背番号00の男
――第六週のヘッドコーチ――
まえがき
病室の白い天井を見上げた経験のある方は、どれくらいいるでしょうか。
規則的に点滅する非常灯の緑、消毒液の匂い、そして明日へのささやかな不安。そんな静かな夜、人は時として、現実の壁を軽々と飛び越えてしまうほどの「妄想」や「願い」を抱くことがあります。
もしも、その一瞬の妄想が、大陸と時間を越えて現実に溶け出していったら――。
本作は、手術を翌朝に控えた中年男が、ベッドの上で抱いた「いっそ僕に、大好きなNFLチームのヘッドコーチを任せてくれたら」という小さなたわごとから始まる物語です。
五十を過ぎ、プロの経験など一度もない男。けれど彼の中には、青春時代に諦めた夢の残り火と、息子たちの背中越しに重ねてきた戦術への情熱がありました。
夢と現実、そして「選ばなかったもうひとつの人生(可能性)」が交差する不思議な数日間。アメフトファンの方はもちろん、かつて何かに夢中になり、今も胸の奥に小さな情熱を眠らせているすべての方に届くことを願っています。
それでは、病室の静けさと、十万人のがん首が揺れるスタジアムの熱狂が混ざり合う物語へ、どうぞお入りください。
一章 五連敗の夜
病室の天井というものは、どうしてこうも白いのだろう。
白いだけではない。夜になると、非常灯のかすかな緑が染み込んで、白とも灰ともつかない色になる。僕はその色を、もう三日ほど眺めている。
春先に受けた手術に、落ち度があった。執刀医は誠実な人で、頭を下げながら、再手術という言葉をできるだけ穏やかに口にした。僕は怒る気にもなれなかった。ただ「そうですか」と答え、それが明日の朝九時に決まった。
消灯は九時だが、眠れるはずもない。僕はベッドの上でスマホを握りしめ、画面の青白い光だけを頼りに、遠い国の出来事を眺めていた。
野球のほうは、いよいよ大詰めである。優勝まであと何勝か、どこが何敗すれば逆転されるのか。生中継の画面の隅には、そんな計算がいつも小さく表示されている。数字は見ていて気持ちがいい。勝てば減り、負ければ増える。単純で、公平で、誰にも文句のつけようがない。
けれど、僕の気持ちが本当に向かっているのは、そちらではなかった。
NFLは開幕して、すでに五週を終えている。そして、ロサンゼルス・チャージャーズ。僕が二十年近く、時差も距離も言葉の壁も越えて応援してきたチームは、まさかの五連敗を喫していた。
「なにやっとんだ」
声に出してみた。小さな病室の壁に、その声は吸い込まれるように消えた。大陸の向こうには、どう転んでも届かない。
去年のシーズンを観て、僕は確信していたのだ。オフェンスラインさえ揃え直せば、今年はいける、と。クォーターバックを守る壁が厚くなれば、あとは才能が勝手に花開く。そんなふうにニヤニヤしながら、開幕を待っていた。夏のあいだじゅう、ひとりで勝手にスーパーボウルのパレードの段取りまで考えていた。
結果が、この始末である。
しかも、次週の相手は宿敵チーフスだ。この体制のまま当たれば、結果は火を見るより明らかだった。六連敗。僕は画面を指で弾くように閉じかけて、やめた。閉じたところで、病室の天井の色は変わらない。
「いっそ、僕にヘッドコーチを任せてくれたら」
口にした瞬間、自分で笑ってしまった。五十を過ぎた、手術待ちの中年男が、何をほざいているのか。
僕はプロの選手だったことなど一度もない。ただ、息子ふたりが大学のアメリカンフットボール部に入ってから、ホワイトボードに向かい合う彼らの背中を横で見ているうちに、いつの間にか戦術の本を読み漁るようになっていた。プロの世界では、作戦はあまりに洗練されている。洗練されているからこそ、読まれる。学生たちのやり方のほうが、ずっと乱暴で、ずっと予測しにくい。そんなことを、酔うたびに息子たちに語って、呆れられていた。
画面の中で、チャージャーズのパス失敗の映像が、繰り返し再生されていた。ラインが崩れ、クォーターバックが倒される。同じ場面が、角度を変えて何度も何度も流れる。
僕は目を閉じた。
「明日が終われば、また観られる」
そう自分に言い聞かせたところまでは、覚えている。まぶたの裏の暗がりに、スマホの光の残像がゆっくり溶けていって、僕はそのまま、眠りの底へ落ちていった。
非常灯の緑は、最後までそこにあった。それがやがて、ごく小さな、規則正しい点滅に変わったことに、僕は気づかなかった。
二章 屋上に降りたもの
最初に聞こえたのは、ヘリコプターのローターの音だった。
ばらばらばら、という重い音が、病棟全体を震わせていた。窓ガラスが共鳴して、ベッドの柵まで細かく鳴っている。夢にしては、振動があまりに生々しい。
そして次の瞬間、廊下を誰かが走ってくる足音が聞こえた。革靴だ。それも、かなり高価な。
ナースステーションの前を、その足音は無視して通り過ぎたらしい。夜勤の看護師さんの「ちょっと、あの、困ります」という声が、どんどん遠ざかっていく。そして、僕の病室の扉が、勢いよく開いた。
「ここか! ここにいたのか!」
白髪をきれいに撫でつけた、背の高い外国人が立っていた。仕立てのいいコートの肩に、夜気と、ほんの少しの航空燃料の匂いをまとっている。胸元に、見覚えのあるロゴのピンバッジが光っていた。稲妻のマーク。
「あなたは」
「ハルトンだ。ジャック・ハルトン。チャージャーズのオーナーだ」
そう名乗って、彼は僕の手を、いきなり両手で握りしめた。
「すぐに来てくれ。今すぐに。一緒に来てくれ」
僕は、まだ状況をうまく呑み込めていなかった。夢の中では、疑問がいつも半拍遅れて追いかけてくる。
「何を、ですか」
「ヘッドコーチだ。うちのヘッドコーチを、君に頼みたい」
僕は思わず笑ってしまった。
「僕が、ですか」
「そうだ。君だ」
オーナーの目は、冗談を言う人の目ではなかった。青灰色の瞳が、真っ直ぐに僕を射抜いていた。
「君の書き込みは読んでいる。オフェンスラインの補強に関する提案。リーグ全体の守備のクセを、学生の作戦と比べた分析。あれを三年前から、うちのスタッフは密かに読んでいた」
ここで普通の人なら「いや、そんな書き込みはしていない」と思うところだろう。確かに僕は、匿名で、ささやかな掲示板に、思いついたことを書き散らしたことがある。それを誰かが読んでいたなど、考えたこともなかった。
だが夢の中の僕は、納得してしまった。ああ、そうか、と。
「もう第六週だ。今、立て直さなければ、間に合わない」
「わかりました」
自分でも驚くほど、あっさりと言葉が出た。
「ただ、残念ながら、明日の朝が手術なんです。一か月ほど待っていただけませんか」
苦笑いしながらそう告げると、オーナーは一瞬だけ黙り込み、それから大きく、満面に微笑んだ。
「ならば、その手術ごと連れていこう」
「は?」
「執刀医も、麻酔科も、看護チームも、全員だ。機材ごとな。我が社の専用ジェットは、手術室を積んである。上空でやればいい」
「そんなことが」
「できるから、言っている」
オーナーが指を鳴らすと、扉の向こうから、白衣の一団が静かに入ってきた。見覚えのある執刀医がいる。無言のまま、僕に頭を下げた。その後ろに、見たことのない顔の医師が五人、六人。全員が同じ歩幅で、同じ静けさで、病室に入り込んできた。
彼らは誰も、一言も口をきかなかった。
僕のベッドは、いつの間にかストレッチャーに変わっていた。廊下の天井灯が、規則正しい間隔で、頭の上を流れていく。エレベーターではなく、非常階段でもなく、屋上へまっすぐ上がる見知らぬ通路を、僕は運ばれていった。
屋上のヘリポートには、黒い大きなヘリが、ローターを回したまま待っていた。羽田へ、と誰かが言う。空はまだ濃い夜で、東京の街の灯りが、眼下に砂金のように広がっていた。
羽田の駐機場には、すでにジェットが待機していた。機体の尾翼に、稲妻のマーク。
機内に入ると、客室のはずの空間が、まるごと手術室になっていた。無影灯。モニター。麻酔器。壁には、見慣れた手術用具が整然と並んでいる。まるで、病院の一室を、そのまま機体に折り畳んで押し込んだようだった。
「揺れは、ほとんど感じない設計だ」
オーナーが誇らしげに言った。僕は、ストレッチャーから手術台へ移される。腕に、冷たい液体が入っていく。
「では、始めましょう」
執刀医の、聞き慣れた穏やかな声。
「カウントを。十から、ゆっくり」
「十、九、八」
七、まで言えたかどうか。
窓の外で、滑走路の灯りが後ろへ流れ始めたのを、僕は最後にかすかに見た。それはやがて、ひとつの細い光の線になり、そして、消えた。
三章 世界で初めての日本人ヘッドコーチ
麻酔から覚めたとき、僕の腕には、もう点滴の針は刺さっていなかった。
痛みもない。違和感もない。手術は無事に終わった、と誰かが言った。誰が言ったのかはわからない。ただ、その言葉は、ひどく当たり前の事実のように、僕の頭に染み込んだ。
窓の外には、青い空と、見たこともない形の椰子の木があった。ロサンゼルスだ。時計は、午前十時。僕が羽田で眠ってから、何時間が経ったのだろう。計算しようとしたが、頭のなかで数字が、うまく並ばなかった。
「お目覚めか、コーチ」
扉の前に、ハルトンオーナーが立っていた。昨夜と同じコートのまま、少しも疲れた様子がない。
「着替えて、グラウンドへ行こう。選手たちが待っている」
手術の翌日にグラウンドへ、と普通なら止めるところだろう。だが、僕の身体は、不思議なほど軽かった。用意されていた、紺と金色のジャージに袖を通すと、サイズはぴたりと合った。胸には、僕の名前が日本語で刺繍されていた。
練習施設は、潮の匂いのする広い敷地の中にあった。緑の人工芝が、地平線まで続いているように見える。そこに、選手たちが整列していた。百九十センチ、百三十キロ。そんな男たちが、無言で僕を見ていた。
僕はマイクを持たされた。深く息を吸い込んだ。
「初めまして。日本から来ました。NFL史上初の、日本人ヘッドコーチ、だそうです」
誰も笑わなかった。当然だ。僕の経歴は、せいぜい息子たちの試合を観ていたくらいなのだから。
「五連敗。みなさん、悔しいでしょう。僕も、悔しい。たぶん、このなかの誰よりも長い時間、このチームの負けを観てきたと思います」
そこで、一人の巨漢が、小さく鼻を鳴らした。ライトタックルの男だった。
「僕は、みなさんの能力を疑っていません。みなさんは、世界で最も優れた、アメリカンフットボール選手たちです。ただ、勝てなかった。その理由は、能力ではなく、予測されていることだと思います」
僕は、続けた。
「今日から、スタッフを入れ替えます」
ざわめきが、グラウンドを走った。ハルトンは、少しだけ口元を緩めた。彼は、僕がそう言うのを、知っていたのかもしれない。
「コーチ陣を、全員、入れ替えます」
その日の夕方に、彼らはやってきた。
息子たちの大学の、アメリカンフットボール部の仲間たち。コーチ、トレーナー、分析担当、学生スタッフ。総勢、三十二人。僕が、どうやって連絡を取ったのか、それは覚えていない。ただ、気づけば彼らは、ジャージ姿でグラウンドの端に並んでいた。息子たちの顔もあった。長男は照れくさそうに目をそらし、次男は、悪戯を企む子供のように笑っていた。
「父さん、本気なの?」
「本気だ」
「プロの前で、俺たちが、ですか」
部長の青年が言った。ケンタ、という名前だった。眼鏡をかけて、いつもノートを持ち歩いている、痩せた青年だ。
「プロの作戦は、洗練されている。だからこそ読まれる。君たちのやり方のほうが、乱暴で、予測しにくい。それが、最大の武器になる」
選手たちは、半信半疑だった。当然だろう。自分たちの練習メニューを、二十歳の学生が書き換えようとしているのだから。
しかし、練習が始まって三日目の夜、変化が起きた。
ホワイトボードの前で、ケンタが、一枚の図を描いた。それは、普通ならありえない配置だった。ラインマンがレシーバーの位置に立ち、レシーバーがラインの中に潜り込んでいる。守備側が混乱するのは明らかだった。
「これ、反則では」
ベテランのセンターが言った。
「ルール上は、問題ない」
ケンタは、ルールブックのページを開いて、指で示した。
選手たちが、ホワイトボードのまわりに集まった。一人、また一人。最初は腕を組んで、見下ろすようにしていた巨漢たちが、やがてペンを握り、図に線を足していった。
その光景を見ながら、僕は、ひどく不思議な感覚に襲われていた。
僕は、こんな光景を、いつかどこかで見たことがある。
夢のなかの夢、のような感覚。誰かが、僕の頭のなかの映画を、そっくり現実に再生しているような。
「コーチ」
背後から、声がした。振り返ると、白衣の医師が立っていた。僕の手術を担当した、あの無言の医師団のひとりだ。彼は何も言わずに、小さなメモを僕に差し出した。そこには、短い文字が書かれていた。
「縫合部、問題なし。ただし、あなたの時間は、少しだけ、ずれています」
僕がその意味を尋ねようとしたとき、彼はもう、いなかった。
四章 宿敵との第六週
試合の朝、スタジアムは、巨大な生き物のように唸っていた。
チーフスとの対戦。宿敵。五連敗の僕らを、地元のファンはすでに半分見放していた。観客席のあちこちに掲げられた横断幕には、辛辣な言葉が並んでいた。
けれど、僕の心は静かだった。
ベンチに立つと、右手に、ケンタ。左手に、息子たち。そして、グラウンドには、プロ選手たち。そのすべてが、僕の視界に、きれいに収まっていた。
キックオフ。
最初の攻撃は、あえて、何もしなかった。ごく普通のランプレイを二回。相手に「ああ、やっぱり、いつもの彼らだ」と思わせるための、最初の捨て石だ。三回目のパスは、わざと失敗させた。パントで攻守が入れ替わる。スタンドからため息が降ってきた。
「いい感じです」
ケンタが、小さく呟いた。
第一クォーターの終盤、ようやく、僕らは最初の札を切った。
ラインマンが、レシーバーの位置に立つ。レシーバーが、ラインの内側へ潜る。審判が、ちらりとこちらを見た。ルールの範囲内だ。そこへ、フォーメーションが整う前の、わずか二秒。クォーターバックが、ボールを後ろへ放る。
走り込んでいたのは、体重百三十キロのラインマンだった。
彼は、誰も予想していなかった動きで、ボールを受け取り、そのまま、ゆっくりと走り出した。守備陣は、最初、それが何の冗談なのか理解できなかった。気づいたときには、彼はもう、二十ヤードを進んでいた。
スタンドが、爆発した。
「あれは、何だ」
チーフスのコーチ陣が、サイドラインで怒鳴っている声が、風に乗って聞こえてきた。
その日、僕らは、十二種類の「ありえない」プレイを使った。学生たちの図面から生まれた、どれも教科書には載っていない作戦ばかりだった。プロの守備は、パターンを認識して動く。認識できないものには、反応が遅れる。その遅れが、ほんの一瞬、積み重なっていく。
結果は、二十八対二十四。
終了のホイッスルが鳴ったとき、スタジアムは、しばらく静まり返っていた。それから、遅れてきた爆音が、空気全体を揺らした。
「勝った」
息子の次男が、呆然と言った。
「勝ったよ、父さん」
僕は、うなずいた。うなずくのが精一杯だった。喉の奥から、何かが込み上げてきて、言葉にならなかった。
控室に戻ると、ハルトンオーナーが、シャンパンの代わりに、ミネラルウォーターのボトルを、僕に手渡した。
「君は、約束を守った」
「まだ、一勝です」
「一勝が、いちばん難しい」
彼はそう言って、窓の外を見た。夕陽が、スタジアムの縁を橙色に染めていた。その横顔が、ほんの少しだけ、ぼやけて見えた。輪郭が、水に滲んだ絵の具のように、一瞬揺らいだ気がした。
僕は、目をこすった。もう一度見ると、彼は、いつもの彼だった。
それから、僕らは、勝ち続けた。
七週目、八週目、九週目。十週を超えるころには、リーグじゅうの解説者が、「あのチームは何をしているんだ」と口を揃えるようになっていた。僕らは連勝を重ね、いつの間にか、地区首位に立っていた。プレーオフを勝ち抜き、カンファレンス決勝を制し、そして、ついに。
スーパーボウルへの切符を、手にしていた。
五章 連勝の季節
勝ち続けるというのは、思っていたよりも、ずっと静かな出来事だった。
水曜日の朝には、前の試合の映像を全員で見直す。木曜日には、学生スタッフたちが新しい図面を持ってくる。金曜日には、それを芝の上で試す。土曜日には、何もしない。日曜日の夜に、試合がある。そして月曜日になると、新聞とテレビが、僕らのことを「奇跡」と呼ぶ。
その繰り返しが、いつの間にか、僕の暮らしのすべてになっていた。
けれど、勝利が積み重なるほどに、僕は、小さな違和感を数えるようになった。
最初に気づいたのは、曜日だった。
ある水曜日の朝、僕は、いつものように会議室へ入って、ホワイトボードの前に立った。そして、何気なく、壁のカレンダーを見た。そこには、水曜日が、二回、並んでいた。
「二日続けて、水曜日ですよ」
次男が、不思議そうに言った。彼は、寮の部屋にあった、洗濯物の山を指さした。
「昨日、洗ったはずなのに、また山になってるんです」
「疲れているんだろう」
そう答えたけれど、僕自身も、同じ水曜日を、一度生きた記憶があった。二度目の水曜日の朝食に出てきたオムレツの、焦げ目の位置まで、はっきりと覚えていたのだ。
「コーチ、おかしいと思いませんか」
ケンタが、ある夜、僕の部屋を訪ねてきた。彼は、手に、分厚い大学ノートを抱えていた。
「僕、この数週間の出来事を、全部、書き留めているんです。日付と、時刻と、出来事。それを並べ直してみたら、いくつか、矛盾が出てきました」
ノートを開く。細かい文字が、几帳面に並んでいた。
「たとえば、第七週の試合は、日曜日の夜に行われています。でも、その試合の三日前の練習で、僕らは、すでに、試合の展開を、知っていた」
「知っていた?」
「はい。木曜日のミーティングで、僕は、『第四クォーターで、相手がブリッツを多用してくる』と言いました。実際、その通りになった。でも、僕が、そう言った理由を、思い出せないんです。まるで、誰かに、教えてもらったみたいに」
僕は、息を止めた。
「それは、君の、分析の結果じゃないのか」
「そうだと、思いたいです。でも、ノートの余白に、僕の字じゃない文字が、混ざっているんです」
ケンタは、あるページを、指さした。そこには、端正な、けれど、どこか古めかしい筆跡で、短い文章が、書き込まれていた。
〈三十八ヤード地点のあとで、必ず、雨が降る〉
実際、その試合の、まさにその場面で、スタジアムに、細かな雨が降り出した。天気予報は、一日じゅう、晴れだった。
「誰が、書いたんだ」
「わかりません。ただ、筆跡は、コーチに、よく似ています」
僕は、その文字を、じっと見つめた。確かに、僕の字に、似ていた。けれど、僕は、そんなことを書いた覚えは、ない。
「ケンタ君。この件は、しばらく、誰にも言わないでおこう」
「はい」
「ただ、記録は、続けてくれ」
彼は、深く頷いた。ノートを抱えて部屋を出ていく背中が、ほんの少しだけ、透けて見えた気がした。廊下の蛍光灯の光が、彼の肩を、素通りしたように。
僕は、目をこすった。
それから、息子たちの様子を、思い出した。長男と次男は、日に日に、無口になっていた。食堂で、僕と向かい合って座っても、箸を動かしながら、時々、遠くを見るような目をする。
ある夜、長男が、ぽつりと言った。
「父さん。俺たち、いつ、日本に帰るんだっけ」
「シーズンが終わったら、だな」
「そうだよね」
長男は、うなずいた。それから、小さな声で、続けた。
「でも、日本の家のことを、思い出そうとすると、輪郭が、うまく浮かばないんだ。リビングのソファの色とか。母さんの、笑った顔とか」
僕は、胸の奥に、冷たいものが落ちるのを、感じた。
「疲れているんだ。ゆっくり休め」
「うん」
長男は、そう言って、席を立った。その背中を、僕は、黙って見送った。
食堂の窓の外では、ロサンゼルスの夜空に、星のない闇が、広がっていた。
星のない空。それは、僕が夢のなかの夢で見た、あの空と、同じ色をしていた。
六章 時差のずれた手術痕
スーパーボウルの二週間前、僕は、ひどく奇妙なことに気づいた。
手術の傷が、治っていないのだ。
いや、正確には、治りすぎていた。三か月前に執刀された跡が、まるで昨日縫われたばかりのように、赤く生々しいまま、そこにあった。かと思えば、ある朝には、それが、薄い白い線になっていた。何年も前の古傷のように。
鏡の前で、僕は何度もその傷を撫でた。傷の様子は、日によって違った。まるで、時間の流れが、僕の身体の上だけで、揺れているようだった。
あの白衣の医師に、問いただそうとした。けれど、彼らは、あの日以来、僕の前に姿を見せなかった。練習場にも、宿舎にも、病院にも。調べれば調べるほど、「あの手術チーム」は、どこにも存在していないことがわかった。
ハルトンオーナーに尋ねた。
「ああ、彼らか。腕のいい連中だったろう」
彼は、それだけ答えた。それ以上は、何も教えてくれなかった。
その夜、僕は眠れなかった。部屋の窓の外には、ロサンゼルスの街の灯りが、遠い海のように広がっていた。起き上がって、水を飲みに廊下へ出ると、チームのロッカールームの扉が、少しだけ開いているのが見えた。
中に入ると、誰もいなかった。ただ、一番奥のロッカーだけが、半開きになっていた。
そこに、ひとつのジャージが、ぶら下がっていた。
背番号は、ゼロ。ゼロ、ゼロ。二つのゼロが並んでいる。名前の部分には、何も刺繍されていなかった。
「ダミー、と呼ばれている」
背後から、声がした。ケンタだった。いつもの眼鏡の奥で、彼の目が、ひどく真剣に光っていた。
「ケンタ君」
「コーチ。僕、ずっと気になっていたんです。このチームの登録選手名簿に、ひとり、誰も顔を知らない選手がいる。セカンドクォーターバック、背番号ゼロゼロ。練習にも出ない。ロッカーにも、荷物がない。なのに、毎週、ベンチ入りメンバーの名簿には、名前だけが載っている」
「誰が、登録したんだ」
「それが、わからないんです。ハルトンオーナーの署名はあるのに、本人は、そんな登録はしていないと言う」
僕は、ロッカーの中のジャージに手を伸ばした。布は、冷たかった。けれど、触れた指先から、ふいに、何か懐かしい温度が、腕を伝って上がってきた。
それは、まるで、誰かの体温を、僕の身体が覚えているような感覚だった。
「コーチ」
ケンタが、小さな声で言った。
「このジャージ、コーチの背丈に、ぴったりなんです」
僕は、黙っていた。
その夜、夢を見た。夢のなかで、僕は、見たこともないほど広いスタジアムの真ん中に立っていた。観客席は、すべて空っぽだった。足もとの芝は、青白く光っていて、頭上には、星のない夜空が広がっていた。
遠くから、誰かが、僕の名前を呼んでいた。
呼んでいる声は、どこか、僕自身の声に、似ていた。
七章 前夜のオーナー
スーパーボウルの前夜、僕は、ハルトンオーナーに呼び出された。
場所は、練習施設の屋上だった。あの日、ヘリで降り立ったヘリポートのような、がらんとした空間。ただ、そこには、ヘリの姿はなく、折りたたみの椅子が、二つ並んでいるだけだった。
「座りたまえ」
オーナーは、いつものコート姿で、海のほうを見ていた。夜の太平洋は、暗い布のように、静かに広がっていた。
「君に、話しておかなければならないことがある」
「手術の、ことですか」
「それも、含めてね」
僕は、椅子に腰を下ろした。夜風が、頬を撫でた。冷たくも、暖かくもない。まるで、温度というものが、最初から存在しないかのような風だった。
「私は、実在の人間ではない」
オーナーは、あっさりと、そう言った。
僕は、驚かなかった。この数か月、心の奥のどこかで、その言葉を待っていたような気がした。
「では、あなたは」
「君が、あの夜、病室で、最後に思ったことだよ。『僕にヘッドコーチを任せてくれたら』という、あの小さな願い。それが、形を持った。それが、私だ」
オーナーは、自分の手を、月明かりにかざした。指先が、うっすらと透けていた。
「正確には、君の希望と、君の恐れが、半分ずつ混ざってできた存在だ。希望は、私に、青灰色の瞳を与えた。恐れは、私に、あの屋上のヘリの音を、与えた」
「恐れ?」
「手術前夜の、怖さだよ。心臓が、早鐘を打っていた。誰かが、突然、私を連れ去ってくれないか。この明日から、逃がしてくれないか。そう願った。それが、ヘリの、羽音になった」
僕は、言葉を失った。
「でも、これは、夢なんですよね」
「夢、という言葉は、便利だが、不正確だ」
オーナーは、静かに首を振った。
「君は、眠っている。確かに、あの病室で。けれど、君の意識は、眠りのなかで、別の層へ、降りていった。そこでは、物事が、現実と、同じくらい確かに、起きる。あの試合も。ケンタ君のノートも。息子さんたちの、気配も」
「息子たちは、本物ですか」
オーナーは、少しだけ、黙った。
「彼らは、君の記憶から、組み上げられている。けれど、組み上げられたものにも、想いは宿る。君の長男さんが、『日本の家の輪郭が浮かばない』と言ったのは、彼が、君の記憶の中の、不完全な部分だからだ」
僕の胸に、鈍い痛みが走った。
「じゃあ、僕が、目覚めたら」
「彼らは、消える。いや、正確には、君の記憶のなかへ、戻っていく」
月が、雲の隙間から顔を出して、オーナーの横顔を、青白く照らした。
「悲しまなくていい。彼らは、君が思い出すたびに、何度でも、現れる」
「あなたは、どうなるんですか」
「私は、いちばん最初に、消える」
オーナーは、微笑んだ。その笑みは、あの夜、病室の扉を蹴破って入ってきたときと、同じ種類の、まっすぐな温かさを持っていた。
「だから、今夜のうちに、伝えておきたかった。君が、あの一言を口にしてくれて、よかった。『僕にヘッドコーチを任せてくれたら』。あの言葉が、私を、この世に呼んだ。そして、私は、とても、楽しかった」
僕は、うつむいた。目の奥が、熱かった。
「僕も、楽しかったです」
「そうか」
オーナーは、立ち上がった。コートの裾が、風に揺れた。
「明日の試合で、何が起きても、驚かないでくれ。君は、君が思っているより、ずっと、遠くまで行ける」
「遠くまで」
「そう。たとえば、自分自身の、内側までね」
彼は、それだけ言って、屋上の暗がりへと、歩いていった。足音は、聞こえなかった。扉が閉まる音も、なかった。ただ、気がつくと、折りたたみの椅子が、一つだけ、そこに残っていた。
僕は、しばらく、夜の海を眺めていた。
星のない空。静かな波。そして、遠くで、ひとつだけ、ぽつんと光る灯り。
それは、ジェットの翼灯のようにも、病室の非常灯のようにも、見えた。
八章 第一クォーターの神様
スーパーボウルの朝は、不自然なほど、静かな青空だった。
試合前のロッカールームでは、選手たちが、円陣を組んでいた。僕は、短く言った。
「今日、僕らが使うのは、全部、これまでの作戦だ。新しいものはない。やってきたことを、信じるだけだ」
選手たちの目は、よく澄んでいた。十数週前の、うつむいていた彼らは、もうどこにもいなかった。
キックオフ。
序盤から、試合は激しく動いた。相手は、堂々と勝ち上がってきた強豪だった。守備の組織力は、チーフスとは別格だった。僕らの奇襲は、最初の数回は通じた。けれど、相手もすぐに順応した。さすが、世界最高峰の舞台だ。
第一クォーター、残り三分。
僕は、サイドラインから、一人の選手の動きを見ていた。クォーターバックだ。チームの、頼りの司令塔。彼が、パスを投げようとして、後ろへ下がる。
その瞬間、相手のラインバッカーが、死角から突っ込んだ。
鈍い音が、スタジアムの空気を裂いた。
クォーターバックは、芝の上に倒れたまま、動かなかった。足が、おかしな方向を向いていた。
メディカルスタッフが走る。観客席が、一斉に静まり返る。ストレッチャーが運ばれてくる。僕は、ただ、立ち尽くしていた。
「これは、困った」
声に出してしまった。次がいない。
サードのクォーターバックは、前の週に負傷して、すでにロースターから外れていた。セカンドは、いない。ベンチには、クォーターバックの経験のない選手が、数人いるだけだった。
その時だった。
僕の隣に、誰かが立っていた。
気配も、足音も、なかった。ただ、気づいたときには、そこにいた。灰色のコートを着た、小柄な老人だった。白い髪、深い皺、そして、どこか懐かしい微笑み。顔のつくりは、日本人とも、そうでないともつかない。ベンチの喧騒のなかで、彼のまわりだけが、音のない水槽のように静まっていた。
「困っているね」
「あなたは」
「神様、と呼ばれることが多い。ただし、ここでは、君たちの言葉に、合わせさせてもらうよ」
僕は、不思議と、驚かなかった。この数か月の出来事が、すでに僕の「驚き」の許容量を、遥かに超えていたからかもしれない。
「キミが、そこへ行く」
老人は、グラウンドの真ん中を、指さした。
「えっ? 僕が、ですか」
「そうだよ。キミが、だよ」
「僕は、ヘッドコーチです。選手登録は、していません」
「そんなこともあろうかと、セカンドクォーターバックを、ダミーで入れておいた」
老人の口調は、まるで、レストランで、あらかじめ席を取っておいたとでも言うような、軽さだった。
「背番号、ゼロゼロ」
僕は、ケンタと目を合わせた。彼は、凍りついたように、頷いた。
「その姿の中へ、キミの意識だけを、入り込ませる。そして、思う存分、暴れてくれ」
「待ってください」
僕は、声を震わせた。
「あなたは、誰なんですか。あの手術は。ジェットは。オーナーは。あれは、何だったんですか」
老人は、ゆっくりと、僕のほうを向いた。その目の奥に、一瞬、無数の星が回っているのが、見えた。
「質問が、多いね。いい兆候だ」
老人は、僕の肩に、軽く手を置いた。
「全部、試合のあとに、答えよう。今は、時間がない」
ベンチの向こうでは、審判が、ゲームの再開を促していた。観客席から、ざわめきが戻り始めている。時間が、止まっていたわけではなかったのだ。
「行きたまえ」
老人が、僕の背中を、そっと押した。
その瞬間、足もとの地面が、消えた。
九章 ダミーの内側
最初に感じたのは、重さだった。
肩にかかるパッドの重さ。ヘルメットの圧迫感。手のひらに触れる革の、独特の手触り。そして、鼻の奥に流れ込んでくる、芝と汗と土の匂い。
僕は、グラウンドの真ん中に立っていた。
自分の手を見た。大きく、ごつごつした、若い男の手だった。僕の手ではない。けれど、動かそうと思えば、僕の意思どおりに、指が一本ずつ動いた。
背中のジャージを、誰かが掴んで引き寄せた。ラインマンの巨漢だった。
「ゼロゼロ。作戦は、八番。ヘッドコーチのサインだ」
八番。それは、ケンタが三週前に、ホワイトボードに描いた、あのラインとレシーバーが入れ替わる配置だった。
僕は、頷いた。
ハドルを組む。十人の男の顔が、僕を見ていた。ヘルメットの奥の目は、不安と期待が、半分ずつ混ざっていた。彼らは、僕がダミーだと、知らない。ただ、「今日、突然現れた、控えのクォーターバック」を、信じようとしていた。
「みんな」
僕の口から、僕の声ではない声が、出た。低く、よく通る声。
「この八番は、ヘッドコーチが、学生たちと作った、このチームだけの作戦だ。プロの誰も知らない。だから、必ず通る」
それは、確信だった。僕自身の、胸の奥の。
「俺を信じろ。いや、あの人を信じろ」
ブレイク。
センターの後ろに立つ。ボールがスナップされる。その動作の、あまりにも滑らかな感触に、僕の意識は、一瞬、遠のいた。この身体は、すべてを知っていた。ボールを握る角度。ステップの幅。投げ出す直前の、腰のひねり。僕が一度も経験したことのない動きが、水が流れるように、僕のなかを通り抜けていった。
投げた。
ボールは、青い空を、きれいな弧を描いて飛んだ。受け止めたのは、ラインの位置から飛び出した、あのライトタックルだった。体重百三十キロの男が、ボールを抱え、ゴールラインへ向かって走り出した。スタジアムが、ひっくり返ったような歓声に包まれた。
タッチダウン。
その後の三クォーターは、記憶が、断片的だ。
僕は、投げた。走った。倒された。起き上がった。ケンタの作戦が、一つ、また一つ、相手の守備を剥がしていく。そのたびに、身体の奥から、不思議な声が、聞こえてきた。
──よくやった。
──その調子だ。
その声は、どこか、聞き覚えがあった。少し低くて、慎重で、でも、どこか照れたような響き。
僕は、気づいた。
それは、僕の声だった。
この身体の持ち主の意識が、僕の意識の、すぐ隣にいた。ダミーと呼ばれたこの選手は、空っぽではなかった。誰かの、可能性の、残響のようなものだった。僕が選ばなかった道。僕が諦めた夢。大学時代に、足の怪我で、あきらめたクォーターバックの夢。それが、この身体に、形を与えられて、眠っていたのだ。
──ずっと、待っていたよ。
その声に、僕は、胸の奥が熱くなるのを、感じた。
第四クォーター、残り一分。
スコアは、二十七対三十。僕らは、三点を追っていた。ボールは、自陣三十ヤード。相手は、最後の守備を固めてきていた。
ハドルのなかで、ラインマンが、僕に尋ねた。
「ゼロゼロ。サインは」
僕は、サイドラインの方向を見た。そこには、ケンタが、腕を組んで立っていた。彼は、小さな動作で、指を二本、立てた。
二番。それは、ケンタが、一度も練習で使ったことのない、封印された作戦だった。
「二番だ」
僕が言うと、ハドルの全員が、目を見開いた。
「あれは、ホワイトボードの隅にあった、冗談じゃなかったのか」
「冗談じゃない」
僕は、笑った。
「でも、ヘッドコーチが一番、冗談を愛する人だ」
スナップ。
僕は、後ろへ下がった。ラインが、壁を作る。レシーバーが、四人、四方向へ散る。相手の守備が、一斉に、そちらへ引き寄せられる。ここまでは、普通のパスプレイだ。
ところが、僕は、投げなかった。
ボールを、胸に抱え込んだまま、まっすぐ、前へ走り出した。
クォーターバックの、キープ。誰も、予想していなかった。ラインバッカーが、一瞬、僕を見失った。その隙に、僕は、芝の上を、駆け抜けた。
ゴールラインまで、あと十ヤード。
あと五ヤード。
あと、三ヤード。
背後から、足音が迫ってくる。相手のセーフティが、全速力で追ってきていた。僕は、ボールを高く掲げ、ゴールラインの向こうへ、身体ごと飛び込んだ。
衝撃。
世界が、真っ白になった。
観客席の歓声が、遠くの波の音のように、薄れていく。その白のなかで、あの老人の声が、静かに響いた。
「お疲れさま」
「僕は」
「勝ったよ。キミたちは」
「あなたは、誰なんですか」
「質問に、答えよう」
老人の声は、優しかった。
「あのジェットは、実在した。あの手術も、実在した。ただ、手術は、成功しなかった」
僕は、息を呑んだ。
「いや、正確には、成功と失敗が、重なり合った。キミは、麻酔のなかで、二つの未来に、同時に分かれた。ひとつは、このダミーの内側。もうひとつは」
老人は、そこで、言葉を切った。
「もうひとつは、まだ、病室のベッドにいる」
十章 白い層
あの白いなかで、僕は、どのくらい、漂っていたのだろう。
足もとも、頭上も、なかった。右も、左も、なかった。ただ、均一な、光の濃淡だけが、僕を包んでいた。耳の奥で、スタジアムの歓声が、まだ、遠い潮騒のように鳴っていた。
「落ち着いたかね」
老人の声が、すぐ近くで、聞こえた。振り返ると、彼は、灰色のコートのまま、白の中に、浮かぶように立っていた。
「ここは」
「層と層の、あいだだ。人間の言葉では、うまく呼べない。夢の底、とでも言おうか」
「あなたは、神様なんですか」
「その呼び方も、悪くない。ただ、私は、キミが想像するような、全能の存在ではない。私は、観測者だ。数えきれないほどある、可能性の枝を、眺めている」
老人は、掌を、僕のほうへ差し出した。その上に、小さな光の粒が、ひとつ、浮かんだ。粒は、ゆっくりと、二つに分かれた。それぞれが、さらに二つに分かれ、やがて、無数の細かな光の網になって、白の中に広がった。
「世界は、選択のたびに、枝分かれする。キミが、あの日、手術を受けると決めた瞬間。麻酔のカウントを、七まで数えた瞬間。そのひとつひとつに、別の未来が、生まれている」
「でも、僕は、ひとりです」
「そう、見えるだけだ。キミの意識は、本当は、枝のすべてに、薄く広がっている。普段は、そのうちのひとつにだけ、焦点が合っている。けれど、手術のような、大きな揺らぎのときには、焦点が、ずれることがある」
老人は、光の網のなかの、ふたつの点を、指さした。
「こちらの枝では、キミは、手術室で、静かに目を覚ます。何も起きない。いつも通りの、治療の一日だ。そして、こちらの枝では」
もうひとつの点が、青白く、輝いた。
「キミは、遠い国の、選手の身体のなかで、ボールを投げている」
僕は、その光を、見つめた。
「あの、ダミーというのは」
「予備の人間、と呼ぶのが、近いだろう。ひとつの枝が、行き場を失ったとき、その意識を、一時的に預かる、空の器だ。通常は、誰の目にも、触れない。けれど、今回は、チャージャーズというチームが、あまりにも長く、負け続けていたせいで、枝が、ほころびかけていた」
「チームが、負けていたせいで」
「そう。大げさに聞こえるかもしれないが、キミが、毎晩、あの試合を、祈るように眺めていたことは、層の安定に、少なからず、影響を与えていた。ひとりの人間の、強い願いは、世界の継ぎ目を、動かす」
老人は、懐かしそうに、微笑んだ。
「だから、私たちは、選択をした。キミに、ボールを渡そう、と」
「どうして、僕なんですか」
「それは」
老人は、少し、言葉を探した。
「キミが、いちばん、あきらめていたから、かな」
僕は、息を呑んだ。
「大学時代の、足の怪我。あきらめた、あの夢。キミは、その後の人生を、とても立派に生きてきた。けれど、心のどこかに、置き去りにしたものがあった。それが、ダミーという器の、正体だ。キミ自身が、選ばなかった、キミ」
白の中で、遠い歓声が、ふいに、大きくなった。
「あの身体のなかで、キミは、自分の、可能性と、すれ違った。それで、十分なんだ」
「でも、僕の身体は」
「いま、病室で、静かに、眠っている。手術は、成功と、失敗の、重なりのなかにある。どちらに転ぶかは、キミの、戻り方次第だ」
「戻り方」
「そう。キミは、選ぶことができる」
老人は、光の網の、二つの点を、僕の前に、並べた。
「ひとつは、このまま、ダミーの身体で、生き続ける道。そこでは、キミは、選手として、シーズンを戦い続ける。息子さんたちも、ケンタ君も、そばにいる。ただし、元の世界の、キミは、二度と、目覚めない」
「もうひとつは」
「病室に、戻る道。そこでは、キミは、再び、普通の、五十代の男に戻る。ダミーの身体も、息子さんたちの、あの姿も、消える。ただし」
老人は、そこで、一度、言葉を切った。
「ただし、キミのなかに、あの記憶だけは、残る」
僕は、目を閉じた。
息子たちの顔が、浮かんだ。食堂で、無口になっていった、長男の背中。悪戯っぽく笑った、次男の目。そして、現実の彼らは、いま、日本の大学の、グラウンドで、きっと、練習をしている。僕が、目覚めるのを、待っている。
「戻ります」
「そうか」
老人は、驚かなかった。
「後悔は、しないかね」
「します。でも、戻ります。あの子たちの、本当の笑顔が、まだ、向こうにあるから」
老人は、深く、頷いた。
「いい選択だ」
彼が、指を、軽く鳴らした。白の中の、光の網が、静かに、ほどけていった。無数の点が、ひとつ、またひとつと、消えていく。最後に、ふたつの点だけが、残った。
そのうちの、ひとつが、すっと、遠ざかった。ダミーの身体のほうの、光だった。僕は、それを、静かに、見送った。
「ありがとう」
小さな声で、言った。誰に向けた言葉か、自分でも、わからなかった。
老人は、最後に、ひとつだけ、付け加えた。
「戻ったら、すぐには、信じられないかもしれない。けれど、紙切れを一枚、渡しに行く。それが、証拠になる」
「紙切れ」
「ああ。背番号の、ね」
白い光が、ゆっくりと、遠のいていった。まぶたの裏に、病室の天井の、青みがかった白が、染みるように、広がり始めた。
十一章 消えていくグラウンド
気がつくと、僕は、スタジアムの芝の上に立っていた。
観客は、いなかった。ゴールポストの向こうに、夜明け前の、薄い藍色の空が広がっている。照明は、すべて落とされていた。ただ、芝だけが、足もとで、ぼんやりと、青白く光っていた。
あの、夢のなかの夢で見た、スタジアムだった。
ダミーの身体は、もう、なかった。僕は、自分の、五十過ぎの、少し猫背の身体で、そこに立っていた。ジャージは、いつの間にか、病院の寝間着に変わっていた。
「父さん」
声が、背後から聞こえた。
振り返ると、長男と次男が、並んで立っていた。ふたりとも、ユニフォームのままだった。泥のついた膝。汗で張りついた前髪。僕が、いちばん好きだった、試合のあとの、息子たちの顔だった。
「終わったんだね」
長男が、静かに言った。
「ああ。勝ったよ」
「見てた。すごかった」
次男が、鼻の頭を、指でこすった。泣きそうなときの、小さい頃からの癖だった。
「俺たち、わかってるんだ。なんとなく、だけど」
「何を」
「父さんが、帰らなきゃいけないこと。それで、俺たちが、ここに、残らないこと」
僕は、何も言えなかった。喉の奥に、熱い石が詰まったようだった。
「ごめんな」
やっと、それだけ言った。
「謝ることじゃないよ」
長男が、首を振った。
「俺、本当は、ずっと、父さんに言いたかったことがあるんだ。ホワイトボードの前で、ひとりで、ブツブツ言ってたでしょ。プロより、学生の作戦のほうが面白いって。あれ、聞くたびに、恥ずかしかった。でも、本当は、嬉しかったんだ」
「嬉しかった?」
「父さんが、俺たちのやってることを、真剣に、考えてくれてるんだ、って」
次男が、続けた。
「だから、父さんが、ヘッドコーチをやるって、聞いたとき、全然、不思議じゃなかった。ああ、やっぱりな、って」
僕は、笑おうとした。けれど、口の端が、うまく上がらなかった。
芝の向こうから、もうひとり、歩いてくる影があった。眼鏡をかけた、痩せた青年。ケンタだった。彼は、いつもの大学ノートを、胸に抱えていた。
「コーチ」
「ケンタ君」
「僕、わかりました。ノートの、あの余白の字。あれは、コーチが、書いたんですね。未来の、コーチが」
「僕は、書いた覚えがないんだ」
「それでいいんです」
ケンタは、ノートを、僕のほうへ差し出した。
「これ、持っていってください」
「いいのか」
「僕は、コーチの記憶の中の、僕です。ノートも、コーチの、頭のなかにあるものです。だから、持っていくというより、思い出す、という感じになると思います」
僕は、ノートを、受け取った。表紙は、ざらざらとした、ごく普通の、大学ノートの手触りだった。
「ケンタ君」
「はい」
「ありがとう。君の作戦で、僕は、勝てた」
ケンタは、眼鏡を、指で押し上げた。目尻が、光っていた。
「コーチ。ひとつだけ、お願いがあります」
「何だ」
「現実の僕に、会ったら、僕の作戦を、笑わないでやってください。いつも、必死で、描いてるので」
僕は、声を出して、笑った。涙が、一緒に、こぼれた。
「約束する」
東の空が、少しずつ、白んでいった。芝の青白い光が、朝の光に、溶けていく。スタンドの影が、ゆっくりと、薄れていく。足もとの感触が、少しずつ、頼りなくなってきた。
「そろそろ、時間だ」
長男が、言った。
「父さん」
「うん」
「ちゃんと、起きてね。起きて、手術、終わらせて、また、チャージャーズの話を、しよう」
「ああ」
次男が、僕の、右肩に、そっと手を置いた。ボールを投げた、あの肩に。
「ここに、ちゃんと、あるから」
その手の温かさが、いつまでも、肩に残った。
三人の姿が、朝の光のなかで、少しずつ、透き通っていく。僕は、手を伸ばした。けれど、指先は、ただ、光を、掴んだだけだった。
「また、思い出してくれたら、ここに、来るよ」
遠くで、誰かが、そう言った気がした。
芝の匂いが、消えた。風の音が、消えた。ゴールポストの影が、淡い線になって、白い空に、溶けていった。
最後に、聞こえたのは、僕自身の、深い、長い呼吸の音だった。
それは、病室の、ベッドの上の、僕の、呼吸だった。
十二章 目を覚ませば
目を開けると、天井が、白かった。
白いだけではない。夜明けの光が、カーテンの隙間から差し込んで、わずかに青みを帯びている。見慣れた病室の天井だ。
僕は、ゆっくりと、息を吐いた。
身体は、重かった。点滴の針が、腕に刺さっている。ベッドの脇には、折りたたみ式のテーブルがあって、その上で、スマホが、画面を暗くして眠っていた。
「お目覚めですか」
看護師さんが、微笑んでいた。朝の光のなかで、その顔は、少し疲れているようにも見えた。
「手術は、無事に終わりましたよ。三時間ほどかかりましたが、問題ありません」
「そう、ですか」
僕の声は、かすれていた。喉の奥が、ひどく乾いていた。
「いま、何時ですか」
「午後三時を、少し過ぎたところです。ずっと、眠っていらっしゃいました」
「僕は、いつから」
「朝の九時に、手術室へ。今は、その日の午後です」
僕は、自分の右肩に、そっと触れた。包帯が、しっかりと巻かれていた。その下に、手術の傷があるはずだった。痛みは、ほとんどなかった。ただ、奇妙な感覚があった。
肩の内側に、何か、ひどく鮮やかな記憶が、残っていた。
ボールを握る角度。腰のひねり。ゴールラインへ飛び込んだ瞬間の、芝の匂い。
夢、だったのだろうか。
あまりにも、手触りがありすぎた。
僕は、スマホに手を伸ばした。画面を点けると、通知が、いくつも溜まっていた。息子たちからのメッセージが、並んでいた。
長男から、午前八時。
「父さん、手術がんばれ。終わったら、連絡して」
次男から、午前八時半。
「いってらっしゃい。目が覚めたら、またチャージャーズの話をしよう」
そして、二時間前の、次男からの、もう一通。
「父さん、起きてる? 観た? あのクォーターバック、誰?」
僕は、そのメッセージを、何度も読み返した。
観た、とは、何を。チャージャーズは、今日は、試合の日ではない。次週の対チーフス戦は、日本時間の、明日の未明のはずだ。
指が、震えていた。僕は、スポーツニュースのアプリを、開いた。
トップに表示されていた見出しを、僕は、読んだ。
──チャージャーズ、劇的な逆転勝利。五連敗の後、第六週でチーフスを撃破。
僕の心臓が、強く、一度、打った。
日付を、確かめた。今日は、僕の手術日の、当日だ。時差を計算すれば、ロサンゼルスでは、昨夜。つまり、第六週の試合は、すでに終わっていた。
記事を、読み進めた。
「驚くべきは、後半から出場した無名のクォーターバックの活躍だ。背番号00。登録名簿に、名前が見当たらない。球団の広報は、『チームの事情により、後日発表する』とだけ答えている。現地のファンの間では、その謎の選手の正体をめぐり、さまざまな憶測が飛び交っている」
僕は、スマホを、胸の上に置いた。
白い天井を、見上げた。
それから、息子たちに、返信した。
「観た。すごかったな」
それだけ、打った。それ以上、何も書けなかった。
病室の窓の外では、秋の雲が、ゆっくりと流れていた。遠くで、救急車のサイレンが鳴って、やがて消えた。僕は、静かに目を閉じた。
肩の奥で、誰かが、笑った気がした。
どれくらい、時間が経っただろう。
扉をノックする音が、聞こえた。看護師さんかと思って、「どうぞ」と答えた。
入ってきたのは、見知らぬ、灰色のコートを着た、小柄な老人だった。
彼は、ベッドの脇の椅子に、静かに腰を下ろした。窓から差し込む午後の光が、彼の白い髪を、金色に縁取っていた。
「やあ」
老人は、そう言って、微笑んだ。
「手術は、うまくいったようだね」
「あなたは」
「質問が、多いね。いい兆候だ」
僕は、言葉を失った。老人は、僕の顔をしばらく眺めてから、懐から、小さな紙切れを取り出した。それを、僕の掌に、そっと載せた。
紙には、数字が、ひとつだけ書かれていた。
「00」
「来週も、頼むよ」
老人は、立ち上がった。扉のほうへ、ゆっくりと歩いていく。
「待ってください。これは、現実なんですか。それとも」
老人は、扉の前で、振り返った。
「その二つは、本当に、別のものかな」
扉が、静かに、閉まった。
僕は、手のなかの紙を、見つめた。
窓の外で、風が吹いた。カーテンが、ふわりと揺れた。ベッドの脇のスマホが、新しい通知を、小さく点灯させた。
画面には、一行だけ、表示されていた。
〈チャージャーズ公式:第七週、スターティングクォーターバック 背番号00〉
僕は、笑った。声を出さずに、静かに、笑った。
肩の内側が、ほんのりと、温かかった。
(了)
これを書いている今
まさに我がチャージャーズは
開幕から5連敗中です。
そして
今週末には宿敵チーフスとの一戦
これは6連敗かと半分諦めながらの
書き出しとなりました。
結果は神のみぞ知るのかと
苦笑いしながら。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
あとがき
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
人は誰しも、人生のどこかで「選ばなかった道」を残して生きているのではないでしょうか。怪我で諦めたスポーツ、言葉にできなかった想い、選び取らなかった選択肢。それらは消えてなくなるわけではなく、自分自身の「内側」や、パラレルな可能性の層の中で、静かに息をひそめているのかもしれません。
主人公の「僕」がフィールドで出会った「背番号00」のダミー。それは、彼がかつて置いてきた青春の残響であり、同時に、現実の彼を優しく支えるもうひとつの可能性でもありました。
現実の厳しさや病室の不安を描きつつも、どこか温かく、そして胸がすっと熱くなるような「大人のためのファンタジー」を描きたいと思い、この物語を紡ぎました。
息子たちとの少し照れくさい絆、ホワイトボードを挟んだケンタ君との奇妙な師弟関係、そして怪しくも温かい老人との対話。彼らが織りなす時間の揺らぎを楽しんでいただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
もし、あなたの日常にもふと「ありえないはずの風」が吹き抜けるような瞬間があったなら――どうぞ、胸の奥の「背番号00」を思い出してみてください。
感謝を込めて。
原詩 NFLに
MLBは
いよいよ大詰めとなり
あといくつ勝てば? と
生中継を眺めてみる
それとは逆に
NFLは開幕となり
すでに5週を終え
我がチャージャーズは
まさかの 5連敗中
なにやっとんだ? と
叫んでみても
遥か大陸には届かない
更には
次週の対戦相手は
宿敵 チーフス
こりゃ
この体制では
きっと6連敗となるのだろう
昨シーズンを観て
今シーズンはオフェンスラインを
揃え直したら
そろそろ
スーパーボウルかと
ニヤけていれば
この始末
わずかなことでは
この山を乗り越えられそうもない
いっそ
僕に
ヘッドコーチを
任せてくれたら なんて…
僕は今
春先の手術に落ち度があり
翌日に控えた
再手術を前に
病室のベッドで
スマホからネットを観て
嘆きながら寝落ちしてしまった
LAから
プライベートジェットが
羽田へと降り立って
そこから
オーナーが直々に
ヘリで病院の上空へと飛んで来た
屋上のヘリポートに
無理に降り立ち
ナースステーションを無視して
チャージャーズのオーナーが
走り込んで来た
すぐに
今すぐに
一緒に来てくれ! と慌てている
何を? と問えば
ヘッドコーチにと
握手を求めて来た
僕が? と笑えば
そうだ
キミだ! と真剣な顔
なるほど
もう第6週
今 立て残さねば
間に合わないかと了承したが
残念ながら
明日が手術予定
1ヶ月ほど待ってくれ! と
苦笑いすれば
ならば
その手術
医師団ごと連れてくから
LAでも微笑む
いや
手術設備の整った
大型のジェットで
手術しながらLAへと ってわけで
そのまま
拉致されるように
羽田からLAへと
そのまま
麻酔が効き
眠ってしまった…
NFL史上
初めての日本人ヘッドコーチ
そしたら
コーチ陣も
全部入れ替えましょうと
息子たちの
大学の部活の仲間たちを
そっくり呼んで
これで! と
スタートした
そう
プロたちの作戦よりも
学生たちの作戦の方が
イレギュラーなことが多い
その後
勝ち続け
スーパーボウルまで
辿り着いてしまった
ところが
その第1クォーターで
頼りの
クォーターバックが負傷
これは困った
次がいない
するとそこへ
神様が現れて
キミがそこへ と言う
えっ?
僕が? と問うと
そうだよ
キミが だよ
しかし
僕はヘッドコーチ
選手登録はしていない
そんなこともあろうかと
セカンドクォーターバックを
ダミーで入れておいた
その姿の中へ
キミの意識だけ入り込ませる
そして
思う存分
暴れてくれ! と…
おや?
それって
いつか観た 映画のような
そうだ
天国から来たチャンピオン
すると
まさか
僕は?
ジェット内での手術は?
すまんね
キミはそのまま
その選手となり
活躍してくれ…
そこで
目が覚めた
あらすじ
春先の手術のやり直しのため、病院のベッドで消灯時間を迎えていた五十代の「僕」。
病室の静寂の中、スマホの青白い光で追っていたのは、二十年来応援してきたNFLチーム「ロサンゼルス・チャージャーズ」の泥沼の五連敗だった。
「なにやってんだ」
「いっそ、僕にヘッドコーチを任せてくれたら――」
プロ経験など一度もない。ただ息子たちの大学アメフト部の傍らで戦術本を読み漁っていただけの中年男の、小さなひとり言。しかしその夜、病室の扉を蹴破るように現れたのは、稲妻のバッジを胸につけたチャージャーズのオーナーだった。
専用ジェットでの上空手術、日本から呼び寄せられた学生スタッフたち、教科書には載っていない「乱暴で予測不能な作戦」。
破竹の連勝を重ねるチームの陰で、次第に狂い始める「時間」と「記憶」。
そして第一クォーターの惨劇の中、現れた謎の老人が差し出したのは、誰も見たことのない【背番号00】のジャージだった――。
あの日あきらめた夢の残響と、現実の家族の温もりが交差する、切なくも胸が熱くなる奇跡のスポーツ・ファンタジー!



