓石が、碁盤の目のように並んでいる。夫婦の墓があり、家族の墓があり、そのどれにも、ありふれた名前が、ありふれた書体で刻まれていた。
あれ、と思った。
あの人の連れ合いだった音楽家の墓は、ここにはないのだ。同じ場所に眠っているものとばかり、勝手に思い込んでいた。夫婦というものは、そういうものだと。
けれど、そうではなかったらしい。
ぼくは石の列の前で、しばらく立ち尽くした。
やがて、見つけた。
刻まれているのは、ほんのわずかな文字だった。誰もが知っているあの愛称ではなく、戸籍の上の本名だけ。
この時代をいちばん軽やかに駆けた人が、ここに眠っていると、通りすがりの誰が気づくだろう。
誰にも気づかれず、ただ静かに、そこにいる。
ぼくは用意してきた言葉を、ひとつも思い出せなかった。
三日前から、電車の中でも風呂の中でも、何度も言い直してきたはずの言葉だ。ありがとうでも、はじめましてでもなく、ただ、会いたかったです、と。
けれど石の前に立つと、頭の中は白い紙のようになった。
手を合わせ、一礼した。
それだけだった。
頭を上げたとき、肩に花びらが一枚乗っていた。
払おうとして、指が止まった。
花びらは、桜色をしていなかったのだ。
橙。
熟れる直前の蜜柑のような、あるいは、夕方の最後の光のような、濃くて澄んだ橙色。
指先に移したそれは、薄いくせに、わずかに温かかった。そして、ごく小さく、時計のように脈打っていた。
ちくり、ちくり、ちくり。
耳を近づけると、遠くでエンジンの音がした。
低く、乾いた、古い異国の車の音。それが、墓地の細道の向こうから、こちらへ近づいてくる。
この道は、車が入れないはずなのに。
ぼくは顔を上げた。
桜並木のトンネルの奥から、橙色の光が、ゆっくりと膨らんでくるのが見えた。
二 遺失物取扱所
光は車ではなかった。
近づいてみると、それは一軒の小さな小屋だった。いや、小屋というより、昔の駅の改札口をひとつだけ切り取って、桜の根元に置いたような木造のブースだった。
擦りガラスの窓に、金文字でこう書いてある。
〈時間遺失物取扱所〉
墓地の中に、こんなものがあるはずがなかった。
振り返ると、さっきの墓石の列はもう見えず、道の両側には、同じ桜がどこまでも続いていた。
花は満開で、そのくせ一枚残らず橙色だった。風もないのに、花びらは雪のように降り続け、地面に着くと、音もなく消えた。
「お待ちしていました」
窓が開き、制帽をかぶった青年が顔を出した。
二十歳そこそこに見える。けれど目だけが、ずいぶん年老いていた。胸の名札には、名前の代わりに番号がひとつ。
「ここは、何ですか」
「ご存じのとおりです。遺失物の窓口です」
「何を失くしたことになっているんです、ぼくは」
青年は机の下から、砂時計をひとつ取り出した。ガラスの中を、砂ではなく、橙色の花びらが落ちている。
「人は、間に合わなかった時間を惜しみますね。会えなかった人。言えなかったひと言。乗り損ねた電車。惜しまれた時間は、持ち主の胸から零れて、行き場をなくします。それを毎年この季節に、桜が拾い集めるんです。一日につき、ひとひら」
「それが、この花びら」
「はい。あなたが今日までに惜しんだ時間は、たいへんな量でした。数えきれないので、特別に窓口が開きました」
おかしな話を聞いているはずなのに、ぼくは少しも疑わなかった。
夢の中の人間が夢であることを疑わないように。あるいは、本当は最初から夢だと知っていて、夢のほうに礼儀を尽くしているように。
「預かり期間が下りたのは、一晩分だけです」と青年は言った。「花びらが三百六十五枚、砂時計の底に落ちきるまで。それが、あなたが〈そこ〉にいられる長さです」
「そこ、というのは」
「あなたが行きたいところです。口には、まだ出していらっしゃらない」
ぼくは口に出さなかった。出す必要もなかった。
青年は改札の鋏を、ぱちん、と鳴らした。
切符が一枚、窓口から滑り出た。
〈一九六四年 春 六本木 午後〉
「注意事項が三つあります」
青年は指を折った。
「ひとつ。ものに触れないでください。触れたものは、あなたの時間に混ざって、戻れなくなります。
ふたつ。名乗らないでください。名前は、時間のいちばん太い糸です。
三つめ。……何も変えられない、とは申しません。変えても構いません。ただ、変えた分は、すべて桜が吸い上げます。ですから、変えたことを、あなたは覚えていられない」
「覚えていられない」
「ええ。惜しむことも、できなくなります。それでよければ、どうぞ」
砂時計がひっくり返された。
花びらが、さらさらと落ちはじめた。
改札の向こうは、昼の光だった。
ぼくは切符を握りしめて、一歩、踏み出した。
三 六本木
最初に感じたのは、音の粒の大きさだった。
都電の車輪が軌道を噛む音。どこかの二階から漏れるジャズのピアノ。靴屋の前で、誰かが誰かを呼ぶ声。
すべての音が、いまの東京より半歩ゆっくりで、そのぶん、ひとつひとつが輪郭を持っていた。
色も違った。
空は、洗いたての水色だった。ビルは低く、看板は手描きで、その看板の赤や緑が、夢の中の絵本のように濃い。
ぼくは自分の手を見た。
袖口から出た手は、五十八年分の皺を刻んだまま、けれど、ほのかに半透明だった。
通りすがりの人々は、ぼくを避けもせず、すり抜けもせず、ただ、最初からそこに誰もいないかのように歩いていった。
交差点の角に、背の高い影が立っていた。
いや、影ではなかった。
ガス灯でも、電柱でもない。
橙色の花びらが一枚、ぼくの目の高さに浮かんでいる。ちくり、ちくりと脈打ちながら、ぼくが歩くと、数歩先を、すうっと進んだ。
案内役らしい。
花びらについて歩くうちに、ぼくは気づいた。
この街では、人々の頭上に、ごく薄い文字が浮かんでいるのだ。
路上の靴磨きの上には〈今日は雨が降らないと思っている〉。
喫茶店の窓際の男の上には〈まだ連絡しない〉。
すれ違う少女の上には〈ひとつだけ嘘をついた〉。
それは、その人がいま胸にしまっている、いちばん小さな秘密のようだった。
文字は、ぼくの頭上にも浮かんでいるのだろうか。
ふとそう思って見上げたが、空には橙色の花びらが、数枚舞っているだけだった。
坂を上りきったところで、花びらが止まった。
低い石段の先に、緑のドアがあった。
ドアの上に、小さな電球の看板。丸い書体で、〈カンタービレ〉とある。
イタリア料理の店だ、とぼくは遠い記憶から知識を引き出した。まだ誰も彼もが肉とパンの食べ方を知らなかった時代に、異国の言葉と煙草と恋を、一度にまとめて運んできた店。そこに、あの時代の才能という才能が、夜ごと集まったという。
店の前の路上に、一台の車が止まっていた。
橙色のスポーツカーだった。
屋根はなく、低く構えた鼻先が、日差しを受けて、熟れた果物のように光っていた。
ぼくは息を止めた。
ガキの頃、一度だけ、六本木の交差点で、目の前を颯爽と過ぎ去っていった、あの車だ。
いや、あの車だと思っている。
間違いない、と思っているだけで、確かめようはない。確かめようのない記憶だからこそ、憧れは、いつまでも鮮やかなのだろう。
車体には触れなかった。注意事項を思い出したのだ。
ただ、自分の影が、その橙色の中に、ぼんやりと映り込むのを、長いあいだ眺めていた。
砂時計の花びらが、ひとひら、背中の方で落ちる気配がした。
ちくり。ちくり。
ぼくは、緑のドアを押した。
四 カンタービレ
店の中は、煙と、ニンニクと、笑い声でできていた。
天井は低く、壁には、見知らぬ画家たちの絵が、隙間なく吊られている。
丸いテーブルを囲んで、若い男たちが、身ぶり手ぶりで何かを語り合っていた。デザイナーだ、とぼくは思った。いや、写真家かもしれない。
スーツの者もいれば、ジーンズの者もいる。誰もが、これから世界が始まるのだと信じている顔をしていた。
奥のほうで、ギターが鳴った。
誰かが即興で弾きはじめ、誰かがハミングを重ね、誰かがグラスのふちを匙で叩いて拍子を取った。
その拍子に、ぼくの胸の奥が、小さく共鳴した。
ぼくは、この音を知らない。
けれど、確かに知っている。
母が台所で鼻歌にしていた、あの頃の流行歌と、同じ呼吸だった。
入口に近い窓際の席に、一人の女性が座っていた。
白いシャツの袖を、肘までたくし上げている。短く切った髪。眉は意志的に濃く、唇は紅をひかずに、自然な色のまま。
テーブルには、紙ナプキンが何枚も散らばって、その上を、彼女のペンが、ためらいなく走っていた。
頭上の文字が、薄く浮かんでいる。
〈まだ、誰にも見せない〉
名を呼んではいけない。
ぼくは、舌の上にあの愛称を乗せかけて、飲み込んだ。
それでも、確信があった。
この人だ。
ぼくが探していた人。時代の先頭で、背伸びも気負いもなく、ただ軽やかに歩いていた人。
二十四、五歳だろうか。
お袋と、同じ齢だ、と思った。
ぼくは、言葉にならないものが喉に詰まって、その場で笑い出しそうになった。
同じ齢。
ぼくの母が、いまどこかの部屋で、ミシンを踏んでいるはずの齢。
ぼくは、ためらいながら、彼女の斜め後ろの席に近づいた。
誰も座っていない椅子の背に、手を置こうとする。
触れない。
触れてはいけない。
手のひらは、椅子の背から数ミリの空気をおいて、止まった。
そのとき、彼女がペンを止めた。
顔を上げずに、言った。
「そこのひと」
ぼくは動けなかった。
「そう、あなた。さっきから、うしろで背伸びしてるでしょう。足の裏の音がするのよ。つま先立ちの音」
ゆっくりと、彼女が振り向いた。
黒目がちの、よく動く目だった。
ぼくを頭のてっぺんから足の先まで一度だけ眺め、それから、にっと笑った。
「ずいぶん遠くから来たのね。靴が、この辺の土じゃないわ」
見えている。
ぼくの姿が、彼女には、はっきり見えている。
ここでは誰も、ぼくに気づかなかったのに。
「座んなさいよ。立ってられると、うるさいのよ、空気が」
ぼくは言われるままに、向かいの椅子を引いた。
引けた。
触れたのではなく、椅子のほうが、ぼくに少しだけ寄ってきたような気がした。
「何か、頼む?」
彼女は言った。
「子供は、ミルクにしときなさいね」
「……ぼく、五十八ですが」
「そう? それなら、なおさらミルクがいいわ。胃に優しいから」
彼女は声を立てて笑った。
笑い声が、店中のざわめきに、すっと混じって、ひとつの泡のように消えた。
ぼくは、顔が熱くなるのを感じた。
軽くあしらわれたのだと、すぐにわかった。
そして、それがちっとも嫌ではなかった。
むしろ、ずっと昔から、こうされることを待っていたような気がした。
五 軽くあしらわれる
ミルクは、本当に出てきた。
白い厚手のカップに、たっぷり。湯気は立っていない。冷たいミルクだった。
ぼくは、触れてはいけないという注意事項を思い出して、カップを見つめたまま、手をつけられずにいた。
彼女は、そんなぼくを、頬杖をついて眺めていた。
「飲まないの? 毒じゃないわよ」
「その……触れると、帰れなくなると、言われまして」
「誰に」
「窓口の……係の人に」
「ふうん」
彼女は少しも驚かなかった。
「あるのね、そういうの。時々、あなたみたいな人が来るのよ、夜になると。ときどき、桜の季節にね。声をかけても、返事もしないですうっと消えちゃう人が多いけど」
ぼくは、思わず身を乗り出した。
「ほかにも、来る人が」
「いるわよ。みんな、同じ目をしてるの。誰かに、会いたかったっていう目」
彼女は、ナプキンの束を、とん、と揃えた。
書きかけの文字が、ちらりと見えた。横書きの、癖のない、まっすぐな文字だった。
「それで、あなたは、誰に会いたかったの」
ぼくは答えられなかった。
名乗ってはいけない。名前は、時間のいちばん太い糸。
けれど、あなたに、と言うことは、あなたの名前を口にするのと同じことだ。
ぼくは遠回りをした。
「あなたの書く言葉を……ずっと、聴いて育ちました。母が、毎日のように、台所で歌っていたんです。意味もわからないまま、ぼくも一緒に口ずさんで」
「あら」
彼女は、少しだけ目を細めた。
「それは、うれしいけど。でも、私の言葉は、まだ誰にも聴かせてないのよ。ほら」
彼女は、自分の頭上を指さした。
薄い文字が、まだそこに浮かんでいる。
〈まだ、誰にも見せない〉
「だから、あなたが聴いたのは、未来の私ね。私の知らない私」
彼女は、ぽんと膝を打った。
「いいわ。教えてちょうだい。未来の私は、うまくやってる?」
ぼくは言葉を失った。
うまくやっているか。
ぼくが知っているのは、年表と、流行歌と、墓石に刻まれた本名だけだった。うまくやったのかどうか、そんなことを、ぼくが決める資格はどこにもない。
ぼくは、五十八歳の背伸びをして、できるだけ立派なことを言おうとした。
「あなたは、時代をつくりました。たくさんの人が、あなたの言葉に救われて……」
「ストップ」
彼女は人差し指を立てて、ぼくの唇の前に持ってきた。
触れる寸前で、指は止まった。
「そういうの、やめましょう。立派な話は、苦手なの。背伸びして、大きなことを言う男の人はね、私のまわりに、もう、たくさんいるのよ」
彼女の目が、いたずらっぽく光った。
「あなたは、背伸びしなくていいの。もっと、素のままのことを言いなさいな。はい、どうぞ」
素のまま。
ぼくは息を吸い込んだ。
「……桜の季節に、あなたのお墓の前に立ちました。何も言えませんでした。ただ、手を合わせて、礼をして……それで、おしまいで」
彼女は、しばらく黙っていた。
それから、ふっと肩の力を抜いて笑った。
「そう。お墓、あるのね、私」
「はい」
「いい場所?」
「桜が、見事に咲いていました。あなたとは、何の関係もなく」
「それは、いいわ」
彼女は、声を立てずに、唇のはしだけで笑った。
その笑い方が、ぼくの母にそっくりだったことに、ぼくは、そのとき、まだ気づかなかった。
砂時計の底で、ひとひら、花びらが落ちた。
ちくり。
ぼくの胸が、小さく痛んだ。
残り、およそ二百と少し。
「ねえ、あなた」
彼女は立ち上がった。シャツの裾を、無造作に払う。
「ミルクは、飲まなくていいから。かわりに、ちょっと、付き合いなさいな」
「どこへ」
「夜の街。車、好きでしょ? さっきから、外の橙色を、ずうっと見てたじゃない」
見られていたのか。
ぼくは、また顔が熱くなった。
彼女はナプキンを一枚だけ引き抜いて、胸のポケットにしまった。それから、ぼくの前を、すたすたと歩きはじめた。
ぼくは、つま先立ちにならないように気をつけて、その背中を追った。
六 同じ齢
店を出る途中の通路で、ぼくは足を止めた。
隣のテーブルで、若い女性たちが笑っていた。
商社のタイピストか、事務の仕事帰りだろう。紺のワンピースの襟に、揃いの白いカラー。コーヒーカップを両手で包んで、誰かの噂話に肩を寄せ合っている。
その中のひとりの笑い方に、ぼくの足は床に縫いつけられた。
声を立てずに、唇のはしだけで笑う。笑い終わると、必ず、小指で目尻を押さえる。
台所のミシンの前で、何千回も見てきた仕草だった。
頭上の文字が、薄く浮かんでいた。
〈来月、お見合いをする〉
母だった。
二十五歳の母が、ぼくの目の前で、カップを持っていた。
まだ、ぼくという存在の影も形もない。ただのひとりの若い女として、友人たちの冗談に頬をほころばせていた。
「どうしたの」
いつのまにか、彼女がぼくの肘のあたりに立っていた。
触れてはいない。けれど、そこにいるとわかる距離だった。
「あの子、知り合い?」
「……ずっと昔の、知り合いです」
「ふうん。きれいな子ね。泣いてる顔のほうが似合いそうだけど」
「なぜ」
「笑ってばかりいる子はね、たいてい、あとで泣くのよ。いい意味でね」
彼女は、軽く肩をすくめた。
ぼくは、ふいに気づいてしまった。
注意事項の三つめ。
変えても構わない、と青年は言った。変えた分は桜が吸い上げ、ぼくは覚えていられない。
来月、母は見合いをする。
その相手が、ぼくの父になる。あの無口で、酒に弱くて、母の笑い声のそばで、いつもただ黙って茶碗を洗っていた人。
もしも今、ぼくが一言でも声をかけたら。
この若い母に何かを言って、何かを変えたら。
母は別の人と結婚するかもしれない。ぼくは生まれないかもしれない。
生まれないぼくは、五十八になることも、青山の墓地で花びらを拾うことも、この店に立つこともない。
そして、そのことを、誰も惜しまない。
母が、こちらを向いた。
ぼくは凍りついた。
けれど母の目は、ぼくを通り抜けて、窓の外の橙色の車のあたりに留まった。
それから、ほんの一瞬だけ、首をかしげた。
まるで、遠い部屋の誰かに呼ばれたような顔だった。
母は、すぐに友人たちのほうへ向き直った。
笑い声が、またひとつ弾けた。
ぼくは、声を出さなかった。
何も、変えなかった。
「行きましょ」
彼女が言った。
「あなた、顔色が悪いわ。夜風に当たったほうがいい」
彼女は、ぼくの背中を、触れない手で押すように、通路へ促した。
その手つきが、あまりに自然で、ぼくは、母のことも、彼女のことも、同じように胸の奥に仕舞って、扉を押した。
七 夜の車
外は、いつのまにか夜になっていた。
昼から夜への切り替わりは、舞台の幕が替わるように、音もなく済まされていた。
通りの店の灯が、いっせいに点っていた。電球の色は、どれも少し黄色くて、その黄色のなかを、人々が影絵のように流れていく。
橙色の車の前で、彼女は立ち止まった。
「乗って。助手席」
「でも、触れると」
「大丈夫よ。座席は、私のもの。触れるのは、あなたじゃなくて、座席のほうだから」
何の理屈にもなっていなかった。
けれど彼女が言うと、不思議と、そうなる気がした。
ぼくは、薄い革のシートに、そっと腰を下ろした。沈まなかった。体重のない人間のように、座席はぼくを、ただ受け止めた。
エンジンが、かかった。
低く、乾いた、古い異国の音。
墓地の道で聞いた、あの音だ。
車は、するりと動き出した。
六本木の交差点を抜けると、街の輪郭が、ゆるやかにほどけはじめた。
電柱が、五線譜のように揺れた。看板の文字が剥がれて、蝶になって夜空へ舞い上がった。遠くに見える赤い塔が、飴のようにとろけて、その先端から、橙の雫が一滴ずつ、空へ落ちていった。
逆さまに降る雨だった。
「ここはね」
彼女は、ハンドルを片手で操りながら言った。
「みんなの、まだ言葉になる前の街なの」
「言葉になる前」
「そう。朝になると、言葉になっちゃうでしょ。そうしたら、誰かのものになる。夜のあいだだけは、まだ、誰のものでもない」
風が、彼女の短い髪を、うしろへ流していた。
横顔は、さっき店で見たよりも、ずっと幼く見えた。
幼いというより、無防備だった。
何も知らない、というのでなく、何も、まだ決めていない、という顔だった。
「私ね、言葉って、先に行って待ってるものだと思うの」
「待ってる」
「追いつこうとすると、逃げるのよ。急ぐと、ほんとに、一歩も近づけない。だから、わざとのんびり歩くの。歩いているふりをして、横目で見ているの。そうするとね、言葉のほうが、こっそり寄ってくる。ちょっと、気になって」
ぼくは、胸ポケットを探って、手帳を出そうとして、やめた。
ここでは何も、持ち帰れない。
「覚えていられなくても、いいんです」
ぼくは言った。
「今聞いたことは、ぼくの中で、別のものに変わると思います。きっと、桜の季節の、どこかで」
「あなた、変な言い方をするのね」
「すみません」
「謝らなくていいのよ。いい意味で、変なの」
車は、橋を渡っていた。
橋の下は、川ではなく、無数の窓の灯が連なる、光の谷だった。
ひとつひとつの窓に、誰かの夜があった。
笑っている夜。泣いている夜。何もしないで、ただ天井を見つめている夜。
「ねえ」
彼女は、前を向いたまま言った。
「あなたの時代の私は、どんな名前で呼ばれてるの」
「名前を言うと、この時間の糸が……」
「そうね。じゃあ、言わなくていい」
彼女は、すぐに折れた。
「でもね、ひとつだけ、当ててみようかしら。……ほんとうの名前のほうが、残ってる。違う?」
ぼくは、答えに詰まった。
「当たりね」
彼女は静かに笑った。
「そうだと思った。みんなが私を呼ぶ名前は、私が自分でつけたわけじゃないもの。どこかの誰かがおもしろがって呼びはじめて、そのうち、私より先に有名になるの。そんなものよ」
「怒って、ないんですか」
「怒る? どうして。いいじゃない。私がいなくなっても、あっちの名前のほうが、ひとりで歩いていってくれるんでしょう。ちょうどいいわ。私は、うちの名前のほうで、静かに寝かせてもらうから」
彼女は、あくびを噛み殺すようにして、続けた。
「本名で眠るのはね、ちょっと、恥ずかしいけど。でもたぶん、いちばん、ほっとするのよ」
ぼくの喉の奥が、熱くなった。
砂時計の底で、花びらが、また一枚落ちた。
ちくり。
残りは、もう百五十枚を切っていた。
八 砂時計
夜が深まるにつれて、街は、少しずつ透きとおっていった。
光の谷を抜けた車は、見知らぬ丘の上で止まった。
そこは、どこでもない場所だった。
丘の斜面には桜が一面に咲いていて、花は、ひとひら残らず橙色に染まっていた。そして、花びらのひとつひとつが、小さく、ちくり、ちくり、と脈を打っていた。
眼下の街は、無数の砂粒のように、静かに光っていた。
車を降りた彼女は、ボンネットに腰かけて、足を組んだ。
ぼくは、その少し離れたところに立った。
「ここ、好きなの」と彼女は言った。「誰にも、教えてないのよ」
「ぼくが、いいんですか」
「あなたは、いいの。ほら、時間のはしっこの人だから」
彼女は、ポケットから、さっきのナプキンを出した。
何枚もの、書きかけの、行の断片。ペンの先で、ちょん、と頭を叩く。
「ねえ、持って帰りたいもの、ある?」
「持っては、帰れないんです」
「そうだったわね」
彼女は、残念そうでもなく、そう言った。
「じゃあ、置いていきなさい。この中に」
彼女は、ぼくの胸のあたりを指さした。触れずに、空気のかたちだけで。
「いい? 一行だけ、あげる。まだ誰にも見せてないやつ。あなたの中にしまっておいて。たぶんあなたは、朝になったら、忘れるけど」
「忘れても、いいんですか」
「ええ、いいの。忘れた言葉は、いつか、あなたのほうで勝手に思い出すから。そういうものよ、言葉は」
彼女は、すう、と息を吸った。
低く、囁くような声で、言った。
「会えなかった人にも、ちゃんと朝は来るわ」
花びらが一枚、ぼくの胸に落ちた。
落ちたけれど、消えなかった。
そのまま、胸の内側に、すう、と吸い込まれていった。
「……どうも」
ぼくは、それしか言えなかった。
「どういたしまして」
そのとき、丘の下から、足音が近づいてきた。
制帽をかぶった青年だった。肩に、小さな砂時計を提げている。ガラスの中の花びらは、もう、わずかしか残っていなかった。
「そろそろ、お時間です」と青年は言った。「すみません。ご案内の時間が、押しておりまして」
「あら、車掌さん」
彼女が、軽く手を振った。
「また、この人たちを連れてきたの」
「お仕事ですので」
「ご苦労さま。コーヒーでもどう?」
「勤務中は、頂けません」
「堅いわね」
青年は、帽子の庇を、ほんのわずか下げた。
その目が、一瞬だけ、笑ったように見えた。
「最後に、ひとつだけ、よろしいですか」
ぼくは言った。
彼女のほうを向いた。
「あなたの、これから先のことを――」
言いかけた唇に、彼女の人差し指が、触れる寸前で止まった。
「聞かないわ」
彼女は、静かに首を振った。
「聞かないでおく。そのほうが、いい女でいられるもの」
「でも」
「いい? 未来を知ってる人はね、どこかで、手を抜くのよ。この先がわかっているから。わからないから、人は背伸びをするの。背伸びのままで、駆けていくの」
彼女は、ボンネットから、すとん、と降りた。
「私はね、ずっと、軽く駆けていたいの。少し背伸びして、でも、気取らないで。それが、私の流儀」
風が、丘を渡った。
砂時計の底で、最後の花びらが、ゆっくりと傾いた。
「さよなら」
彼女は言った。
「あなた、案外、いい子だったわ」
五十八歳の男は、涙を拭くことも忘れて、子供のように頷いた。
九 七三年の交差点
「実は、もうひとつだけ、ご用意があります」
青年が、帽子を押さえながら言った。
「預かり期間の終わりぎわに、いつも、少しだけ、おまけがつくんです。時間の端数というものでして」
彼女が、ふっと笑った。
「おまけ、好きよ」
青年が、砂時計を逆さに振った。
最後に残った花びらが、すう、と宙に浮いた。その橙の薄片が、ぼくの目の前でゆっくりと広がって、ひとつの景色になった。
夕方の六本木の交差点だった。
空気が違った。街の色が、さっきよりも少し濃かった。看板の字体も、車の形も、ぼくの記憶に近い。
一九七三年。
ぼくは、八つだ。
歩道の隅に、ひとりの男の子が立っていた。
半ズボンに、擦り切れた運動靴。赤いランドセルを前に抱えている。
習い事の帰りか、母親の買い物を待っているのか、ぼんやりと信号を見上げていた。
ぼくだった。
男の子の少し後ろには、買い物袋を提げた女性がいた。
三十四歳の母だった。
髪をひとつにまとめて、疲れた顔をして、けれど息子の頭の後ろ姿を見つめる目は、ひどく優しかった。
ぼくは、その三歩うしろに立っていた。
触れてはいけない。
声をかけてはいけない。
ただ、少し離れたところから、ぼくという子供と、母という人を眺めていた。
エンジンの音が、遠くから近づいてきた。
低く、乾いた、古い異国の車。
信号が青に変わろうとしていた。
その手前の交差点を、橙色のスポーツカーが、颯爽と、滑るように通りかかった。
男の子の目が、ぱっと見開かれた。
運転席に、女の人が乗っていた。
髪は、昔より少し伸びていた。大きなサングラスをかけていた。
三十三歳の、あの人だった。
車は速度を落とさなかった。
ただ、通りすぎる、その一瞬。
サングラスの奥の目が、交差点の端に立つ、白髪まじりの男に、まっすぐ向けられたのがわかった。
彼女は、ハンドルから右手を離した。
人差し指と中指。
二本だけを、こめかみのあたりに、ひょい、と立てた。
あしらうような、敬礼のような、さよならのような、あの軽い仕草。
男の子は、それを見ていなかった。
男の子は、ただ、車の色と、風の匂いと、自分の胸のどきどきを、いっぱいに受け止めて、立ち尽くしていた。
「颯爽と」という言葉を、そのとき男の子は、まだ知らなかった。
けれど、その意味だけは、全身で受け取っていた。
車は、交差点を曲がっていった。
橙色は、夕焼けの色のなかに溶けた。
「ママ」
男の子が言った。
「今の、見た?」
「見たわよ」
母が言った。
「きれいな車ね」
「あの人、誰かな」
「さあ。有名な人かもね」
母は、息子の頭を、ぽん、と撫でた。
男の子は、車が消えた先を、ずっと見つめていた。
ぼくは、その背中に、何も言わなかった。
言わなかったけれど、胸の中で、五十年分の、ありがとうを、そっと言った。
あれが、ぼくの、はじまりだったのだ。
十 会いたかった人
気がつくと、ぼくは、桜の根元に立っていた。
足もとには、花びらが薄く積もっていた。
もう、橙色ではなかった。
ふつうの、淡い桜色だった。
遠くから、花見客の笑い声と、屋台の油の匂いが、風に乗って届いた。
青山の墓地に戻っていた。
制帽の青年も、小さな窓口も、どこにもなかった。
ただ、ぼくの目の前には、見覚えのある低い石が、静かに立っていた。
本名だけが、わずかに刻まれた、その石。
ぼくは、しばらく、ただ、そこに立っていた。
何か、とても長い夢を見ていた気がする。
とても大切な夢だった気がする。
けれど、中身は、霧のように、指のあいだから抜けていった。
覚えているのは、ほんのわずかなことだけだった。
橙色のスポーツカー。
低く、乾いた、エンジンの音。
それから、どこかの店の、ミルクの冷たさ。
用意してきた言葉は、やっぱり、ひとつも現れなかった。
三日前から言い直してきたはずの、あの言葉。
ありがとうも、はじめましても、会いたかったですも、ぼくの口の中で、小さな砂粒のようにほどけた。
だから、ぼくは、手を合わせ、一礼した。
それだけだった。
頭を上げたとき、石の上に、花びらが一枚、乗っていた。
薄桜色の、ごくふつうの花びらだった。
けれど、その花びらは、ほんのわずかに温かかった。
ぼくは、払わなかった。
風が、吹いた。
桜は、ぼくの気持ちとは関係なく、見事に咲き誇っていた。
何ごともなかったように。
何千回、何万回も、同じ春を繰り返してきたように。
そのときだった。
胸のどこかで、知らない言葉が、ひとつ、ことりと動いた。
ぼくの記憶にはない。
けれど、昔からそこにあったような、一行だった。
「会えなかった人にも、ちゃんと朝は来るわ」
誰の言葉だろう。
ぼくは、小さく首をかしげた。
それから、不思議と笑ってしまった。
遠くで、エンジンの音がした気がした。
振り返っても、桜並木のトンネルには、ただ、散りかけの花の雪が、静かに降り続けているだけだった。
ぼくは、墓前に、もう一度だけ頭を下げて、ゆっくり歩き出した。
巡る春には、また、多くを思い出させるのだろう。
多くを、惜しませるのだろう。
それでも、いい。
それでも、ぼくは、また、ここへ来る。
会いたかった人。
ー了ー
あとがき
人は、ときどき、会ったことのない人を懐かしく思います。
作品を通して知った人。歌や言葉の向こうにいた人。写真の中で笑っている人。自分が生まれる前の時代を、軽やかに生きていた人。
その人に会ってみたいと思っても、もう会うことはできません。
それでも、会いたいという気持ちは、消えずに残ります。
この物語を書きながら、私はもうひとつのことを考えていました。
自分の母が、若かった頃のことです。
子供にとって母は、最初から母です。けれど、母にも、母になる前の時間がありました。友人と笑い、誰かに恋をし、何かに憧れ、未来のことなど知らずに暮らしていた、ひとりの若い女性の時間があったはずです。
もし、その頃の母に会えたなら。
私は、何を話すでしょう。
おそらく、うまく話せないと思います。母が自分を産む前から、私は息子だったのだと伝えることもできないでしょう。
ただ、その姿を見て、胸の中で、ありがとうと言うのかもしれません。
時間は戻りません。
会えなかった人に、もう一度会うこともできません。
けれど、記憶の中では、私たちは何度でも、あの日の交差点に立つことができます。若かった母の笑い声を思い出すことも、目の前を走り去った車の色を、いつまでも覚えていることもできます。
この物語に出てくる時間遺失物取扱所は、そんな惜しまれた時間を、ひと晩だけ返してくれる場所です。
もちろん、現実にはありません。
けれど、誰にも言えなかったひと言や、もう届かない「会いたかった」という思いを、どこかで受け取ってくれる場所があってもいい。
私は、そう思っています。
原詩『ZUZUのいた時代』を書いたとき、そこにあったのは、ただ、会いたかったという気持ちでした。
小説になった今も、その気持ちは変わりません。
最後まで読んでくださったあなたにも、会いたかった人がいるでしょうか。
もし、いるのなら。
その人を思い出した今日という日も、きっと、あなたの人生の一部なのだと思います。
会えなかった人にも、ちゃんと朝は来る。
そして、私たちにも、また朝が来ます。
原詩 ZUZUのいた時代
安井かずみに
安井かずみに 会いたかったなあ
若い頃の キャンティの頃の 安井かずみに 会いたかったなあ
きっと どんなに背伸びしても 軽くあしらわれたのだろうなあ お袋の齢だもんなあ
いや ガキの頃 一度、六本木で見かけたのが 安井かずみだったと思っている
オレンジ色のスポーツカーだったかなあ 颯爽と目の前を過ぎ去ったなあ
一昨年 桜を見たくて青山墓地をうろうろした春
そうだ そう言えばこのあたりに ZUZUが眠っているはずと 探し回ったっけ……
それは クリスチャンの共同墓地にあって
あれ? 加藤和彦さんとは別なんだ? なんて……
誰にも気づかれることなく わずかに刻まれた本名だけが そこにいる証なのだろう
できる限りの多くを思い出し でも言葉はひと言も現れず 手を合わせ一礼しただけの墓前
桜はそれとは関係なく 見事に咲き誇り
巡る春にはまた 多くを思い出させるわけですね 多くを惜しませるわけですね
会いたかった人
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・店舗は、実在のものとは関係ありません。
本作は安井かずみ氏の作品と時代への敬意から生まれた創作であり、史実とは異なる創作を含みます。
紹介文
オレンジの時間――会いたかった人――
会えなかった人にも、ちゃんと朝は来るわ。
五十八歳の春。
桜を見に出かけた男は、青山墓地で、ずっと会いたかった女性の墓を探し当てる。
けれど、墓前に立った途端、用意してきた言葉は、ひとつも出てこなかった。
手を合わせ、一礼する。
それだけで終わるはずだった。
肩に落ちてきたのは、桜色ではない、橙色の花びら。
その花びらに導かれた先にあったのは、時を失くした人だけが訪れるという、不思議な窓口だった。
渡された切符は、一九六四年、春、六本木。
そこで男が出会ったのは、まだ誰にも知られていない、若き日のひとりの女性だった。
軽くあしらわれ、冷たいミルクを勧められ、オレンジ色のスポーツカーで夜の街を走る。
そして、思いがけず目にする、母が母になる前の姿。
もしも、過去を変えられるとしたら。
もしも、会いたかった人に、ひと言だけ伝えられるとしたら。
男は何を語り、何を胸に残して帰るのか。
これは、時間を越えた不思議な一夜の物語であり、失われた時間と、会えなかった人への思いを描く、静かなSF小説です。
巻末には、この物語の原点となった詩『ZUZUのいた時代』を収録。
会いたかった人がいるすべての人へ。
あなたの胸にも、忘れられないオレンジ色の時間はありますか。


