続 男の時間 女の時間

目次

②〜横浜ベイサイド迷走篇〜
③〜コストコ爆買い大作戦〜
④〜IKEAという名の迷宮〜
⑤〜温泉旅行・箱根一泊〜
⑥〜家電量販店・立場逆転の巻〜
⑦〜薬局・健康という名の迷宮〜
⑧〜百円ショップ・全部百円の罠〜




男の時間 女の時間②

〜横浜ベイサイド迷走篇〜

みなとみらいは広い。広すぎる。


まえがき

 御殿場アウトレットから三ヶ月後。

 田中健一は「考える」と言っていた。

 だが気づけば、横浜行きの電車に乗っていた。


 男の「考える」は、女にとって「YES」と同義である。

 これは日本語の方言ではなく、夫婦語の文法である。


第一章 横浜という名の迷宮への招待

「横浜って、買い物だけじゃないから」と由美子は言った。「中華街もあるし、山下公園もあるし、観光もできるし」

 健一はその言葉に、わずかな希望を見出した。観光。それは歩くだけでいい。財布を開かなくていい。足が痛くなるのは同じだが、少なくとも「決断を迫られる」局面が少ない。

「観光メインで?」

「もちろん! でもちょっとお買い物もしたいな〜」

 「ちょっと」。この言葉の定義を、健一は今も正確に掴めていない。ちょっと、とはどのくらいか。三十分か。一時間か。それとも——

 東横線の車内で、健一はスマートフォンを開いた。みなとみらい駅周辺の地図を確認した。マークイズ、ランドマークプラザ、クイーンズスクエア、ワールドポーターズ。

 四つ。

 ショッピングモールが四つある。

「由美子、どこに行くの?」

「全部!」

 健一はスマートフォンをポケットにしまった。今日も長い一日になる。


第二章 マークイズの洗礼

 みなとみらい駅を降りると、目の前にマークイズが現れた。地上六階、地下二階、二百以上のショップ。天井が高く、光が溢れ、どこまでも続くような錯覚を覚える。

「広い……」と健一は思わず言った。

「広いよね! 好きなんだここ」と由美子は嬉しそうに言った。

 好きな場所に連れてきてもらった犬のような顔をしている。由美子が「好き」と言う場所には、必ず何か理由がある。服がある、雑貨がある、コスメがある。つまり健一の財布が薄くなる何かがある。

「何階から行く?」

「まず一階のコスメ見て、そのあと三階のインテリア、それから四階のファッション。あ、地下のフードも気になってて」

 健一の脳内でタイムライン計算が始まった。一フロアにつき最低三十分。四フロア。プラス移動時間とトイレ休憩。

 最低二時間。おそらく三時間。

「コーヒー、先に飲んでもいい?」

「え〜、混む前に動こうよ。帰りに飲めばいいじゃない」

 帰りのコーヒーが現実になるかどうか、健一には確信が持てなかった。

 一階、コスメフロア。由美子の目が輝き始めた。健一の目が曇り始めた。


第三章 コスメフロアという名の異星

 コスメフロアは、健一にとって完全なる異文化圏だった。

 美しくディスプレイされた化粧品の数々。白衣に似た制服を着た女性スタッフ。肌に何かを塗られている女性客。漂う香水と化粧品の入り混じった香り。

 健一は入口で止まった。ここは自分の来る場所ではない、という本能的な判断だ。

「ちょっと待ってて」と由美子は言い、颯爽とフロアの奥へ消えた。

 健一は柱の近くに立った。同じような表情の男性が二名、近くに立っていた。目が合った。無言で頷き合った。同士だ。

 十五分後、由美子が何か小さな袋を持って戻ってきた。

「買ったの?」

「美容液! 新しいの出たって言われて」

「いくら?」

「……六千円」

「美容液が六千円?」

「高くないよ! これ、毎日使うから一日あたり十六円よ?」

 健一は計算した。一年で五千八百四十円。確かに一日十六円だ。

 しかし、美容液はこれで何本目なのか。洗面台の棚には、同じような小瓶が既に七本並んでいた。

 言わないことにした。


第四章 インテリアフロアと男の本能

 三階、インテリアフロア。

 ここに来て初めて、健一の目が光った。

 木製のシェルフ、デザイン性の高いランプ、革張りのソファ、スマートなデスク収納。これは……いい。

「このデスクライト、かっこいいな」健一は思わず足を止めた。

「あ、健一が止まった!」由美子が驚いたように振り返った。「珍しい」

「このLED、色温度を調整できるやつかな」

 健一はライトを手に取り、スイッチを確認し、重さを確かめ、価格を見た。九千八百円。

「これ、書斎に置いたらいいんじゃないか」

「……そう?」由美子の顔が微妙に曇った。「でも今のライト、まだ使えるじゃない」

「でもこっちの方が目に優しいし、省エネだし——」

「今日はそれ買いに来たんじゃないから」

 ここで健一は気づいた。由美子が「買いに来たんじゃないから」と言う場面が、過去に何度あっただろうか。

 いつも由美子が言い、健一が黙っていた。

 しかし今日は……立場が逆だ。

「でも、せっかく来たんだし」

「また今度ね」

 また今度。この言葉は健一もよく知っていた。「また今度」は来ない。

 ライトは棚に戻された。


第五章 中華街という聖域

 昼になった。由美子が「中華街でご飯にしよう」と言ったとき、健一は本気で嬉しかった。

 食事は目的が明確だ。空腹を満たす、それだけだ。メニューを選び、頼み、食べる。これは健一が得意とする「問題解決型行動」だ。

 中華街はにぎやかだった。赤い提灯、漢字の看板、肉まんの香り。

「どこで食べる?」

「聘珍楼か、横浜大飯店か……あと新しいお店もできたみたいで」

「どこでもいい」

「えー、どこがいいか決めてよ」

 この循環。健一は知っている。

「じゃあ聘珍楼」

「あそこ、ちょっと高くない?」

「じゃあ横浜大飯店」

「でも並んでそう……」

「由美子が決めて」

「私が決めると文句言うじゃない」

「言わない」

「絶対言う」

 五分後、二人は路地裏の小さな店に入った。由美子が「なんかここ良さそう」と言った店だ。

 フカヒレ入り焼きそばとエビチリと点心セットを頼んだ。

 美味しかった。

「やっぱり中華街はいいね」と由美子が言った。

「ああ」と健一は答えた。

 これが夫婦の決断プロセスだ、と健一は思った。遠回りして、結果的にいいところに辿り着く。


第六章 ランドマーク、クイーンズ、ワールドポーターズ

 午後。由美子は元気だった。健一の足はすでに悲鳴を上げていた。

「次、ランドマーク!」

 ランドマークプラザ。吹き抜けの美しい空間に、国内外のブランドが並ぶ。

 由美子はコートを三枚試着し、一枚買った。

 健一はソファで待った。

「次、クイーンズ!」

 クイーンズスクエア。ランドマークに隣接する複合施設。

 由美子はバッグのコーナーで四十分を過ごした。買わなかった。

「あれ、買わないの?」と健一は聞いた。

「うーん、ちょっと違った」

 健一は四十分の意味を考えた。四十分かけて「ちょっと違った」という結論が出た。男の思考では、十分で出る結論だ。しかし由美子にとって、その三十分の余白に何かがある。探索の価値は、購入とは別のところにある。

 少しだけ、わかってきた気がした。

「次、ワールドポーターズ!」

「……まだ行くの?」

「最後! 絶対最後!」

 健一は歩き出した。みなとみらいの空に、夕日が傾き始めていた。


第七章 山下公園と夕暮れ

 ワールドポーターズを出たのは、午後四時半だった。

「山下公園、ちょっとだけ歩こう」と由美子が言った。

 買い物ではない。ただ歩こう、という提案だ。健一はそれを受け入れた。

 山下公園は静かだった。夕暮れの光が横浜港に反射し、氷川丸が赤く染まっていた。

 二人は並んでベンチに座った。荷物を足元に置いた。由美子のエコバッグからコートの袋が少しはみ出していた。

「疲れた?」と由美子が聞いた。

「疲れた」

「ごめんね、歩かせすぎた」

「……いや」

 港を眺めた。遠くに貨物船が見えた。

「楽しかった?」

 健一は少し考えた。楽しかったか。コスメフロアは居場所がなかった。インテリアのライトは買えなかった。足は痛い。

 でも中華街の焼きそばは美味しかった。由美子が嬉しそうにコートを選ぶ顔を見た。バッグを「ちょっと違った」と言いながら棚に戻す横顔も見た。

「まあ……悪くなかった」

 由美子が笑った。

「それ、健一の最高の褒め言葉だよね」

「そうか?」

「そうだよ」

 夕日が沈んでいった。海風が少し冷たかった。


第八章 帰りの電車と戦利品の計算

 東横線の車内。由美子は買ったものを確認していた。コート、美容液、それと中華街でこっそり買った小籠包のたれ。

「今日はそんなに買ってないよね」と由美子が言った。

 健一は黙って聞いていた。

「コートが四万二千円で、美容液が六千円で、あとたれが千二百円だから……全部で四万九千二百円」

「五万円か」

「でもコートは長く着るから」

「何年?」

「……五年!」

「一年あたり八千円か」

「そう! 安いでしょ?」

 健一は窓の外を見た。夜の横浜の街が流れていく。

「健一は何も買わなかったね」

「ああ」

「インテリアのライト、欲しかったんじゃないの?」

 健一は少し驚いた。由美子は気づいていたのか。

「……まあ」

「次、一緒に見に行こうか。ちゃんとゆっくり選ぼう」

 健一は由美子の顔を見た。本気で言っている。

「……ああ」

 電車は走り続けた。横浜から東京へ。二人の間に、穏やかな沈黙があった。

エピローグ 横浜の法則

 田中健一は、翌週、一人でマークイズに行った。

 インテリアフロアに直行し、デスクライトを手に取り、三分で決断し、購入し、帰った。

 所要時間、四十分。

 帰宅すると、由美子がいた。

「あ、ライト買ってきたの?」

「ああ」

「よかったじゃない。どう?」

「いい」

 それだけの会話だった。

 しかし健一は気づいていた。先週、由美子と一緒に横浜を歩いていなければ、このライトの存在を知らなかった。

 男は目的がなければ歩かない。だから目的のないところにある良いものを、見落とす。

 女は目的なく歩く。だから目的のないところにある良いものを、見つける。

 由美子がいなければ、このライトに出会っていなかった。

 健一は書斎で、新しいライトをつけた。やわらかい光が机を照らした。

「いいな」と思った。

「来月はどこ行く?」と由美子の声がした。

「……考える」

「また考えるって言った」

「まだ考えてる」

 

         (了)


あとがき

 横浜はいい街だ、と思う。

 海があって、中華街があって、おしゃれなショッピングモールがあって、山下公園がある。

 一人で行っても楽しい。でも二人で行くと、一人では気づかなかったものを発見することがある。

 それが旅の、買い物の、そして夫婦の面白さなのかもしれない。

 健一のデスクライトは、今も書斎で輝いている。

    横浜を愛するすべての人へ。


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男の時間 女の時間③

〜コストコ爆買い大作戦〜

なぜ二人なのに、業務用サイズを買うのか。


まえがき

 コストコ。

 アメリカ発の会員制倉庫型スーパー。

 巨大なカート。巨大な商品。巨大な量。

 四人家族でも持て余すサイズのものを、夫婦二人が嬉々として買う場所。

 なぜ人は、必要以上のものを買いたくなるのか。

 その謎に、今日も健一は挑む。


第一章 会員証という絆

 コストコの会員証は、由美子が管理していた。

 年会費四千八百円。「元を取るためにたくさん行かないと」と由美子は言う。健一はこの論理が好きではない。元を取るために余計な買い物をするのは、本末転倒ではないか。

 しかし由美子に言わせれば、「コストコで買えば一個一個が安いから、結果的にお得」なのだそうだ。

「マヨネーズ、一キロのやつが三百八十円よ?」

「一キロのマヨネーズ……二人で使い切れる?」

「使い切れるよ! 毎日使えば」

「毎日マヨネーズを?」

「……なんにでも使えるし!」

 かくして田中家の食料庫には、業務用サイズの調味料が並んでいる。一キロのマヨネーズ、二リットルのケチャップ、五百グラムのチューブわさび。わさびは賞味期限が切れた。

 今日も由美子はリストを作ってきていた。A4用紙一枚、びっしりと書かれた購入予定リスト。

「全部買うの?」

「全部は買わない! 見てから決める」

 健一はリストを数えた。三十一品目。


第二章 巨大カートと男の本能

 コストコに入ると、まず巨大なカートを取る。子供が乗れるくらい大きい。

 健一はカートを押した。これは珍しく、健一が積極的に担当する役割だ。カートを押すという行為には、ある種の「操縦感」がある。方向を決め、速度を調整し、障害物を避ける。これはほぼドライブだ。

「そっちじゃなくて、こっちから回って」と由美子が言った。

「こっちの方が近いじゃないか」

「コストコは順路通りに回らないと見落とすのよ」

 コストコには決まった「順路」がある。由美子はそれを完全に把握していた。電化製品コーナーから始まり、衣類、食品へと続く、黄金ルートだ。

「電化製品から? 買うものある?」

「見るだけ」

 健一は電化製品コーナーで足が止まった。大型テレビが並んでいる。七十五インチ、十八万円。

「これ……リビングに置いたら」

「入らないでしょ」

「入る。測ったら——」

「測ってないでしょ。行くよ」

 カートが押し進められた。七十五インチのテレビは後ろに遠ざかっていった。


第三章 試食という名の無限回廊

 コストコの試食コーナーは、健一にとって数少ない楽しみのひとつだ。

 小さな紙コップに入ったスープ。爪楊枝に刺さったチーズ。小皿に並んだサーモン。

「これ美味しい!」と由美子が言う。そのたびにカートに商品が追加される。

「試食して美味しかったら買うの?」

「当然でしょ。美味しいんだから」

「でも家でも同じくらい美味しいとは限らない」

「おんなじよ!」

 健一も試食は好きだ。しかし試食と購入は切り離して考えたい。試食は「体験」で、購入は「判断」だ。

 ところが由美子の中では、⛰️ 漫才この二つが直結している。試食して美味しい→即座に購入決定。このプロセスに迷いがない。

 ソーセージの試食コーナーで、由美子が「これ絶対美味しい!」と言った。

「いくら?」と健一は聞いた。

「千八百円」

「ソーセージが千八百円」

「でも量がすごいから! 普通のスーパーの四倍は入ってるよ」

「四倍食べられる?」

「食べられる! 冷凍すれば」

 カートにソーセージが入った。

 健一もひとつ食べてみた。確かに美味しかった。

 ……まあ、いいか。


第四章 カークランドという宗教

 コストコには「カークランド」というプライベートブランドがある。

 由美子はカークランドの信者だった。

「カークランドのオリーブオイル、品質が高くて安いのよ」

「カークランドのナッツ、これだけの量が千二百円は破格よ」

「カークランドのトイレットペーパー、ふわふわで最高」

 健一はカークランドの何かに懐疑的なわけではない。ただ、量が多い。

「ナッツ、一・一三キロ?」

「安いでしょ」

「食べ切れる?」

「食べ切れる! 毎朝ヨーグルトに入れれば」

「毎朝ヨーグルトを食べてるの?」

「……これからは食べる!」

 健一はナッツを見た。一・一三キロ。毎朝三十グラムずつ食べると、三十七日分。

 まあ、なんとかなるだろう。たぶん。

「カークランドのウォッカもあるよ」と由美子が言った。

「それは買わなくていい」

「でも健一、お酒好きじゃない」

「一・七五リットルのウォッカは一人では飲めない」

「パーティーする?」

「しない」

 ウォッカはカートに入らなかった。健一の数少ない勝利のひとつだ。


第五章 フードコートという楽園

 コストコのフードコート。

 ここは健一が最も愛する場所だった。

 ホットドッグ+ドリンクセット、税込み一八〇円。この価格は何十年も変わっていない、という都市伝説がある。本当かどうかは知らないが、安い。間違いなく安い。

「ホットドッグ食べよう」と健一は言った。

「え、まだ買い物終わってないよ」

「少し休もう。足が」

 由美子は健一の顔を見た。確かに疲れている。

「……じゃあ少しだけ」

 フードコートのプラスチックの椅子に座った。ホットドッグは大きかった。ドリンクはセルフサービスで、何度でも注げる。

「美味しい」と由美子が言った。

「ああ」

「コストコのホットドッグって、なんでこんなに美味しいんだろ」

「安いのに、ちゃんと美味いよな」

 二人は並んでホットドッグを食べた。周りも同じようなカップルや家族連れが食べていた。

「健一、コストコ好き?」

 健一は少し考えた。

「……フードコートは好き」

「それだけ?」

「カートを押すのも、まあ嫌いじゃない」

 由美子が笑った。


第六章 レジという最終関門

 カートがいっぱいになった時点で、由美子は「そろそろレジに行こうか」と言った。

 健一はカートの中身を眺めた。ソーセージ、ナッツ、オリーブオイル、サーモンの塊、マフィン十二個入り、洗剤五キロ、コストコの巨大なケーキ、トイレットペーパー三十ロール、そのほかもろもろ。

「……全部で何円になる?」

「えー、計算してないけど。まあ二万円くらい?」

 レジで合計が表示された。三万一千四百円。

「二万円じゃなかった」

「あ、思ったより入ってたね」

「思ったより……」

「でも全部必要なものだし! スーパーで同じもの揃えたらもっとかかるよ」

 健一にはこの計算を検証する術がなかった。おそらく合っているのだろう。コストコの単価は確かに安い。問題は、量が多すぎるという点だ。

 車に荷物を積んだ。トランクがぎりぎりだった。

「ちょっと買いすぎたかな」と由美子が言った。

「ちょっと?」

「……かなり?」

「かなり」

 二人は顔を見合わせて笑った。


第七章 帰宅と収納という名の格闘

 帰宅すると、収納という新たな戦いが始まった。

 三十ロールのトイレットペーパーをどこに置くか。洗剤五キロをどこに仕舞うか。マフィン十二個はどう保存するか。

 健一は棚を開けた。すでにコストコで買った前回の残りが入っていた。ケチャップ、缶詰、パスタ。

「まだ前のが残ってる」

「使う使う!」

「前回もそう言ってたケチャップが半分以上残ってる」

「……使う!」

 一時間かけて、なんとか全品を収納した。食料庫はパンパンになった。冷蔵庫も上段の棚はサーモンが占領した。

「パズルみたいだね」と由美子が言いながら、楽しそうに缶詰を重ねていた。

 健一はそれを見ながら、不思議に思った。これだけの量を管理して、消費計画を立てて、賞味期限を把握して——それは実は、かなりの労力と知恵が必要なことではないか。

 由美子はそれを、楽しみながらやっている。

「わさび、どこ?」と健一が聞いた。

「上から二段目、右奥」

 由美子は即答した。三十種類以上の食品がどこにあるか、把握していた。

 これは才能だ、と健一は思った。


エピローグ 大量消費の哲学

 田中家の食料庫は、コストコのたびに満たされ、少しずつ空になっていく。

 マフィンは三日で食べ切った。ソーセージは一週間。ナッツは由美子が言った通り、毎朝ヨーグルトに入れるようになり(由美子が、健一ではなく)、三十五日で空になった。

 三万一千四百円の買い物は、一ヶ月かけて、確かに消費された。

「コストコ、お得だったでしょ」と由美子が言った。

「……まあ」

「また来月行こうよ」

 健一は食料庫の棚を見た。空きスペースができていた。

「ホットドッグ、また食べたいな」

 由美子の顔が輝いた。

「決まり!」

 男はホットドッグを食べに行く。

 女は買い物をしに行く。

 同じコストコへ向かいながら、目的地は微妙に違う。

 でも、同じ場所に着く。

 

         (了)


あとがき

 コストコの会員を続けて十年、という夫婦は日本中にいる。

 年会費を払い続け、巨大なカートを押し続け、使い切れないかもしれない量のものを買い続ける。

 それでも通い続けるのは、あの場所に「非日常」があるからではないだろうか。

 大きなもの、安いもの、試食、フードコート。日常のスーパーとは違う空気がある。

 そして帰り道、パンパンのトランクを見て「買いすぎたね」と笑い合う、あの瞬間も。

    全国のコストコ会員に捧ぐ。


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男の時間 女の時間④

〜IKEAという名の迷宮〜

入り口は一つ。出口は……どこだ?


まえがき

 IKEA。

漫才

 一度入ったら最後、出口を探し続けることになる建物。

 スウェーデン漫才という、なぜか全員が食べたくなる謎の食べ物を売っている場所。漫才

 そして、「組み立て」という名の夫婦喧嘩が、購入後に待ち受けている場所。


第一章 なぜ人はIKEAに吸い込まれるのか

「本棚を買いたい」と由美子が言った。「一段か二段の、小さいやつ」

 健一は頷いた。本棚。これは明確な目的だ。一段か二段。サイズも用途も決まっている。こういう買い物は得意だ。

「ネットで買えばいいんじゃないか?」

「でも実物を見たい。IKEAに行こうよ」

 IKEAという単語に、健一の背筋がわずかに張った。IKEAは「本棚を一つ買いに行く場所」ではない。健一はそれを知っていた。IKEAは「家全体のインテリアの可能性を探求する場所」なのだ。

「本棚だけ?」

「本棚だけ!」

「本当に?」

「本当に本棚だけ! 見たいものリストに入れてきたから」

 由美子はスマートフォンのIKEAアプリを見せた。「KALLAX(カラックス)シリーズ、二×二マス」とメモされていた。

 明確だ。具体的だ。健一は安心した。

 この安心が、最大の罠だとは知らずに。


第二章 入口の洗礼と一方通行の呪い

 IKEAに入ると、まずエスカレーターで最上階に上がる。そして「ショールーム」と呼ばれる展示エリアを通り抜けながら、一方通行の矢印に沿って進んでいく。

 この一方通行が問題だ。戻れない。引き返せない。矢印の示す方向にしか進めない。

「カラックスは一階のセルフサービスエリアにある」と由美子が言った。「でもショールームを通っていかないといけない」

「どのくらいかかる?」

「ショールームが……まあ三十分くらい?」

 三十分。健一は時計を見た。十一時。十一時三十分には本棚の売り場に着く計算だ。

 甘かった。

 ショールームに入ると、由美子の速度が落ちた。

 リビングの実例展示があった。ダイニングの展示があった。寝室の展示があった。子供部屋の展示があった。

 由美子は一つひとつの部屋に入っていった。引き出しを開けた。ベッドに手を触れた。鏡を覗いた。

「これ……いいな。うちのリビングもこういう感じにできないかな」

「本棚を探しに来たんじゃ」

「でも参考になるじゃない。ほら、このソファの配置、うちもこうしたら広くなりそうじゃない?」

 健一はソファを見た。確かに、うちのリビングとレイアウトが似ている。

「……まあ、そうかも」

 健一も少しだけ立ち止まった。


第三章 BILLYSTRATEGI(本棚戦略)崩壊

 ショールームを抜けるのに、結果的に一時間かかった。

 由美子はその間に「マーカー」をつけた。IKEAのメモ用紙に、気になった商品の番号をひたすら書き留めていった。

「それ、何を書いてるの?」

「欲しいものリスト。後で考える用」

「買うの?」

「考える用! 買うかどうかはまだわからない」

 健一はメモ用紙を見た。十七品目書いてあった。

「本棚、一個買いに来たんじゃ……」

「わかってる! でも見てたら気になるものが出てきちゃって」

 これがIKEAの仕掛けだ、と健一は思った。ショールームは「理想の部屋」を見せることで、今の部屋の「足りないもの」を次々と発見させる。気づいたら何もかも欲しくなる。

 天才的な店舗設計だ。

 そしてこの仕掛けに最も素直に反応するのが、由美子のような人間だ。

「カラックス、見つけた!」と由美子が指さした。

 目的の本棚があった。二×二マス、白色。確かにシンプルで使いやすそうだ。

「これでいいな」と健一は言った。

「うん! でも横に四×二マスのもあって、こっちの方が収納力あるな〜」

「二段じゃなかったの?」

「四×二は……まあ、考えてみたら四×二も悪くないかも」

 本棚のサイズが拡大し始めた。


第四章 スウェーデンミートボールという停戦

 IKEAのレストランは一階にある。ミートボール、サーモン、リンゴンベリーソース、スウェーデン料理が安価で食べられる。

「お腹すいた」と健一が言った。時刻、十二時四十分。

「ミートボール食べよう!」と由美子も即答した。IKEAに来たらミートボール。これは不文律だ。

 トレーにミートボールとマッシュポテトを乗せ、二人でテーブルについた。

「美味しいな、ここのミートボール」

「毎回言ってる」

「毎回美味しいから」

 ミートボールを食べながら、由美子がメモ用紙を広げた。

「整理したんだけど、これ全部だといくらになるかな」

 健一はリストを見た。本棚(四×二)、クッション四個、プランター、デスクランプ、バスルーム用収納、キッチン用フック、ラグ……

「本棚一個だったのに」

「でも全部欲しいものだし! 前から気になってたのもあるし」

「バスルーム用収納は前から?」

「……最近気になってた」

「今日気になった?」

「……今日気になった!」

 由美子が笑った。健一も少し笑った。

 ミートボールは美味しかった。


第五章 カートと番地の謎

 IKEAのセルフサービスエリアは倉庫のような空間で、商品は「列」と「棚」の番号で管理されている。

 本棚のパーツが「列24、棚3」にある、とわかった。

「24番の3だね」と由美子が言いながら歩いた。

 健一は倉庫の番号を目で追った。列は1から始まり……15……18……

「あった! 24番!」

 見上げると、大きな板状の箱がフォークリフト棚に重なっていた。健一が手を伸ばした。重い。

「これ……」

「ちょっと、大丈夫?」

「重い。カートに乗せるのが」

 二人で四苦八苦しながら、巨大な箱をカートに乗せた。由美子が注文していたのは四×二マスのカラックス。箱は横幅一五〇センチ。

「これ、車に乗る?」と健一は言った。

「乗る……と思う」

「思う?」

「測ってきた。たぶん乗る」

「たぶん!?」

「乗らなかったら宅配でいいし!」

 健一はカートを押した。重かった。


第六章 追加購入という名の雪崩

 セルフサービスエリアで本棚を積んだあと、由美子のリストが再浮上した。

「ラグだけ、見ていい?」

「……早めに」

 ラグのコーナーへ。百種類以上のラグが並んでいた。由美子は一枚一枚の手触りを確かめ始めた。

「グレーと青、どっちがいい?」

「グレー」

「でも青の方が今のソファに合うかな」

「じゃあ青」

「でもグレーの方が汚れが目立たないし……」

 健一はカートを押しながら待った。本棚の箱が重く、カートを止めると動かすのが大変だった。なので健一は微妙にカートを動かし続けながら待つ、という謎のウォーキングをすることになった。

 十分後、ラグが決まった。グレーだった。

「最初にグレーって言ったじゃないか」

「でもちゃんと確かめてから決めたかったの」

 健一は黙った。プロセスが大事なのだ。結論だけではなく。

 クッションも二個追加された。プランターも入った。

 カートは重くなった。


第七章 組み立てという名の夫婦喧嘩予防

 帰宅。箱は奇跡的に車に乗った(斜めにすれば)。

 リビングに箱を運び込んだ。健一の腰がわずかに鳴った。

「組み立て、今日やる?」と由美子が聞いた。

「……やる」

 IKEAの組み立ては、実は健一が得意とする分野だ。説明書を読み、手順通りに進め、完成形を目指す。これは問題解決型思考の得意技だ。

 箱を開けた。部品が出てきた。板、ネジ、ダボ、謎の工具。説明書は文字がなく、絵だけで構成されていた。

「わかる?」と由美子が聞いた。

「わかる」

「手伝おうか?」

「いい」

 健一は一人で組み立て始めた。由美子はそれを眺めながら、新しいラグをリビングに敷き始めた。

 四十分後、カラックスが完成した。

「できた!」

 由美子が振り向いた。「早い!」

 健一は本棚を所定の位置に運んだ。ぴったりはまった。

「かっこいいじゃない!」と由美子が言った。

「うん」

 珍しく、健一が誇らしい気持ちになった。

 IKEAの組み立てだけは、男の時間の方が効率的だった。


エピローグ 完成したリビングと残ったネジ

 本棚が完成し、ラグが敷かれ、クッションが置かれた。

 リビングが少し変わった。

「ショールームみたい!」と由美子が言った。

「そこまでじゃない」

「でもいいじゃない? 雰囲気変わったよ」

 健一はリビングを見渡した。確かに、少し変わった気がした。本棚があることで、壁に重心が生まれた。ラグのグレーが落ち着きをもたらした。

「まあ、いいな」

「でしょ! IKEA行ってよかったね」

 健一の手のひらに、ネジが一本残っていた。

「……ネジが余った」

「え!?」

「どこかに使うはずだったネジが一本余った。でも本棚はしっかりしてる」

「大丈夫なの?」

「……たぶん」

「たぶん!?」

 二人は本棚を揺らしてみた。びくともしなかった。

「大丈夫」

「よかった……」

 IKEAには、いつも余分なネジが入っている気がする。

 それはきっと、「組み立てには余白が必要だ」というスウェーデンの哲学ではないかと、健一は思った。

 

         (了)


あとがき

 IKEAの売上の一部は、組み立てによる夫婦喧嘩から生まれる「もういい!」という衝動的な追加発注だ、という説がある。

 もちろん嘘だが、あながち的外れでもない気がする。

 組み立てる喜びと、余ったネジへの不安。

 その二つが同居する時間が、IKEAの醍醐味かもしれない。

 余ったネジは、大切にとっておくといい。

 いつか使う日が来るから……というのも嘘だが、捨てるには惜しい気がするのは、なぜだろう。

    全国のIKEAリピーターに捧ぐ。


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男の時間 女の時間⑤

〜温泉旅行・箱根一泊〜

夫は休みに来た。妻はスケジュールを組んできた。


まえがき

 旅行に行くとき、男はリュックひとつで済ませたいと思う。

 女はスーツケースが必要だと思う。

 一泊の旅行で。

 この差が、旅の「時間感覚」にも表れる。

 男にとって旅とは「何もしない」こと。女にとって旅とは「全部やる」こと。

 どちらが楽しい旅をしているかは……読んでから判断してほしい。


第一章 パッキングという名の格差

「一泊だから荷物は少なくていいよね」と健一は言った。

 ボストンバッグに下着一式、Tシャツ、ジーンズ、歯ブラシ、財布、スマートフォン。五分でパッキング完了。

 由美子の準備は前日から始まっていた。

「温泉行くなら浴衣の下に何か着るかな……でも旅館の浴衣があるか……でも自分の浴衣もあった方が……」

「旅館の浴衣で十分じゃないか?」

「でも大きいんだもん、旅館のは。自分に合ったサイズを持っていく方が……」

 由美子のスーツケースには、翌朝着るワンピース、温泉後のためのスキンケアセット(七種類)、念のためのカーディガン、念のための雨具、温泉用のゴムバンド、写真映えのためのアクセサリー数点、翌朝のためのメイクポーチ(「すっぴんで朝食は嫌だから」)、そして浴衣が入っていた。

「重くない?」と健一がスーツケースを持ち上げながら言った。

「大丈夫! 持てるから」

「持つのは俺だが……」

 健一は何も言わなかった。これが温泉旅行の序章であった。


第二章 ロマンスカーという移動の快楽

 新宿から箱根湯本まで、ロマンスカーに乗った。

 健一はロマンスカーが好きだった。展望席の大きな窓から見える景色。ゆっくり流れていく街並みが、やがて山の緑に変わっていく。

 弁当を食べながら、車窓を眺める。これが旅の醍醐味だと健一は思っていた。

「健一、箱根何時に着くんだっけ」と由美子がスマートフォンを見ながら言った。

「一時間ちょっとで着くんじゃないか」

「着いたらまずランチね。あそこの蕎麦屋が有名らしくて」

「うん」

「そのあと箱根美術館か彫刻の森か……時間があれば両方行きたいんだけど、美術館は二時間くらいかかるって書いてたし」

「どっちかでいいんじゃないか」

「でも両方行ったことないし……」

「一泊だぞ」

「わかってる! でもせっかく来たんだし」

 由美子はスマートフォンで観光スポットのルートを組み始めた。

 健一は窓の外を見た。丹沢の山並みが見え始めていた。きれいだ。

「由美子、景色見ないの?」

「……あ、ほんとだ。きれい!」

 由美子はしばらく窓を眺めた。でもすぐにスマートフォンに戻った。


第三章 温泉旅館の時間割

 旅館に着いた。木造の渋い建物、廊下に磨かれた床、窓から見える渓流。

「いいな」と健一は言った。これで十分だった。

 仲居さんが部屋を案内してくれながら、館内の説明をした。夕食は六時半、朝食は八時。露天風呂は二十四時間利用可能。

「健一、露天風呂いつ行く?」

「夕食前でいいんじゃないか。五時頃」

「でも美術館から帰ってきたら四時くらいになりそうだし、チェックインが三時だから荷物置いて一時間で露天風呂は慌ただしくない?」

「なら帰ってきてからのんびり入ればいい」

「でも夕食後はお腹いっぱいで動きたくないし、夜に入るなら深夜の方が空いてそうだし……」

 健一は畳の部屋に大の字に寝転んだ。

「由美子」

「何?」

「旅行中くらい、計画なしで行こう」

「でも効率よく回らないと——」

「効率よく旅行しなくていい」

 由美子が少し考えた。

「……でも」

「なんとかなる」

 由美子はスマートフォンを置いた。少し不安そうな顔をしながらも、隣に座った。

 渓流の音が聞こえた。


第四章 露天風呂と男の哲学

 露天風呂は素晴らしかった。

 岩で囲まれた湯船から、箱根の山が見える。湯気が立ち上り、空気が冷たく澄んでいる。

 健一はゆっくりと湯に浸かった。何も考えなかった。何も考えなくていい。これが温泉だ。

 男の温泉の入り方:かけ湯をして、静かに湯船に入り、目を閉じる。考えない。感じるだけ。これが正解だ。

 由美子の温泉の入り方(後で聞いた):まず女性用露天風呂の全体を確認し、どの位置に入るか判断する。入った後も、泉質を確認し、肌の感触をチェックし、「美肌効果がある」という看板を読み、同じ湯船に入っている他の女性客と「いいお湯ですね」という会話を始める。

 健一の露天風呂所要時間:二十五分。

 由美子の露天風呂所要時間:五十五分。

 男の三十分は女の一時間、という法則は、温泉でも成立した。

「どうだった?」と健一が聞いた。

「最高! お肌つるつる! あと隣の方が名古屋から来てて、話が弾んじゃって」

「温泉で名古屋の人と友達になったの?」

「LINE交換した!」

 健一は何も言えなかった。温泉で初対面の人とLINEを交換してくる由美子の行動力を、どう評価すればいいのか。


第五章 夕食という至福と追加注文の悪魔

 旅館の夕食は懐石料理だった。

 前菜、吸い物、刺身、煮物、焼き物、揚げ物、ご飯と止め椀と香の物。次々と運ばれてくる小さな器たちを、健一は満足しながら眺めた。

「きれい!」と由美子が写真を撮り始めた。

「食べてから撮ればいいのに、冷める」

「でも最初の状態を残したいじゃない。ほら、このお造りの盛り付けが芸術的で」

 由美子は料理の写真を十数枚撮った後、ようやく箸を持った。

「健一、これ食べてみて。真鯛のなんかすごいあっさりしてて美味しい」

「うん」

「この生麩も!」

「うん」

「この小鉢の和え物、家でも作れるかな……聞いてみようかな」

「仲居さんに?」

「そう! 聞いてもいい?」

「……まあ」

 由美子は仲居さんに聞いた。仲居さんは丁寧に教えてくれた。由美子はメモを取った。

 健一は日本酒を一合追加した。旅先で飲む地酒は格別だった。

「健一、ここの地酒美味しそう! 私もちょっと飲む」

 追加一合が二合になった。

 夕食は二時間かかった。健一にとっては短く感じた。由美子にとっては、まだ終わりたくなかったらしい。


第六章 夜の温泉と星空

 夕食後、少し休んでから深夜の露天風呂へ。

 夜の露天風呂は昼間と全く違った。他に誰もいない。静かな渓流の音。夜空に星が見えた。

 健一はゆっくりと湯船に入った。星を見た。

 箱根の山の上、東京からそれほど遠くない場所で、こんなに星が見えるとは思わなかった。

 しばらくして、由美子が来た。

「星、すごいね」と由美子が言った。

「ああ」

「東京でこんなに見えないよね」

「ああ」

「……来てよかったね」

「ああ」

 二人は黙って星を見た。

 由美子はスマートフォンを持っていなかった。写真を撮ろうとしていなかった。ただ星を見ていた。

 健一はそれがうれしかった。

 渓流の音と、夜の空気と、星と、温泉。

 何も言わなくていい時間があった。


第七章 翌朝と朝食と帰路

 翌朝八時、朝食。

 旅館の朝食は和食だった。白いご飯、焼き魚、だし巻き卵、豆腐、漬物、味噌汁。

「やっぱり旅館の朝ごはんは最高ね」と由美子が言った。

「ああ」

 健一は全部平らげた。由美子も全部食べた。

 チェックアウトの前に、由美子は旅館のお土産コーナーに立ち寄った。三十分。健一はロビーで待った。

 温泉まんじゅうと旅館の温泉水を使った化粧水と、地元の蜂蜜。

「温泉の化粧水って、お土産コーナーで売ってるんだな」

「お肌にいいんだって! 昨日の露天風呂で仲良くなった方が勧めてくれて」

「名古屋の人?」

「そう! やっぱり出会いがあるのがいいよね、旅って」

 健一は深く頷いた。

 帰りのロマンスカーでは、由美子はすぐに眠った。

 健一は窓の外を見た。箱根の山が遠ざかっていった。

「また来よう」と健一は思った。声には出さなかったが。


エピローグ 旅の余韻

 帰宅した夜。

 由美子は旅の写真を整理し、インスタグラムに投稿し、名古屋の人にLINEを送り、お土産の蜂蜜をどう使うか考えていた。

 健一はソファで旅の余韻を楽しんでいた。何もしなかった。

「次はどこに行きたい?」と由美子が聞いた。

「……どこでもいい」

「草津は? 伊豆は? 有馬は?」

「どこでもいい」

「どこでもいいって言ったね」

「……言ったが」

「じゃあ由美子に任せる、ってことだね」

「そうは言ってない」

「言ったも同然!」

 夫の「どこでもいい」は、妻の手帳に「次の旅行先を決める全権委任」として記録される。

 これも、二十五年間で学んだ夫婦語の文法だ。

 健一は目を閉じた。昨夜見た星を思い出した。

 由美子がどこに連れて行ってくれるか、まあ悪くないだろうと思った。


         (了)


あとがき

 温泉旅行ほど、男女の時間感覚の差が出る場所はないかもしれない。

 男は「何もしない」ために来る。女は「全部する」ために来る。

 でも夜の露天風呂で二人が黙って星を見たあの時間は、同じ長さで、同じ価値があったはずだ。

 旅に出ること。それはきっと、日常の時間感覚から少しだけ逃げ出すことだ。

 夫婦でいる時間の中で、一番「同じ時間」を感じられるのは、旅かもしれない。

    温泉が好きなすべての人へ。


ーーーーーーーーーー


男の時間 女の時間⑥

〜家電量販店・立場逆転の巻〜

今日だけは、夫が迷子になる番だ。


まえがき

 これまで健一は、常に「待つ側」だった。

 アウトレットでも、横浜でも、IKEAでも、温泉旅館のお土産コーナーでも。

 しかし今日は違う。

 今日は家電量販店に来た。

 今日だけは、由美子が「待つ側」になる。

 ……はずだった。


第一章 テレビが壊れた

 リビングのテレビが壊れた。

 十四年選手の四十二インチが、ある朝突然ブラックアウトし、二度と映像を映さなくなった。

「修理できる?」と由美子が言った。

「十四年だから、買い替えた方がいい」

「どんなの買うの?」

「まあ……六十五インチくらいで、4Kで、有機ELか液晶か……」

 健一の目が輝いた。テレビを選ぶ。これは男の本懐だ。スペックを比較し、画質を確認し、コストパフォーマンスを計算する。完全に健一の得意分野だ。

「家電量販店、行こう」

「行く行く! 私も一緒に行く」

「……由美子も?」

「だって家のテレビでしょ? 一緒に決めたい」

 健一は少し考えた。まあ、一緒に決める方がいいだろう。由美子も同意した方が、後々「やっぱりこっちがよかった」と言われずに済む。

「わかった、一緒に行こう」

 健一の計算では、テレビ売り場で一時間、決断して購入、計一時間半。

 この計算が根本から崩れることを、健一はまだ知らなかった。


第二章 六フロアという現実

 ヨドバシカメラ秋葉原店。地上九階、地下一階。

 健一の目的はテレビ売り場、四階だ。エレベーターに乗ろうとした。

「ちょっと待って」と由美子が言った。「一階から見ない?」

「テレビは四階だぞ」

「でも一階にも面白そうなものが……あ、炊飯器! うちの炊飯器もそろそろ買い替えたいと思ってて」

「炊飯器は壊れてない」

「壊れてないけど、もう八年だし、最新の土鍋コーティングのやつが気になってて」

 これは健一が常に由美子に言われていた言葉の鏡像だった。「壊れてないけど」。「気になってて」。

「……今日はテレビを買いに来たんだ」

「わかってる! でもついでに見るだけ」

 由美子が炊飯器コーナーに歩き始めた。健一は一瞬、自分が過去に何度この立場になっていたかを考えた。

 そして黙ってついていった。


第三章 テレビ売り場の男と女

 四階、テレビ売り場。

 健一の目が輝いた。壁一面に並ぶ大型テレビ。有機EL、QLED、Mini LED、4K、8K。スペックシートが貼り出され、各社の最新モデルが競い合っている。

「これだ……」と健一はつぶやいた。

 ソニー、パナソニック、東芝、LG、サムスン。各メーカーのフラッグシップモデルを順番に確認し始めた。画面の発色を比べ、黒の沈み方を確認し、応答速度のスペックを読み込む。

「健一、これどれがいいの?」と由美子が隣に来た。

「有機ELか液晶かで迷ってる。有機ELは黒が締まってきれいだけど焼き付きのリスクがある。液晶はその点安心だけど有機ELの画質には及ばない」

「……え、どういうこと?」

「有機ELは各画素が自発光するから黒が本当の黒になる。液晶はバックライトで——」

「健一」

「なに?」

「普通に、どっちがきれいに見える?って聞いてる」

 健一は止まった。

「……有機ELの方がきれい」

「じゃあ有機ELでいいじゃない」

「でも価格差が十万円あって」

「十万円!?」

 由美子の顔色が変わった。テレビに十万円の差があるという事実が、初めてリアルに伝わったようだった。


第四章 価格という共通言語

 由美子はテレビの値札を順番に見ていった。

「これ、二十八万円!?」

「ソニーの有機ELの最上位モデル」

「テレビが二十八万……」

「まあ最上位はそのくらい。でも一つ型落ちにすれば十八万くらいで」

「十八万でも高くない?」

 健一は内心、にやりとした。由美子が「高い」と言っている。役割が逆転している。

「でも長く使うから。一年あたり——」

「一年あたり?」

「十年使えば一年あたり一万八千円。一日あたり五十円」

 由美子がぽかんとした顔をした。

「……それ、私がよく言う計算じゃない」

「そうだな」

「健一に言われるとは思わなかった」

「お互い様だな」

 由美子は少し笑った。

「……じゃあ、一日五十円なら、まあ……いいか」

 健一は勝利を感じた。いつも由美子に使われていた論法で、由美子を説得した。これは歴史的快挙だ。


第五章 スタッフという存在の使い方

 健一はスタッフを呼んだ。詳細なスペックを確認したかった。

「こちらのソニーとパナソニックですが、HDR処理のアルゴリズムに差はありますか?」

 スタッフが丁寧に説明し始めた。健一は頷きながらメモを取った。

 由美子は別のスタッフのところへ歩いて行った。

「あの……テレビって、リモコンは使いやすいですか? うちの母が高齢で、ボタンが多いと難しいかもって」

「それでしたらこちらのモデルは音声操作ができますので、リモコンなしでも操作できます」

「あ! それいい! 健一、音声操作できるやつがあるって!」

 健一が振り返った。由美子はスタッフと何か話している。

「声でチャンネル変えられるの!?」と由美子が言った。「便利じゃない!」

 健一は少し考えた。確かに、義母が来たときに使いやすいのは大事だ。それは健一のスペック比較に入っていなかった視点だ。

「……それも大事だな」

「でしょ? スタッフさん、他にもポイントありますか?」

 由美子は使い勝手の観点から質問を続けた。健一は画質の観点から質問を続けた。

 二つの視点が、テレビ選びを立体的にした。


第六章 値引き交渉という夫婦合作

 機種がほぼ決まった。パナソニックの有機EL、六十五インチ、税込み二十二万円。

「値引きしてもらえる?」と由美子が言った。

「……交渉するか」

 健一はスタッフに声をかけた。「少し値引きはできますか?」

 スタッフは申し訳なさそうに「このモデルは出たばかりで……」と言った。

 すると由美子が横から言った。「あちらのソニーとも比べてるんですけど、こちらを選びたいと思ってるんです。あと設置工事も一緒にお願いしたいんですけど」

 スタッフが「少々お待ちください」と奥に引っ込んだ。

「うまいな」と健一が言った。

「競合を出すのと、設置工事も頼むって言うのがポイントよ。ポイント還元か値引きのどっちかはいけるはず」

「どこで覚えたんだ、そんな交渉術を」

「アウトレットで鍛えた」

 スタッフが戻ってきた。「ポイントを通常の倍付けにすることができます。実質二万円分お得になります」

「ありがとうございます!」と由美子が明るく言った。

 健一は由美子を見た。これは……すごい。

「由美子、ありがとう」

「どういたしまして」と由美子はにっこりした。


第七章 設置完了と新しい景色

 三日後、テレビが設置された。

 六十五インチの有機ELがリビングの壁に収まった。前の四十二インチとは比べ物にならない存在感だ。

「大きい……!」と由美子が目を見開いた。

「どうだ」と健一は少し自慢げに言った。

「思ったより大きいね」

「六十五インチだからな」

「部屋と合ってる?」

「合ってる。むしろちょうどいい」

 電源を入れた。4Kの映像が映し出された。

「きれい!!」と由美子が言った。「全然違う!」

「有機ELの黒は別格だろ」

「何これ、映画館みたい」

 由美子がソファに座って、テレビを眺めた。健一も隣に座った。

 夕方のニュースが映っていた。普段のニュースが、なぜか別物のように見えた。

「これ、映画見たい」と由美子が言った。

「なんでもきれいに見えるぞ」

「今夜、映画見よっか」

「……悪くない」

 健一は満足した。今日は自分が主役だった。スペックを調べて、比較して、交渉して(由美子の助けを借りて)、良いテレビを手に入れた。

 家電量販店は、健一の場所だった。


エピローグ それぞれの得意分野

 その夜、二人で映画を見た。

 有機ELの画面に映し出される映像は、確かに美しかった。由美子は途中で「すごい……」と何度もつぶやいた。

 健一は静かに満足していた。

「健一って、家電のこと詳しいね」と由美子が言った。

「まあな」

「私、スペックとか全然わからないから、助かった」

「由美子だって値引き交渉してくれたじゃないか」

「それは得意だから」

 男の得意と女の得意は、違う。

 健一はスペックを読む。由美子は交渉する。

 健一は画質を選ぶ。由美子は使い勝手を選ぶ。

 どちらか一方だけでは、このテレビは選べなかった。

「次に壊れたら、また一緒に来よう」と健一は言った。

「何が壊れる予定なの?」

「予定はない。でも……一緒に来ると、なかなかいい」

 由美子がにっこりした。

「冷蔵庫も、そろそろ新しいのにしたいんだけど」

「まだ壊れてない」

「壊れてないけど……」

「それは俺の台詞だぞ」

 二人で笑った。

 

         (了)


あとがき

 家電量販店は、男の聖地だと思っていた。

 スペックを比べ、値段を調べ、最適解を導き出す。それは男の得意な「問題解決」そのものだ。

 でも今回書いてみて気づいたのは、女性の「使い勝手」という視点と、「交渉」という技術が、買い物を完成させるということだ。

 スペックだけでは選べない。使う人の視点がなければ、良い買い物にならない。

 男の時間と女の時間は違う。でもその違いが、二人の買い物を豊かにする。

    家電が好きなすべての人へ。そしてその隣で待ってくれているすべての人へ。


ーーーーーーーーーー


男の時間 女の時間⑧

〜百円ショップ・全部百円の罠〜

百円だから、買わない理由がない。——これが罠だ。


まえがき

 ダイソー、セリア、キャンドゥ。

 百円ショップは現代の魔境である。

 「どうせ百円だし」という言葉が、人間の正常な判断力を無効化する。

 男は「必要なものだけ買う」つもりで入る。

 女は「必要かもしれないものを全部買う」つもりで入る。

 どちらの「つもり」も、レジでは崩壊している。


第一章 百円という魔法

「ちょっとダイソー寄っていい? 収納ボックスが欲しくて」

「百均か。いいよ」と健一は言った。

 百円ショップは気が楽だ。高いものを買う心配がない。最大でも数百円だ。財布へのダメージが読める。これは健一にとって、珍しく心理的ハードルの低い買い物だった。

「収納ボックスだけだな?」

「うん! 一個か二個」

 一個百円。二個で二百円。

 健一は余裕の表情で店に入った。

 入口に、季節の特集コーナーがあった。秋の模様のペーパーナプキン、ハロウィンの飾り、キャラクターのクリアファイル。

「あ! これかわいい」と由美子が足を止めた。

「収納ボックスは奥じゃないか?」

「ちょっとだけ」

 ペーパーナプキンがカゴに入った。百円。

 健一は気にしなかった。百円だ。


第二章 カゴという容積の問題

 由美子はカゴを二つ持った。

「二つ?」

「だって収納ボックス、かさばるから」

 論理的だ。収納ボックスは大きい。カゴが二つ必要かもしれない。健一は納得した。

 しかしカゴが二つあると、入れられる量が二倍になる。これは容積の問題であり、心理学の問題でもある。

 文具コーナー。由美子は付箋を手に取った。

「これ便利そう。カラフルな付箋」

「家に付箋あるだろ」

「でもこの色がなくて。百円だし」

 付箋がカゴに入った。

 キッチンコーナー。シリコンのへら、計量スプーン、野菜スタンプ

「野菜スタンプ?」と健一は首をかしげた。

「子供の工作とかに使えるじゃない」

「うちに子供はいない」

「姪っ子が来たときに!」

 野菜スタンプがカゴに入った。百円。

 健一はカゴを見た。収納ボックスはまだ入っていない。


第三章 百円だからという哲学

 健一はある法則に気づいた。

 由美子の判断基準が「必要かどうか」ではなく「百円かどうか」になっている。

「これ、使うかな?」という問いに、「百円だから使わなくてもいいや」という答えが来る。

 通常の買い物では「必要か」「使うか」「値段は妥当か」という三段階の審査がある。しかし百円ショップでは「百円か」という一段階審査に簡略化されている。

「由美子」と健一は言った。「それ、本当に使う?」

 由美子が持っていたのは、星型のクッキー型セットだった。

「クッキー、焼きたいと思ってて」

「この五年間で一度もクッキーを焼いたことがないが」

「これから焼く! 百円だし」

「百円だから焼くのか?」

「……きっかけになるじゃない」

 健一は黙った。百円が行動のきっかけになる、という理論は否定しにくい。

 クッキー型がカゴに入った。


第四章 収納ボックスの逆説

 ようやく収納コーナーに着いた。

 由美子はボックスを吟味した。サイズ、色、深さ、フタの有無。

「これがいいかな。でもこっちの方がスタッキングできるし」

「一個か二個じゃなかったのか?」

「でも揃えた方がきれいだから、同じシリーズで五個欲しい」

「五個?」

「五個で五百円だから安い!」

 計算は正しい。五個で五百円。しかし一個のつもりが五個になっている。

「どこに置くの、五個」

「押し入れ。今ごちゃごちゃしてて整理したくて」

「整理できるなら、まあ……」

 収納ボックス五個がカゴに入った。これは正当な購入だ、と健一は思った。

 しかしカゴはすでに他のものでいっぱいで、五個のボックスを抱えることになった。

「荷物が増えたな」

「だから最初にカゴ二つ持ったんじゃない」

 先見の明があったのは由美子の方だった。


第五章 レジの真実

 レジに並んだ。

 カゴ二つ分の商品が、ベルトコンベアの上に並んでいった。収納ボックス五個、付箋、ペーパーナプキン、野菜スタンプ、クッキー型セット、シリコンへら、カラビナフック(「いつか使う」)、S字フック六個セット(「便利そう」)、スポンジ三個セット(「普通のより安い」)、メモ帳(「かわいい」)——

「三十点くらいあるな」と健一はつぶやいた。

「そんなにある?」

 レジが打ち終わった。

「三千八百五十円です」

 由美子が少し驚いた顔をした。

「思ったより……」

「百円が三十八個と少しあれば、そうなる」

「でも全部百円だから!」

「合計したら百円じゃない」

 健一はお金を払いながら、数式を思った。百円×∞=∞。

 百円という単価の安さは、個数という乗数によって無効化される。

 これが百円ショップの真実だ。


第六章 帰宅と仕分け

 帰宅すると、由美子は買ったものをテーブルに並べた。

「整理しよう!」

 健一は見ていた。

「これは押し入れ用。これはキッチン。これは文具入れ。これは……どこだろ」

「野菜スタンプはどこだ?」

「工作道具のところに入れとく。姪っ子が来たときのために」

「クッキー型は?」

「キッチンの引き出し」

「使う日は来るのか?」

「来る! きっかけができたんだから」

 収納ボックス五個は押し入れに収まった。確かに整然とした。

「きれいになった!」と由美子が満足そうに言った。

 健一は押し入れを眺めた。確かにきれいになった。三十八個の買い物の中に、五個の正解があった。

「収納ボックスは、よかったな」

「でしょ! あと付箋も絶対使う」

「クッキー型も使えよ」

「……使う!」

 由美子は少し笑った。


エピローグ 百円の哲学

 健一も一つ買っていた。

 ゴルフボール用のマーカー、百円。

 これが今日の買い物の中で、最も「必要だったもの」だった。

 クッキー型は三ヶ月後、由美子が姪っ子と一緒に使った。クッキーは上手く焼けなかったが、由美子も姪っ子も楽しそうだった。

 野菜スタンプも同じ日に使われた。

 カラビナフックは、健一のゴルフバッグに今も付いている。

「百円ショップって、侮れないよね」と由美子は言った。

「三千八百円払ったが」

「でも全部使ったじゃない」

「……まあ」

 百円という価格は、人に「試してみよう」という勇気を与える。

 その勇気が、時々、思わぬ使い道と出会う。

 健一はそれを、認めることにした。

         (了)


あとがき

 百円ショップは、日本が世界に誇る文化だと思う。

 百円という価格設定は、消費者に「失敗してもいい」という安心感を与える。

 その安心感が、新しいものへの挑戦を生む。

 クッキーを焼いたことがない人が、クッキー型を買う。

 工作をしたことがない大人が、スタンプを買う。

 百円は、小さな冒険の入場料かもしれない。

    ダイソー・セリア・キャンドゥを愛するすべての人へ。



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