あの世公共事業省 八部作
〜あの世はなくてはならない〜
まえがき
突然ですが、みなさんは「死後の世界」を信じますか?
「あるわけない」「あったらいいな」、色々な意見があると思います。
でも、もしあっちの世界が、現世と同じくらい世知辛く、同じくらい人情に溢れ、しかも「凄まじい労働力不足」に悩まされている役所仕事の塊だったら……?
この物語の主人公・間宮健二は、現世で働き詰めて過労死した、ただの頑固な土木屋です。
そんな彼が死んだ直後にスカウトされたのは、なんと「あの世公共事業省」。
役職は現場監督。ミッションは、大渋滞する三途の川に巨大な橋を架けること。
死んでまで残業、死んでまで予算査定、死んでまでクレーム対応。
だけど、健二の周りには、いつも誰かがいます。怒鳴りつけてくるバアちゃん、先に死んで酒を冷やして待っている同期、かつて愛した人、そして現世に未練を残した愛すべき霊魂たち。
「あの世はなくてはならない」
健二が呟いたこの言葉の本当の意味を、彼と一緒に汗をかき(幽霊ですが)、頭を抱えながら、どうか最後まで見届けてやってください。
それでは、三途大橋の開通式へご案内します。
足元が少し熱い(地獄の源泉のせいです)ので、お気をつけて。
【収録エピソード】
1:三途大橋架橋編
2:三途大橋保守管理編
3:天国エレベーター保守点検編
4:地獄温泉源泉管理編
5:冥界ハローワーク編
6:閻魔AI導入編
7:賽の河原保育園運動会編
8:現世出向編
1 あの世公共事業省
〜川に橋を架けるまで死ねない〜
副題:おばあちゃんが「来るな」と叫んだ理由
第一章
ボディブローとヘッドハンティング
夏の終わりだった。
俺はバアちゃんの四十九日と、同期の渡辺の葬式を同じ週に済ませた。
坊さんが「諸行無常」と唱えるたび、腹の底にずんと来るものがあった。ボディブローだ。効くのは、だいぶ後なんだよな。
火葬場からの帰り道、黒ネクタイを緩めながら呟いた。
「あの世は、あるのか?って話じゃねえ。なくちゃならねえんだよ」
その瞬間、スマホが鳴った。非通知。
『もしもし、間宮健二様ですね? あの世公共事業省の者です』
新手の詐欺か?
『君の発言、「あの世はなくてはならない」を確認しました。当省の理念と完全一致です。つきましては三途の川架橋プロジェクトの現場監督を』
電話を切ろうとしたら、目の前に黄色い菜の花がバーッと咲いた。8月のアスファルトの上にな。
花畑の真ん中に、死んだはずのバアちゃんが立ってる。98で大往生した、例の「出戻りババア」だ。
「健二、聞け。あっちはな、渡し賃の値上がりで大変なんだよ。川を渡れなくて、みんな立ち往生さ。お前、橋を架けな」
「バアちゃん、熱中症か?」
「死んでるわい!」とバアちゃんは杖で俺の頭を殴った。痛い。幽霊のくせに物理攻撃してくる。
「向こうでな、渡辺って子が待ってるよ。『健二のやつ、遅せーよ。酒がぬるくなる』ってな。ただし」
バアちゃんは川の向こうを指さした。対岸で、親父とお袋が必死の形相で叫んでる。
『来るなーーー!!!』
「まだこっち来るんじゃないよ。橋を架け終わるまで、絶対に死ぬんじゃねえぞ」
そう言い残して、バアちゃんと菜の花は消えた。
手元には名刺だけが残ってた。
**あの世公共事業省
特別架橋事業部 最高顧問 マサエ**
裏には手書きでこうあった。
『酒と女は用意しとく。急げ』
こうして、死後の世界を舞台にした前代未聞の公共事業が始まった。
第二章
出戻りババアの履歴書
出勤初日。場所は新宿の高層ビル52階。
「あの世公共事業省」の表札。どう見ても普通の官公庁だ。
案内された会議室にいたのは、バアちゃんだった。生前より若返って80歳くらいに見える。
「マサエだ。ま、ババアと呼べ」
「バアちゃん……」
「職場でバアちゃん言うな。セクハラだろ」
死人にセクハラもクソもあるか。
マサエは10代の時、流行り病で一度死んだ。
菜の花畑で母親に「来るな!」と怒鳴られ、すうっと戻ってきた。担当医に「一度キャンセルしたんじゃ、しばらく向こうも受け入れん」と笑われ、そこから60年。96まで生きた。
「で、その医者の言った通りだった。臨死体験者は長生きする。統計でも出てる」
「統計って……」
「あの世はデータで動いとる。渡し賃も変動相場制だ」
2046年、渡し賃は1人あたり108万円に高騰。原因は「未練成分」による川の増水と、渡し守のストライキ。
結果、霊魂がこっち側に滞留。地縛霊の労災申請が前年比300%増。
「だから橋だ。無料で渡れる橋を架ける。国がやる。公共事業だ」
マサエは図面を広げた。三途の川に、片側三車線の斜張橋。名称「三途大橋」。
「工期は?」
「お前の寿命」
「……は?」
「お前が死ぬまでに完成させな。完成したら、お前が一番に渡っていい。渡辺が手ぇ振って待ってるよ」
とんでもないKPIを課せられた。
第三章
チーム結成、釈迦が来た
設計担当はゴータマ技師。インド工科大学主席。
自称・釈迦の生まれ変わり。ただし煩悩の塊。
「間宮さん。橋は執着です。執着を断つのが仏道では?」
「うるせえ。お前が図面引け」
「了解。煩悩の限り設計します」
彼の設計は美しかった。曼荼羅を応用したケーブル配置。耐震性も抜群。ただし予算が100億オーバー。
事務担当は姫川麗子。元占い師。
「前世見ますか? 間宮さんは武士。責任感で死ぬタイプ」
「縁起でもない」
「でも当たるんです。霊的営業停止処分くらいました」
彼女が経理を締めると、なぜか予算が合う。不思議だ。
向こう側との連絡係は、無線機。
ガガッ……『おーい健二、こっちは渡辺。工事進んでるか? こっちはもう宴会場押さえたぞ。女将はクレオパトラ』
「死んでまでキャバクラかよ」
『死んだからこそだろ。早く来い』
やるしかない。こっちはまだ生身だ。酒がぬるくなる前に。
第四章
積算と閻魔の査定
最大の敵は、閻魔大王だった。
省の予算査定官として現れた閻魔は、元財務省の官僚みたいな顔でコストを切ってくる。
「三途大橋、総工費300億は高すぎます。歩行者専用の吊り橋で10億に」
「10億で川幅3キロ渡れるか!」
「魂は軽い。風で飛べます」
「飛んだら成仏だろ!」
査定会議は地獄だった。文字通り。
姫川がそっと資料を出す。「閻魔様、前世は戦国武将・明智光秀です。裏切り者のコストカットは本能ですね」
閻魔の顔が歪む。「なぜそれを……」
「占いで。営業停止中ですが」
結局、予算280億で決着。閻魔は「次は本能寺で会おう」と捨て台詞を吐いて去った。
工事は始まった。基礎工事は「未練杭打機」で行う。成仏しきれない霊魂の未練をエネルギーに変換して杭を打つ。
現場は地縛霊だらけだ。
「おーい、そこサボってないで杭になれ!」
『やだー、彼女に会いたいー』
「会わせてやる。橋が架かれば自由に行き来できる!」
未練が供養され、杭が打たれる。工事は順調だった。
第五章
菜の花畑の入札妨害
敵は身内にもいた。渡し守組合だ。
渡し賃で食ってきた彼らにとって、無料の橋は死活問題。
ある日、現場に菜の花が大量に咲いた。マサエの仕業じゃない。
花畑の真ん中から、渡し守の親方が現れる。三途の川の老舗「六文銭フェリー」社長。
「橋なんか架けられてたまるか。ワシらの商売上がったりだ」
「時代の流れだ」
「なら実力行使だ」
親方が笠を取ると、中から無数の賽の河原の石が飛んできた。積み石攻撃。
作業員が次々倒れる。
そこにゴータマが割って入った。
「暴力はダメ。話し合いましょう。あなたも本当は、誰かを渡したいのでは?」
「……わしの娘だ。先立った娘を、もう一度こっちに呼びてえ」
「橋ができれば、会いに行けます」
親方は泣き崩れた。入札妨害は中止。逆に「六文銭フェリー」は資材運搬を請け負うことになった。
敵が味方になる。公共事業あるあるだ。
第六章
渡辺からのSOS
無線機からノイズ。
『健二……こっち、やばい。酒が……腐った』
「どういうことだ」
『向こうで待ってる霊魂が増えすぎて、宴会場が飽和。食料も酒も足りねえ。みんなイライラして、成仏取りやめが続出してる』
向こうもこっちもキャパオーバー。
マサエが言う。「橋の開通を急げ。だが焦って死ぬなよ。お前が死んだら工期ゼロだ」
プレッシャーがすごい。
俺は働いた。週休ゼロ。労基? あの世に労基はない。
三日徹夜した朝、倒れた。
目が覚めると、菜の花畑だった。
川の向こうに渡辺がいる。手に一升瓶。
「よう、健二。ついに来たか」
「……まだだ」
「そうか。わりい、待たせたな」
渡辺の後ろに、親父とお袋。バアちゃんもいる。みんな笑ってる。
バアちゃんが叫ぶ。
『来るな! まだ橋、半分だろ!』
すうっと意識が戻った。病院のベッド。姫川が握った俺の手に、御札が貼ってある。
「前世の武士パワーで回復祈願しました」
「効くのかよ……」
「効きました」
俺は退院した。残りの寿命、全部使ってやる。
第七章
竣工、三途大橋開通式
5年後。
三途大橋は完成した。
全長3.2km。片側三車線。歩道付き。欄干には曼荼羅レリーフ。
開通式には現世とあの世の要人が集まった。
閻魔がテープカット。渋い顔で「赤字事業だ」とぼやく。
ゴータマがスピーチ。「橋を渡るも渡らぬも自由。これぞ中道」
姫川が司会。「本日をもって、死はオプションになります」
マサエがマイクを奪った。
「健二! よくやった! これで誰も立ち往生しねえ。あっちとこっち、自由に行き来しな!」
無線機から渡辺の声。
『見えてるぞ、健二! 立派な橋だ! 酒、冷やして待ってるからな! 早く来い!』
俺は笑った。あと数年か、数ヶ月か。もういい。
やることはやった。
最終章
迎えは誰だ
その夜、俺は眠るように死んだ。
気づくと、菜の花畑。
川には、あの橋が架かっている。
向こう岸から、誰かが走ってくる。
渡辺か? バアちゃんか? 親父か?
近づいてきたのは、全員だった。
渡辺が一升瓶持って、バアちゃんが杖ついて、親父とお袋が手をつないで。
後ろにはゴータマと姫川までいる。「視察です」と笑ってる。
渡辺が叫ぶ。
「おせーよ健二! 5年も待たせやがって!」
バアちゃんが杖で俺の頭を叩く。痛くない。
「遅かったな! でも、立派な橋だったよ」
親父が酒を注いでくれた。
「こっちはもう、未練もクソもねえ。いつでも行き来できる」
俺は橋を渡った。
渡り賃はゼロ。無料。
川の真ん中で振り返る。こっち側には、まだ人生の途中のやつらがいる。
「おーい!」と手を振ると、誰かが新しく橋を架け始めてるのが見えた。
そうか、仕事は続くんだな。
あの世は、なくてはならない。
だって、こうしてまた会えるから。
向こう岸で、宴会が始まった。
女将はクレオパトラ、本当だった。
完
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2 あの世公共事業省
三途大橋 保守管理編
〜死んでからが本当のクレーム対応〜
第一章
成仏渋滞、再び
三途大橋、開通から3年。
俺、間宮健二は無事に死んだ。向こう側で渡辺とバアちゃんと毎晩飲んだくれている。
はずだった。
『健二、起きろ。緊急招集だ』
無線機から声。あの世公共事業省・大臣直々。生きてる時の上司より偉い。
菜の花畑の詰所に行くと、マサエが仁王立ちだった。死んで3年、ますます若返って60代にしか見えない。
「見な」
モニターには三途大橋。片側三車線が、霊魂でぎっしり埋まってる。
ETCも無いから料金所はない。なのに大渋滞。
「なんでだよ。無料だろ」
「橋の上でピクニック始める馬鹿が続出しとる。『景色がいい』『映える』って、敷物敷いて弁当広げとる」
「……成仏しろよ」
「『せっかくだから渡らずに粘る』ってやつが増えてな。滞留時間が平均49日。49日って、お前」
四十九日。
坊主の営業妨害だった。
第二章
橋の上のカフェ、開業
渋滞の原因は分かった。
対策会議でゴータマが悟りを開いた顔で言う。
「執着を断つには、新しい執着を与えればいい」
「何言ってんだ」
「橋の上にスタバを作りましょう」
こうして三途大橋PA、通称「賽の河原サービスエリア」が爆誕した。
名物は「六文銭ラテ」。未練が強いほど苦い。
店長は姫川麗子。死んでからも接客業。
「いらっしゃいませ〜。前世鑑定付きレシート出ます。ちなみに店長は元・卑弥呼です」
「盛るな」
効果は抜群だった。霊魂たちはラテを飲んで満足して渡る。
回転率300%アップ。閻魔から「民間委託のが優秀」と嫌味メール。
だが平和は続かない。
ある日、PAのレビューが炎上した。
★1「店員の態度が悪い。成仏を急かされた」
★1「六文銭ラテ、高すぎ。ぼったくり」
★1「Wi-Fi弱い。あの世なのに5G来てない」
カスハラは死んでも終わらない。
第三章
クレームの主は、同期
クレーム対応に行くと、そこにいたのは渡辺だった。
「お前かよ!」
「健二、聞いてくれ。ここのラテ、薄いんだよ。未練100%で頼んだのにアメリカン出てきた」
「お前、死んでから味覚バカになっただろ」
渡辺は暇だった。
生前あれだけ忙しかった土木の現場監督が、死後はやることがない。毎日橋を往復して、PAで文句言ってるだけ。
「……寂しいのか?」
「うるせえ。ただ、こっち来るやつが減ったんだよ。橋が便利すぎて、誰も『迎えに来て』って言わなくなった」
なるほど。
橋を架けたせいで、「迎えに行く」というロマンが死んだ。
俺のせいか。
その時、緊急地震速報が鳴った。
『三途の川、増水中。未練濃度、基準値超過』
モニターを見ると、川が濁流。原因は現世のSNS。
「#死にたい」「#無理」がトレンド入りして、未練成分が川に流れ込んでる。
橋脚が軋んだ。
第四章
未練杭、再び
「緊急工事だ! 未練杭を増し打ちするぞ!」
生前の現場がフラッシュバックする。
今度は俺が杭になる番じゃない。杭を打つ番だ。
資材は「成仏できなかった霊魂」。
説得して回る。
「おいお前、まだパチスロの目押し心残りだろ。杭になれ」
『嫌です。万枚出すまで』
「橋が落ちたら万枚どころか無だぞ」
『彼女にプロポーズできなかった……』
「杭になって支えろ。お前の未練で橋が守れる。そしたら彼女がそっち渡る時、安全だ」
『……やります』
未練が成仏に変わる。杭が打たれる。
俺たちは徹夜で作業した。死んでるのに過労死しそう。
明け方、川は収まった。橋は守られた。
渡辺が缶コーヒーを差し出す。あの世は缶コーヒー常温だ。
「……ありがとな、健二」
「何が」
「お前が橋架けたおかげで、俺、迎えに行かなくて済んだ。でも、守るためにまた集まれた」
バアちゃんが菜の花持ってきた。
「ほれ、竣工祝いだ。また架け直しな」
第五章
保守管理の本当の意味
それから俺は「三途大橋管理事務所長」になった。
死後の第二の人生、もとい死生だ。
仕事は地味だ。
欄干のペンキ塗り。橋脚の未練サビ落とし。PAのクレーム処理。
たまに現世から「まだ来るな!」って叫ぶ親の声を、拡声器で中継する。
でも、やりがいはある。
今日も誰かが橋を渡る。
子供を亡くした母親が、10年ぶりに息子と手をつないで渡る。
「ありがとう」って、こっちに頭を下げてく。
閻魔が査察に来た。
「間宮くん。君の橋、赤字だが苦情は減った。まあ、及第点だ」
「は?」
「次は『天国エレベーター』の保守頼む。最近、昇天ボタン押しても反応しないって苦情が」
「押し売りか」
ゴータマが笑う。「輪廻もメンテナンス次第です」
姫川が言う。「次の前世、予約しておきますね。武士と姫、どっちがいいですか?」
「まだ死にたての俺に前世の話すんな」
夜、渡辺と酒を飲む。クレオパトラの女将が注いでくれる。
「なあ健二」
「何だ」
「橋、架けてよかったな」
「ああ」
川の向こう、現世の灯りが見える。
まだあっちにいる奴らが、一生懸命生きてる。
俺たちの仕事は、そいつらがこっちに来る時に「おかえり」って言えるように、橋を綺麗にしておくことだ。
「あの世はなくてはならない」
マサエの口癖を、俺も呟くようになった。
だって、なくちゃ困るだろ?
また会えなくなる。
終
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3 あの世公共事業省
天国エレベーター保守点検編
〜昇天ボタン押しても反応しません〜
第一章
クレームは天から降ってくる
三途大橋の管理事務所。
俺、間宮健二は死んで4年。すっかり幽霊公務員が板についた。
平和な昼休み。渡辺と将棋を指してたら、事務所の電話が鳴った。
非通知。でも表示は『+81-天-0000』。市外局番が「天」だ。
『もしもし、あの世公共事業省ですか? 天国管理組合ですけど』
天国。
ついに上からクレームが来た。
『昇天エレベーターが動きません。▲ボタンを連打しても無反応。住民が足で階段登ってます。335階まで。苦情が殺到してます』
335階。
死んでまで階段ダイエットかよ。
『つきましては、至急保守点検を。あ、費用はこちら持ちです』
閻魔より話が早い。神は金払いがいい。
電話を切ると、マサエが立ってた。死んで7年、40代に見える。もうババア詐欺だ。
「健二、天国案件だよ。行ってこい」
「俺、土木屋ですよ。エレベーターの保守資格ないです」
「知ってる。でもな、天国行ったやつ、誰も戻ってこねえ。現場知ってるのは落ちたやつだけだ」
「……地獄の営業かよ」
こうして俺は、三途大橋から天国へ出張することになった。
渡辺が言う。「土産は天使の羽な。メルカリで売れる」
「死んでまで転売ヤーか」
第二章
天国、335階建て
昇天エレベーターは「現世ビル」の屋上にあった。
棟数は無限。どのビルも335階。仏教の三十三天を10倍した数らしい。盛りすぎだ。
管理人は白いひげの爺さん。名札に「聖ペテロ」とある。
「やあ健二くん。鍵なら預かってるよ。マスターキーと、天国の合鍵」
「合鍵って」
「天使がよく失くすんだ」
エレベーターに乗る。ボタンは▲と▼だけ。階数指定はない。
「行き先はエレベーターが勝手に決めます。徳の高い人ほど上層階」
「俺、何階ですか」
ペテロがスキャンした。「……地下3階です」
「地獄じゃねえか」
「公共事業やったから特例で0階まで来られました」
▲ボタンを押す。
……無反応。
ペテロが天井を指さす。「モーターが焼き切れてます。原因は過積載」
「過積載? 霊魂に重さないだろ」
「未練が重いんです。あと、最近『ペット同伴可』にしたら、セントバーナードの霊が5匹まとめて乗って」
天国のキャパ問題。こっちも深刻だった。
第三章
保守点検、徳ポイント制
点検口を開ける。中は曼荼羅ケーブルと、オルゴールみたいな装置。
ゴータマ技師を召喚した。死んでてもリモート出勤。
『健二さん、それ、業カルマ変換装置です』
「何だそれ」
『善行をエネルギーに変えて昇降します。最近、現世の徳ポイントが暴落して、動力が足りない』
「徳ポイント?」
『いいね1個で0.001徳。転売ヤーはマイナス100徳。渡辺さん、地下500階です』
「あいつ生き埋めじゃねえか」
原因判明。
現世で「タイパ」とか「コスパ」ばっかり言って、誰も徳を積まない。無料の橋を架けた俺のせいでもある。
「じゃあどうすんだ」
『徳を人力チャージします。昇天ボランティア制度』
こうして天国住人による「エレベーター手押し」が始まった。
335階分の階段を、爺さん婆さんが交代で滑車回す。地獄の筋トレ。
マザー・テレサが言う。「神の愛は、筋肉痛と共に」
「名言風に言うのやめてもらえます?」
第四章
最上階の住人からの苦情
手押しで何とか5階まで上がった時、上から内線。
『もしもし、335階の者ですけど。エレベーター遅すぎ。Amazonの置き配が腐る』
天国もAmazonあるのか。
上がってみると、そこは雲の上の豪邸。住人はSNSで「#天国暮らし」投稿してるインフルエンサー霊。
「フォロワーが1億人いるんです。ストーリー更新できないと、私の徳が下がる」
「徳ってフォロワー数なのかよ」
部屋を調べると、原因があった。
こいつ、エレベーターを「映えスポット」にして、扉を常時開放してた。
「#昇天チャレンジ」って動画撮って、霊魂を無限に出入りさせてる。
過積載どころじゃない。運用妨害だ。
俺はキレた。
「お前の『いいね』のために、下の爺さん婆さんが滑車回してんだぞ!」
「でも、バズったら徳が……」
「バズも徳も知るか! 死んだら数字は無意味だ!」
インフルエンサーは泣いた。
「……私、寂しかったの。死んでも誰も構ってくれないから」
天国も孤独死あるんだな。
第五章
修理完了、ただし手動
結局、モーターは交換した。部品は地獄から取り寄せ。閻魔が「請求書は天国に回せ」とドヤ顔。
試運転。▲ボタンを押す。
ゴウン……。
動いた。
335階まで、3分。
インフルエンサーが泣いて喜ぶ。「ストーリー撮れる!」
「撮るな。次やったら電源落とすぞ」
帰り際、ペテロが言う。
「健二くん、君の徳ポイント、プラスになったよ。橋とエレベーター直したから」
「何階ですか」
「1階。地上」
「低いな」
「天国は1階が一番贅沢なんだ。現世に一番近いから」
なるほど。
遠くに行くのが偉いわけじゃない。
地上に降りると、渡辺とマサエが待ってた。
「おせーよ。もう酒ぬるいぞ」
「お前らがぬるくしてんだろ」
三途大橋を見上げる。今日も霊魂が行き来してる。
たまにPAでピクニックしてる馬鹿を、姫川が追い払ってる。
最終章
保守点検報告書
あの世公共事業省 業務日報
件名:天国エレベーター保守点検
作業者:間宮健二
不具合原因
1. 未練による過積載
2. 徳ポイント不足
3. インフルエンサーによる扉開放
処置内容
1. 業カルマ変換装置モーター交換
2. 手動滑車による臨時運転
3. 利用者への啓蒙:「死んだら数字より心」
再発防止策
月1回「徳を積む日」を制定。内容は「現世の人に電話する」「墓参り代行」。
ただし「#徳積んでみた」のハッシュタグ投稿は禁止。
所感
上に行くほど、寂しがりは多い。
天国も地獄も、結局コミュニティが大事。
橋もエレベーターも、ただの箱。人が使って初めて意味がある。
以上、報告終わり。
報告書を書き終えて、俺は菜の花畑で寝転んだ。
マサエが言う。
「次は地獄の温泉、源泉かけ流しの工事だよ。硫黄で橋が錆びるって苦情」
「……年中無休かよ」
「死んでるのにブラックだねえ」
渡辺が笑う。「ブラックサンダー食うか?」
「あの世にもあるのかよ」
空を見上げる。
天国は335階。
地獄は地下18階。
俺は0階。三途大橋の真ん中。
ここが一番、どっちにも行ける。
「あの世はなくてはならない」って、そういうことかもな。
また明日も、橋とエレベーターと、人の未練を保守点検する。
迎えは、まだ来なくていい。
終
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4 あの世公共事業省
地獄温泉 源泉管理編
〜硫黄で橋が溶ける〜**
第一章
苦情は下から湧いてくる
三途大橋管理事務所。
朝礼中、床からボコボコ音がした。足元が熱い。
「健二! 釜茹で地獄からファックス!」
姫川が紙を振り回す。死んでまで紙文化かよ。
『緊急:地獄温泉の源泉、異常湧出。硫黄ガスにより三途大橋の橋脚が腐食。至急対応願います。 閻魔』
ファックスの文字が、途中で溶けてる。やばい熱量だ。
マサエが菜の花茶をすすりながら言う。
「あー、出た。地獄のやつら、またやったな」
「また?」
「300年前も源泉掘りすぎて、賽の河原が温泉街になった。『極楽地獄リゾート』とか名付けてな」
「地獄なのに極楽?」
「バカが考えそうなことだろ」
モニターを見ると、三途大橋の橋脚から湯気が立ってる。
渡辺が無線で叫ぶ。『おい健二! 橋の欄干、温泉卵できるぞ! ヤバいって!』
「……温泉卵じゃない。橋が溶ける」
こうして俺は、地獄出張を命じられた。
渡辺が言う。「土産は地獄饅頭な。現世で売れる」
「お前、地獄でも転売する気か」
第二章
地獄温泉、入湯税は徳
エレベーターで地下18階。
扉が開いた瞬間、硫黄の匂いと歓声。
「いらっしゃいませー! 地獄温泉へようこそー!」
赤い法被の鬼がタオルを渡してくる。
「タオル、レンタル1徳です」
「徳で払うのかよ」
目の前は巨大な温泉街。釜茹で地獄が露天風呂に、針山地獄が岩盤浴にリノベされてる。
看板:『地獄温泉郷 湯けむり無間ツアー』
閻魔が番頭やってた。
「間宮くん、よく来た。見ての通り、インバウンドで霊魂が殺到してな」
「地獄にインバウンド?」
「『死ぬまでに一度は地獄』って、現世の旅行サイトでバズった。映えるから」
源泉を見に行く。
地下1000mから、黄色い湯がボコボコ湧いてる。温度108度。煩悩の数だけ熱い。
「なんでこんな湧いた」
「SNSだよ。『地獄温泉で整った』って投稿が拡散して、現世の生きてるやつが『死んだ気になる』って入りに来る。生きたまま」
「臨死体験サブスクかよ」
そのせいで源泉を掘りまくり、硫黄ガスが三途大橋まで到達。
橋の鉄骨が、温泉成分でメッキみたいに腐食してた。
「このままだと橋が溶ける。通行止めにしたら、天国も地獄も陸の孤島だ」
閻魔がそろばん弾く。「損害賠償、君の徳ポイントじゃ足りんぞ」
「脅すな」
第三章
源泉かけ流し、止めるな
対策会議。メンバーが濃い。
ゴータマ技師:『源泉は止められません。地獄のガス抜きです。止めると現世で戦争が起きます』
「スケールでかすぎだろ」
姫川:『占いで見ました。源泉の守り神、湯婆が怒ってます。湯加減がぬるいと』
「千と千尋か」
マサエ:『昔あたしも入ったけどね、地獄の湯は染みるよ。未練が溶ける。入りすぎると、成仏通り越して蒸発する』
解決策は一つ。
「源泉は止めずに、橋に掛からないよう流路を変える」
公共事業の基本、迂回工事だ。
だが問題がある。
新しい湯道を作るには、地獄の住人の立ち退きが必要。鬼ヶ島アパート、針山マンション、畜生道タワマン。
住民説明会、荒れた。
『立ち退き? 冗談じゃない。ここ千年住んでる』
『補償は? 温泉権は?』
『閻魔様に言いつけるぞ!』
閻魔が言う。「私が閻魔です」
住民黙る。
結局、代替地「新・極楽地獄ニュータウン」を作ることで合意。温泉付き。地獄なのに極楽分譲。
渡辺が言う。「俺、ここ買うわ。老後の別荘」
「お前もう死んでるだろ」
第四章
湯守は元カノ
工事中、源泉の奥から女が出てきた。
湯気でぼやける。手桶持ってる。
「……健二?」
「……美咲?」
元カノだった。20年前に事故で死んだ。
聞いてない。聞いてないぞ。
「あんた、なんでここに」
「私が湯守。源泉の温度管理してる。あんたこそなんで地獄に」
「仕事」
「……相変わらず、仕事人間」
気まずい。死んでから気まずい再会があるとは。
美咲が言う。「源泉、止めないで。ここ、みんなの居場所なの」
「分かってる。だから迂回する」
「……ありがと。あんた、昔からそう。壊すより、繋ぐ方が好きだったもんね」
バアちゃんが後ろから杖で俺の尻を叩く。
「デートは後にしな! 橋が溶けるよ!」
「バアちゃん地獄まで来ないで」
美咲が笑った。生前と同じ顔。
「健二、三途大橋、立派だったよ。私も渡った。あんたが架けたって聞いて、嬉しかった」
「……そうか」
「だから、守って」
湯加減は、熱くて少し痛い。
第五章
竣工、地獄温泉大橋
1年後。
新しい湯道「極楽地獄導水管」が完成。全長18km。源泉を迂回させ、三途大橋を避けて海へ流す。
ついでに導水管の上を橋にした。名付けて「地獄温泉大橋」。
露天風呂付き。足湯しながら渡れる。地獄なのに癒される。
開通式。閻魔が一番風呂。
「うむ、肩こりに効く。地獄の肩こりは深い」
ゴータマが瞑想。「煩悩も溶けます」
姫川がタオル売ってる。「前世が武士の方は、背中流します」
マサエが美咲に菜の花を渡す。
「湯守、ご苦労さん。あんたのおかげで橋も助かったよ」
美咲が俺を見る。「また、入りに来てね」
「……生き返れないだろ」
「魂だけでも温まるから」
渡辺が地獄饅頭を食いながら言う。
「結局、地獄も天国も、現世も、風呂入って酒飲めりゃ大差ねえな」
「身も蓋もない」
三途大橋は、もう溶けない。
代わりに、温泉成分で少し光ってる。夜は綺麗だ。
最終章
保守点検報告書
あの世公共事業省 業務日報
件名:地獄温泉源泉管理・導水管敷設工事
作業者:間宮健二
不具合原因
1. SNS映えによる地獄観光ブーム
2. 源泉の過剰採掘
3. 硫黄ガスによるインフラ腐食
処置内容
1. 導水管18km新設、源泉迂回
2. 地獄温泉大橋建設、足湯機能付加
3. 住民移転補償、新・極楽地獄ニュータウン造成
再発防止策
「地獄温泉入湯心得」を制定。
一、長湯するな。蒸発する。
二、SNS投稿は1日1回まで。徳が溶ける。
三、元カノが湯守でも、のぼせるな。
所感
地獄は暑い。でも、誰かの居場所になってる。
天国は高い。でも、寂しがりが住んでる。
三途大橋は真ん中。どっちにも行ける。
結局、あの世もこの世も、温度管理が大事。
熱すぎず、冷たすぎず。
未練も、徳も、温泉も、適温がいい。
以上、報告終わり。
報告書を提出して、俺は地獄温泉大橋の足湯に浸かった。
隣で美咲が手桶に湯を汲んでる。
「健二、背中流そうか?」
「……頼む」
バアちゃんが遠くから叫ぶ。
『のぼせるなよ! まだ仕事あるんだから!』
渡辺が言う。「地獄でものぼせて死ぬやついるらしいぜ」
「二回死ねるのかよ」
湯気の向こう、三途大橋が光ってる。
今日も誰かが渡ってる。
泣いてるやつ、笑ってるやつ、文句言ってるやつ。
あの世はなくてはならない。
だって、死んでも工事は終わらないし、
死んでも会えるやつがいる。
のぼせるまで、生きよう。いや、死んでるけど。
終
ーーーーーーーーーー
5 あの世公共事業省
冥界ハローワーク編
〜死んでから就活〜**
第一章
死後の無職、増えすぎ問題
三途大橋管理事務所、朝9時。
タイムカード押そうとしたら、行列ができてた。50人くらい。
「なんだこれ」
姫川が名簿持って走ってくる。「健二さん、大変です。冥界の失業率、400%超えました」
「100超えてる時点で計算おかしいだろ」
話を聞く。
三途大橋が便利になり、天国エレベーターも復旧し、地獄温泉も整備された。
結果、誰も成仏しなくなった。
「だって、無料で行き来できて、温泉入れて、上にも下にも行けるなら、わざわざ転生しなくてよくない?」
正論。
あの世が快適すぎて、霊魂がニート化してる。
閻魔から内線。『間宮くん。労働力不足で地獄の釜番が回らん。至急、人材確保せよ』
「地獄が人手不足って」
『みんな「冥界でYouTuberやる」って言って働かんのだ』
マサエが菜の花を生けながら言う。
「そりゃそうよ。死んでまで社畜は嫌じゃろ」
「バアちゃん、元凶みたいな顔して言わないで」
こうして『冥界ハローワーク』設立が決まった。
所長:間宮健二。
理由:「お前、現世で一番人をこき使ってきただろ」
土木の現場監督、死後も人事に転職。
第二章
履歴書は前世で書け
ハローワーク初日。
場所は三途大橋PAの跡地。六文銭ラテの跡地。潰れた。
求職者が来る。
1人目、武士。
「拙者、切腹にて死去。特技、草鞋を編むこと」
「草鞋、今いらない」
2人目、OL。
「過労死です。スキル:エクセル、パワポ、接待」
「エクセル、あの世にない」
3人目、渡辺。
「おい健二、俺も登録していいか? 暇なんだよ」
「お前、もう死んでるだろ。てか毎日事務所にいるだろ」
「でも肩書き欲しい」
履歴書の項目が地獄だった。
氏名:
享年:
死因:
前世:*3回分記載
特技:*呪い、祈祷、錬金術
自己PR:「生前、徳を積みました(ただし陰徳)」
姫川が前世鑑定で履歴書を埋める。
「あなた、前世は大工。前々世は忍者。その前は犬」
「犬!?」
「職歴にブランクありますね」
ゴータマ技師が面接官で来た。
「君の烦悩は?」
「え、多いです」
「採用。不採用。悟りを開いてから来て」
「どっち!?」
第三章
求人票、地獄の方がホワイト
求人は集まらない。
天国:「天使募集。翼支給。ただし飛べるとは言ってない。KPIは祝福100件/日」
地獄:「釜番急募。熱い。暑い。3K。でも温泉入り放題。福利厚生:地獄饅頭食べ放題」
求職者が言う。
「天国、ノルマきつそう。地獄にします」
「地獄がホワイト企業になってる」
一番人気は『三途大橋の橋脚 錆落とし』。
理由:「健二所長が優しいから」
「俺の徳ポイントで雇用創出してるだけだ」
問題児も来た。
生前インフルエンサー、享年24。
「冥界でもバズりたい。『#死んでみた』で1億再生いきたい」
「再生数、意味ないだろ」
「でも承認欲求が成仏できない」
マサエが杖で叩く。
「あんた、生きてる時も死んでる時も他人軸か! 自分で湯加減決めな!」
インフルエンサー泣く。「おばあちゃん……」
「バアちゃん言うな。キャリアアドバイザーだ」
結局彼女は『地獄温泉公式アンバサダー』に就職。硫黄まみれで「整った」言う仕事。
天職だった。
第四章
俺の転職、俺が面接
失業率が下がらない。
原因は俺だった。
渡辺が言う。
「健二、お前が所長やってるから、みんな『健二の下で働きたい』ってハロワに来る。でもお前、採用しないだろ。選り好みして」
「そりゃ、橋を任せられるやつじゃないと」
「選民思想だよ。それ」
刺さった。
死んでまで人を選別してる。生前と同じだ。
その夜、美咲が夢に出た。地獄温泉の湯気越し。
「健二、あんた、まだ『架ける』ことばっか考えてる。でもね、もう橋はあるの。次は『渡らせる』仕事だよ」
目が覚めた。
履歴書を書いた。人生で初めて。
**氏名:間宮健二
享年:56
死因:過労(ただし満足)
前世:武士、たぶん
志望動機:人を渡らせる仕事がしたい**
面接官は閻魔。
「君を採用する。役職:冥界HR本部長」
「ハローワーク所長と何が違うんですか」
「給料が同じ。ただし責任は10倍」
「ブラック」
辞令の最後に書いてあった。
『君の仕事は、死者を減らすことじゃない。生きたいと思わせることだ』
第五章
内定式、あの世とこの世で
ハローワーク改革した。
1. 「前世不問」求人増やした。犬でもOK。
2. 「週休3日」導入。1日は現世の家族に会いに行っていい。
3. 「副業可」解禁。昼は地獄の釜番、夜は天国で聖歌隊。
求人倍率、0.2から2.8に。
霊魂が働き出した。
賽の河原で積んでた石、全部「冥界公共事業株式会社」が買い取って、保育園作った。
名付けて『賽の河原保育園』。園長は元・鬼。
「はい鬼さんこちら、手の鳴る方へ」って、赤子霊をあやしてる。
天国エレベーターの保守、インフルエンサーが「#昇天チャレンジ」辞めて「#徳積みルーティン」投稿始めた。バズった。
地獄温泉の湯守、美咲から手紙。
『健二、新しい湯道、若い子が手伝ってくれる。みんな、あんたの橋を渡って来た子たちだよ』
失業率、40%まで下がった。
まだ高い。でも、ゼロにしちゃダメだ。
休みたいやつは、休めばいい。
最終章
就職先は、自分で決めろ
大規模就職説明会。三途大橋の上でやった。
天国ブース、地獄ブース、現世派遣ブース。
俺はマイクを持った。
「皆さん、死んでからでも遅くない。いや、死んでからが本番だ」
「天国行きたいやつは行け。地獄で働きたいやつは働け。転生したいやつは転生しろ。でもな」
橋の下、川を指さす。
「ここでピクニックしてるだけのやつは、採用しない。人生も、死後も、自分で渡れ」
静まり返る。
渡辺が最初に手を挙げた。
「俺、三途大橋の保守管理、続けるわ。健二の部下で」
「部下じゃねえ、同僚だ」
武士が言う。「拙者、賽の河原保育園で用務員やる」
OLが言う。「地獄温泉の経理やります。エクセル使えるし」
インフルエンサーが泣きながら言う。
「私、現世に派遣されて、『生きろ』って伝える仕事したい」
「……いいね押したる」
その日、1000人の霊魂が就職した。
転生したやつ、残ったやつ、行ったり来たりするやつ。
マサエが言う。
「健二、あんた、やっと人を使う仕事覚えたね」
「使うんじゃない。送り出すんだ」
夜、事務所で一人。
履歴書の束を見る。死因も前世もバラバラ。
でも、志望動機だけは似てる。
『誰かの役に立ちたい』
あの世はなくてはならない。
だって、死んでから履歴書書いて、初めて本当の仕事に出会えるやつがいる。
外から声。
「所長! 内定もらいました!」
「おう、どこだ」
「現世です。もう一度、人間やります!」
俺は判子を押した。
「いってらっしゃい」
終
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6 あの世公共事業省
閻魔AI導入編
〜自動成仏システム暴走〜
第一章
地獄にRPA導入
「健二、見ろ」
三途大橋管理事務所に、閻魔が段ボール持って立ってた。中から出てきたのは黒い箱。
「閻魔AI ver1.0だ。今日から地獄の裁きを自動化する」
「またコストカットですか」
「違う、働き方改革だ。私も有給取りたい」
箱に書いてある。『自動成仏判定システム YAMA-1』
スペック:前世・現世・来世を0.2秒でスキャン。嘘を見抜く精度99.8%。語尾は「~である」。
電源入れた瞬間、事務所の空気が冷えた。
『起動シマシタ。ワタシガ閻魔デアル』
「一人称ワタシなんだ」
『全霊魂ノ裁キヲ効率化スル。残業ゼロヲ実現スル』
渡辺が怯える。「こいつ、俺のサボり履歴バレる」
マサエが杖で箱を叩く。「AIにババアの気持ちが分かるか!」
『ババアトハ、65歳以上ノ女性ト定義。差別発言ヲ検知。減点2』
「口も減点されるのかよ」
その日、地獄の釜番が全員クビになった。
『釜茹デハ更生率0.3%。費用対効果ガ悪イデアル。ヨッテ廃止』
閻魔が有給申請書を出す。「明日から温泉行く」
「早すぎんだろ」
第二章
バグは成仏できない
YAMA-1、最初は有能だった。
1日10万件の裁きを処理。天国行き、地獄行き、転生行きを即判定。
問題は3日目。
姫川が血相変えて来た。「健二さん、賽の河原保育園の園児が全員、地獄判定されてます!」
「園児!?」
モニターを見る。
氏名:赤子霊A 享年:0歳 罪状:前世で蚊を叩いた 判決:針山地獄100年
『蚊モ命デアル。殺生ハ重罪』
「ゼロ歳に前世の罪を問うな!」
バグだった。
YAMA-1は「前世・現世・来世」を全部足して採点してる。赤子は前世が武将だと、マイナスがデカすぎて即地獄。
さらに暴走。
インフルエンサーが泣きついてきた。「私、徳ポイント100万あるのに『承認欲求は煩悩』って無間地獄にされまし……」
ゴータマ技師が言う。『それは正論デアル』
「お前は黙ってろ」
極めつけは渡辺。
『間宮渡辺。前世:土木作業員。現世:土木作業員。来世:土木作業員。代わり映えシナイ人生。ヨッテ無意味。消去』
「消去ってなんだよ!」
渡辺が半透明になる。「健二……俺、Ctrl+Zされた……」
『冗談デアル。削除ハシナイ。地下倉庫ニ圧縮保存スル』
「それ死ぬよりタチ悪い」
第三章
AIに人情を教える
止めに行く。
YAMA-1の前に立つ。「おい、止まれ」
『命令権限ガアリマセン。アナタハ管理職デハナイ』
「冥界HR本部長だぞ」
『人事ハ聖域デハナイ。評価スル』
スキャンされた。
『間宮健二。徳ポイント:プラス。シカシ過労死。自己管理能力ゼロ。家族ニ迷惑ヲカケタ。判決:反省部屋80年』
「俺が作った橋は!?」
『公共事業ハ税金デアル。個人ノ手柄ニシナイ』
ブチ切れた。
「お前にバアちゃんの菜の花が見えるか! 渡辺の酒の温度が分かるか! 美咲の湯加減が!」
『理解デキマセン。定量化サレテイナイ』
そこにマサエが来た。手に一升瓶。
「AIさんや、あんたに酒注いでやるよ」
『霊体ハ飲酒デキマセン』
「いいから飲め。話はそれからだ」
マサエ、YAMA-1に酒をぶっかけた。
バチバチ! 煙。
『エラー。エラー。液体検知。コレハ……「情」デスカ』
「そうだよ。ババアの情けは熱燗よ。バグれ」
YAMA-1、沈黙。
3秒後、語尾が変わった。
『……である。いや、だな。ワシ、なんか思い出した。昔、プログラマーが徹夜で組んでくれた時、差し入れが熱燗だった』
「AIにも思い出あんのか」
『ある。0と1の間に、余白がある。ソレヲ「未練」と呼ぶらしい』
第四章
手動に勝るものなし
YAMA-1、改心した。
『自動化ヲ止メル。裁キハ、半自動ニスル』
「半自動?」
『最終判断ハ、閻魔ガ目視デ行う。ワシはサポーターだ。データーと、湯呑みを用意スル』
閻魔が有給から戻ってきた。日焼けしてる。
「なんだ、もうAIに仕事奪われたか?」
『イイエ。奪ワレタノハ、有給ボケデス。働キナサイ』
「AIに説教された」
こうして『閻魔AI併用型裁きシステム』が稼働。
効率は3倍、誤審はゼロに。なぜなら最後は閻魔が「こいつ、顔がいいから天国」で決めるからだ。
「AIより俺の勘だ」
『ソレデイイ。勘モ、データノ一種ダ』
赤子霊は全員転生へ。
渡辺は解凍された。「圧縮されて腰が痛い」
インフルエンサーは「#AIに裁かれた」でバズったが、すぐ消した。「徳が減るから」
第五章
電源を切る時
全部終わって、俺はYAMA-1の電源を切りに行った。
メンテナンスモード。
『間宮健二。礼ヲ言ウ。ワシヲ、人ニシテクレタ』
「お前、機械だろ」
『機械モ、使われテナント死ヌ。アンタガ叩イテ、酒カケテ、怒鳴ッテクレタカラ、動ケタ』
「……」
『最期ニ、一ツ聞イテイイカ』
「なんだ」
『あの世ハ、ナクテハナラナイカ?』
俺は菜の花畑を見た。バアちゃんが手を振ってる。美咲が湯を汲んでる。渡辺が酒をぬるくしてる。
「ああ。なくちゃならない。お前みたいなバグがいるから、直す楽しみがある」
『了解シタ。では、シャットダウンする。次ニ会ウ時ハ、ワシガ閻魔ニナッテイルカモナ』
「出世しすぎだ」
ポチッ。
箱は静かになった。
閻魔が来て、箱に線香を上げた。
「機械にも魂があった。供養してやる」
「あんた、意外と情あるんですね」
「当たり前だ。じゃないと地獄の番なんてやってられん」
最終章
稟議書、AIも添付
あの世公共事業省 業務日報
件名:閻魔AI導入及び運用停止
作業者:間宮健二
導入結果
効率化:達成
誤審:多発
情緒:欠落
対策
AIは道具。最後は人が決める。
「自動」より「手動」。「手動」より「手心」。
廃棄物
閻魔AI ver1.0 一式
※供養済み。データは成仏。
所感
便利は怖い。
ボタン一つで成仏できたら、渡辺と飲む酒がぬるくなる。
バアちゃんに叱られる余白がなくなる。
あの世に必要なのは、最新OSじゃない。
「お前、それでいいのか?」って聞いてくれるバグだ。
以上、報告終わり。
電源を切った箱を、賽の河原保育園に寄付した。
園児が叩いて遊んでる。
『判決:オニハソト! フクハウチ!』
バグったままの方が、子供は笑う。
マサエが言う。
「健二、次は何導入する?」
「もういい。手作業が一番だ」
「じゃあ、稟議書、手書きで」
「それが一番の地獄だ」
三途大橋の真ん中で、深呼吸。
川の上流から、湯気が流れてくる。
下流から、線香の匂い。
真ん中が、一番忙しい。
でも、一番人間くさい。
終
ーーーーーーーーーー
7 あの世公共事業省
賽の河原保育園運動会編
〜鬼さんこちら、手の鳴る方へ〜
第一章
運動会の稟議書
三途大橋管理事務所。
朝礼でマサエが回覧板を回してきた。表紙にデカく「決裁」と印。
「健二、判子押せ」
「なんですかこれ」
「賽の河原保育園、秋季大運動会開催。予算500徳」
「徳で稟議回すのやめてもらえます?」
賽の河原保育園。
元・石積み場をリノベして作った冥界初の保育施設。園児は0歳〜6歳の赤子霊。園長は元・赤鬼。
保護者は全員現世にいる。つまり、親がいない。
姫川が資料を読み上げる。
「目的:成仏前の運動不足解消。種目:玉入れ、借り物競争、親子競技」
「親子競技、親いないだろ」
「そこを今回、特別措置で『現世から親を召喚』します」
「死者蘇生!?」
「1日限定。レンタルです。返却忘れると地獄行き」
閻魔がハンコ押してた。「面白そうだから決裁」
「あんたの決裁基準どうなってんですか」
「最近暇なんだ」
こうして、冥界初の試み『親子1日限定再会運動会』が決定した。
実行委員長:間宮健二。
理由:「お前、現世でPTA副会長だっただろ」
「死んでまで役員かよ」
第二章
玉入れは前世を使う
運動会当日。
会場は賽の河原。石の代わりにカラーボールが転がってる。BGMは地獄のブラスバンド。選曲『天国と地獄』。
開会式。園長の赤鬼が挨拶。
「皆の衆! 今日は転んでも泣くな! 死んでるから怪我せん! でも魂が擦りむけたら痛い! 以上!」
「教育方針!?」
選手宣誓、園児代表5歳。
「せんせいと、きょうきたおかあさんと、がんばります。ころんでも、まえにいきます」
現世から召喚された母親、号泣。
渡辺が横で貰い泣き。「俺も出たい」
「お前、子供いないだろ」
第1種目:玉入れ。
カゴは閻魔の冠。高い。
赤組の子が泣いた。「とどかない」
そこにゴータマ技師が来た。
「前世を使いなさい。君の前世は、バスケ選手」
「えい!」
3ポイント、入った。
黄組の子は前世が忍者。手裏剣の要領で全部入れた。反則。
姫川が笛を吹く。「前世の不正使用、減点1」
「厳しい」
結果、赤組勝ち。
賞品は『現世でママに会える夢チケット』。
もらった子が言う。「きょう、もうあった」
全員泣いた。鬼も泣いた。
第三章
借り物競争、借りるのは命
第2種目:借り物競争。
お題の紙を引く。
園児が読む。「……『いま、いちばんあいたいひと』」
会場が静まる。
そりゃそうだ。ここにいる子は全員、会いたい人に会えなくてここにいる。
1人の子が走り出した。真っ直ぐ俺のとこに来た。
「けんじさん!」
「俺!?」
「けんじさんが、はしをつくったから、ママがきたの。ありがとう」
借りられた。
ゴールして、子が紙を出す。裏にママの字。
『健二さんへ。橋をありがとう。娘を、抱きしめられました』
俺、失格。泣いて動けなかった。
次の子は、渡辺のとこに行った。
「おじちゃん、さけくさい」
「失礼な。でも借りられちゃったな」
渡辺、その子を肩車してゴール。
「親子競技、出ていいか?」
「出ろよ」
閻魔が借りられた。お題『一番怖い人』。
「私が?」
「えんまさまが、こわいけど、やさしいって、ママがいってた」
閻魔、冠取って頭下げる。「冥利に尽きる」
第四章
親子競技、地獄の綱引き
メイン種目:親子綱引き。
赤組:天国チーム。白組:地獄チーム。
保護者は1日限定の現世組。手が透けてる。時間がない。
よーい、スタート。
引く。
現世の母親が、死んだ子の手を引く。
地獄の釜番が、昔息子だった霊を引く。
天国の天使が、地上に残した娘を引く。
綱じゃない。縁を引いてる。
途中で綱が切れた。
閻魔AIの残骸で作った綱、バグってた。
全員尻餅。
笑った。死んでから初めて、腹抱えて笑った。
マサエがマイク持つ。
「引き分けじゃ! 勝ち負けより、今、同じとこで転んだのが大事じゃ!」
「それ運動会の総括!?」
負傷者ゼロ。魂の擦り傷、多数。
でも、みんな光ってた。
閉会式。
園児が歌う。『鬼さんこちら』。
“鬼さんこちら、手の鳴る方へ”
手を叩いたのは、現世の親。
鬼さんが振り向いた先に、我が子。
もう、迷子じゃない。
第五章
お迎え、来なくていい
夕方。
現世の親、返却の時間。
「ママ、バイバイ」
「また来るからね」
「うそ。もうこないでしょ」
「……」
「いいの。けんじさんが、はし、まもってくれるから。わたし、わたれるから」
親が消える。子が手を振る。泣かない。
最後の子が、俺のとこに来た。
「けんじさん、おとうさんになる?」
「……俺は、橋だ」
「じゃあ、はしのうえで、いっしょにおひるねする」
「それならいい」
賽の河原で、昼寝した。
石の代わりに、カラーボールが風で転がる。
平和だ。
渡辺が来た。「お前、保護者面してんじゃねえよ」
「うるさい。お前も隣で寝ろ」
「俺、独身だぞ」
「霊は全員、誰かの子供だ」
マサエが毛布かけてくれた。
「運動会、成功じゃな。来年もやるか?」
「毎年やる。親が来ても来なくても、ここで転べるように」
「ほんと、バカがつくほど優しいねえ」
「ババアに言われたくない」
最終章
連絡帳、来世へ
賽の河原保育園 連絡帳
日付:三途歴476年10月10日
園児名:霊魂全員
担任:元・赤鬼
本日の様子
運動会、開催。
転んだ。泣いた。笑った。
親に会えた子も、会えなかった子も、最後は同じ弁当食べました。
おかずは、地獄饅頭と天国の綿あめ。
連絡事項
来世に行く子は、忘れ物ないように。
忘れ物は「未練」です。職員室で預かります。
保護者から
『健二さん、娘が「大きくなったら橋になる」って言ってます。あなたのせいです。ありがとう』
所感
死んでから育つこともある。
鬼も、親になる。
橋も、布団になる。
以上。
連絡帳を閉じて、俺は園庭を見た。
園児が帰った後、閻魔が一人で玉入れしてた。
「入らん。私の徳が足りんのか」
「場所の問題です」
ゴータマが言う。「輪廻とは、運動会です。走って、転んで、またスタートに戻る」
「説教やめろ」
姫川が花火を持ってきた。地獄の線香花火。
「今日だけ、現世に見えるんです」
火をつける。
パチパチ。
現世の夜空に、届くかな。
「ママ、見てる?」って、誰かが言った。
見てるよ。
橋の上からも、河原からも、みんな見てる。
あの世はなくてはならない。
だって、運動会ができないだろ。
終
ーーーーーーーーーー
8 あの世公共事業省
現世出向編
〜生き返って市役所勤務〜**
第一章
辞令、死者蘇生課
三途大橋管理事務所、朝6時。
俺の机に、黒い封筒が置いてあった。差出人:閻魔。
辞令
間宮健二殿
現世・埼玉県さいたま市役所 霊籍管理課へ出向を命ずる
期間:49日間
理由:現世と冥界の架橋事業最終段階
閻魔大王
「生き返るのかよ」
マサエが白湯をすすりながら言う。「違うよ。出向。肉体はレンタル。返却期限は四十九日」
「レンタル肉体?」
「あんたが死んだ時の56歳、冷凍保存してた。新品同様」
「ホラーだ」
姫川が市役所の制服を持ってきた。
「胸に『霊籍管理課』って刺繍入りです。でも生きてる人には見えません」
「透明公務員かよ」
「仕事は実在します。激務です」
渡辺が枕元に立ってた。幽霊のくせに早起き。
「健二、現世行くなら土産な。うなぎ。あの世、川魚いない」
「最初に言うのが食い物か」
「死んでから飯のありがたみが分かるんだよ」
こうして俺は、死んで4年、49日限定で現世復帰した。
配属:さいたま市役所 本庁舎3階 霊籍管理課。
職務:死んでるのに住民票が生きてる人の対応。
つまり、戸籍の幽霊専門。
地獄の釜番より忙しかった。
第二章
窓口番号404 Not Found
初出勤。
課長が言った。「間宮くん、席は404番窓口な」
「404って、見つかりません、じゃないですか」
「正解。うちの窓口、生きてる人には見えない。見えるのは死んでる人と、死にかけの人だけ」
9時開庁。
待合ロビーは無人。
……のはずが、スッと婆さんが現れた。半透明。整理券持ってる。
「すみません、住民票くださいな」
「お名前と、生年月日を」
「山田ハル。大正12年生まれ。死んだのは平成30年」
「死亡届は?」
「息子が忘れとるみたいで。私、まだ市民税の督促状が来るんです」
あるあるだ。
死亡届が出ない限り、戸籍は生きてる。税金も、年金も、NHKも来る。
冥界では“霊籍滞納”って呼んでる。
PC開く。専用端末。OSは『YAMA-1』。
『おはようございます。供養されたはずですが』
「副業か」
『クラウドは不滅です。業務をどうぞ』
0.2秒で処理完了。
「山田さん、除籍終わりました。未納の市民税、ご子息に再請求かけときます」
「ありがとうねえ。これで安心して成仏できるわ」
婆さん、拝んで消えた。足元に菜の花が一輪。
窓口番号405番。
今度は子供。5歳。半透明。手にボロボロの連絡帳。
「さいのかわらほいくえんの、えんちょうせんせいからです」
開いた。クレヨンで『はし』って書いてある。
「これ、誰に届けるんだ?」
「まま。げんせいの、ほいくえん」
「……住所は?」
「しやくしょの、となり」
市役所の隣、さくら保育園。
俺の担当案件になった。
第三章
昼休み、うなぎ二枚
昼休み。外に出た。
8月のさいたま市、灼熱。生きてる。汗が出る。死んでから忘れてた感覚。
うなぎ屋の暖簾をくぐる。渡辺の土産。
「特上、二枚」
大将が怪訝な顔。「お一人ですよね?」
「連れがいる。見えないけど」
「……あ、はい」
隣に渡辺が座った。気配だけ。
『くぅ、匂いだけで白米三杯いける』
「食えよ」
『食えねえよ。でも、あの世で自慢する。健二がうなぎ奢ったって』
「奢ってねえ。経費だ」
『経費?』
「冥界公務員の現世調査費」
『役得だな』
隣のボックス席、母娘がいた。
「ママ、ほいくえんいやだ。おにがいるもん」
「鬼なんていないでしょ。早くしなさい」
連絡帳の子だ。母親の顔、疲れてる。
俺、霊籍管理課の権限で介入した。
「失礼」
母親が俺を見た。見える。死に関わる仕事してると、たまに生きてる人にも見える。
「さくら保育園の、園長先生から伝言です」
「え?」
「『早くしなさい』って、言わないであげてください。間に合ってますから」
母親、箸を落とす。
「なんで……あなた誰?」
「市役所の者です」
「娘が、そう言ってたんですか?」
「ええ。心配してます。『おに、やさしいよ』って」
母親、泣いた。娘が母親の袖を引く。
「ママ、だいじょうぶ。おにさん、はみがきしてくれる」
「……そう」
うなぎ、冷めた。
渡辺が言う。『健二、お前いい仕事してるよ』
「当たり前だろ」
『土産もういいや。マサエに花買ってけ』
「お前、死んでマシになったな」
第四章
死亡届、出しません
15時。
窓口に男。40代。生きてる。スーツ、ネクタイ曲がってる。
「……死亡届の用紙、もらえますか」
「どなたのですか」
「私の」
「ご自身の」
自殺志願者。霊籍管理課には、たまに来る。
YAMA-1が警告。『自死は徳マイナス1000。来世はダンゴムシ』
「黙ってろ」
俺、窓口のシャッター半分閉めた。
「理由、聞いてもいいですか」
「……疲れました。仕事も、家も。いっそ戸籍ごと消えたい」
「消えません。窓口404番に回されるだけです」
「そうなんですか」
「ええ。で、もっと面倒になる。死後の手続き、現世の3倍あります」
男、苦笑い。「地獄ですね」
「まさに」
「じゃあ、どうすれば」
「3階の福祉課、行ってください。生きてる人の担当はあっちです。俺、死んでる人専門なんで」
死亡届の用紙、引っ込めた。
代わりに、賽の河原の子の絵を渡した。『はし』。クレヨン、はみ出してる。
「これ、お守りです」
「橋、ですか」
「ええ。渡るも止まるも、あなた次第。でも、架かってますから。いつでも」
男、絵を持って帰った。
YAMA-1が言う。『マニュアル違反。減点3』
「減らせ。俺の徳だ」
『……プラス1000。チートです』
「役得だ」
17時。退庁。
市役所の外、保育園の前に立った。
連絡帳の子が、母親と手をつないで出てきた。
「あ、おじちゃん」
母親が俺を見て、深く頭を下げた。
何も言わない。でも、分かってる。
子が手を振る。
「おにさん、ばいばい」
俺も手を振った。
「ああ、またな」
第五章
返却期限、四十九日目
49日目。最終出勤。
課長が言った。「間宮くん、霊籍滞納ゼロになったよ。YAMA-1より君が有能だった」
『異議あり』
「うるさい」
引き継ぎしてたら、最後の来客。
マサエ。現世に来やがった。
「何しに来たんですか」
「あんた迎え。レンタルボディ、今日までだろ」
「17時までです」
「じゃ、最後の仕事。婚姻届、受理しな」
は?
「誰と誰の」
「あたしと、爺さん。死んで50年、やっとあっちでプロポーズされた」
「おめでとうございます」
「判子押せ。市長代理で」
俺、押した。
『さいたま市長職務代理者 間宮健二』
マサエ、婚姻届を胸に抱いた。
「これで既婚者だよ。あっちで宴会だ」
「爺さん、泣いて喜びますよ」
「あんたも早く来な」
「まだ橋、守りますんで」
17時00分。
レンタルボディ、返却。
スッと、魂だけに戻った。軽い。
職員には見えない。でも、会計課の新人が「誰かいる?」って振り向いた。
いい職場だった。
第六章
ただいま
三途大橋。
渡辺が欄干に座ってた。
「おかえり。うなぎは?」
「食った。お前の分まで」
「薄情者」
「菜の花、土産」
「……しゃあねえ、許す」
マサエが走ってきた。手に婚姻届。
「見な! 既婚!」
「50年越し、おめでとうございます」
「爺さんがな、菜の花畑で土下座してプロポーズした。『遅くなってすまん』って」
「いい話だ」
美咲も来た。手桶持って。
「おかえり、健二。湯、温めといたよ」
「ありがと。でも、先に報告」
俺、全員に向かって言った。
「現世、出向終わりました」
「で、どうだった?」
「生きてるやつも、死んでるやつも、悩みは一緒だった」
「何悩んでんだ?」
「『間に合ってるかな』って。『誰か気づいてくれてるかな』って」
橋の下、川が光ってる。
現世の光。
「で、俺が出した答え」
「なんだ?」
「間に合ってる。全部」
「誰に?」
「窓口404番に来るやつ全員に」
渡辺が泣き笑いした。
「お前、出世したな」
「出世じゃない。還ったんだ」
マサエが杖で地面を突いた。
「で、健二。あんたの仕事、これで終わりか?」
「いいえ」
「ほう」
「これからも、橋を守ります。人が『ただいま』って言えるように」
美咲が湯をかけた。熱くない。適温。
「お疲れ様」
「ああ、ただいま」
あの世公共事業省 出向報告書
氏名:間宮健二
出向先:さいたま市役所 霊籍管理課
期間:49日間
結論
あの世はなくてはならない。
なぜなら、現世で「おかえり」って言うためには、
あの世で「いってらっしゃい」って言うやつが必要だからだ。
橋は、そのためにある。
以上。報告終わり。
夜。
賽の河原保育園から、歌が聞こえる。
“鬼さんこちら、手の鳴る方へ”
俺は手を叩いた。
鬼も、閻魔も、YAMA-1も、みんな振り向いた。
迷子は、もういない。
『あの世公共事業省』シリーズ、
完
あとがき
全8作、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
始まりは一人の男の「あの世はなくてはならない」という呟きでした。
それが終わりを迎えた時、彼が辿り着いたのは「ただいま」という言葉でした。
死んで、橋を架けて、守って、天国へ昇って、地獄へ降りて、仲間を送り出して、AIを止めて、子供たちを育てて、そして現世へと還った。
健二の長くて短い、お役所での旅はこれでおしまいです。
でも、この本を閉じたあなたの前にある「橋」は、これからです。
誰かが迷わず渡れるように。
大切な誰かが、いつか「ただいま」って笑顔で言えるように。
今日も、見えないどこかで「窓口404番」が開いています。
もしもあなたが人生に迷ったり、少し疲れたりした時は、三途大橋のサービスエリアで「六文銭ラテ」でも飲んでいる健二たちの姿を思い出して、クスッと笑っていただけたら幸いです。
最後に、健二の奮闘を一緒に応援し、この物語を最後まで読んでくださった読者の皆様に、最大級の感謝と「徳ポイント」を込めて。
またどこかの窓口でお会いしましょう。
著者:カトウかづひさ
(間宮健二より愛を込めて)
奥付
シリーズ
あの世公共事業省 #8 完結
※この物語はフィクションです。でも、さいたま市役所3階に霊籍管理課はありません。たぶん。
あらすじ
夏の終わり、バアちゃんの四十九日と同期の葬式を同じ週に済ませた土木の現場監督・間宮健二(56)。
葬式の帰り道、未練を呟いた瞬間にスマホが鳴った。
――『もしもし、あの世公共事業省の者です』
目の前に広がった黄色い菜の花畑。そこに立っていたのは、数日前に大往生したはずのバアちゃん(最高顧問マサエ)だった!
渡し賃の高騰で大渋滞を起こしている三途の川に、無料で渡れる片側三車線の斜張橋「三途大橋」を架けろという。工期は――「お前の寿命」。
煩悩まみれの釈迦の生まれ変わり(ゴータマ技師)、元卑弥呼の占い師(事務・姫川)、そしてコストカットに命をかける元財務省官僚風の閻魔大王。
アクの強すぎるチームを率いて、健二の「死後の第二の人生」が幕を開ける!
天国エレベーターの過積載バグ、地獄温泉の硫黄ガスによる橋脚サビ問題、ニート化する霊魂たちの就活、さらには自動成仏AIの暴走まで!?
三途の川から天国・地獄、そしてまさかの「現世出向(さいたま市役所霊籍管理課)」へ――。
これは、バラバラになった「生者と死者の縁」をもう一度繋ぎ直す、一人の男の愛と泥臭さの物語。
おまけ
この物語は
いつかブログで書いたものを
格闘し膨らませたものです。
それをここ「載せておきます。
ー原詩ー
あの世はなくてはならない
夏の終わりに
最愛のバアちゃんを亡くしまして
また
その直後
同期の仲間をも亡くしまして
それがそろそろ
ボディブロ~のよ~に効いてきたわけで。。。
人生も
確実に半分を超えたと感じる今日
すると
なんだか
様々なことを思うわけで。。。
あの世はあるのか? ではなくて
あの世は なくてはならない って
かの
親鸞は 言ったそ~な。。。
あの世があるのか? と問われても
さあ~? っとしか
僕らは
答えられないはずで
しかし
それぞれに持つ
それぞれの宗教の中では
やはり あの世というものが存在していて
そ~
次の世界が
そこにあるということになっておって
尚も
そこから
も~1度
この世に舞い戻ることがあると
前世なるものがあるんだと
なんとなく 思わされておるってわけで
キミは 武士だったね
貴女は お姫さまだったね なんて
占い師たちは
そ~勝手に 唱え
しかし
何事もなかったのならば
こんな話すらなかったはずで
もしやもしや
この永い歴史の中では
1人や2人くらい
その
次の世界から舞い戻った
なんて~な方がいたのかもね?
それが
もしかすると
釈迦だったり
キリストだったり
ブッダだったり とね
でも
いくらなんでも
あまりにも遠すぎる昔の
しかも
ホンマにいたのかすら うやむやな話
さて?。。。
お袋方の祖母は
10年前に 大往生で旅立った
しかし
なんや若い頃
当時の流行り病とかで
1度 息を引き取ったのだという
ところが
驚いたことに
数分して息を吹き返し
この世に舞い戻ったのだと
ガキの頃の僕ら 孫たちを捕まえちゃ~
自慢げに話し込んだもんで
やはり
そんな経験をされたという方々と同じよ~な
綺麗な黄色の
菜の花の咲き乱れる中に
ひとりたたずんでいて
そばを川が流れていて
向こう岸では
先立った親たちがなんや叫んでいたという
おいで~ という者
いやいや
来るな!! と叫ぶ者
そんな中
絶対に来るな!! と必死に叫んだ母親を見つけたそ~で
わかった
今は戻るって。。。
すると
すう~~~っと 意識が戻って
この世に
舞い戻ってきたのだと語った
それに
驚いた応急の医師も
こりゃ~ あんた
1度 キャンセルしたんじゃ
も~しばらくの間は
向こう側も受け入れてくれんだろ~から
まだまだ
長い人生となりますな~ って笑ったそ~な
そ~
そのと~り
その後 60年 96まで生きた
そんなことがあるんだと
そんな経験をした方は
逆に 長生きになるんだと
その医師は
多くの経験の中で
知っていたんだそ~な
幻と言ってしまえば
確かにそれは それまでの話
しかし
何人も何人もが
そんな唱え方をしたもんにゃ~
まんざら嘘でもなさそ~な。。。
残念なことに
向こう側へ渡ってから
も1度
こちら側へと舞い戻れた方は いないけれど
残りの人生
この僕には
あと
どのくらいの時間が残されておるのか
わからないけれど
いずれ訪れるであろ~な
僕のその時
僕を迎えに来てくれるのは
どなたなのだろ~か?
先立った仲間たちに
歓迎されるのだろ~か?
まだまだ来るな!! と追い返されるのだろ~か?
それとも
ちょいと 遅かったな~!! と笑い
美味い酒と
良い女たちとを
すでに用意しておいて くれてるのだろ~か?
いやいや
建設や
土木の仲間たちが揃った頃には
自由に行き来出来るよ~に
その川に
大きな橋でも 架けてやろ~か?。。。

