よっぽどの縁 2
〜時を越えて結ばれる、銀色の糸の物語〜
よっぽどの縁
この国ですら
一億二千万人
世界でならば
数十億人
その中で
人ひとりの時間
わずか百年ならば
同じ時代に出会うなんて
こりゃ
よっぽどの縁だと
大好きな薬師寺の僧侶は説く
まえがき
私たちが日々、何気なくすれ違う人々。満員電車の隣の席に座る人、交差点で一瞬だけ目が合った人、同じ本棚の前に佇む人。そのすべての人に、それぞれの人生があり、それぞれの時間が流れています。
この広い世界、長い歴史の中で、私たちが「同じ時代」に生まれ、「同じ場所」で行き交う確率は、どれほど奇跡的なことなのでしょうか。
本作『よっぽどの縁』は、そんな人と人との繋がりを、目に見える「糸」として捉えたひとりの女性の物語です。
誰にも言えない秘密を抱えた彼女の指から伸びたのは、時間をも飛び越える「銀色の糸」でした。昭和という激動の時代を生きた青年が遺した一冊の詩集が、令和の現代、そしてその先の未来へと、静かに想いを手渡していきます。
目に見えるものだけがすべてではない。
けれど、確かにそこにある温かい繋がり。
もしもあなたの日々に、ほんの少しの寂しさや、誰かと繋がりを求める気持ちがあるのなら、どうぞこの物語の頁をめくってみてください。あなたの小指にもきっと、大切な誰かへと続く糸が結ばれているはずです。
第一章 糸の見える朝
その朝、駅のホームで、白い糸が一本、ふわりと宙を泳いだ。
誰の目にも映らないはずのそれが、佐倉澪(さくら みお)には、はっきりと見えていた。
二十六歳の春。澪はもう、その光景にはずいぶん慣れていた。
糸は、向かい側のホームに立つ女子高生の右手の小指から伸びていた。風に揺れる釣り糸のようにしなやかで、けれども切れることはない。
糸は彼女の指を離れたあと、ホームの屋根を越え、空へ昇り、線路の上を渡って、こちら側で文庫本を読んでいる眼鏡の男性の左手薬指へと繋がっていた。
二人は、おそらく、互いの存在に気づいてさえいない。
女子高生はイヤホンで音楽を聴き、男性は本に目を落としている。けれども、糸は確かに二人を結んでいた。淡く光る、絹のような白い糸が。
澪は小さく息を吐いた。
糸が見えるようになったのは、九歳の冬のことだった。祖母の葬儀の翌朝、目を覚ますと、世界はすっかり様変わりしていた。父と母の小指から伸びる赤い糸。隣の家の老夫婦を結ぶ、もう色も褪せかけた金色の糸。学校に行けば、友達の指から無数の糸が、教室の壁を抜けて、見知らぬ誰かのもとへと伸びていた。
最初はこわかった。
「お母さん、糸が見える」
と訴えた澪に、母は怪訝な顔をして、けれども叱りはしなかった。父は黙って澪の頭を撫でた。誰も信じはしなかったが、誰も笑いもしなかった。それが、澪にとっての救いだった。
長じるにつれて、澪は理解した。
あの糸は——人と人とを繋ぐ「縁」なのだと。
白い糸は、これから出会う縁。赤い糸は、すでに結ばれた縁。金色は、長く深く結ばれた縁。そして、ごく稀に見える黒い糸は、断ち切られた縁の名残。
糸は色だけでなく、太さも、張り具合も、揺れ方も、すべて違っていた。ぴんと張った糸は、近く出会う予感がする。ゆるくたるんだ糸は、何年も、あるいは何十年も先のことだ。中にはほつれかけたものもあれば、二本三本と縒り合わさったものもある。
澪はそれらを、ただ眺めて生きてきた。
他人の縁に口を出すことは、しない。それが、九歳のときに自分に課したただ一つの決まりだった。糸が見えるからといって、神様になったわけではない。誰かと誰かが出会うべきかどうか、澪が判断していいはずがない。
「次の電車は、まもなく到着いたします」
アナウンスが流れた。
澪は文庫本の男性をもう一度見た。糸は変わらず、女子高生の指へと伸びている。今日、二人が出会うことはないだろう。糸はまだゆるく、たるんでいる。けれどもいつか——五年後か、十年後か——どこかの街角で、二人はきっと、すれ違うのではなく、目を合わせる。
よっぽどの縁だ、と澪は思った。
大好きだった祖母が、生前、よくそう言っていた。祖母は奈良の薬師寺で長く写経をしていた人で、寺の僧侶から聞いた話を、孫の澪によく聞かせた。
「いいかい、澪。この国に一億二千万人。世界には八十億人。その中で、人ひとりの寿命なんてせいぜい百年だろう。同じ時代に生まれて、同じ空気を吸えるなんて、それだけで、よっぽどの縁なんだよ」
九歳の澪には、その意味はわからなかった。
けれども糸が見えるようになってから、澪は祖母の言葉の重みを、少しずつ理解しはじめていた。
電車が来た。
ドアが開く。澪は乗り込み、つり革に手を伸ばす。窓の外、向かい側のホームの女子高生と眼鏡の男性が、互いに気づかぬまま、それぞれの方向へと歩き出すのが見えた。糸はそれでも、切れない。空を渡って、たわみながら、二人を繋いだままだった。
よっぽどの縁。
澪はもう一度、心の中で繰り返した。
その日、澪は会社に向かう途中で、自分の左手の小指から、これまで見たことのない色の糸が伸びていることに気づいた。
銀色だった。
白でもなく、赤でもなく、金でもない。月の光を糸に紡いだような、淡い、けれども確かに光を放つ銀色だった。
糸は澪の指を離れたあと、車両の天井を抜け、空のどこかへと消えていた。
あの先に、誰がいるのか。
澪には、わからなかった。
二十六年生きてきて、自分の指から伸びる糸を、こんなにもまじまじと見たのは初めてだった。普通、人は自分の縁を見ない。糸というのは、不思議と他人のものばかり目に入る。自分の指から伸びる糸は、たいてい、ぼんやりとしていて色もよくわからないのだ。
なのに、銀色の糸ははっきりと見えた。
まるで、見えるべき時期が来た、とでも言うように。
澪は左手を握りしめた。糸はそれでも消えなかった。揺れもしなかった。ただ、まっすぐに、空の方角へと伸びていた。
ふと、祖母の声が耳によみがえった。
「無理に押し掛けて出会う必要はないんだよ。必要なら、必要なときに、お互いの準備ができたときに、必ず出会えるんだから」
澪は、自分の準備ができているのかどうか、わからなかった。
けれども糸は、確かに伸びていた。
その日、澪は会社に着くまでの間、何度も左手を見た。糸は消えなかった。
春の風が、駅のホームを渡っていた。
会社に着くと、オフィスはいつもの月曜の喧騒に満ちていた。
澪はデザイン会社で、書籍のレイアウトを担当している。本の中身を読み、文字を組み、紙の上で物語が呼吸できるように、行間を整える仕事だった。
本の仕事を選んだのは、糸が見えるようになってから、自然な流れだった。本というのは、書いた人と読む人とを、時間を越えて結ぶものだ。糸の見える澪には、本のページから、書き手の指へと逆向きに伸びる、淡い糸さえも、ときどき見えることがあった。
「佐倉さん、おはよう」
声をかけてきたのは、隣の席の先輩、橘恵美(たちばな えみ)だった。三十二歳、二児の母。澪が入社以来お世話になっている。
「おはようございます」
「今朝、なんか、ぼーっとしてない?」
澪は、慌てて笑った。
「すみません、ちょっと寝不足で」
「ふーん。彼氏できた?」
「いえ、まったく」
「そうなの? 佐倉さんなら、すぐにできそうなのに」
澪は曖昧に笑って、パソコンの電源を入れた。
恵美の左手の薬指には、銀色の指輪が光っている。その指輪の上を、ご主人と結ばれた赤い糸が、ゆるやかに渡っていた。それと別に、二本の小さな金色の糸が、子供たちのいる保育園の方角へと伸びている。家族とは、こんなふうに何重にも糸を編み込まれた繭のようなものなのだ、と澪はいつも思っていた。
仕事が始まる。
澪は、午前中、新刊の文庫本のレイアウト作業に集中した。けれども、心のどこかは、ずっと、左手の小指から伸びる銀色の糸のことを、考えていた。
あの糸は、いつから伸びていたのだろう。
昨日まで、こんなにはっきりとは見えなかった。気づかなかったのか、それとも、本当に今日から伸び始めたのか。
糸というのは、何のきっかけもなく現れるものではない、と澪は経験的に知っていた。誰かが誰かを思った瞬間、あるいは、誰かが誰かのことを書いた瞬間、糸はゆっくりと張り始める。たぶん、自分の知らないどこかで、自分のことを思ってくれている誰かがいるのだ。
澪は、思わず微笑んだ。
二十六歳になるまで、自分は、誰のことも、特別に思ったことはなかった。糸が見えるということは、人を好きになることが、少しだけ難しくなる、ということでもあった。相手の指から、別の方角に伸びる赤い糸を見てしまったら、もう、その人を諦めるしかない。澪は、何度かそうやって、誰かを好きになりかけては、糸を見て、静かに退いてきた。
けれども、もしかすると——
澪は左手を見た。
糸は、変わらず、空のどこかへと伸びていた。
第二章 古書店の老人
会社の昼休み、澪は近所の古書店に立ち寄った。
「月燈書房(げっとうしょぼう)」という、看板すら剥げかけた小さな店だ。会社から徒歩五分、駅前商店街の路地を一本奥に入ったところにある。学生時代から十年以上通っているが、客と鉢合わせたことは数えるほどしかない。
戸を引くと、ちりん、と古い真鍮の鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
いつものように、奥のカウンターから、しわがれた声がした。店主の岡部老人だ。年齢はおそらく八十を超えている。糸の色からして、ずいぶん長く生きた人だ、と澪は思っていた。
老人の小指から伸びる糸は、一本だけ、ひときわ太く、深い金色をしていた。亡くなった妻のものだろう、と澪はかつて想像したことがある。糸というのは、相手が亡くなっても、すぐには消えない。色を少しずつ薄めながら、長い時間をかけて、ゆっくりと天に還っていく。
澪は黙礼して、奥の棚へと向かった。
いつものように、文庫の棚を眺める。岡部老人は何も言わない。ただ古い扇風機の音だけが、店内に響いていた。
その時だった。
澪は、自分の銀色の糸が、店内のどこかで、ふいに揺れたのを感じた。
糸は、相手との距離が縮まると、わずかに張りを増す。逆に遠ざかると、たるむ。澪は自分の左手を見た。銀色の糸が、店の奥——岡部老人の方向へと、確かに張り詰めていた。
まさか、と思った。
岡部老人ではない。老人の糸はすべて、別の方向に伸びている。ということは——
澪は顔を上げた。
カウンターの向こう、岡部老人の背後にある棚の前に、一人の女性が立っていた。
いつの間に入ってきたのだろう。鈴は鳴らなかったはずだ。
女性は、紺色のワンピースを着ていた。年の頃は澪と同じくらいか、少し下。背中まで伸びた黒髪を一つに束ね、棚の上のほうにある古い和綴じの本を、つま先立ちで取ろうとしていた。
澪の銀色の糸は——彼女に繋がってはいなかった。
澪は息を整えた。糸が張ったのは、別の方向だ。よく見ると、糸はその女性のさらに向こう、店の最奥にある一冊の本を指していた。
本に対して、糸が張る。
そんなことは、これまでに一度もなかった。
澪は半信半疑で、女性の脇を通り抜け、最奥の棚へと近づいた。
糸はますます張る。
その棚にあったのは、革表紙の古い詩集だった。題は『縁(えにし)』。著者の名前は、表紙が擦り切れて読めない。
澪はその本を手に取った。
瞬間、銀色の糸が、ふっと、形を変えた。
糸の先が、本の中へと吸い込まれるように消え、そして、ページの中から——別の方向へと、再び伸び始めたのだ。今度は時間を越えるかのように、糸はぐにゃりと螺旋を描き、店の天井を貫いて、どこか遠い場所、遠い時代へと向かっていた。
「それは」
背後で、声がした。
振り向くと、岡部老人がいつの間にか立っていた。皺だらけの手で、澪の手元の本を指している。
「ずいぶん古い本でね。半世紀以上、誰も手に取らなかった」
「半世紀」
「ええ。私がこの店を継いだ時には、もうそこにあった。父の代からのものです」
澪は本を開いた。
黄ばんだ紙に、万年筆で書かれた手書きの詩が並んでいた。印刷ではない。誰かが手で書いた、世界に一冊だけの詩集だった。
最初のページに、こうあった。
よっぽどの縁
この国ですら
一億二千万人
世界でならば
数十億人
その中で
人ひとりの時間
わずか百年ならば
同じ時代に出会うなんて
こりゃ
よっぽどの縁だと
大好きな薬師寺の僧侶は説く
澪の手が、震えた。
祖母が、よく口にしていた言葉。あの薬師寺の僧侶の話。それが、ここに、半世紀以上前から、書かれていた。
「これは、どなたが書いたんですか」
澪は声を絞り出すように尋ねた。
岡部老人は、しばらく黙っていた。それから、ゆっくりと首を振った。
「わかりません。父は、ある人から預かったとだけ言っていた。預かった、と。買い取ったのではなく」
「預かった……」
「いつか取りに来る人がいるはずだ、と父は言っていました。けれども、誰も来なかった。父は亡くなり、私もこの歳になり、もう誰も来ないだろうと、思っていたのですがね」
老人は、澪の顔をじっと見た。
「あなたは、この本に呼ばれましたか」
澪は何も答えられなかった。
ただ、左手の銀色の糸が、もう一度、強く張るのを感じていた。
糸は、本のページの中から伸び、天井を抜け、時間を越えて、どこか遠くへと繋がっていた。
「お貸ししましょう」
老人は静かに言った。
「お代はいりません。父は、預かった人にお返しするものだと言っていました。私には、あなたが、その人のように見えます」
澪は本を胸に抱いた。
古い紙の匂いが、ふっと立ち上った。それは、祖母の家の匂いに、よく似ていた。
戸口の真鍮の鈴が、ちりん、と鳴った。
振り向くと、先ほどの紺色のワンピースの女性が、もう店を出ていくところだった。彼女の小指から伸びる糸は、空に向かって何本も、何本も、淡い光を放ちながら伸びていた。けれども、澪の銀色の糸とは、一本も交わっていなかった。
彼女は、澪の糸の相手ではない。
ただ、今日、この瞬間、この古書店で、すれ違っただけの人。
それでも——と澪は思った。
すれ違うことすら、よっぽどの縁なのだ。
澪は本を抱えたまま、戸を引いた。商店街には、午後の陽が降り注いでいた。
月燈書房を出てから、澪はまっすぐ会社に戻った。
ランチを買い忘れたことに気づいたのは、エレベーターを降りてからだった。けれども、不思議と空腹は感じなかった。胸に抱いた革表紙の本の、ずっしりとした重みのほうが、澪の意識を満たしていた。
午後の仕事は、上の空で進んだ。
パソコンの画面に文字を組みながら、澪は何度も、机の引き出しに視線を落とした。引き出しの中には、ハンカチに包んで、あの本がしまってあった。家に帰るまでの数時間が、これほど長く感じられたのは、初めてだった。
夕方、退勤の時間になった。
「お先に失礼します」
澪が立ち上がると、隣の恵美が顔を上げた。
「あら、今日は早いのね」
「ええ、ちょっと、用事があって」
「もしかして、デート?」
澪は、答えに窮した。
古い詩集の中の、まだ会ったこともない誰かに会いに行く、と言えるはずもない。
「秘密です」
澪はそう言って、笑った。
恵美は、おやおや、という顔で、けれどもそれ以上は追及しなかった。
「気をつけて帰ってね」
「はい」
澪は本を抱えて、オフィスを出た。
帰りの電車の中で、澪は、革表紙の本を取り出した。
乗客はまばらだった。隣の席に座る人もいない。澪は、膝の上にそっと本を開いた。
黄ばんだ紙の上の、万年筆の文字。
澪はゆっくりと、最初のページから読み始めた。
よっぽどの縁
この国ですら
一億二千万人……
文字を追いながら、澪は、自分が、誰かに読まれることを願って書かれた言葉を、確かに今、受け取っていることを感じた。
半世紀以上前、東京のどこかの下宿で、一人の若者が、まだ見ぬ誰かのために、ペンを走らせた。その文字が、長い年月を、月燈書房の奥の棚で待ち続けて、今、澪のところに届いた。
よっぽどの縁だ、と澪は心の中で繰り返した。
電車が、澪のアパートの最寄駅に着いた。
澪は本を閉じて、再びハンカチに包んだ。プラットフォームに降り立つと、夕暮れの空が、薄い橙色に染まっていた。
澪の左手の銀色の糸は、その橙色の空を貫いて、どこか遠くへ伸びていた。
第三章 昭和四十二年の手紙
その夜、澪はアパートに帰り、ささやかな夕食を済ませてから、ようやく古書店で借りた詩集を膝に乗せた。
革表紙は手のひらに馴染むように柔らかく、けれども角は擦り切れ、背は糸でかがり直された跡があった。誰かが大事に、繰り返し読んだ本だ。
澪はページをめくった。
巻頭の「よっぽどの縁」に始まり、詩は全部で四十篇ほど収められていた。どれも縁について書かれていた。出会いの奇跡、すれ違いの寂しさ、別れたあとに残るぬくもり、まだ見ぬ誰かへの呼びかけ。
万年筆の筆跡は、男性のもののように力強かったが、ところどころに、書きあぐねたような細い線も混じっていた。書き手の息遣いが、ページから直に伝わってくる。
澪は何度もページをめくり返した。
そして、ちょうど真ん中あたりのページに、挟まっていた一通の手紙を見つけた。
封筒は色褪せた水色だった。宛名はなく、ただ「いつか読む人へ」とだけ、表に書かれていた。
澪は息を呑んで、封を切った。
いつか読む人へ
私はあなたを知りません。
あなたも、私を知らないでしょう。
けれども、この詩集があなたの手に渡ったということは、私とあなたの間に、なにかしらの縁があったということです。
よっぽどの縁、と私は呼んでいます。
私は今、東京の小さな下宿で、この手紙を書いています。
昭和四十二年、五月。
窓の外では、隣家のラジオから美空ひばりが流れています。
私の名は山際良一(やまぎわ りょういち)。二十七歳。出版社の校正係をしています。
澪は一度、手紙から目を離した。
昭和四十二年——西暦に直せば、一九六七年。今から五十九年前のことだ。
澪は左手を見た。銀色の糸は、変わらず、天井のどこかへと伸びていた。けれども今、その糸の張り具合が、確かに変わっていた。糸の先が、ぐっと過去へと——半世紀以上の時間の向こうへと、引かれているのを、澪は感じていた。
まさか、と思いながら、澪は手紙を読み続けた。
私は子供の頃から、不思議なものが見える質でした。
人と人とを結ぶ、糸のようなものです。
白い糸、赤い糸、金色の糸。色は様々で、太さも違う。けれども、それは確かに、人と人とを結びつけているものでした。
澪は、思わず手紙を取り落としそうになった。
心臓が、どくん、と一つ大きく打った。
山際良一という男性は、澪と同じものが、見えていた。
糸が、見えていた。
長じてから、私はこれを「縁」と呼ぶことにしました。
奈良の薬師寺に何度か通ううち、ある僧侶がこう教えてくれたのです。
「人と人との出会いは、よっぽどの縁です。同じ時代に生まれて、同じ空気を吸えるだけで、それだけで奇跡なのです」
その言葉が、私の見ている糸の正体を、ようやく言い当ててくれたように感じました。
さて、私には一つだけ、不思議な糸があります。
それは、私自身の左手の小指から伸びる、銀色の糸です。
他の色とは違う、月の光のような銀色。
この糸の先がどこへ続いているのか、私にはわかりません。
けれども最近、糸の張り方が変わってきたのです。
以前はゆるくたるんでいた糸が、ぴんと張るようになりました。
澪は息を止めた。
左手の小指。銀色の糸。月の光のような色。
すべて、自分のものと同じだった。
私はもう若くありません。
二十七歳というのは、当時としては立派な大人で、いい加減に身を固めるべき年でもあります。けれども私は、誰とも結ばれていない。私の指から赤い糸は伸びていない。
ただ、銀色の糸だけが、空のどこかへ向かって伸びている。
それで私は、考えました。
もしかするとこの銀色の糸は、同じ時代の誰かを指しているのではない。
もっと、ずっと遠くの——時代すら越えた誰かに、繋がっているのではないか。
馬鹿げた考えかもしれません。
けれども糸は、確かに、私の知らない方向へと伸びている。
空のどこか、時間のどこか。
その先に、いつか、私と同じものが見える誰かがいる。
その人に、この詩集を届けたい。
私が見たもの、感じたこと、考えたことを、その人とだけは、分かち合いたい。
だから私は、この詩集を、近所の古書店に預けることにしました。
月燈書房という店です。店主の岡部さんとは、よく将棋を指す仲です。
岡部さんに、こう言って預けます。
「いつか、この本を取りに来る人がいるはずです。その時は、お代を取らずに渡してやってください」
岡部さんは笑って頷きました。私のことを、変わり者だと思っているでしょう。
けれども彼は、頷いてくれました。
いつか読む人へ。
あなたが、銀色の糸を持つ人ならば。
あなたが、私と同じものが見える人ならば。
どうか、お願いがあります。
返事を書いてください。
この手紙の余白に、あるいは新しい紙に、なんでもいいから、書いてほしい。
そして、それをまた詩集の中に挟んで、月燈書房に返しておいてください。
岡部さんが亡くなっていても、その息子さん、あるいは孫の代に、いつか、私に届くかもしれない。
ばかげた話だと、自分でも思います。
けれども、糸は確かに、伸びているのです。
あなたがこの手紙を読んでいる時、私はもうこの世にはいないかもしれません。
それでも、糸は切れません。
糸は、生きている人と死んだ人を結ぶこともできるのだと、私は信じています。
よっぽどの縁、とは、そういうものではないでしょうか。
昭和四十二年五月十七日
山際良一
澪は、手紙を膝の上に置いて、長いあいだ動けなかった。
窓の外では、現代の東京の夜が、ネオンと自動車のヘッドライトで明るく光っていた。けれども澪の心の中では、半世紀以上前の、美空ひばりの流れる下宿の窓辺に、一人の若者が万年筆を握っている。
その人の左手の小指からは、銀色の糸が伸びている。
そしてその糸は、時間を越えて、今、澪の指へと繋がっている。
澪は、自分の左手を、もう一度見た。
銀色の糸は、変わらず、天井へと——いや、おそらくはもっと遠く、五十九年前の東京へと——伸びていた。
澪は、手紙を胸に抱きしめた。
返事を書こう、と思った。
届くかどうかはわからない。けれども、糸が繋がっているのなら、書かないわけにはいかない。
よっぽどの縁、なのだから。
第四章 薬師寺の僧侶
澪はその週末、新幹線に乗って奈良へ向かった。
手紙を読んだ夜、いてもたってもいられず、休暇願を出した。会社の同僚は怪訝な顔をしたが、澪はただ「祖母の墓参りに」とだけ答えた。
半分は本当だった。祖母は奈良の出身で、菩提寺もそこにあった。
けれどもう半分は——薬師寺で、答えを探したかった。
山際良一が言葉を交わしたという僧侶は、もうとうに亡くなっているだろう。けれども薬師寺という場所そのものに、何かが残っているのではないか。澪はそう感じていた。
奈良駅から近鉄に乗り換え、西ノ京駅で降りる。駅から薬師寺までは歩いてすぐだった。
五月の風が、若葉を揺らしていた。
寺の門をくぐったとき、澪は思わず立ち止まった。
境内の空気が、薄い金色の光に満ちて見えた。
糸だった。
数え切れないほどの糸が、東塔の屋根を渡り、西塔の九輪を縫い、回廊の柱と柱とを結び、そして空高くへと伸びていた。寺を訪れる人々の指から、それぞれの方角へと糸が伸び、亡くなった誰か、まだ見ぬ誰か、遠い時代の誰かへと、ゆっくりと揺れていた。
澪は、こんな景色を見たのは初めてだった。
糸が、こんなにも、密に、丁寧に、人と人とを結んでいる場所が、この世界にあったのだ。
澪は左手を見た。
銀色の糸は、変わらず、まっすぐに伸びていた。けれども、ここ薬師寺では、糸の先がはっきりと過去の方角を指している。空の高みから、時間の深みへと、糸はゆるやかに角度を変えて続いていた。
澪はゆっくりと境内を歩いた。
東塔の前に立ち、写経道場の脇を通り、玄奘三蔵院の手前まで来たとき、ふと、回廊の影に座っている一人の僧侶を見つけた。
若い僧侶だった。
まだ三十前後だろうか。剃り上げた頭に、墨染の衣。胡坐をかいて、文庫本を読んでいた。
澪は、なぜか、その僧侶に話しかけたくなった。
若い僧侶の小指から伸びる糸は、不思議な様子だった。多くは普通の人と同じく白や赤やまちまちの色だったが、一本だけ、ひときわ古びた、薄い銀色の糸が、東のほうへと伸びていた。
「あの」
声をかけると、僧侶は顔を上げた。
穏やかな目だった。
「観光ですか」
「いえ。あの、お聞きしたいことが」
澪は迷った。何をどう聞けばいいのか、わからなかった。
けれども僧侶は、急かさなかった。文庫本を閉じて、隣の縁を手のひらで軽く叩いた。
「お座りください。長い話は、座って聞きます」
澪は腰を下ろした。
しばらく、二人とも黙っていた。境内を渡る風が、回廊の軒先を鳴らした。
澪は、決心して、口を開いた。
「あの、ばかげた質問かもしれません」
「ええ」
「この寺に、五十年以上前、山際良一という方がよく通っていたと、聞きました」
僧侶は、表情を変えなかった。けれども、目の奥に、わずかな揺らぎが見えた。
「山際良一……」
「ご存知でしょうか。あるいは、その方の話を、お聞きになったことが」
僧侶は、しばらく黙っていた。
それから、ゆっくりと頷いた。
「先代の、そのまた先代から、聞いたことがあります」
「先代の、先代から」
「ええ。ここの僧侶は、代々、不思議な話を語り継ぐ風習がありましてね。
山際良一という方の話は、私たちの間では、ちょっとした伝説のようになっています」
澪は息を呑んだ。
「伝説」
「ええ。なんでも、その方は、人と人との縁が、糸のように見える方だったとか」
澪の手が、震えた。
僧侶はそれに気づいたようだったが、何も言わなかった。
「先代の話では、山際さんは、ご自分の小指から伸びる銀色の糸について、よく語っておられたそうです。誰にも繋がっていない、けれども確かにどこかへ伸びている、不思議な糸だと」
「その糸は、どうなったのですか」
澪は、声を絞り出すように尋ねた。
僧侶は、ふっと、優しく笑った。
「先代は、こうおっしゃっていました。山際さんがお亡くなりになった日、空が、銀色に光ったと」
「銀色に……」
「ええ。糸が、空に解き放たれて、別の時代の、別の誰かのところへ、流れていったのだと。先代はそう言っていました。お若い私は、半信半疑で聞いていましたが」
僧侶は、そこで、澪の左手を見た。
澪は、慌てて手を引こうとした。けれども僧侶は、目を細めて、こう言った。
「お客さん。今、あなたの左手から、銀色の糸が伸びているように、私には見えます」
澪は、息を止めた。
「見えるのですか」
「いえ、私には、本当は何も見えません。けれども、あなたの目の動きで、わかります。先代も、そう言っておられました。糸が見える人は、自分の指先を、ちらちらと見るのだと」
僧侶は、ゆっくりと続けた。
「山際さんもまた、そういう仕草をしておられたそうです」
澪は、ようやく、声を取り戻した。
「……信じて、いただけるのですね」
「信じます。私が信じなくとも、先代も、その先代も、信じていた話です。お寺というのは、信じることを引き継ぐ場所でもあるのです」
澪は、目頭が熱くなるのを感じた。
長いあいだ、誰にも話せなかった。母にも、父にも、職場の同僚にも。糸の話は、いつも、心の奥に閉じ込めてきた。それを今、初対面の若い僧侶が、当たり前のように受け入れている。
「ありがとうございます」
澪は深く頭を下げた。
僧侶は、何度か頷いてから、こう言った。
「山際さんは、晩年、こうおっしゃっていたそうです。『私の銀色の糸の先には、きっと、私と同じものが見える人がいる。その人にだけ、私の見たものを、お渡ししたい』と」
澪は、鞄の中から、革表紙の詩集を取り出した。
「これ、です」
僧侶は、その本を見た。
表紙に触れることはしなかったが、ただ、深く、深く、頷いた。
「届きましたか」
「届きました。五十九年かかって」
「よっぽどの縁、ですね」
僧侶は、そう言って、笑った。
澪も、笑った。
二人のいる回廊に、五月の風が吹き渡った。風に乗って、どこからともなく、写経道場の墨の匂いが流れてきた。
澪は、銀色の糸が、確かに、自分と、五十九年前の山際良一を結んでいるのを感じていた。
そして、もう一つ、別のことに気づいた。
若い僧侶の左手の小指から伸びる、薄い銀色の糸は——その先が、東の方角、東京のどこかを指していた。
澪は、何か言おうとして、結局、口を閉じた。
彼にもまた、いつか、自分と同じことが起こるのかもしれない。
糸というものは、そういうふうに、長い長い時間をかけて、巡るのかもしれない。
澪は、若い僧侶に、もう少し話を聞きたかった。
僧侶は、自分の名を、慈円(じえん)、と名乗った。
「お茶を、お持ちしましょうか」
慈円は、立ち上がろうとした。
「いえ、お忙しいでしょうから」
「忙しくはありません。今日は、私の当番の日ではないのです。たまたま、この回廊で本を読んでいただけです」
慈円はそう言って、また座り直した。
「ふしぎなことに、私がここで本を読んでいたら、あなたが来た。それもまた、よっぽどの縁ですね」
澪は、頷いた。
「慈円さんも、糸が見えるのですか」
澪は、思い切って、尋ねた。
慈円は、首を振った。
「いいえ、私には見えません。ただ、見える人の話を、長く聞いてきました。先代の住職は、見える方でした」
「先代の」
「ええ。山際良一さんの話を、私に伝えてくださったのが、先代です。先代は、ご自分も糸が見える方でしたから、山際さんの話を、よく理解しておられました」
澪は、目を見開いた。
糸が見える人は、自分ひとりだと、長いこと思っていた。山際良一を知ったとき、ようやく、過去にもう一人いたのだとわかった。けれども、もしかすると——
「先代も、糸が見えたのですか」
「ええ。先代の話では、糸が見える人は、ごく稀に、いらっしゃるそうです。
一つの世代に、一人か、二人か。日本中で。世界に広げれば、もう少しいるのかもしれません」
「そんなに、少ないのですか」
「少ない、というよりは、自覚している人が少ない、ということだと、先代はおっしゃっていました。本当はもっと多くの人に、ぼんやりとは見えている。けれども、ぼんやりとしか見えないから、自分の気のせいだと思って、忘れてしまう。
はっきりと見える人は、稀ですね」
澪は、回廊の柱の影を見つめた。
日が傾き始めて、影は少しずつ長くなっていた。
「先代は、はっきりと見える方でしたか」
「ええ。山際さんと同じくらい、はっきりと見えていたそうです。だから、山際さんの話を、信じることができたのです」
慈円は、ふと、空を見上げた。
「私には見えませんが、私の仕事は、見える人を信じることです」
澪は、その言葉に、胸を打たれた。
信じるということは、見えることよりも、むしろ難しいことなのだ。見える人は、自分の目で確かめている。けれども、見えない人が、見える人の話を信じるためには、ただひたすらに、相手を尊重するしかない。
「ありがとうございます」
澪は、もう一度、頭を下げた。
慈円は、目を細めた。
「あなたは、これから、どうされますか」
「東京に戻って、お返事を書きます」
「山際さんに、ですか」
「はい。届くかどうかはわかりませんが、書かないわけにはいかないと、思っています」
「届きますよ」
慈円は、はっきりと言った。
「届くかどうか、わからないとおっしゃいましたが、私は、届くと確信しています。なぜなら、糸は、生きている人と死んだ人を、結ぶこともできるからです。先代から聞いた、山際さんの言葉です」
澪は、頷いた。
「同じことを、山際さんも、手紙に書いておられました」
「でしょうね。糸が見える方は、みな、同じ真実に辿り着くようです」
慈円は、回廊から立ち上がった。
「お見送りしましょう」
二人で、ゆっくりと、境内を歩いた。
東塔の前で、慈円が立ち止まった。
「この塔は、千三百年前から、ここに立っています」
「千三百年」
「ええ。創建されてから、何度か建て替えはありましたが、それでも、この場所に、塔がずっとあり続けている。塔は、人と人とを結ぶ縁の、もう一つの形かもしれません。塔が立っているからこそ、千三百年前の誰かと、今のあなたが、同じ場所に立っている」
澪は、東塔を見上げた。
九つの輪が、夕陽を受けて、淡く光っていた。
その輪の周りに、無数の糸が、絡まりながら、空へと伸びている。澪には、それが見えた。寺を訪れた人、訪れる人、亡くなった人、これから生まれる人——それらすべての糸が、塔を中心にして、結ばれている。
「美しい場所ですね」
澪は、つぶやいた。
「ええ。私が、この寺を選んだ理由でもあります」
慈円は、微笑んだ。
二人は、門のところまで歩いた。
「またいつか、お越しください」
「はい。ぜひ」
澪は、深く一礼して、寺を後にした。
振り返ると、慈円は、まだ門のところに立って、澪を見送っていた。
彼の左手の小指から伸びる、薄い銀色の糸は——澪の進む方向、東京のほうへと、まっすぐに、伸びていた。
澪は、何か言いかけて、結局、ただ、もう一度頭を下げて、駅へと歩き出した。
もしかすると、いつか、慈円もまた、自分と同じことを経験するのかもしれない。
いや、もしかすると、もう経験しつつあるのかもしれない。
その時、糸の先で待っているのは、誰なのだろう。
澪には、わからなかった。けれども、糸は、必要なときに、必要な人を結ぶ。慈円が、いつか、その時を迎えるのだろう。
夕陽が、奈良の街を、橙色に染めていた。
澪の銀色の糸は、過去と、未来と、その両方へ、淡く揺れていた。
第五章 返事を書く
東京に戻った澪は、その夜、机に向かった。
白い便箋を一枚、ライトの下に広げる。万年筆を握る。インクの色は、迷ったすえ、紺青を選んだ。山際良一の手紙の文字も、紺青に近い色だった。
窓を開けると、五月の夜風が入ってきた。
部屋の隅のラジオから、古いジャズが小さく流れている。澪は、半世紀以上前のあの下宿に、自分を重ね合わせるつもりで、ペンを動かし始めた。
山際良一さま
いつか読む人へ、と書かれたお手紙を、確かに受け取りました。
令和八年、五月。
あなたが手紙を書かれてから、五十九年が経ちました。
澪はここで、一度ペンを置いた。
五十九年。長いような、短いような時間だった。
山際良一はもう、この世にはいない。それは薬師寺の僧侶の話で、はっきりと知った。それでも、糸は切れていない。糸は、生きている人と死んだ人を結ぶこともできる。山際自身が、手紙の中でそう書いていた。
澪は、また書き始めた。
私の名は、佐倉澪と申します。二十六歳。会社員をしています。
女です。あなたは、男性の方を想像しておられたかもしれませんが、お許しください。
私もまた、人と人とを結ぶ糸が見えます。
子供の頃から、ずっとです。
白い糸、赤い糸、金色の糸。あなたが手紙に書かれた通りの色を、私も見ています。
そして、私の左手の小指からも、銀色の糸が伸びています。
その糸は、過去のあなたへと繋がっていました。
あなたが書き残された詩集を、月燈書房で受け取りました。
岡部老人は、二代目だそうです。あなたが将棋を指していた岡部さんは、お父様だったのですね。今のご主人は、もうすぐ八十歳になられるとのことです。
ご主人は、こうおっしゃいました。
「父は、いつか取りに来る人がいるはずだ、と言っていました」
私は、その人かもしれません。
澪は手を止めて、左手の小指を見た。銀色の糸が、便箋の上にかかっていた。糸はゆっくりと揺れて、まるで澪の手の動きを見ているかのようだった。
奈良の薬師寺に行ってきました。
あなたが通っておられた、あの寺です。
今は、若いお坊さまが、あなたの話を伝説のように語り継いでおられました。
あなたが亡くなった日、空が銀色に光った、と。
その糸が、時代を越えて、私のところに届いたのだと、私は信じています。
あなたの詩集、ゆっくりと読ませていただきました。
一篇、一篇、心に染みるものでした。
とくに「よっぽどの縁」は、私の祖母が、よく口にしていた言葉です。
祖母もまた、薬師寺の僧侶から、その話を聞いたと言っていました。
もしかすると、私の祖母とあなたは、同じお坊さまから、同じ話を聞いていたのかもしれません。
それもまた、よっぽどの縁ですね。
澪は微笑んだ。
ペンが、紙の上を、なめらかに走った。
山際さん。
私は、糸が見えることを、ずっと、ひとりで抱えてきました。
誰にも話せませんでした。話したところで、信じてもらえないと思っていました。
けれどもあなたの手紙を読んで、ようやく、私はひとりではなかったのだと、知りました。
時代を越えて、私と同じものを見ていた人がいた。
その人が、私に向かって、手紙を書き残してくれていた。
それは、私の人生の中で、最も大きな贈り物のひとつでした。
お返事を書きます。
届くかどうかはわかりません。けれども、糸が繋がっているのなら、書かないわけにはいかないでしょう。
あなたが、私の存在を、半世紀以上前に予感してくださったように。
私もまた、これから先、私の銀色の糸の先にいる、誰かのことを、信じます。
澪は、ふと、ペンを止めた。
自分の銀色の糸は、確かに、過去の山際良一へと伸びている。けれども、糸というものは、本来、一本の道ではない。よく見ると、糸は澪の指から二方向に伸びていた。一方は過去へ、もう一方は——未来へと。
澪は、その未来の方角を、しばらく見つめた。
糸の先には、まだ会ったことのない誰かがいる。それは何十年後か、あるいは、もう少し近い未来か。
澪は、再び、ペンを取った。
山際さん。
私は、あなたから受け取ったものを、もう一度、次の誰かに渡そうと思います。
あなたの詩集と、あなたの手紙と、そして、私のこの手紙を。
月燈書房に預けます。
岡部老人のあとも、おそらく誰かが、あの店を継いでくれるでしょう。
継がれなかったとしても、本というものは、不思議と、必要な人のところに届くものだと、私は信じています。
いつか、私の銀色の糸の先にいる人が、この詩集を手に取るでしょう。
その時、私もまた、あなたのように、その人に向かって書き残します。
よっぽどの縁、と。
あなたの詩集を、ありがとうございました。
あなたの手紙を、ありがとうございました。
あなたが、私を見つけてくださったことを、ありがとうございました。
令和八年五月二十三日
佐倉澪
書き終えると、澪は、長く息を吐いた。
万年筆の蓋を閉める。便箋を二つに折る。それから、もう一枚、白い紙を用意した。
今度は、未来の誰かへの手紙だった。
いつか読む人へ
あなたが、銀色の糸を持つ人ならば。
あなたが、私と同じものが見える人ならば。
どうか、お願いがあります。
返事を書いてください——
澪は、山際良一の文章を、そのまま借りた。書き換える必要は、なかった。
縁というものは、こんなふうに、繰り返されるものなのかもしれない。
澪は、自分の手紙と、未来への手紙の二通を、詩集の中に丁寧に挟んだ。山際良一の手紙も、もとあった場所に戻した。
革表紙の本は、少しだけ厚みを増した。
その厚みは、五十九年の時間と、これから先の何十年か、あるいは何百年かを、確かに重ねた厚みだった。
澪はラジオを消した。
窓の外、東京の夜空に、星が一つ、銀色に瞬いて見えた。
糸はまだ、消えていなかった。
第六章 月燈書房ふたたび
翌週の土曜日、澪は月燈書房を訪ねた。
革表紙の詩集を、紺色の風呂敷に包んで、胸に抱えていた。
商店街の路地を曲がる。看板の剥げかけた古書店の前に立ったとき、澪は一瞬、立ち止まった。
左手の銀色の糸が、ふっと、これまでにない揺れ方をしたのだ。
糸は、過去にも未来にも、それから——店の中にも、伸びていた。
澪は戸を引いた。ちりん、と真鍮の鈴が鳴る。
「いらっしゃい」
岡部老人の声がした。
いつもの通りの、しわがれた声。けれども今日は、声の中に、少しだけ、待っていたような響きがあった。
澪はカウンターに歩み寄り、風呂敷から本を取り出した。
「お返しに来ました」
「ええ」
「それと、お願いがあります」
岡部老人は、皺だらけの目を細めた。
「父からの言伝てを、思い出しました」
老人は、棚の下の引き出しから、古びた一枚の紙を取り出した。万年筆の文字で、こう書かれていた。
月燈書房の主へ
革表紙の詩集が、戻ってきたら——
その人の手紙を、必ず一緒に挟んでおいてください。
そして、次の人が現れるまで、また、奥の棚にしまっておいてください。
お代は取らずに。
いつかまた、必要な人のところに、届くはずです。
山際良一
「父は、これを大事にしまっていました。私には、最初は意味がわからなかった」
岡部老人は、紙を澪に見せた。
「けれども先日、あなたがあの詩集を抱えて出ていかれたとき、私は、ああ、これは、父の言っていた縁だな、と思いました」
澪は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。手紙を、二通、挟みました。一通は、山際さんへの返事。もう一通は、未来の誰かへの手紙です」
「未来の誰か」
「ええ。私の銀色の糸は、過去のほうへも、未来のほうへも、伸びているのです」
岡部老人は、しばらく黙ってから、微笑んだ。
「人の縁というのは、そういうものかもしれませんね」
「はい」
「あなたは、本を私に預けてくださる。私は、また奥の棚にしまう。いつか、別の誰かが、ここに来る」
「そう、信じています」
澪は、本を風呂敷ごと、老人に差し出した。
老人は、両手で、丁寧にそれを受け取った。
「お預かりします。私が生きている間は、私が。私が逝ったあとは、息子か、孫か、店を継ぐ誰かが、預かるでしょう。父から私へ、私から次の代へ。本もまた、人と人とを繋ぐ、糸のようなものです」
澪は、目頭が熱くなるのを感じた。
左手の銀色の糸が、店の天井のあたりで、ふわりと、二本に分かれた。一本は過去の山際良一へ。もう一本は、未来のまだ見ぬ誰かへ。
澪は、その光景を、しばらくじっと見ていた。
糸は、もう、孤独ではなかった。
帰り道、商店街を歩きながら、澪は不思議な感覚に包まれていた。
長いあいだ、糸が見えるというのは、孤独な能力だと思っていた。誰にも話せず、誰にも理解されない、自分だけの秘密。糸は他人のものばかりで、自分は、糸を見るだけの傍観者だった。
けれども、本当は違ったのだ。
糸は、見える側にも、繋がっている。
時代を越えて、空間を越えて、糸は誰かと誰かを結びつけ、そして、その糸を見ることのできる人もまた、別の誰かと結ばれている。
澪は、山際良一と繋がった。
そして、まだ見ぬ未来の誰かと、これから繋がる。
その誰かもまた、その先の誰かと繋がるだろう。
澪が出会わなかったかもしれない人と、未来のその誰かとが、間接的に出会うように——糸は、長い長い時間をかけて、人々を縫い合わせていく。
澪は、ふと、足を止めた。
商店街の交差点で、紺色のワンピースの女性とすれ違った。
あの日、月燈書房で見かけた女性だった。
彼女は澪のほうを、見もしなかった。澪も、声をかけなかった。糸も、二人の間には、伸びていなかった。
ただ、すれ違っただけだった。
それでも、澪は思った。
すれ違うことすら、よっぽどの縁。
彼女もまた、いつか、どこかの誰かと出会うだろう。澪が出会うべき人と、彼女が出会うべき人とは、違う。けれども、もしかすると、彼女の出会う誰かと、澪の出会う誰かとが、その先のどこかで、別の縁を結ぶのかもしれない。
糸は、見えなくとも、確かにそこにある。
すれ違う一瞬の風の中にも、確かに糸は揺れている。
澪は、商店街を抜けて、自分のアパートへと向かった。
左手の小指から伸びる銀色の糸は、過去と未来へ、静かに、けれども確かに、伸び続けていた。
数ヶ月後、澪は会社の昼休みに、また月燈書房を訪れた。
岡部老人は、いつものようにカウンターの奥に座っていた。
澪は、革表紙の詩集が、奥の棚にきちんと戻されているのを確認した。本の背を、指で、そっと撫でた。
「次の方が、いつ来られるか、わかりませんね」
澪が言うと、老人は微笑んだ。
「来るときには、来ます。来ないときには、来ません。それだけのことです。私が父から教わったのは、それだけです」
澪は、頷いた。
店を出ようとしたとき、戸口に、若い男性が立っていた。年の頃は、澪より少し下、二十二、三歳といったところだろうか。
彼は、初めて月燈書房に来た様子で、少し戸惑った顔をしていた。
彼の左手の小指から——
澪は、息を呑んだ。
淡い、銀色の糸が、伸びていた。
糸は、店の奥の棚へと向かって、まっすぐに、張り詰めていた。
澪は、彼と目が合った。
彼は、何かを言いかけて、けれども結局、黙礼だけして、店の中へと入っていった。
澪は、彼を引き止めなかった。
ただ、そっと、戸を引いて、外に出た。
ちりん、と真鍮の鈴が鳴った。
商店街の空に、夏の雲が浮かんでいた。
澪は、左手の小指を見た。銀色の糸は、過去へと、そして未来へと、確かに伸びている。
その未来のほうの糸が、今、初めて、近づいてきたのを澪は感じた。
糸は、ぴんと張っていた。
いつか、彼と、言葉を交わすことになるのだろう。あるいは、ならないかもしれない。
けれども、糸は、確かに繋がっている。
澪は、空を見上げた。
雲の合間から、太陽の光が差し込んで、糸を、ほんの一瞬、はっきりと、輝かせた。
よっぽどの縁、と澪は心の中で呟いた。
大好きだった祖母の声が、聞こえた気がした。
大好きな薬師寺の僧侶の話を、孫に語ってくれた、あの祖母の声だった。
澪は、商店街を歩き出した。
左手の小指から伸びる銀色の糸は、過去と、未来と、そして今ここを、確かに、繋いでいた。
商店街を歩きながら、澪は、もう一度、若い男性のことを思い出していた。
彼の左手から伸びていた、銀色の糸。
彼もまた、糸が見える人なのだろう。あるいは、これから見えるようになる人かもしれない。澪が九歳の冬の朝、突然糸が見えるようになったように、彼にも、いつか、そんな朝が来るのだろう。
彼が、月燈書房であの詩集を見つけたとき、何を思うだろうか。
澪の手紙を、彼が読むとき、彼は、半世紀以上前の山際良一の文字と、今の自分の文字とが、同じ詩集の中で並んでいることに、驚くだろうか。それとも、すでに何かを予感していて、ただ、ああ、やはり、と頷くだけだろうか。
澪には、わからなかった。
けれども、それでいいのだ。
縁というのは、自分が制御するものではない。糸は、自分の意思で張ったり、たわんだりするものではない。糸は、ただ、そこにある。見えるか、見えないか、それだけの違いだ。
澪は、夏の空を見上げた。
雲は、ゆっくりと、東のほうへ流れていた。
奈良の薬師寺の、慈円のことを思った。
彼は今頃、何をしているだろう。境内の回廊で、また文庫本を読んでいるだろうか。それとも、写経をしているだろうか。あるいは、彼もまた、誰かと出会って、銀色の糸の先を、辿りつつあるのだろうか。
澪は、慈円に、葉書を送ろうと思った。
月燈書房で、新しい持ち主に会ったこと。彼の左手にも、銀色の糸が伸びていたこと。糸というものは、こんなふうに、巡るものらしいこと。
慈円なら、わかってくれるだろう。
アパートに帰った澪は、机に向かって、葉書を書いた。
短い文章だった。
「先日は、ありがとうございました。今日、月燈書房で、新しい持ち主に会いました。私と、よく似た糸を持つ方でした。慈円さんに、お知らせしたくて、筆を取りました。佐倉澪」
それだけ書いて、ポストに投函した。
夏の夕暮れだった。
ポストの上に、夕陽が斜めに差して、赤い箱がさらに赤く輝いて見えた。
澪は、ふと、自分の左手の小指を見た。
銀色の糸は、これまでよりも、少しだけ、ゆるんでいた。
張り詰めていた糸が、ふっと、ほどけたような感じだった。
ああ、と澪は思った。
糸は、果たすべき役目を、果たしたのかもしれない。
山際良一からの糸を受け取り、自分が受け取ったものを、未来の誰かに渡すための準備をした。糸は、まだ完全に切れたわけではない。けれども、ぴんと張っていた緊張は、確かに、ほどけた。
澪は、しばらく、ポストの前に立っていた。
風が吹いて、髪を撫でていった。
数日後、奈良から葉書が届いた。
差出人は、慈円。
短い返事だった。
「お知らせ、ありがとうございました。私もまた、東京で、ある方に出会いました。よっぽどの縁、を感じています。いつか、佐倉さんにお話できる日が、来るかもしれません。慈円」
澪は、その葉書を、机の引き出しに大事にしまった。
糸は、こうして、巡るのだ。
澪が山際良一から受け取ったものを、誰かに渡す。慈円もまた、誰かに渡す。その誰かが、また別の誰かに渡す。
縁は、一本の線ではない。
縁は、無数の糸が交差し、絡み合い、ほどけて、また結ばれる、巨大な織物のようなものだ。
澪は、その織物の、ほんの一筋の糸として、生きている。
それで、十分だった。
秋になった。
ある日、澪は、会社の昼休みに、また月燈書房を訪ねた。
いつもの古書店の戸を引くと、ちりん、と鈴が鳴る。
けれども、その日、カウンターの奥にいたのは、岡部老人ではなかった。
澪と同じ年頃の女性が、座っていた。
「いらっしゃいませ」
彼女は、ぎこちなく微笑んだ。
「岡部さんは……」
「祖父は、先週、亡くなりました」
澪は、息を呑んだ。
「孫の、私が、店を継ぐことになりました。岡部美咲(おかべ みさき)と申します」
彼女は、深く頭を下げた。
澪も、慌てて頭を下げた。
「お悔やみを申し上げます。私、岡部さんには、長くお世話になっておりました」
「ありがとうございます。祖父から、よく話を聞いていました。佐倉さんという、特別なお客様がいらっしゃると」
「特別、ですか」
「ええ。父からの言伝てがあって、革表紙の詩集のことを、佐倉さんにお伝えするように、と」
澪は、目を見開いた。
美咲は、カウンターの引き出しから、一枚の紙を取り出した。岡部老人の、震える筆跡で書かれた、最後の手紙だった。
佐倉様
長くお世話になりました。私の番は、ここで終わりです。
革表紙の詩集は、奥の棚に、変わらずございます。
次の方が、いつ来られるか、私にはもう、見届けることができません。
けれども、孫の美咲が、店を継いでくれることになりました。
美咲もまた、私や父と同じく、本を必要な人のところに届けることを、約束してくれました。
糸は、こうして、繋がっていくのですね。
ありがとうございました。
岡部
澪は、手紙を読んで、目頭を押さえた。
長くお世話になった老人の、最後の挨拶だった。
「ありがとうございます」
澪は、美咲に向かって、深く頭を下げた。
「こちらこそ。父から、佐倉さんのお話を、何度も聞いていました。佐倉さんと、私の祖父との縁は、よっぽどの縁だったのだ、と」
美咲は、そう言って、微笑んだ。
澪は、ふと、彼女の左手の小指を見た。
糸はたくさん伸びていたが、銀色のものは、なかった。
けれども、それでいい、と澪は思った。
糸が見えなくとも、糸が見える人を、信じてくれる人がいる。そして、その人が、本を預かってくれる。それで、縁は、繋がっていく。
岡部老人が、糸が見える人だったかどうか、澪は知らない。けれども、彼は、糸を信じていた。父から受け継いだ約束を、最後まで、果たしてくれた。
それだけで、十分だった。
澪は、奥の棚へと向かった。
革表紙の詩集は、変わらず、そこにあった。
ただ、本の隣に、もう一冊、白い表紙の薄い本が、新しく並んでいた。
タイトルはなかった。
澪は、その白い本を手に取った。
最初のページには、若い筆跡で、こう書かれていた。
昭和も、令和も、その先も。
糸を持つ人へ。
私もまた、銀色の糸を持つ者です。
あなたの手紙を読みました。
あなたが残した詩集を、私もまた、引き継ぎます。
澪は、息を止めた。
あの夏の日、月燈書房に来た、若い男性。彼が、書き残したものだった。
白い本は、彼が新しく作った、未来への手紙の入れ物だった。
澪は、白い本のページをめくった。
いくつかの詩と、いくつかの短い文章が、収められていた。彼もまた、糸について、書いていた。
澪は、白い本を、革表紙の詩集の隣に、そっと戻した。
二冊の本が、並んで、棚に置かれていた。
昭和の山際良一、令和の佐倉澪、そしてその先の、若い彼。
三人の手紙が、一つの場所で、待っていた。
いつか、また、新しい誰かが来るのだろう。
その時、棚には、三冊の本が並んでいるのかもしれない。あるいは、もっと多くの本が。
澪は、棚に向かって、深く頭を下げた。
月燈書房の戸口で、新しい店主の岡部美咲が、澪を見送っていた。
その隣には、ふと気づくと、岡部老人の姿が、淡く透けて、立っているような気がした。
錯覚かもしれない。
けれども澪は、老人の小指から伸びる金色の糸が、孫の美咲の小指へと、確かに、繋がっているのを見た。
糸は、生きている人と亡くなった人を、結ぶこともできる。
山際良一が、そう信じていた通りに。
澪は、戸を引いた。
ちりん、と鈴が鳴った。
商店街に、秋の夕陽が、斜めに差していた。
澪の左手の銀色の糸は、過去にも、未来にも、確かに伸びていた。
糸の先には、まだ会ったことのない、けれども、いつか会うはずの、誰かがいる。
よっぽどの縁、と澪は呟いた。
——出会えたことに、ありがとう。
楽しくやりましょう。
了
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あとがき
最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。
この物語は、「一億二千万人、世界でならば数十億人の中で、同じ時代に出会うなんて、こりゃよっぽどの縁だ」という、奈良・薬師寺の僧侶の説法(原案の詩)から着想を得て生まれました。
主人公の澪は、人の縁が視覚的に見えてしまうからこそ、かえって人と深く交わることに臆病になっていた女性です。
しかし、過去の住人である山際良一の言葉に触れ、自分の能力を信じて守ってくれた古書店の岡部老人や僧侶の慈円と出会うことで、彼女の孤独は緩やかにほどけていきました。
私たちが生きる現代は、SNSなどで手軽に誰かと繋がれる反面、本当の意味での「一期一会」や、時間をかけた「縁」の有り難みを感じにくくなっているのかもしれません。
ですが、たとえ直接言葉を交わさず、ただすれ違っただけの間柄であっても、それは途方もない確率の果てに生まれた「よっぽどの縁」なのです。
澪が過去から受け取ったバトンを未来の青年へと繋いだように、この本があなたの元へ届いたこともまた、ひとつの美しい縁だと信じています。
あなたの進む未来が、どうかたくさんの温かい糸で編まれていますように。
――出会えたことに、ありがとう。
楽しくやりましょう。

