偕老同穴ちんちんかもかも
――夫婦という名の、幸せな勘違い――


〜まえがき〜

「偕老同穴(かいろうどうけつ)」という言葉をご存じでしょうか。

生きては共に老い、死しては同じ墓に葬られる。古くから、理想の夫婦のあり方を表す美しい言葉として使われてきました。

しかし、綺麗事だけでは割り切れないのが人間の営みであり、夫婦という不思議な関係です。


また

「ちんちんかもかも」というのは

夫婦や恋人が親密にいちゃいちゃとじゃれ合っている状態を指します。


還暦を目前に控えた男が、夜の居酒屋でふと振り返る我が人生。
そこには、美談だけでは片付けられない、泥臭くも愛おしい「日々」がありました。

人は少しくらい勘違いしている方が幸せなのかもしれない――。

これは、そんな都合の良い思い込みに支えられた、ある熟年夫婦の、ほんの少し不思議で、ひどくありふれた一夜の物語です。

今夜は一杯やりながら、彼らの「勘違い」に耳を傾けてみてください。




第一章 
カンタロウの居酒屋奇譚

人生の残り時間を意識し始める年齢になると、男というものは、答えの出ない問いを夜の闇へ投げかけたくなるらしい。

加藤カンタロウ、五十九歳。

還暦まであと数か月。

若い頃には永遠に思えた未来が、いつの間にか後ろから追いかけてきていた。

その夜、カンタロウは新宿の裏通りにある居酒屋『まだら雲』のカウンターに一人で座っていた。

ジョッキの中では泡が静かに消えていく。

店内には焼き鳥の香りと、仕事帰りの客たちの笑い声が漂っていた。

そんな賑やかな空間の中で、カンタロウだけは少し違うことを考えていた。

「無理やり俺の人生に付き合わせちまったからなあ……」

誰に聞かせるでもない独り言だった。

思い浮かんだのは、家でテレビでも見ながら待っているだろう妻の顔である。

通称、カミさん。

結婚して三十数年。

恋人だった期間より、夫婦だった期間のほうがはるかに長くなった。

若い頃の自分には大した甲斐性もなかった。

貯金もなければ将来の保証もない。

夢ばかり語って現実は後回し。

そんな男の人生に巻き込んでしまった。

そう思うことが時々あった。

もちろん幸せなこともたくさんあった。

子どもが生まれた日。

家族で旅行した日。

大笑いした日。

喧嘩して口をきかなかった日。

全部ひっくるめて人生だった。

だが、それでも。

人生の終わりが少しだけ見え始める年齢になると考えてしまう。

もし最後の瞬間が来たら。

病院のベッドかもしれない。

施設の部屋かもしれない。

あるいはもっと別の場所かもしれない。

その時、自分は何を言うだろう。

そして誰に言うだろう。

答えは決まっていた。

――お前のおかげで、良い人生だったよ。

その一言だけは伝えたい。

できれば笑顔で。

できれば照れずに。

そう言えたなら、案外、人間は安心して死ねるのかもしれない。

さらに欲を言えば。

もし次の世なんてものがあるなら。

また巡り会えたらいい。

そんな、自分でも少し照れくさくなるようなことを考えていた。

いわゆる「偕老同穴」というやつである。

夫婦が共に老い、同じ墓に入る。

古臭い考えかもしれない。

だが、悪くない。

少なくとも今のカンタロウにはそう思えた。

その時だった。

隣のテーブル席から妙によく通る声が聞こえてきた。

「あたしの元彼たちね、全員まだ独身なのよ」

四十代半ばくらいの女性三人組だった。

化粧も会話も勢いがある。

カンタロウは聞くつもりはなかった。

だが聞こえてしまう。

作家の端くれとして、人の会話に反応してしまうのは職業病だった。

「えー、なんで?」

と友人らしき女性が聞く。

すると話の中心人物は、グラスを持ち上げながら言った。

「やっぱりさあ……」

少し間を置く。

そして堂々と言い放った。

「あたしが良過ぎたせいかしら」

ぶふっ。

カンタロウは危うくビールを噴き出しかけた。

慌てて口を押さえる。

むせる。

咳き込む。

涙が出る。

しかし三人組は気づかない。

あるいは気づいても気にしない。

「あははは!」

「それ絶対そう!」

「罪な女だねえ!」

盛り上がっている。

カンタロウは心の中で思った。

――いやいやいや。

それ、逆じゃないのか。

良過ぎたんじゃなくて、悪過ぎたんじゃないのか。

男たちが、

「もう恋愛はこりごりだ……」

と人生を達観してしまった可能性もあるぞ。

だが、そんな毒舌を胸の中で転がしながらも、なぜか少し笑ってしまった。

人は不思議だ。

少しくらい勘違いしているほうが幸せなのかもしれない。

「俺はモテる」

「私は素敵」

「俺はまだ若い」

「私は永遠に綺麗」

どれも事実かどうかは怪しい。

だが、その思い込みが人を前へ進ませる。

恋もそうだ。

結婚もそうだ。

人生だってそうかもしれない。

少なくとも、

「どうせ俺なんか」

と思って生きるよりはずっといい。

カンタロウはジョッキを傾けながら、小さく笑った。

そう考えると、人間という生き物は案外かわいい。

そして恋というものは、少しの勘違いから始まり、たくさんの勘違いを経て、いつしか本物になるのだろう。

だが。

その勘違いを本物の夫婦愛に変えるためには、一つだけ必要なものがある。

言葉だ。

心に残る言葉。

感謝の言葉。

照れながらでもいい。

下手でもいい。

伝えること。

それだけは省略できない。

昔聞いた古い歌のフレーズが、ふと頭に浮かんだ。

「心に残る言葉を言わなきゃ、ど〜にもならないよな……」

そう呟いた瞬間だった。

ガラリ。

居酒屋の引き戸が開いた。

夜風が吹き込む。

六月の風だった。

だが、その風は少し妙だった。

冷たいわけでもない。

強いわけでもない。

それなのに、なぜか店中の客が一瞬だけ静かになった気がした。

誰も何も言わない。

けれど空気だけが変わった。

そして入口に、一人の男が立っていた。

仕立ての良いスーツ。

年齢は六十前後。

だが頭には、どういうわけか江戸時代の町人のような古びた頭巾を被っている。

妙にちぐはぐな格好だった。

男は店内を見回した。

そして――

まっすぐカンタロウを見た。

その口元がゆっくりと笑う。

まるで何か面白いものを見つけたように。

カンタロウは理由もなく背筋がぞくりとした。

その夜。

彼はまだ知らなかった。

その男との出会いが、自分の人生で最も不思議で、最も滑稽な一夜の始まりになることを。




第二章 
ちんちんかもかもの怪人

居酒屋『まだら雲』を出たときには、もう夜の十時を回っていた。

新宿の裏通りにはまだ人の流れがあったが、昼間ほどの喧騒はない。

酔客たちの笑い声も、どこか遠くに聞こえる。

カンタロウはゆっくり歩きながら、さっきの女性たちの会話を思い出していた。

――あたしが良過ぎたせいかしら。

思い出すたびに笑ってしまう。

だが同時に、少し羨ましくもあった。

あそこまで堂々と自分を信じられるのは、一種の才能かもしれない。

若い頃の自分なら鼻で笑っただろう。

けれど五十九歳になった今は違う。

人生とは案外、そういう都合の良い思い込みに支えられている。

そんなことを考えながら歩いていると、

「そこの旦那」

背後から声がした。

振り返る。

誰もいない。

気のせいかと思って再び歩き出す。

「そこの旦那」

今度は右から聞こえた。

振り向く。

やはり誰もいない。

「上だよ」

声は頭上からだった。

カンタロウは思わず見上げた。

電柱の脇にある低い塀の上に、一人の男が座っていた。

あの頭巾の男だった。

居酒屋の入口に立っていた男。

いつの間にそこにいたのか分からない。

「危ないですよ」

とカンタロウは言った。

「落ちますよ」

「昔は木の枝に座っていたんだがね」

男は答えた。

「最近は木が減った」

会話が成立しているようで成立していない。

カンタロウはため息をついた。

「何か用ですか」

「用があるから話しかけている」

男は塀から飛び降りた。

着地が妙に軽い。

年齢の割に身のこなしが若い。

「旦那は面白いことを考えていた」

「何をです」

「偕老同穴」

男は即答した。

「それから心に残る言葉」

カンタロウの眉がぴくりと動いた。

「聞いてたんですか」

「聞いていた」

「盗み聞きじゃないですか」

「観察と言ってほしい」

男は胸を張った。

「私は長年、人間を観察している」

「暇なんですね」

「そうとも言う」

否定しない。

男は満足そうだった。

「ところで旦那」

「はい」

「ちんちんかもかもという言葉を知っているか」

カンタロウは顔をしかめた。

「聞いたことはあります」

「良い言葉だろう」

「そうですかね」

「実に良い」

男はうっとりしていた。

「仲睦まじい夫婦を表す、実にめでたい言葉だ」

「まあ、そういう意味ですね」

「だが人間たちは勘違いしている」

男は人差し指を立てた。

「本来あれは鳥の名前だ」

「絶対違う」

「正式名称は、ちんちんかもかも極楽鳥」

「もっと違う」

男は気にしない。

「その鳥は夫婦の周りを飛び回る」

「へえ」

「そして幸福な勘違いを授ける」

「幸福な勘違い」

「そう」

男は急に真面目な顔になった。

「自分は愛されている」

「うん」

「自分は必要とされている」

「うん」

「自分が相手を幸せにしている」

男はそこで微笑んだ。

「その勘違いがなければ、人間は夫婦を続けられない」

カンタロウは少し黙った。

冗談みたいな話なのに、不思議と心に引っかかる。

男は続けた。

「恋愛中の人間は皆かかっている」

「何にです」

「ちんちんかもかも病だ」

「病気なのか」

「重症になると結婚する」

「それは確かに重症だ」

男は大笑いした。

カンタロウもつられて笑う。

夜道で初対面の怪しい男と笑っている自分に気づき、少しだけ可笑しくなった。

「でもなあ」

カンタロウは言った。

「勘違いだけじゃ続きませんよ」

「その通り」

男は頷いた。

「だから言葉が必要だ」

カンタロウは目を見開いた。

男は続ける。

「ありがとう」

「うん」

「助かった」

「うん」

「一緒にいて楽しい」

「うん」

「お前のおかげで良い人生だった」

男はカンタロウを見た。

「言葉にしないと伝わらない」

風が吹いた。

頭巾が少し揺れる。

男は空を見上げた。

「人間は不思議だ」

「何がです」

「好きだと言うために何十年もかかる」

カンタロウは返事ができなかった。

思い当たる節がありすぎた。

男は少し笑った。

「旦那」

「はい」

「帰ったら奥方に聞いてみなさい」

「何を」

「本当に私の人生に付き合わせてしまったのか、と」

カンタロウは居酒屋で考えていたことを思い出した。

誰にも話していない。

話したはずがない。

それなのに男は知っている。

「なんで分かるんです」

男は肩をすくめた。

「長年見ているからだ」

「何を」

「夫婦を」

その言い方だけは冗談に聞こえなかった。

一瞬だけ。

ほんの一瞬だけ。

男の目が、とても古いものを見てきた人の目に見えた。

次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていたが。

「では旦那」

男は軽く会釈した。

「今夜も良い勘違いを」

「何ですかそれ」

「最高の祝福だよ」

そう言うと男は路地へ入っていった。

カンタロウも後を追うように歩き出した。

だが角を曲がったところで足を止める。

誰もいない。

一本道だった。

隠れる場所などない。

それなのに男の姿は消えていた。

「……何なんだ、あいつ」

返事はない。

その代わり。

どこか遠くで鳥が鳴いた。

聞いたことのない声だった。

カンタロウは空を見上げる。

夜空には月が浮かんでいた。

その月の前を、一瞬だけ二羽の鳥が横切ったような気がした。

寄り添うように。

まるで長年連れ添った夫婦のように。

カンタロウは頭を振った。

酔いのせいだろう。

そう思いながらも、足は自然と家路を急いでいた。

なぜか今夜は、カミさんの顔が見たかった。



第三章 
心に残る言葉の結末

自宅のドアを開けると、いつもの夜が待っていた。

リビングの灯り。

壁掛け時計の秒針の音。

洗い終えた食器を伏せたままの流し台。

そしてソファに座り、テレビを見ているカミさん。

何十年も見慣れた光景だった。

だが、その夜は少し違って見えた。

まるで旅人が長い旅の末に帰り着いた故郷を見るような、不思議な気持ちだった。

「おかえり」

カミさんが言った。

「遅かったじゃない」

「ちょっと飲み過ぎた」

「ちょっとじゃないでしょ」

振り向きもしない。

いつもの調子だった。

テレビでは野鳥の特集をやっている。

画面の中では二羽の鳥が並んで枝に止まっていた。

カンタロウは思わず苦笑した。

――また鳥か。

今日は妙に鳥づいている。

頭巾男の顔が浮かんだ。

ちんちんかもかも極楽鳥。

今考えても馬鹿馬鹿しい。

だが、あの男の言葉だけは妙に耳に残っていた。

「帰ったら奥方に聞いてみなさい」

「本当に付き合わせたのか、と」

カンタロウは上着を脱ぎ、カミさんの隣へ腰を下ろした。

「なあ」

「なによ」

「少し聞きたいことがある」

カミさんが振り向く。

「借金?」

「違う」

「病気?」

「違う」

「隠し子?」

「違うわ」

思わず声が大きくなる。

カミさんが吹き出した。

「じゃあ何よ」

カンタロウは少しだけ姿勢を正した。

妙に緊張する。

還暦目前のおっさんが、自分の妻に話しかけるだけで緊張するのも情けない。

だが仕方がない。

こういう話は慣れていない。

「お前さ」

「うん」

「俺の人生に付き合わせちまって、後悔してないか」

静かになった。

テレビの音だけが流れる。

鳥の鳴き声。

ナレーション。

冷蔵庫の小さなモーター音。

カミさんは数秒間、ぽかんとした顔をしていた。

そして言った。

「酔ってる?」

「少し」

「かなり酔ってるわね」

「真面目なんだ」

カミさんはしばらくカンタロウの顔を見ていた。

やがて、ふっと笑った。

「ねえ」

「なんだ」

「あんた、自分が私を人生に付き合わせた前提で話してるわよね」

「違うのか?」

「大いなる勘違い」

即答だった。

カンタロウは目を瞬いた。

「え?」

「私が付き合わせてあげてるの」

「は?」

「私が連れてきてあげたのよ」

カミさんは胸を張った。

「頼りないし」

「おい」

「忘れっぽいし」

「おい」

「変なことばかり考えるし」

「おいおい」

「放っておいたら、今頃どこかの居酒屋で人生論を語りながら迷子になってるわ」

それは少し否定できなかった。

カミさんは勝ち誇ったように笑った。

「だからね」

湯飲みにお茶を注ぐ。

湯気が立ち上る。

「私が付き合わせてあげてるの」

「そうだったのか」

「そうだったの」

二人は顔を見合わせた。

そして同時に笑った。

三十年以上積み重ねた時間がなければ生まれない笑いだった。

しばらくしてから、

カミさんが少しだけ真面目な顔になった。

「でもね」

「うん」

「その勘違い、嫌いじゃないわ」

「勘違い?」

「自分が相手を幸せにしてるって思うこと」

カンタロウは黙って聞いた。

「夫婦なんて結局、どっちが支えたとか分からないじゃない」

「そうだな」

「だから両方そう思ってればいいのよ」

「なるほど」

「その方が平和だもの」

カンタロウは笑った。

確かにそうだ。

勝ち負けを決める必要などない。

損得を計算する必要もない。

お互いが、

「自分が相手を幸せにしている」

と思っているなら、それで十分なのかもしれない。

カミさんはお茶を一口飲んだ。

そして少し照れくさそうに言った。

「それにね」

「うん」

「男の人は少しくらい勘違いしてる方が可愛いのよ」

「可愛い?」

「うん」

「還暦前のおっさんだぞ」

「だから可愛いの」

また笑う。

その笑いが静かに収まったあと。

カンタロウは意を決して言った。

「俺さ」

「なに?」

「最後の時が来たら、お前に言いたいんだ」

カミさんは何も言わない。

静かに聞いている。

「お前のおかげで、良い人生だったって」

言ってしまった。

顔が熱い。

還暦前になっても照れるものは照れる。

カミさんはしばらく黙っていた。

そして、小さく笑った。

「私に先に言わせないでよ」

「え?」

「その台詞」

「競争なのか?」

「もちろん」

「何の」

「心に残る言葉選手権」

カンタロウは吹き出した。

「そんな大会あるのか」

「今できた」

二人はまた笑った。

そして笑い終わったあと。

カミさんは少しだけ目を細めた。

「でもまあ」

「うん」

「あんたと一緒で悪くない人生だったわよ」

それだけだった。

それだけなのに十分だった。

胸の奥が温かくなる。

何かが静かに満たされていく。

長い年月をかけて積み上げてきたものが、その一言に詰まっている気がした。

窓の外で風が吹いた。

カンタロウが何気なく目を向ける。

電柱の上に二羽の鳥が止まっていた。

寄り添うように並んでいる。

「鳥だな」

「鳥ね」

カミさんも見た。

その時だった。

二羽の鳥の向こう。

街灯の影に、見覚えのある人影が立っていた。

頭巾を被った男だった。

男は腕を組み、こちらを見ながら満足そうに頷いている。

カンタロウは思わず立ち上がった。

「あっ」

「どうしたの?」

カミさんが振り返る。

もう一度窓の外を見る。

だが、誰もいない。

街灯だけが静かに立っている。

「いや……何でもない」

カンタロウは苦笑した。

酔いのせいかもしれない。

そう思った、その時だった。

夜風に乗って、どこからか声が聞こえた気がした。

「やれやれ」

頭巾男の声だった。

「また一組、ちんちんかもかもになりおった」

カンタロウは思わず吹き出した。

「何よ」

「いや、別に」

説明したところで信じてもらえないだろう。

それに、説明する必要もなかった。

どちらが付き合わせたのか。

どちらが支えたのか。

どちらが幸せにしたのか。

そんなことは最後まで分からない。

分からないままでいい。

お互いが、

「自分が相手を幸せにしている」

と信じている。

その幸福な勘違いこそが、

恋を夫婦に変え、

夫婦を偕老同穴へ導いていくのだから。

窓の外では二羽の鳥が羽ばたいた。

寄り添いながら。

離れないように。

見失わないように。

そして夜空の向こうへ消えていった。

まるで、これからもずっと続いていく夫婦の時間のように。

(完)


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〜あとがき〜

本作を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

「ちんちんかもかも」という、現代ではすっかり耳にしなくなった言葉の響きが持つユーモアと、どこか切ない響きに惹かれてこの物語を書きました。

作中で怪人が語るように、結婚や夫婦生活というのは、ある種の「盲目さ」や「都合の良い思い込み」がなければ維持できない側面があるのかもしれません。
ですがそれは、決して悪いことではないはずです。

「自分が相手を幸せにしている」とお互いが胸を張って勘違いし合える関係こそが、実は最強の夫婦の絆なのではないか。

カンタロウとカミさんの軽妙な掛け合いを書きながら、作者である私自身もそんなことを教えられた気がします。

冷たい夜風が吹く日も、家に帰れば温かい明かりと、いつもの話し相手がいる。そんな当たり前の奇跡に、少しだけ感謝したくなるような読後感をお届けできたなら幸いです。

皆様の歩む道のりにも、どうぞ「最高の祝福(良い勘違い)」がありますように。