百番目の波

――選ばなかった人生の、その隣で――



まえがき

波打ち際に立つと、ふと考えることがあります。

いま目の前で砕けたその一筋の波は、どこから来て、どこへ消えていったのだろう、と。

人生も、波に少し似ています。

右へ進むか、左へ曲がるか。
言葉を発するか、飲み込むか。
誰かを追いかけるか、見送るか。

その瞬間には、ただ一つの道しか見えていない。

けれど、選ばなかった方の道は、本当に消えてしまったのでしょうか。

もしかするとそれは、目には見えない別の流れとなって、私たちのすぐ隣を流れ続けているのかもしれません。

『百番目の波』は、海と波、そして人生における「選ばなかった可能性」をめぐる物語です。

波を待つということ。

そして、訪れた一瞬の波に、自分がどう向き合うのか。

夜明け前の海風を感じながら、最後までお付き合いいただければ幸いです。




第一章 波打ち際の記憶

その町に来て三年になるが、宇井類(うい・るい)は、いまだにあの音に慣れない。

夜明け前。

空がまだ墨色をしているうちに、世界のすべてが波の音になる。

ずず、ざざ、ずず——。

引いては寄せ、寄せては引く。

呼吸のようでもあり、誰かが遠くで何かを数えているようでもあった。

類は毎朝四時に目を覚まし、ウェットスーツに袖を通す。

ボードを抱え、まだ人影のない砂浜を歩く。

この浜を、地元の者たちは「渚間(なぎま)」と呼んでいた。

地図には載っていない。

載せる必要もなかった。

観光客が来るような場所ではないし、来たところで、見せるほどの波があるわけでもない。

ただ、サーファーたちは知っていた。

渚間には、妙な癖がある。

十の波のうち九つは、ごく普通の、少し重めのショルダーウェーブ。

だが、残る一つ。

それは誰にも予測できないタイミングで現れる。

海面がふっと硝子のように静まり、そこだけ音が消える。

波なのに、音がない。

地元のサーファーたちは、それを「透き波(すきなみ)」と呼んでいた。

そして、誰もそれに手を出そうとはしなかった。

理由を聞いても、皆、曖昧に笑うだけだった。

「乗らないほうがいい」

それ以上は言わない。

類がこの町に流れてきたのは、その透き波に呑まれて消えた男を追ってのことだった。

垣内海人(かきうち・かいと)。

類の、たった一人の師匠だった。

七年前。

まだ十九歳だった類に、海の見方を教えてくれた男。

波の読み方だけではない。

待つこと。

譲ること。

そして、自分が本当に乗るべき波を見極めること。

海人は、それを何度も繰り返し教えた。

その海人が、二年前、渚間の沖で消えた。

遺体は見つからなかった。

見つかったのは、傷一つないサーフボードだけだった。

類は、その板を今も部屋の壁に立てかけている。

毎朝海へ向かうたび、その横を通る。

そして思う。

あの日、海人は何を見たのだろう。

何を選び、何を選ばなかったのだろう。

⸻

第二章 待つ、という技術

波を待つという行為には、独特の作法がある。

沖へ出る。

ラインナップと呼ばれる待機列につき、ほかのサーファーと適度な距離を保ちながら、水平線を見つめる。

会話はほとんどない。

その代わり、視線でやり取りをする。

——これは自分が行く。

——いや、お先にどうぞ。

——次のセットは大きい。備えろ。

すべてが、瞬き一つ、顎のわずかな動き一つで伝わる。

海人は、それを「魚の言葉だ」と笑っていた。

類が海人と初めて渚間のラインナップに並んだのは、七年前の夏だった。

十九歳。

何も知らず、ただ大きな波に乗ることだけを考えていた頃だ。

海人は、沖でしばらく黙っていた。

やがて水平線から視線を外さずに言った。

「いいか、波は二度と同じ形じゃ来ない」

「はい」

「だから、次のを待つしかない」

類は海人の横顔を見た。

「焦って、合わない向きで飛び込むと?」

「後で悔やむ」

「じゃあ、どうやって見極めるんですか。どれがいい波なのか」

海人は少し笑った。

「百も待てば、一つくらいはいい波が混じる」

「百……ですか」

「ああ」

「そんなに待つんですか」

「波を待つのに、数なんか意味ないさ」

海人はそう言ってから、少しだけ間を置いた。

「百っていうのは、百回目って意味じゃない」

「え?」

「百回待ったから、百番目に特別な波が来る。そんな話じゃない」

海人は水平線を指した。

「いい波は、たぶん何度も来てる。だけど、こっちが気づかない。準備ができてない。怖くて行けない。誰かに譲ってしまう。そういうことだ」

類は黙った。

「だからな」

海人は、少し寂しそうに笑った。

「百番目っていうのは、波の数じゃない。百回待ったあとで、やっと自分の目が変わる。そのときに見える波のことだ」

その言葉を、類はずっと覚えていた。

それから二年後。

海人は透き波に呑まれて消えた。

板だけが、傷一つなく渚に打ち上げられた。

⸻

第三章 灯台守の理論

町の外れに、使われていない灯台がある。

そこには汐見(しおみ)という老女が住んでいた。

かつて海洋観測の仕事をしていたらしく、渚間の波について誰よりも詳しい。

というより——。

誰よりも「おかしなこと」を平然と話す人物だった。

類は月に一度、彼女を訪ねている。

海人について何か手がかりがないか探すためだった。

その日も、汐見は古い観測ノートを開いていた。

ページには、波の周期、風向き、潮位、気圧。

それらに混じって、日付とも座標ともつかない数字がびっしりと書き込まれている。

「透き波、ね」

汐見はティーカップを両手で包みながら、窓の外を見た。

「あなた、波というものが何だと思う?」

「風が水面にエネルギーを伝えたもの、ですよね」

「教科書的にはね」

汐見は笑った。

「でも、この渚間に限っては、少し違う話をしてもいい頃合いかもしれない」

「海人さんのことですか」

「ええ」

汐見はノートの一ページを指でなぞった。

「私は四十年、この海を見てきた」

「透き波が立つのは、いつです?」

「いつも決まっているわけじゃない。でも、一つだけ共通していることがある」

「何ですか」

「誰かが、何かを選ばなかったあと」

類は眉を寄せた。

「選ばなかった……?」

「声をかけようとして、かけなかった」

汐見は一つずつ指を折った。

「右へ曲がろうとして、左へ曲がった。告げようとして、飲み込んだ。行こうとして、行かなかった。戻ろうとして、そのまま進んだ」

「そんなものが、波になるんですか」

「波になるの」

あまりにも静かな言い方だった。

「選ばれなかった可能性は、消えるわけじゃない」

汐見は海を見た。

「人は一つの道を選ぶ。でも、選ばなかった道も、その瞬間までは確かに存在していた。私は、それがどこかへ流れていくのだと思っている」

「どこへ?」

「この海へ」

類は笑いそうになった。

だが、笑えなかった。

「じゃあ、透き波に乗るとどうなるんです?」

汐見はしばらく黙ってから答えた。

「隣を走ることになる」

「隣?」

「今のあなたの人生。そのすぐ隣を流れている、選ばれなかった方の流れを」

類は息を止めた。

「うまくいけば、少しだけ言葉を交わせる」

「海人さんとも?」

「そうかもしれない」

「戻れるんですか」

汐見は首を横に振った。

「戻れない、というより……戻る場所が二つになる」

「二つ?」

「どちらも自分だったと知ってしまうから」

汐見は静かにカップを置いた。

「人によっては、どちらが本当の自分なのかわからなくなる」

類は、しばらく何も言えなかった。

窓の向こうで、波が一つ砕けた。

普通の波だった。

音もある。

形もある。

そして、すぐに消えた。

⸻

第四章 隣に並ぶ男

十日後の明け方。

類は、いつものように渚間へ漕ぎ出した。

その日は妙に静かだった。

風がない。

海面は鉛色に凪いでいる。

水平線と空の境目さえ、よくわからない。

類はラインナップについた。

しばらく波を待った。

一分。

二分。

五分。

そのときだった。

隣に、人の気配を感じた。

振り向く。

見覚えのあるシルエット。

黒いウェットスーツ。

右肩に残る古い傷。

そして——。

あの目。

「……海人さん?」

声が震えた。

男は、ゆっくりと類を見た。

確かに海人だった。

だが、記憶の中より少し若い。

髪も黒い。

顔の皺も少ない。

それでも、間違えるはずがなかった。

海人は声を出さなかった。

ただ、沖を見ている。

そして、七年前と同じように、顎をわずかに引いた。

——次のセットが来る。

備えろ。

類の胸が大きく鳴った。

沖から三本のうねりが近づいてくる。

一本目。

二本目。

そして三本目。

それは、ほかの二つより滑らかだった。

海面を滑ってくるのに、音がしない。

類は息をのんだ。

透き波。

海人がボードの向きを変えた。

行く気だ。

「待って!」

類は叫んだ。

海人は振り返らない。

汐見の言葉が頭をよぎる。

——隣を走ることになる。

——戻る場所が二つになる。

それでも類は、海人を追った。

七年間。

ずっと探していた。

百のうち一つ。

いや。

百番目の波。

海人がテイクオフした。

類も、ためらいを振り切ってパドルを始めた。

⸻

第五章 透き波の中

最初に消えたのは、音だった。

次に、海の感触が消えた。

パドルしているはずなのに、水を掻く感覚がない。

腕が空を切っているようだった。

類は叫んだ。

声は出なかった。

視界が白くなる。

一瞬なのか、何時間なのか。

時間そのものがわからなくなった。

そして——。

突然、視界が開けた。

海だった。

渚間だった。

だが、何かが違う。

空の色。

灯台の光の間隔。

海岸線。

そして隣を滑る海人。

記憶より少し若い。

「海人さん」

今度は声が届いた。

海人が驚いたように目を見開いた。

「類……?」

「探してました」

海人は何も言わなかった。

「ずっと探してました」

海人は、泣きそうな顔をして、それから諦めたように笑った。

「そうか」

「ここはどこなんです?」

「俺が消えた日の、その先だ」

海人は前を見た。

「お前の知ってる世界の、すぐ隣を流れてる」

「じゃあ、戻れるんですか?」

「お前はな」

「一緒には?」

海人は首を振った。

「多分、無理だ」

「どうして」

「一つの波に、二人分の帰り道は乗らない」

類は海人を見た。

「そんな……」

「だから、お前だけ戻れ」

「嫌です」

海人は少し笑った。

「昔から頑固だったな」

「海人さんこそ、勝手すぎます」

「そうだな」

海人は静かに言った。

「俺は、あの日、選ばなかったんだ」

「何を?」

「町を出ること。お前を育てること。もっと海を見て、別の場所で生きること」

類は黙った。

「やりたいことは、いくらでもあった」

海人の声が、波の音に混じる。

「でもな、怖かったんだ」

「何が?」

「選ぶことが」

海人は水平線を見た。

「選んだあとで、やっぱり違ったと思うのが怖かった。別の道のほうがよかったんじゃないかって、ずっと考えるのが怖かった」

「だから?」

「だから、待った」

類は目を伏せた。

「これはまだ仮の波だ。次にもっといい波が来る。今じゃない。もう少し待とう。そうやって、何度も先送りした」

海人は笑った。

「気がついたら、何も選ばないまま、ここにいた」

波の先が、切り立ってきた。

海面の向こうに、二つの光の筋が見える。

一つは、来た道。

もう一つは、このまま進んだ先。

類には、それがわかった。

「海人さん」

「ん?」

「こっちの世界では、何を選んだんですか?」

海人は少しだけ笑った。

「お前を置いていかない人生を選んだ」

類の胸が詰まった。

「じゃあ……」

「でも、それも一つの可能性だ」

海人は続けた。

「どっちが正しいなんてない。お前の世界の俺も、こっちの俺も、どっちも俺だった」

類は、涙を拭った。

「だったら、帰れませんよ」

「帰れ」

「でも——」

「聞け、類」

海人の声が強くなった。

「百も波を待てば、一つくらいはいい波が混じる。俺は昔、そう言った」

「はい」

「あれは半分、嘘だ」

類は顔を上げた。

海人は笑っていた。

「本当は、いい波はいつだって来てる」

「……」

「ただ、こっちの準備が追いついてないだけだ」

波が大きくなっていく。

「九十九回逃してるのは、波のせいじゃない」

海人は類を見た。

「自分が、まだ乗る準備をしていなかっただけだ」

「じゃあ、百番目っていうのは……」

類が言うと、海人は頷いた。

「波が百回来た、その百番目じゃない」

「……」

「百回待ったあとで、自分の目が変わったときに見える波だ」

海人はボードの向きをわずかに変えた。

二人の航跡が、少しずつ離れていく。

「海人さん!」

「お先に、行かせてもらうよ」

七年前と同じ台詞だった。

けれど、今度は意味が違った。

海人は波の斜面を滑り、光の中へ入っていった。

類は、その背中を見送った。

追いかけなかった。

追いかけてはいけないと、初めてわかった。

海人が消えていった先には、何もなかった。

ただ、一筋の波だけが残った。

それはやがて、静かに砕けた。

⸻

第六章 渚に戻る

気がついたとき、類は渚間の浅瀬で膝立ちになっていた。

太陽は高く昇っている。

周りには、いつものサーファーたちがいた。

「大丈夫か?」

誰かの声がした。

類は返事をするまでに、少し時間がかかった。

時計を見る。

ほんの十数分しか経っていなかった。

そんなはずはない。

あれほど長い時間を過ごしたのに。

海人と話し。

別れ。

そして——。

類は沖を見た。

何もない。

いつもの海だった。

帰宅すると、海人の板が壁に立てかけられていた。

七年前、渚に打ち上げられた板。

類は、その前に座った。

今まで、この板を「海人が残したもの」だと思っていた。

だが、違うのかもしれない。

あれは、海人があの日に乗れなかった波。

乗れなかった人生。

選ばなかった自分自身。

そのすべてを、海人はこの板に置いていったのかもしれない。

類は、そっと板に触れた。

冷たかった。

それから、なぜか少しだけ笑った。

翌日。

類は灯台へ向かった。

汐見は、いつものようにお茶を淹れていた。

「会えたのね」

類は驚かなかった。

「はい」

「どうだった?」

「連れて帰れませんでした」

「そういうものよ」

汐見は窓の外を見た。

「透き波は、答え合わせをする場所じゃない」

「……」

「隣に、どんな流れがあったのかを確かめるだけ」

類は湯気の立つカップを見つめた。

「海人さんは、待っていたそうです」

「何を?」

「準備ができるのを」

「あなたのこと?」

類は首を振った。

「たぶん、自分自身のことを」

汐見は微笑んだ。

「そうかもしれないわね」

しばらく二人とも黙っていた。

窓の向こうで波が砕けている。

「明日も波は来るわ」

汐見が言った。

「百のうち一つかもしれない」

類は笑った。

「百のうち、九十九かもしれません」

「そうね」

「今まで、見逃していたのかもしれない」

汐見は頷いた。

「でも、あなたはもう知っている」

「何を?」

「待つことと、立ち止まることは違うってことを」

類は窓の外を見た。

水平線に、白い筋が一つ見えた。

「行ってきます」

「ええ」

「また、波を待ってきます」

汐見は笑った。

「今度は、待ちすぎないようにね」

⸻

終章 百番目の波

それからも、類は毎朝四時に渚間へ通っている。

透き波は、あれきり一度も現れていない。

もしかしたら、もう二度と現れないのかもしれない。

それとも、これまでと同じように、気づかぬうちに何度も来ては、静かに去っているだけなのかもしれない。

だが、以前とは違うことが一つある。

類は、以前ほど「特別な波」を探さなくなった。

ラインナップで誰かと目が合えば、少しだけ長く、その視線を受け止める。

誰かが先に行けば、道を譲る。

自分の番が来れば、ためらわない。

——お先に。

——どうぞ。

そんな小さなやり取りの一つ一つが、不思議なほど大切に思えた。

海人が言っていた。

いい波は、いつだって来ている。

ただ、自分が準備できていないだけだ。

人生にも、きっと同じことが言える。

あの日、言えなかった言葉。

行かなかった場所。

選ばなかった道。

そのどれもが、完全に消えてしまったわけではない。

どこか別の流れとなって、今の自分のすぐ隣を流れている。

だからといって、その流れへ戻る必要はない。

戻れない。

戻らなくていい。

選ばなかった人生があったことを知ったうえで、今いる場所から、もう一度選べばいい。

今日という波は、今日しか来ない。

明日の波は、明日の波だ。

同じ形では、二度と来ない。

空が少しずつ明るくなる。

類はボードを抱え、海へ向かって歩き出した。

水平線の向こうから、一つのうねりが近づいてくる。

それは、特別な波には見えなかった。

大きくもない。

美しくもない。

ただ、静かにこちらへ向かっている。

類は立ち止まった。

そして、笑った。

もしかしたら。

百番目の波というものは、特別な波ではないのかもしれない。

百回待った先に、突然現れる奇跡でもない。

ただ、自分がそれまでとは違う目で見つめた、最初の一波。

それだけなのかもしれない。

類はボードを海面に置いた。

パドルを始める。

水を掻く。

今度は、迷わなかった。

波が近づいてくる。

音がする。

ずず。

ざざ。

ずず——。

あの音だ。

七年前から、ずっと聞いていた音。

けれど、今日は少し違って聞こえた。

誰かが何かを数えているのではない。

海が、ただ呼吸している。

類は波の斜面に合わせて、身体を起こした。

そして、滑り出した。

同じ波は、二度と来ない。

だからこそ。

今日の波に乗る。

それでいい。

水平線の向こうに、朝日が昇っていた。

類はその光の中を、まっすぐに進んでいった。

(了)


Amazon Kindle



あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

歳を重ねると、ときどき過去を振り返ることがあります。

「あのとき、別の道を選んでいたら」

「もう少し勇気があったら」

「あの一言を、ちゃんと伝えていたら」

そんなふうに考えることは、きっと誰にでもあるのではないでしょうか。

私自身も、これまでの人生を振り返ったとき、選ばなかった道について考えることがあります。

けれど、選ばなかった道をいくら想像しても、そこへ戻ることはできません。

だからこそ、その「もしも」を消してしまうのではなく、今の自分の中に静かに置いておく。

あのとき別の道を選んでいた自分も、今ここにいる自分も、どちらも確かに自分だったのだと思えれば、過去の後悔も少し違って見えてくるのかもしれません。

本作で海人が語る「百番目の波」は、百回目に特別な波が来るという意味ではありません。

何度も波を待つうちに、自分の見方が変わる。

そして、これまで見過ごしていたものに気づく。

その瞬間こそが、自分にとっての「百番目の波」なのだと思います。

人生には、何度も波がやってきます。

大きな波もあれば、見過ごしてしまうほど小さな波もあります。

すべての波に乗る必要はないでしょう。

待つことも大切です。

けれど、待ち続けるだけでは、いつまでも海の上にいることになります。

いつか来た波に気づいたら、そのときは静かにパドルを始める。

そんな生き方ができたらと思い、この物語を書きました。

この作品の波音が、読んでくださった方の中にある「選ばなかった人生」と、ほんの少しだけ重なってくれたなら、とても嬉しく思います。